レビュー
あのリチャード・ギャリオット氏が手がけた期待のSF MMORPG
Richard Garriott's Tabula Rasa
» 2007年11月,ついに北米およびヨーロッパ地域でのサービスが開始された,MMORPG「Richard Garriott's Tabula Rasa」。ゲーム業界の大御所リチャード・ギャリオット氏が手がけた最新作ということ,また2008年内には日本でのサービスが予定されていることから,本作に注目しているゲーマーも多いのではないだろうか。ギャリオット氏,そして海外ゲームに対する造詣が深いライター奥谷海人氏に,本作の特徴と魅力をたっぷりと解説してもらおう。
リチャード・ギャリオット氏の新作,「Tabula Rasa」とは
ゲーム業界の大御所リチャード・ギャリオット氏の名は日本にまで轟いているが,彼の名前を冠するゲームは「Richard Garriott's Tabula Rasa」が初となる。タイトルの下にある象形文字はギャリオット氏による創作で,例えば剣の交差するマークは「戦争」,星マークが一つなら「星」,三つなら「宇宙」というように,英語を知らなくても解読可能だ |
その彼が,アメリカ進出の突破口を伺うNCsoftの看板スターとしてDestination Gamesを結成し,新作MMORPG「Richard Garriott's Tabula Rasa」(以下,Tabula Rasa)を発表したのは,2001年5月のこと。当初は,2年以内に開発が終了する予定であったが,ギャリオット氏の右腕として活躍していたStarr Long(スター・ロン)氏,「Lineage」のリードデザイナーだったJake Song(ジェイク・ソン)氏がそれぞれプロジェクトリーダーとなる「三頭政治制」が崩壊したり,制作途中でゲームエンジンの作り直しを決断したりといったことなどが原因となり,ゲーム開発は幾度も停滞した。
Tabula Rasaとはラテン語で「(何も書かれていない)無垢な石板」という意味だが,まさかギャリオット氏自身も,自分のプロジェクトが何回も無垢な状態になるとは思っていなかっただろう。ともあれ,そんな紆余曲折を経て,本作は2007年10月にβテストが終了し,11月2日からは北米およびヨーロッパでサービスが開始されている。
Tabula Rasaの物語は,何千年もの昔から始まる。銀河の一角に誕生した平和で勤勉なEloh種族は,高度な文明を築き上げ,エネルギーをコントロールできる能力“ロゴス”(logos)を開発した。やがてElohは銀河全体へと拡散していき,地球人を含めたさまざまな異星人へ知識を分け与えたという。そして,各惑星の文明が十分に発達したときにコンタクトが取れるよう,ワームホールを起動するデバイスや,ロゴスのヒントなども置き土産として残した。
Elohが接触した異星人のうちの一つが,惑星Thraxisに住むThrax達だ。彼らはほかの種族を嫌っており,非常に好戦的。当初はElohの高度文明を吸収するために近付いたものの,やがて本性を現し,奇襲をかけてElohに被害を与えた。Elohはロゴスの知識によって勝利を収めたが,ElohからNephという一団が分派して,Thraxを中心とする複合軍団“Bane”が誕生。BaneはElohの母星を破壊し,Elohは絶滅に追い込まれてしまった。
MMORPGとアクションシューティングのハイブリッド
序盤から巨大な敵が登場する。同レベル帯の敵であればロゴスパワーで圧倒できないこともないが,囲まれると大きなダメージを受けてしまうので要注意。キャラが死んでも,マップ中に数か所用意されている救急施設から復帰できるので,そういう意味では積極的に戦闘を楽しめる |
しかし,地球人のなかにはロゴスの力を利用する潜在能力を持つ者がいた。Elohが太古の時代に残していたワームホールを使って逃げ延びた彼らは,やがて逃亡の地でAFS(Allied Free Sentients)を結成し,Baneに対抗すべく行動を開始した。母なる星を失った地球人,つまりプレイヤー達は,このAFSに加入してBaneとの決戦に挑み,再び“無垢の石板 〜 タブラ・ラサ”に,その歴史を刻んでいくことになるわけだ。
Tabula Rasaでプレイヤーが使用できるキャラクターは地球人のみ。身長や肌の色などは自由に選択できるが,目鼻立ちのバリエーションはさほど多くない。全体的に男性/女性ともにタフなルックスのアートワークになっていて,多くの日本人にとっては「好み」ではないかもしれない。
キャラクター作成後,30分ほどで終わるチュートリアル(練習)用のブートキャンプをこなし,最初に降り立つのがForeas星コンコーディア大陸のAlia Dasだ。ここは,まだEloh文明が繁栄していた頃に入植を許されたForea人の居住地だが,Baneの侵攻はすでに始まっているという設定だ。「Elohから譲り受けた星を何としてでも守り抜く」というForea人達がAFSと共存しており,地球人よりも一足早く移住していた平和と自然を尊ぶ種族,Cormanが,Thraxの攻撃を受けている状況である。またForeaには,クモやタコの化け物のような在来生物が,いわゆるモンスターとして存在してもいる。
Tabula Rasaのプレイフィールは,一般的なMMORPGとはかなり異なる印象だ。基地の外では,頻繁にリスポーンするBaneがウヨウヨしており,またアチコチで爆撃が行なわれていて,歩いているだけで吹っ飛ばされることもある。NPC達が声を掛け合いながらBane軍と戦っている風景も見られ,その臨場感はFPSである「Call of Duty」のノリに近い。
キャラクターの操作は3人称視点で行ない,銃器や爆弾,そして魔法の代わりにロゴスのパワーを使って戦う。AFSの上官やForea人の長老といった人物からミッションを受け,マップを縦横無尽に走りながら銃撃戦を繰り広げるのが,Tabula Rasaの基本的な流れとなる。ざっくりと表現するなら,定番MMORPG「World of Warcraft」と,チームベースのFPS「Counter-Strike」を足して2で割ったような,ハイブリッドなプレイ感といったところだろうか。
宇宙をテーマにした,深みある設定やストーリーに注目
Tabula Rasaで最も楽しいことの一つが,各マップに2か所ほど用意されている砦(Control Point)の争奪戦で,一時間に2〜3度行なわれる。何十もの敵が出現して波状攻撃を仕掛け,砦のバリアや砲台が破壊されるだけでなく,内部に侵入されて占領されることもある。奪い返すまではポータル移動もできないので,仲間を募って奪還しよう |
具体的には,最初はRecruit(見習い兵)としてゲームに参加し,レベル5に到達したときに,2次クラスであるSoldier(兵士)もしくはSpecialist(専門職)のどちらかを選択する。ここまでは,1時間前後プレイすればすぐにたどり着けるバランシングだ。
そして,キャラクターがレベル15に達した時点で,上記二つのクラスはさらに二つずつの3次クラスに分岐する。Soldierならば,Commando(突撃兵)かRanger(遊撃兵)に,Specialistなら,Sapper(工兵)かBiotechnician(生物工学士)になれるのだ。
やがてレベル30になれば,それぞれがさらに2クラスずつに派生し,Grenadier(グレネード兵),衛兵(Guardian),スナイパー(Sniper),スパイ(Spy),爆破兵(Demolitionist),エンジニア(Engineer),医療兵(Medic),そして Exobiologist(在外生物学士)へと成長していく。
Tabula Rasaではスキルベースの成長システムが併用されており,プレイヤーキャラクターはレベルが上がるごとに得られるポイントを,向上可能なスキルに5段階まで振り分けていく。またキャラクターには,Body(ヘルス+パワー),Mind(パワーと回復率),そしてSpirit(回復率とパワー)という三つのステータスがあり,レベルが一つ上昇することに3ポイントずつ,任意に振り分けられる。このステータスは装備の属性によって変化するし,戦時にトラウマ現象が発生して急激に数値が落ちることもある。
ともあれ,アバターに関しては若干自由度の低い本作だが,ことキャラクター育成に関しては,なかなか奥深い仕様となっている。同じクラス/レベルのキャラクターでも,ステータスやスキルのポイントが異なれば,戦い方や活躍できるポイントも違ってくるというわけだ。
個人的に,Tabula Rasaで最も評価したい点は,その豊かなストーリー性である。Tabula Rasaの魅力は「SFがテーマである」ということよりも,ミッションをくれるNPC達の会話から浮かび上がってくる,世界観の奥深さだ。
民族の掟を破ってAFSに入隊しようとしているForea人,平和を叫ぶばかりで自らを守ろうとしないCormanファミリーに憤る上等兵などが登場し,この異世界の住人達の繊細な感情や微妙な力関係が,実にうまく表現されているのだ。ミッションの中には,AFSに逮捕されそうなForea人兵を見逃すかどうかといった具合に,プレイヤーに選択権が与えられる形式のものもあり,Ultima シリーズにあった“徳システム”のような,モラルをテーマとするゲームデザインが感じ取れる。
今のところ,複数の会話文の中からどれを選んでも,ストーリー進行に変化は見られないようだが,ディレクターのLong氏に聞いたところによると,「いずれはプレイヤーの選択がミッション内容に影響するような,複雑な仕組みも導入したい」とのこと。このあたりには今後も注目したいところだ。
ソロプレイに重点が置かれたゲームデザイン
武器やアーマーには属性が付与されているが,デザインのバリエーションがやや少なく,個性をアピールしづらい。とくに残念なのがクラフティングで,必要なパーツを集めるのに時間がかかるので,せっかく使えそうなアイテムを開発しても,キャラのレベルが上がってしまい,すでに上位装備が利用可能になっていたりする |
このほか,マップにつき2〜3のインスタンスエリアがあり,プレイヤー個人,もしくはパーティ専用のメインミッションが用意されている。このインスタンスエリアはパブリックエリアとは違い,退出しない限りは一度倒したモンスターがリスポーンすることはない。
Tabula Rasaは,一般的なMMORPGとは異なり,必ずしもほかのプレイヤーとパーティを組んで遊ぶ必要はなく,ソロプレイが重視されている。それぞれのマップでは,同じような目的を持った同じようなレベルのプレイヤーが,同じ場所でプレイしているといったゲーム設計が行なわれているわけだ。
さすがにインスタンスエリアは,一人でクリアするのは難しいものの,直線的に進行していくMMORPGというゲームデザインは,「俺が主人公」的なプレイフィールを演出してくれていると思う。
プレイヤーキャラクターが利用できる武器には,ライフルやロケットランチャー,インジェクションガンなど,クラスに応じて全14タイプが存在しており,アーマー装備は7タイプとなっている。さらに,それぞれにincendiary(火炎系),virulent(猛毒系),electronic magnetic (EM/電気性磁力)といった属性が備わっており,一見するとパターンが非常に多いように見える。
しかし,同じレベルの武器やアーマーは同じ形状であり,アイテムのバリエーションの少なさは問題であるといえる。Tabula Rasaではクラフティング(アイテム生産)が可能だが,こちらはさまざまな部品がある割には,「BioアーマーにはBioアーマー専用の部品が必要」といった具合に制限が厳しいため,少なくともレベル20以前では,自分の武器やアーマーをチューンナップしているうちに,そのレベルにとって旬な時期が過ぎ去ってしまう。
前述したように,マップには同じようなレベルのプレイヤーやNPCが集合しがちなので,周りを見渡すと,同じようなアーマーを着込んだキャラクターばかりに見えてしまい,ちょっと素っ気ない。アーマーの色を変更することも可能だが,染色用アイテムを揃えるのが面倒だし,アイテム売買は個人レベルに限られているしで,なかなかハードルが高い。このあたりには,プレイヤーのニーズに応えられるような仕様を盛り込んでもらいたいものだ。
特筆すべき点は数あれど,何か物足りない印象も……
Tabula Rasaのインスタンスエリアは,ソロもしくは数人の仲間と共に楽しむのが無難。人数が多すぎると物足りなさを感じてしまう。ストーリーやモンスターの出現率は良く作り込まれており,グラフィックスやインタフェースも綺麗にまとまっているが,正直なところライバルをねじ伏せるだけの斬新さは見当たらない |
インタフェースや操作体系は,MMORPGというよりもアクションゲームのような作りになっており,アイコンやバーの数は極めて少ない。操作はW/A/S/Dキーによる移動やSpaceバーによるジャンプ,そして左クリックの銃撃,右クリックのロゴス発動が基本で,欧米産のゲームに慣れたプレイヤーであれば,苦もなく操作できるはず。一方で,最近流行りのダイアル式インタフェースも導入されていて,ペーパードールやグループ系コマンドなどの引き出しがCtrlボタン一つで可能になっている。
操作に関しては非常に簡略化されている。ターゲットを一度合わせると自動的に照準を調整してくれるし,Tabキーを押せばしっかりとターゲットをロックできる。ショットガンや電撃系のロゴスパワーで攻撃すれば,縦に並んだ複数の敵にダメージを与えられるといった戦術性もある。だが,「アクションゲーム」として見てしまうと易しすぎ,FPSのようなゲーム性に期待している人は,満足できないかもしれない。
相手の了承を得て楽しめるPvPも,メリット/デメリットのないお遊び感覚の内容であり,競技性は高くない。
βテスト時のバージョンと比べると,ゲーム内コンテンツは格段に充実してきているものの,現時点での印象は,Ultima Onlineのようなランドマーク的な存在とは程遠いと言うしかない。ローンチで用意された四つのサーバーも,混雑している時間帯は短く,果たして「World of Warcraft」からプレイヤーを切り取るほど斬新なパワーがあるのかどうか,今のところ筆者には判断しかねる。
しかし,戦場の臨場感はうまく演出されているし,ミッションは直線的で何度も楽しむことはできないものの,ストーリーが良く練り込まれているのは間違いない。プレイヤーキャラクターと同レベルの別キャラクターを作成できる“クローニング”,ギャリオット氏自身が制作したという3000文字に及ぶロゴス,そしてBaneとAFSが特定の基地を随時奪い合っているというダイナミックな戦場システムなど,斬新かつ興味深い仕様も,本稿では紹介しきれなかったが,少なくはない。
Tabula Rasaは,その開発元/販売元の力量から鑑みても,今後どんどん良い方向に成長していくのは間違いないだろう。「剣と魔法の世界」での冒険は堪能し尽くした,というようなRPGファンにとって,Tabula Rasaが魅力的なタイトルであることに変わりはない。2008年内には日本語版のリリースも予定されているので,Tabula Rasaの世界に興味がある人は,そちらを楽しみに待っていてほしい。
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