インタビュー
「マビノギ」の世界にシェイクスピアが登場するってなに!? 新アップデート“チャプター4”の内容について,韓国の開発メンバーに直接聞いた
チャプター4のメインテーマは“シェイクスピア”。誰もが知っているイギリスの劇作家 ウィリアム・シェイクスピアと,彼が生み出した作品の数々がモチーフとなっている。文学作品とゲームの融合で生み出される世界とは,一体どのようなものになるのか? また,具体的にはどういった新要素が実装されるのか? 気になる事柄を,韓国の開発チームのメンバーであるムン・ソンジュン氏,およびキム・ヨン氏,そして日本での運営を担当する平原亮太氏に詳しく聞いてきた。
「マビノギ」公式サイト
シェイクスピア本人とその作品がモチーフとなっている“チャプター4”
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。ではさっそくシェイクスピアがテーマになっているというチャプター4について聞かせてください。これまでマビノギではケルト神話をベースとした物語が展開してきましたが,そこにシェイクスピアはどのように関わってくるのでしょうか?
チャプター4においては,ケルト神話が前面に出てくることは少なくなりますが,今までに登場した神々とミレシアン(=プレイヤーキャラクター)の関係は続いていきます。例えばチャプター1から登場しているモリアンは,今回も物語に絡んできますよ。
G13アップデートは,シェイクスピアの作品のなかでもとくに「ハムレット」にスポットを当てたものになっています。また,シェイクスピア本人に関するストーリーも用意されています。こちらはマビノギらしい神秘的な仕上がりになっています。プレイヤーはそれらの物語を通じて,シェイクスピアやその作品に触れていくことになります。
4Gamer:
ゲーム中にNPCとしてシェイクスピア本人が登場するのですね?
ムン・ソンジュン氏:
はい,そうです。
4Gamer:
シェイクスピアの作品には,四大悲劇をはじめ,有名なものが数多くありますので,今回の内容はこれまでよりも多くのプレイヤーにアピールできるかもしれません。
ムン・ソンジュン氏:
世の中には,“オンラインゲームに対するネガティブな印象”というものもありますよね? そこで今回私達は,ゲーム内で学習というか,役に立つ知識が得られるようなコンテンツが作れないものだろうかと考えました。そして純文学とゲームをミックスすることを思いついたんです。
チャプター4では,一つのジェネレーションごとに,一つのシェイクスピア作品をフィーチャーしていきます。G13では「ハムレット」がメインとなります。そして以降も「ロミオとジュリエット」などシェイクスピアの代表作を順次とりあげていく予定です。
ハムレット |
オフィーリア |
ガートルード |
クローディアス |
ホレイショー |
レアティーズ |
4Gamer:
各ストーリーはどのように語られていくのでしょう? 原作そのままでしょうか? それともマビノギらしい味付けを行った物語になるのでしょうか?
ムン・ソンジュン氏:
純文学に対して“おもしろい”というイメージを持たれている人は少ないと思います。それをエンターテイメントに再構築するときには,やはり新しい物語を作らなければなりませんでした。そしてさらに,今回はそこに“シェイクスピア本人の物語”も重ね合わせています。ジェネレーションを重ねるごとに,シェイクスピアの過去の秘密が垣間見えるようになっているんです。
4Gamer:
プレイヤーはどういった形で物語に介入することになりますか?
ムン・ソンジュン氏:
マビノギの中でシェイクスピアは“予言の能力を持っている作家”として登場します。彼は意識せずに能力を発揮して,神々の秘密を知ってしまい,それを物語にすることでミレシアンへと伝えてしまいました。神々はそのことに怒り,彼を“エイヴォン”という地域へ閉じ込めてしまいます。このエイヴォンが,今回新規マップとして追加される地域です。物語はミレシアンが,シェイクスピアとエイヴォンの話を,モリアンから聞かされるところから始まります。
4Gamer:
新エリア エイヴォンについて詳しく教えてください。
ムン・ソンジュン氏:
G13でプレイヤーはモリアンからエイヴォンを調査するように依頼されます。そして特殊なアイテムを使ってエイヴォンに移動できるようになります。エイヴォンは,半分が“明るい昼の世界”,もう半分が“暗い夜の世界”になっています。これは喜劇と悲劇の両方を手がけるシェイクスピアの作風を象徴しているんです。
4Gamer:
エイヴォンに行くには,G12のメインストリームをクリアしなければいけませんか?
ムン・ソンジュン氏:
いいえ。ほかのチャプターのクエストと同時に進行可能です。種族による制限もありません。なお,エイヴォンには町のような施設はなく,メインクエストを進行するために赴くマップになっています。
G13では,クエスト関連のUIに新しいタブが追加されて,チャプターごとに,そのクエストがどこまで進行したのか,よく分かるようになっています。この機能も活用しつつ,自由に楽しんでもらえればと思います。
ムン・ソンジュン氏:
詳しくは言えませんが,G13のストーリーには「ハムレット」の登場人物が多数関わってきます。彼らもNPCとして登場するんです。さらに今回は“マーロウ”というオリジナルのNPCも登場します。マーロウはG9の“アンドラス”やG10の“ペイダン”のような,ストーリーを導く重要なキャラクターです。エイヴォンでクエストを進めていくと“グローブ座”という劇場に行くことになるのですが,マーロウはその劇場を代表する俳優として登場するのです。
4Gamer:
多くのNPCが登場する複雑な物語が展開しそうですね。開発段階で苦労したり,とくに思い入れのあるNPCなどはいますか?
ムン・ソンジュン氏:
ゲームに登場するハムレットの性格をどう表現するかですごく悩みました。彼は弱い面と強い面,両方を持つ人物ですからね。同様にその恋人オフィーリアのキャラクター作りにも苦心しました。
職業のような“将来希望”や,新しい強化システムも追加に
4Gamer:
なるほど,ハムレットを軸にアレンジされたストーリーが展開していくんですね。楽しみです。では,具体的なコンテンツとしては,どのようなものが追加になるのか教えてください。
ムン・ソンジュン氏:
G13では,新マップにある劇場で“演劇ミッション”が楽しめるようになります。演劇ミッションは,以前実装した“影ミッション”に近いコンテンツです。G13のメインストリームクエストでも挑むことになりますが,何度も繰り返し遊んでもらうことも可能です。
平原氏:
エイヴォンには“紙で出来た羊”がいます,実はこれは“シェイクスピアが執筆時に失敗して丸めて捨てた紙”が羊になったものです。この羊からは,演劇ミッションに入場するためのチケットのようなアイテムが採集できます。
4Gamer:
演劇ミッションはどのように進行していくのでしょうか?
平原氏:
演劇ミッションは劇場の舞台の上で行うことになります。プレイヤーは台本の流れに沿う形で,自分の役をこなしていきます。一つのシーンが終わると緞帳が降り,舞台が転換して,開くと次のシーンという具合に進行していきます。当然,シーンの中にはモンスターと戦うようなシチュエーションも用意されています。
ムン・ソンジュン氏:
演劇の雰囲気を出すために,プレイヤー達にスポットライトがあたる演出が用意されています。実はこのスポットライトにはバフのような効果があって,ライトの色によって得られる恩恵が異なるようになっています。
4Gamer:
それはユニークですね。ほかに追加されるシステムはありますか?
G13では“将来希望”という概念が入ります。これは他作品で言えば職業に近い概念です。ですが職業ではありません。職業がなく,自由な育成ができるところは,マビノギの大切な特徴の一つですので変えません。ただそれに近い新要素として“将来希望”というものが入ります。これは,ナオと会話して選択することが可能です。
4Gamer:
転生するときに“将来希望”を選べるということですね。どんな“将来希望”があるのでしょうか。
ムン・ソンジュン氏:
“戦士”“魔法使い”“弓使い”“錬金術師”の4種類です。企画中には“職人”というものもありましたが,今回は追加されていません。
4Gamer:
“将来希望”を選択することで,プレイヤーにはどういうメリットがあるのでしょうか?
ムン・ソンジュン氏:
選択した“将来希望”によって,いくつかのボーナスを得ることができます。具体的には,修練が楽になったり,レベルアップ時のステータスの伸びが変わったりします。戦士だから魔法が使えないとか,特別なデメリットは設けていませんので,自由に選んでもらえればと思います。
4Gamer:
新規スキルはいかがでしょう?
ムン・ソンジュン氏:
多数追加します。これらは将来希望とは関係なく,誰でも習得できるスキルです。
■新規スキル一覧
●戦闘スキル
ダウンアタックスキル,ソードマスタリ
ブラントマスタリ,アックスマスタリ
●魔法スキル
ヘイルストーム,アイスマスタリ
ファイアマスタリ,ライトニングマスタリ
ボルト魔法の合体,ボルトマスタリ
●錬金術スキル
ファイアアルケミマスタリ,ウォーターアルケミマスタリ
アースアルケミマスタリ,ウィンドアルケミマスタリ
練成マスタリ
●生活スキル
幻惑の演奏,ワゴン設置
4Gamer:
現役プレイヤーには,またAPで悩む日々がやってきそうですね(笑)。
ムン・ソンジュン氏:
実はまだありまして,G13では新しいアイテム強化システムも追加されます。いまある“宝石改造”に加えて,宝石改造を施す前に行う“職人改造”と,宝石改造の後に行う“特別改造”ができるようになります。職人改造は,ある程度のランダム要素を持つものになります。
4Gamer:
職人改造のステータスが低かった場合,やり直すといったことは可能ですか?
ムン・ソンジュン氏:
やり直しは不可能……だったのですが,復元できるアイテムを追加してほしいと要望が多かったので課金アイテムとして追加しました。
4Gamer:
なるほど。特別改造のほうはどういう仕様になっているのでしょうか?
ムン・ソンジュン氏:
まず特別改造用の素材を集めて,それを町にある強化用の祭壇まで持って行って改造を行います。集める材料には赤い石と青い石の2種類があり,赤い石の改造ではクリティカル時のダメージが,青い石の改造では通常ダメージが増加します。刀身が光る派手なエフェクトにも注目してほしいですね。
4Gamer:
韓国では,赤い石と青い石のどちらが人気がありますか?
ムン・ソンジュン氏:
攻撃力を堅実に底上げできる青い石の改造のほうが好まれているようです。
4Gamer:
今回はハウジング用の新しい地域も追加されるとのことですが,日本でのハウジングの利用状況はどうでしょうか?
実は分譲率は99%に達しています。ハウジングシステムは,みなさんに愛用していただけているようです。
ムン・ソンジュン氏:
韓国サーバーでは“地価”が非常に高騰してしまっている現状があります。そういうこともあって今回,スリアブクィリン北に新しいハウジング地域を追加することにしました。
4Gamer:
単純に,より多くの人にハウジングを利用してもらうための追加,ということですね。
ムン・ソンジュン氏:
そうです。機能自体は既存の地域と同じです。
4Gamer:
高難度ミッションの追加はありますか?
ムン・ソンジュン氏:
影ミッションにさらに難しいモードが追加されます。既存の影ミッションには初級/中級/高級/ハードと4段階の難度がありましたが,その上にさらに“エリートミッション”が追加されます。入場には専用の通行証が必要になります。この通行証は既存の難度のクリア報酬として入手できます。敵が強い分,レアな装備や希少なエンチャントのドロップが期待できるので,仲間と強力して,チャレンジしてもらいたいと思います。
4Gamer:
ダンジョンはいかがでしょう?
“フィアード上級ダンジョン”が追加されます。ここには鎧を身に着けた熊である“アーマーベア”というボスがいて,倒すと新しい武器やエンチャントが手に入ります。とくにエンチャントのほうは“週末にだけ効果が現れる”という特殊なもので,韓国ではこれに人気が集まりました。ただしアーマーベアはプレイヤーの動きを止める“咆哮”というスキル使ってきますので,倒すのは困難です。非常に強力なボスですので,覚悟の上でチャレンジしてください。
キム・ヨン氏:
さらに今回,日本サーバーに“分身術”というスキルが入るのですが,これは韓国でもまだ実装されておらず,日本で最初に実装されるものになります。これはプレイヤーと同じ姿をした分身が,敵に対してさまざまな攻撃を仕掛ける豪快なスキルです。また今回,NPCを使った“チャプター4実装記念イベント”も行いますが,こちらも日本が最初になります。
ムン・ソンジュン氏:
実は,これまでマビノギの開発は“韓国が先行,日本はその後”という流れでしたが,これからは日本で最初に導入するコンテンツも増やしていきたいと思っています。現状ではある意味“実験的な試み”なのですが,関心を持って見守っていただければと思います。
現状のマビノギの問題点と新規ユーザーの獲得について
4Gamer:
せっかくの機会なので,開発の方に,日頃マビノギをプレイしていて感じていることについて質問させてください。
現在ゲーム内には,装備やエンチャントが完璧に整った“非常に強い”プレイヤーキャラクターが多く見られます。これは新規プレイヤーにとっては,ややプレイを始めづらい状況なのではないかと思うのですが,いかがでしょうか。
キム・ヨン氏:
マビノギは6年以上も運営している息の長いタイトルですので,韓国でも同じような問題を抱えています。新規のプレイヤーの皆様にも楽しんでいただけるよう,メインストリームクエストの難易度は低く設定しています。
ムン・ソンジュン氏:
今回シェイクスピアというモチーフを選んだことには,新規で始めるプレイヤーにアピールしたいという意図もあります。不朽の名作を生んだシェイクスピアの名前は誰でも知っているものですからね。実際,韓国ではチャプター4の開始から1か月で新規ユーザーが2倍ほど増加しました。また新規ユーザーだけでなく,休眠ユーザーも復帰し,全体で30%ほど実働ユーザー数が伸びています。
4Gamer:
日本の運営側としては,チャプター4をどうアピールしていきますか?
平原氏:
アップデートにはシステム部分の改良も含まれていますから,新規ユーザーが初めて触れる内容であるチャプター1も,より遊びやすくなっています。ですので新規の方にも興味を持って,マビノギを遊んでいただきたいですね。こちらとしてもユーザー間の交流をサポートできればと考えています。
シェイクスピアというと,ある程度“おかたい”イメージがあると思いますが,一方でマビノギは“ほのぼの”としたゲームですので,“おかたい”部分だけでなく演劇ミッションのような楽しい部分も積極的にアピールしたいと思います。アップデートに合わせて,TVCMやウェブでのプロモーションも積極的に行いますので,活気に溢れたマビノギの世界を新規ユーザーの方々にも見てもらいたいと思います。
4Gamer:
個人的にすごく気になっているのですが,毎週月曜日に行っている臨時メンテナンスは“定期メンテナンス化”するのでしょうか?
平原氏:
メンテナンスはサーバーの調整のために必要になっていました。これについては開発のほうでも問題の解決策を考えてもらっていまして,今後は,様子を見ながらですが,月曜のメンテナンスはなくしていく方向で進めています。ユーザーの皆様には大変ご迷惑をおかけしています。
期待しています。それでは最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
ムン・ソンジュン氏:
チャプター4では,純文学とゲームの出会いという新しい試みを行っています。これは,“変化を続けていく”というマビノギのテーマに対する覚悟の表れでもあります。今後も変化と進化を続けるマビノギをよろしくお願いします。
平原氏:
マビノギは自由度の高い作品であり,ゲーム内にはいろいろな楽しみが用意されています。プレイヤーの皆さんには,自分がやりたいことを見つけてもらい,そして同じ目的を持った仲間を見つけてほしいと思います。新要素もこれからどんどん増えますので,期待していてください。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
ケルト神話がベースであるマビノギに,シェイクスピアをモチーフとしたコンテンツが入ると最初に聞いたときには違和感を感じた。だが話を聞いてみると,その選択の背後には“オンラインゲームの持つネガティブなイメージを払拭したい”“誰もが知っている題材を扱うことによって新規プレイヤーにアピールしたい”などといった,間接的だが深い理由もあったようだ。シェイクスピアをテーマとしたチャプター4は,今後もG14,G15と続いていく。これからも“変化”を続けていくというマビノギに期待しよう。
「マビノギ」公式サイト
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