インタビュー
「FFXI」×「EVE Online」特別企画。長寿MMORPGを支える各々のキーパーソンに,お互いの「聞きたいこと」に答えてもらいました
「EVE Online」公式サイト
長寿を誇るMMORPGと言えば,もちろん日本にも存在する。なかでもスクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXI」(以下,「FFXI」)は,日本を代表するRPGシリーズのナンバリングタイトルであり,4Gamer読者に今さら詳しく説明する必要はないだろう。PCゲーマーだけでなく,家庭用ゲーム機にもMMORPGを浸透させた功績は大きい。昨年5月,サービス20周年を迎えたが,現在もヴァナ・ディールには多くの冒険者がコミュニティを形成している。
「ファイナルファンタジーXI」公式サイト
さて,ここからが本題だ。
今回,4Gamerでは「EVE Online」と「FFXI」,それぞれのキーパーソンに対して,お互いのタイトルへの「聞きたいこと」を寄せてもらった。冒険の舞台や世界設定,プレイヤーのスタイル,コミュニティの性格に違いはあれど,20年近く走り続けてきた“同業者”ならではの質問,そして回答はMMORPGを愛する者にとって興味深いものであるはずだ。
「EVE Online」チームから「FFXI」チームへ
[Q1]
CCP Games:
「EVE Online」では,すべてのプレイヤーが世界中から1つのサーバーに参加しています。これにより,“静かな”時間帯の「EVE Online」とピーク時間帯のそれではまったく異なる役割を担う,という興味深い効果を生んでいます。
もし,「FFXI」のプレイヤーがすべて同じサーバーにいたならば,コミュニティはどのように変わっていたと思いますか。
[A1]
藤戸氏:
一番の違いは,「ワールド」(「FFXI」のサーバー)の独自色が失われることでしょうか。複数のサーバーが並行世界として存在する「FFXI」では,それぞれに実装されている内容は全く同じにもかかわらず,人々の動き方や考え方がまるで異なります。コミュニティもサーバーごとに作られる傾向が強く,パッと見たところでは地方都市のような感覚があります。
これまでのリアル(オフライン)イベントでも,プレイヤーは所属ワールドに誇りを持ち,同じサーバーのプレイヤー同士で大変盛り上がっていました。こういった部分は,並立サーバーならではの感覚だと思います。
この独自色の代わりに,「EVE Online」では“リアルタイムで誰かが何かをしている”という,まさに現実世界のエミュレーションが行われていると思います。New Edenのとある地域,とあるCorpといった具合に,現実と同じような形でコミュニティ(集団単位)を生み出しています,
もし,「FFXI」が1つのサーバーに集う設計だった場合,郷土色の強いコミュニティ形成がエリアのあちこちで見られたかもしれません(実際,サービス初期はゲーム内の国ごとにコミュニティが形成されました)。
また,多言語・多文化を原因とする違いもあっただろうと思います。現在の「FFXI」はサーバー自体,かなり成熟していることもあり,言語による住み分けが自然に進んでいますが,そもそも国や言語による強制的なサーバー住み分けなどはありません。そのため,2003年の北米サービス開始の頃より,ミクロなレベルで多文化世界を構成していました。
日本のプレイヤーは他国への接触がもともと希薄な環境ということもあり,外国語に対する抵抗感も強かったのですが,住み分けが進んだ現在は,自然とピークタイムもサーバー内で揃うようになってきました。
「FFXI」のサーバーが統一されていたら,当初多かった文化摩擦ばかりが強く現れそうな印象はあります。それでも,たくさんのプレイヤーがリアルタイムにログインしている相手を見ることになるので,さらに活気を感じられるゲームになるのではないかと思います。
室内氏:
少し別の観点になりますが,「FFXI」はサーバーが分割されていたことから,少数派グループにとって「集まる場所を示しやすい」という良さがあるように思います。グローバル展開をすると,英語がコミュニケーション手段として幅を利かせることを避けられませんが,その中では少数派の言語や地域に紐づいたコミュニティを形成するために,例えば「イタリア語を使うみんなでサーバーAに集まろう」「アイスランド出身のみんなでサーバーBに集まろう」というような,コミュニティの自発的な活動が生まれやすくなります。その結果,全体で見れば少数派であっても,1つの場所に集まることで強いつながりを作ることに寄与していると思います。
もう20年もこれでやってきましたので,もし“最初から単一サーバーだったら”と想像するのはなかなか難しいですが,藤戸と同じく,タイムゾーンによる棲み分けと,少数派コミュニティはサーバーを指定する代わりにゲーム内の特定の国に集まるといった,実際とは違う形での成長を見られたかもしれません。
[Q2]
CCP Games:
「FFXI」ではチャットをリアルタイムに翻訳することで,同じタイムゾーンでありながら異なる言語を話すプレイヤー同士のコミュニケーションが取りやすくなっています。ここから,「EVE Online」は何を学べると思いますか。
[A2]
藤戸氏:
「FFXI」の「定型文辞書」の一番いいところは,公式に用意された言葉が別言語でも正しく見えることです。たとえばコンテンツの名称,魔法やアビリティの名前といったものは日本語と英語では全く違いますが,これらを正しい名称で発信することができます。
反面,複数の意味を持つ単語を誤って使うケース(よくあるのが,アビリティ名として登録されている【Reward】を「報酬」の意味で使ったら,【いたわる】と翻訳される)があり,文章に違和感を生じさせることもあります。
「EVE Online」のように,交渉そのものがゲームの重要な要素になる場合はあまり向かない仕組みかと思いますが,まったく何もないところから異言語圏のプレイヤーに話しかける場面では,1つの足がかりになる可能性はありそうです(それでも,最適な方法はGoogle翻訳のような翻訳システムを実装することかもしれません)。
[Q3]
CCP Games:
「EVE Online」では長年にわたり,ゲーム外においてプレイヤーを支援するコミュニティが組織的に生まれてきました。例えば,Broadcast for Reps(Broadcast 4 Reps)やBest of Usは,うつ病やトラウマと戦っている人々が苦悩を聞いてくれる人,つながりを持てる人を見つけるための方法として,プレイヤーによって推進されたものです。「FFXI」では,プレイヤーの幸福を願うサポートコミュニティが生まれているのでしょうか。
[A3]
「EVE Online」の例として挙げられているようなものではありませんが,「FFXI」の20年以上のサービスの間に,私たちも無数のコミュニティが形成されるのを見てきました。その時々でトピックはさまざまですが,中にはゲームの境界線を越えて,互いに支え合うタイプのコミュニティも存在します。
私たちは,プレイヤーのみなさんがそれぞれのコミュニティを発見し,作成し,成長させていける環境を提供しています。そして,そこから実際に発展しているものを見るのは喜びでもあり,その素晴らしさに驚かされることもしばしばあります。
[Q4]
CCP Games:
「FFXI」はアバターベースのMMOです。プレイヤーは分身となるアバターの外見をカスタマイズして,他の人に見せたい自分のイメージを投影することができます。「EVE Online」におけるプレイヤーは自分の宇宙船であり,ゲームの世界では個人の人格を表現する機会は比較的少ないです。アバターベースのゲームプレイの魅力をどのように捉えていますか。
[A4]
藤戸氏:
一番の魅力は,やはり自分好みの外見を作り出して,自分自身を投影でしょう。実際にオシャレを楽しむのと同様の行動がとれるので,自身の個性を表現する手段として外見カスタマイズは「FFXI」でも活用されています。
優れた外見は絵的にも映えますし,何よりコスプレできることでキャラクターを身近に感じられると思います。イベント会場などではさまざまなコスプレイヤーを見ますが,今でも「FFXI」の装備を付けている人を見ると嬉しくなってしまいます。
「EVE Online」の個人の人格を表現する機会は,確かに少ないかもしれませんが,「どの船を選ぶか」「どんな装備をカスタマイズをするか」といった感覚は,現実での愛車自慢に近いのではないかと思います。自分もポートレートの自画像より,ガレンテのEnyo(強襲型フリゲート)に自らのアイデンティティを持ってました(笑)。
T2艦のスペック表や外観を見て,憧れを抱いていた時期が本当に長かったので,初めてEnyoを入手したときの喜びは新車を買ったときのような気持ちでした。「EVE Online」には,船のカッコよさや特徴に愛着を見出していく「マシン愛」が刺さる人向けの世界観や仕組みがあるのかなとも思います。
[Q5]
CCP Games:
「FFXI」は「EVE Online」と同様に,新しいゲームが登場しても移行しない,熱心なハードコアプレイヤーを抱えるMMOだと思います。「FFXI」をずっとプレイし続けてもらう「秘策」は何でしょうか。
[A5]
藤戸氏:
秘策というほどではありませんが,「FFXI」は提供したコンテンツを消費していくスタイルなので,継続的に「やること」を提供する必要があります。2016年以降,「FFXI」はバージョンアップの規模を落として運営することにしましたが,当初は更新内容が最小限になりすぎていたため,プレイヤーが離れていきました。
そこから,大きめのバトルコンテンツ(と新たな装備)を追加しましたが,それだけではゲームの世界が殺伐としてしまいました。
その後,ストーリーというファクターを追加していったところ,これがまさに潤滑油の働きを示しました。プレイヤーの皆さんは,「FFXI」の世界観で遊びたかったのです。
この経験と歴史から,いずれかの要素だけがあればいいのではなく,バランスよく「成長」「探索」「ストーリー」を提供できた場合にうまく回転するのではないかと感じています。
室内氏:
「FFXI」はそれまでのMMORPGには前例がないほどの重厚なストーリーを持ち込み,ストーリードリブン型MMORPGの先駆け的な存在となりました。この点においては,「ファイナルファンタジー」シリーズの一員であったことも一助となったと思います。
また,MMORPGがまだまだ新しいジャンルのゲームだった時代です。これらの要素が相まって,多くのプレイヤーに集まっていただき,熱狂し,強固なコミュニティを形成してくれました。New Edenも同様だと思いますが,初期のヴァナ・ディール期は多くのプレイヤーの「第二の生活空間」として強く定着しました。
ご質問にある「新しいゲームが登場しても移行しない」プレイヤーは,どこかからやってきたのではなく,「FFXI」と共に生まれ,私たちも彼らと一緒に成長させてもらえたのだと思います。
[Q6]
CCP Games:
「FFXI」の世界を変えるような出来事で,ほとんどのプレイヤーが想像していなかった例を教えてください。「EVE Online」では,27の星系をPochvenという新地域に移しました。そして,この2年間で新しいスターゲートを追加し,宇宙の地理をさらに変化させ,最近では太陽系を破壊しています。これらは長期にわたって影響を及ぼし,New Edenの「現状」をさらに揺るがすことになりました。
長い年月を経てきた「FFXI」は,どのようにしてプレイヤーに新鮮さを与え続けているのでしょうか。
[A6]
藤戸氏:
「FFXI」の場合,新しいストーリーとエリアを開放する拡張版の発売が大きな転換点になってきました。これまでにパッケージ規模が5つ,それより小規模のダウンロードコンテンツが6つ,メジャーアップデートの一環として提供したものが1つあります。それぞれにプレイヤーの成長に何らかの方向転換をもたらすものがあり,その都度,プレイヤーは新しいものに触れて成長を楽しんできました。
現在は大きなストーリーを持つ新シナリオ「蝕世のエンブリオ」を,アップデートごとに小さく分けて提供していますが,それもいよいよ大団円を迎える予定なので,その先をどうするかが課題だと思っています。
室内氏:
今のヴァナ・ディールは「ほぼすべてのエリアにワープで移動できる」と聞くと,休眠中のプレイヤーの方は驚くかもしれません。「FFXI」は「移動に時間がかかる」世代のゲームだったため,とにかくチョコボに乗って走り回ったわけですが,最近ではずいぶんと移動もラクになりましたね。
また,戦闘不能時の,いわゆるデスペナルティによる経験値ロスもゲームが誕生した当初に比べて,大幅に減少しています。パーティメンバーとレベルを合わせて遊べる「レベルシンク」の仕組みだったり,ソロで遊びやすくする「フェイス」システムだったりと,時代に合わせて遊び方に影響を及ぼす変更も加えていますが,そういったものも大きな驚きと共に受け入れられてきたと思います。
[Q7]
CCP Games:
CCP Gamesでは,ビデオやライブストリーム,ブログなどのコンテンツを制作するプレイヤーコミュニティのメンバーに報酬を与え,昇格させるプログラムを持っています。スクウェア・エニックスはコミュニティによるコンテンツの生産を,どのように促進しているのでしょうか。
[A7]
室内氏:
「FFXI」のサービス開始当初,SNSやブログが現代のように体系化されておらず,その代わりに個人のホームページによる情報発信や,掲示板を通じたコミュニティ活動などが盛んに見られました。それらを支援するために,公式サイトには登録制の「ファンサイトリンク集」を設け,優良なサイトを多くの人に認知してもらえるようにプログラムを実施しました。
また,イラストなどの二次創作を行ってくれる皆さんをフィーチャーし,盛り上げていくために,ファンアートやスクリーンショットのコンテストを行ってきました。コンテストには賞品を用意したものの,とくに格付けや昇格などの仕組みはありませんでした。それでも多くのプレイヤーの皆さんに参加していただき,コミュニティの熱意には大いに助けられたと思います。
[Q8]
CCP Games:
CCP Gamesはコミュニティ開発者がサードパーティのアプリケーションを作成するために,豊富なデータへのアクセスを提供しています。これにより,「EVE Online」への参入が容易になり,数千人のメンバーを抱える大規模組織の管理業務も容易になります。
スクウェア・エニックスでは,APIを提供することでサードパーティの開発者コミュニティを形成していく考えはありますか。
[A8]
藤戸氏:
弊社,とくに「FFXI」では公式APIの提供をしておらず,今後も提供予定はありません。
最初からPC主体の運営を想定した作りであれば,別の形に落とし込めた可能性もあるのですが,「FFXI」はPS2ベースのゲーム設計であるため,MOD等によるクライアントのカスタマイズやデータ出力には元々対応していないのです。
また,ツールに悪意のあるコードが含まれた場合に,お客様の機器に被害が及んでしまうことを最も危惧しています。そこから派生して,ツールの使用者がゲームを容易に破壊しうる可能性があります。
こうなってしまったら,弊社は責任をとれないばかりか,逆にお客様に対して補償を求めなければならなくなります。今後も基本的には外部ツールの使用は認めないでしょう。
逆に,ゲームデータやプログラムに一切タッチしない形でのツール制作を行っている方はいらっしゃいますね。ゲームシステムにある「技連携」の順番を検索したり,アイテムの性能比較をサポートしたりするようなものは,我々としても健全な方向性だと思っています。
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