連載
3回にわたってお届けしてきた「ロード・オブ・ザ・リングス・オンライン アングマールの影」のモンスタープレイ連載,「指輪(リング)にかけろ! リターンズ」も,今回でいよいよ最終幕。11月29日に実施された“クライアント無料化/レベルキャップ制無料期間”の導入によって,モンスタープレイの主戦場,エテン高地はかつてない活況を呈しており,それを実感しているベテランプレイヤーも多いことだろう。事実,11月29日のモンスタープレイ無料化以降,エテン高地のサウロン軍団には続々と新兵が入隊を志願しており,時間帯によっては人がいっぱいで戦闘が困難になるほどだ。
装備で勝る自由の民軍に対抗するためには,サウロン軍は数で当たるしかない。入会金/年会費共に永久無料で三食昼寝付き,報酬は完全出来高払いで働き次第では士官登用もありと,至れり尽くせり(?)のサウロン軍は,一人でも多くの諸君らの入隊を待っている。そんなモンスタープレイが未体験だという人は今からでも遅くはない,ただちにエテン高地に馳せ参じてほしい。
さて,前回ガクソール隊長とその腹心,ワームのフィムをクモの餌食にし,ついに砦の守備隊長の座を奪ったグワシは,次なる飛躍の機会を狙って牙を研ぐ。グワシの野望は,辺境の一砦の守備隊長などという地位に収まりきれるものではなかったのだ。その押さえ切れない野心に,果たして終着点はあるのだろうか。
コツコツと鳴り響くノックの音を聞くまでもなく,秘書の大グモが来たことは分かっていた。8本の脚が立てる音は,オークやウルクなどの二本足の生き物とはまったく違うからだ。扉を開けて入ってきたのは,先頃から秘書として使い始めた大グモだった。
「失礼します,グワシ隊長。今日の予定ですが……」
前任の守備隊長ガクソールと,その腹心だったワームのフィムを計略によって葬ってから数か月。グワシは,ダール・ガザグ砦の守備隊長の座に収まっていた。
「午後は新兵訓練の検閲,夕方からはグラムズフットで作戦会議のあと,アクラハン将軍と会食となっております」
「そうか……。ふう,まったく守備隊長が,これほど疲れるものとは思いもよらなかったな」
目を通していた書類をばさりと机の上に放り投げると,グワシは大きく伸びをした。
「ところで隊長,夕方の作戦会議で報告するホビットの惨殺件数ですが,まだ少し足りていないのはご存知ですか」
「いかん,すっかり忘れていた! 今月は,ホビット殺戮強化月間だった」
「やはり,お忘れでしたか。ホビットの脚が,まだ10本ほど足りていません。時間もあまりありませんし,早急に手配したほうがよろしいかと……」
エテンに駐留するサウロン軍は数か月に一度,訓練や戦意高揚を兼ねてエルフやドワーフなどを集中的に虐殺する月を設けていた。ノルマを達成できなかった守備隊長は,見せしめのため処刑されてしまうことすらあった。
「午後の新兵訓練の検閲は中止だ。おれがホビット狩りに行ってくる。時間もないことだし,ほかのやつらに任せてはおけん」
「かしこまりました。隊長の弓の腕なら,夕方までにホビットの足を10本集めるのはたやすいでしょう」
「世辞はいい。たまには体を動かさんと,太陽にあたったトロルのように筋肉がこわばってしまってかなわん」
ほこりをかぶりつつあった愛用の弓矢を引っつかむと,グワシは守衛の兵士が敬礼する中,軽くうなづきながら大股に執務室をあとにした。
久しぶりに外へ出てみると,太陽の日差しがまぶしかった。兵士達の訓練の掛け声や教官の怒声,弓矢や槍を作っている工房から聞こえる作業の音,それらが新鮮に聞こえる。大きく伸びをし,首を振って肩の凝りをほぐすと,手にした弓を軽く弾いて,うっすらと積もったほこりを吹き飛ばした。
「ふう,やはり俺には戦いのほうが性に合ってるな。さあて,あのちょこまかうるさいホビットどもをぶち殺して,エテンを少しきれいにしてやるとするか!」
先に待つ殺戮を思い浮かべると,グワシの心は喜びに打ち震えた。たまらず大きな咆哮を上げるや,真上から少し傾いた太陽の下を走り出していた。
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“ホビットの脚を10本持って来い”というのは,モンスタープレイヤーに与えられるクエストの一つだ。NPCのホビットを倒したら,戦利品を見てみよう。その中に,「ホビットの脚」というアイテムが入っているはずだ。
同様のクエストとして,“エルフの耳を集める”や“ドワーフの髭を集める”などがある。これらもまた,対象となるNPCを倒せば手に入る。なお,まったくの余談だが,グワシはホビットがことのほか嫌いらしい。とくに,ぽっちゃり体型でリュートなどを小脇に抱えたホビットを見ると,ムラムラと殺意が込み上げてくるそうだ。過去に何かイヤなことでもあったのだろうか……。
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「まだだ,まだ動くな。もう少し待て……」
遠くから剣のぶつかり合う響きや怒号,断末魔の叫びがかすかに聞こえてくる。ダール・ガザグ砦の軍団を引き連れたグワシは,自分の背後に一糸乱れぬ姿で立ち並ぶ軍勢を見わたし,誰にともなく呟いていた。
エテン高地の東部に築かれた,ティリス砦が攻撃を受けているという報せを受け取ったのは,昼の少し前のことだった。急報を受けたグワシは守備のための部隊を残し,砦にいる全軍に出撃を命じた。ついに,自由の民の大攻勢が始まったのだ。
ダール・ガザグ砦の守備隊長を任されたときから,グワシは独自の情報網をエテンの各所に張り巡らせることに注力し,それが1か月ほど前から稼動し始めていた。その情報網に引っかかった最初の知らせが,敵軍のいつもとは違う動きだった。
各地で発生していた小競り合いがぴたりとやみ,かなりの人数の敵兵士が小部隊に分かれ,目立たないようにエテンに入ってきていたのだ。自由の民による大攻勢が近いと見たグワシは砦の兵士を増強し,来るべき戦いに備えていた。
斥候が三々五々と戻ってきては戦場の様子をくまなく伝え,また戻っていく。やはり自由の民は,これまでにない大部隊を展開させていた。
自分の部隊だけでは到底かなわないと見たグワシは,グラムズフット要塞にいるアクラハン将軍に,いち早く援軍の要請を出していた。だがグラムズフットから,ここティリスまではどんなに急いでも半日はかかる。援軍の到着まで自由の民の攻撃を支えられれば,将軍の心象を良くできるだろう。そうなればトル・アスカルネンやティリスといった,最前線の守備隊長を命ぜられるかもしれなかった。最前線は危険も大きいが,そのぶん目立つ活躍もしやすいのだ。
太陽が傾き兵士たちの影が長く伸びる頃になって,グワシはようやく進軍の合図を発した。太陽を背後に背負う形で突撃すべく,はやる兵士達を抑えて頃合いを見計らっていたのだ。
やがて,戦場のそこかしこで戦うティリス砦守備隊と敵兵士の姿が見分けられるほどまで近づくと,グワシは全軍に突撃を命じた。はやる気持ちを抑えかねていた兵士達は,咆哮をあげて自由の民軍に突撃する。たちまち乱戦となり,そこかしこで激しいぶつかり合いとなったが,やがて戦況はこう着状態となってしまった。敵に押し切られるほどではないが,かといって押し返すこともできない。まるで鋼鉄の壁に向かって戦っているかのように,戦線は同じところで押しつ押されつしていた。
いま目の前で戦っている敵部隊の横合いから,別働隊による攻撃をかければ敵は崩れそうだったが,それだけの余力はない。
「くそ! あと一部隊いれば……」
太陽は大きく傾き,山の端に隠れようとしていた。晴れわたった空は,その濃さを増すとともに,美しい夕焼けが始まりかけていた。
「隊長! 左手の丘の向こうに敵の新手です!」
横槍を加えようと考えていた矢先に,逆に敵から横槍を加えられる立場となったことを悟ったグワシは,展開していた部隊を一まとめにすべく伝令を発した。
鮮血のように赤く染まった夕焼けを背景にした丘の上に,地平線を埋め尽くすほどの大部隊のシルエットが立ち並ぶのを見てグワシは息を飲んだ。やがて丘上の大軍団から進軍のラッパが高々と鳴り響くや,怒涛の咆哮と共に大地を揺るがし,全軍が一斉突撃を敢行してきた。
グワシが密かに敗北の覚悟を決めたそのとき,突撃する軍団の只中に,真っ赤なサウロン軍の巨大な軍旗が何本も高々と掲げられたのを見てグワシは目を疑った。グラムズフットからの援軍が間に合ったのだ。巨大なサウロン軍旗は,アクラハン将軍自らが率いてきた軍勢であることを示していた。
将軍率いるグラムズフットからの援軍は,戦場にキリを揉みこむように突進すると自由の民の軍勢を押し潰し始めた。重苦しかった戦場の雰囲気は,一気にサウロン軍優勢に傾きだした。
「みんな,アクラハン将軍が見ておられるぞ! 今こそ手柄を立てろ!」
「おおー!」
部隊の士気は,援軍とアクラハン将軍の出現により一気に高まった。押されつつあった戦線のあちこちで反撃が開始され,自由の民の断末魔の悲鳴がグワシの耳に快く響いた。
「どうやら命拾いしたようだ。それにしてもアクラハンめ,美味いところを持っていきやがる……」
忠実な配下としてアクラハン将軍の信任を得ていたグワシだったが,将軍の持つ権威を間近に見て野心も膨れ上がっていた。今やグワシの野心は,砦の守備隊長ぐらいでは収まらないところまで来ていたのだ。
「今に見てろよ,アクラハン。やがて俺が将軍となって,このエテンのすべてを取り仕切ってやるからな。そして……」
グワシはアクラハン将軍を追い落とし,エテンのサウロン軍を統括する地位にまで上り詰めたいと考えていた。自由の民との最前線であるエテン高地のサウロン軍を統括するということは,とりもなおさず最も精鋭な軍団を配下に持つということだ。
数万にもおよぶ最精鋭の兵士を従えれば,自由の民,冥王サウロンに次ぐ新たな勢力となってこの中つ国に割拠することも夢ではない。そして,やがては中つ国全土を己の手中に収めるのだ。
「まだまだ,やらなきゃならないことはたくさんある。だが,俺には若さがある。老いぼれの将軍どもを,一人ずつ追い落としていけるだけの時間がある。砦の隊長ごときで俺が満足すると思ったら大間違いだぞ,アクラハン」
自由の民の軍勢は,いまだ退却する様子を見せてはいなかった。指揮をするものが優秀なのだろう,崩れそうになる部隊をうまく取りまとめては果敢に反撃を繰り返してくるが,それも時間の問題と思われた。
グワシは引き連れてきた部隊をいったん下がらせてまとめ直すと,敵の指揮官がいると思われる大部隊を次の相手に選んだ。
「みんな,敵大将の首を取りにいくぞ! アクラハン将軍に,俺達の活躍を見せてやろうじゃないか!」
グワシは愛用の弓に矢をつがえると,巨大な斧を振り回して奮戦しているドワーフに狙いを定めてギリギリと引き絞った。残照をうけた鋼鉄のヤジリが,まるで血のように赤く染まってギラリと輝いた。
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ティリス・ラウ砦は,トル・アスカルネン砦やグリムウッドの材木所と並んで,よく戦闘が発生するポイントだ。ほぼ毎日のように,これらのどこかで戦いが起きていると思って間違いないだろう。基本的にはサウロン軍が所有しているが,自由の民プレイヤーの働きいかんでは奪回されてしまうこともしばしばだ。
砦の最上層にはバルコニーのようになった張り出しがあるので,弓矢を使えるプレイヤーは,そこから下にいる敵に向けて矢を射掛けることができる。
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サウロン軍に潜り込んだグワシが,数々の戦場を駆け抜け,駆け出しの一兵卒からあの手この手でのし上がっていく様を描いたモンスタープレイ連載も,これにて幕引きとなる。しかし連載は終了しても,グワシの戦いはまだまだ続いていく。
次なる目標を,サウロン軍の精鋭部隊の掌握とエテン高地の支配に定め,果ては中つ国全土の支配を目論むグワシ。だがその行く手に待ち受ける戦いの日々は,これまで以上に厳しいものとなるだろう。弱肉強食のサウロン軍において,敵は自由の民の軍勢だけとは限らないのだ。
そう,グワシがそうしてきたように,サウロン軍では下克上など日常茶飯事なのだ。次にグワシを追い落とすのは,今これを読んでいるアナタかもしれない。サウロン軍では,若くて生きのいいうじ虫共(※編注:モンスタープレイヤーのこと)を常に歓迎している。野心があれば,なお結構! 動乱の中つ国で一旗上げようという人は,いますぐサウロンの呼び声にこたえ,エテン高地にその一歩を踏み出してほしい。
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