インタビュー
プロオーケストラの奏者はゲームやアニメのコンサートにどんな気持ちで臨むのか。東京交響楽団の首席奏者達に聞く
なお,東京交響楽団は,奇しくも今年(2020年)2月12日に,「サエグサシゲアキ1980s」と題し,作曲家・三枝成彰氏が作曲した「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(以下,逆シャア)と「交響曲『動乱』」を演奏するコンサートを開催する(関連記事)。また,3月23日には「Music 4Gamer #6『アイカツ!シリーズ』オーケストラコンサート『オケカツ!』2nd Stage」でも演奏を担当する。
そこで今回,東京交響楽団の首席トランペット奏者である澤田真人氏と,同じく首席トロンボーン奏者の鳥塚心輔氏のお二人に,サエグサシゲアキ1980sを中心に,ゲームやアニメの音楽を演奏するときの気持ちについてなどを聞いてみた。
「サエグサシゲアキ1980s」告知ページ
「Music 4Gamer #6
『アイカツ!シリーズ』オーケストラコンサート『オケカツ!』2nd Stage」
金管セクションが活躍できる作品は嬉しい
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
お二人が「サエグサシゲアキ1980s」で演奏できることを非常に楽しみにされていると小耳に挟んで,「プロのオーケストラ奏者って,クラシックが一番お好きなのでは?」と意外に思ったんです。
クラシックが一番という団員ももちろんいますが,我々のような金管セクションは吹奏楽出身が多いんですよ。だからどんなジャンルでも好きですし,むしろクラシックより活躍できることが多いから嬉しいぐらいで。
4Gamer:
確かに吹奏楽だと,クラシックもジャズもポップスも日常的に演奏しますもんね。
鳥塚氏:
そもそもこういう音楽をやりたくてプロになったぐらいですから。とくに鷺巣詩郎さん作曲の「ふしぎの海のナディア」の曲をどうしても演奏したくて音楽大学に進んだほどで。
4Gamer:
なんと! ちなみに好きな作曲家は……?
鳥塚氏:
とくに影響を受けたのは,三枝さん,鷺巣さん,それに田中公平さんや,菅野よう子さんですね。アルバイトしてサントラCDを買い集めていました。しばらくは作品本編を知らないまま曲だけをずっと聴いていたり。
4Gamer:
作曲家や参加しているミュージシャンのファンになると,サントラは買うけど作品自体は見たことがない……みたいなことはよくありますね。
鳥塚氏:
そうですね(笑)。その中でも三枝さんは特別で,音楽が深いと感じていました。そこで知った曲からさかのぼって,映像を見ていったことで自分の興味の幅を広げていけましたね。
クラッシック的な要素も強くて,「これはショスタコ(ドミートリイ・ショスタコーヴィチ)っぽいな」「これは(グスタフ・)マーラーっぽいな」と,あとから気付くことも多くてなおさらハマりましたね。
4Gamer:
ちなみにお二人は,「機動戦士ガンダム」シリーズはお好きだったんですか?
澤田真人氏(以下,澤田氏):
映画館で観たファーストの劇場版が入り口で,兄と二人でお小遣いを握りしめて,逆シャアを観に行った記憶もあります。
サントラも高校生くらいのころ,通学中にウォークマンでずっと聴いていました。なので楽譜を見ると思わず顔がにやけてしまうくらいです。
鳥塚氏:
そうそう,今度の演奏会で使う楽譜は1988年に発売されたサウンドトラックの収録用に書き起こされたれたものなんです。おそらくなんですけど,当時,かなりタイトなスケジュールで収録をした気配があるんですよね。サントラの音源を聴くと,ポロポロとミスがあるんですよ。
澤田氏:
昔のスタジオ録音って,とにかく早さが求められていたから,ちょっと失敗しても「(エンジニアから)指摘されてないからいいか」っていう感じだったんですよ。
4Gamer:
デジタルで修正するようなこともなかったでしょうし。
澤田氏:
(スコアをめくりながら)しかし,ラッパ大活躍ですね。
鳥塚氏:
三枝さんはラッパとバイオリンですよね〜。
澤田氏:
ほかのパートは空白なんだけど,そのふたつは黒丸でビッシリっていう。
鳥塚氏:
もうずっとこれ(逆シャアの演奏会)ばっかりやればいいのにと思いますね。
澤田氏:
ツアーはやりたいよね。
鳥塚氏:
映像を流しつつのシネマコンサートをやりたいという欲もあるんですけど,映像がオリジナルのままだと音楽が不自然になるカットが出てしまうんですよね。
音付けの段階で,映像の盛り上げに合わせて小節のリピートを増やしていたり。なので,今度の演奏会はサントラと同じ曲が,生演奏で聴けるという形になります。
4Gamer:
ちなみに,逆シャアで好きなシーンなんてあります?
僕はメインタイトルがかかる冒頭のシーンですね。布をめくるとνガンダムの頭部がバッと明らかになって,それと同時にラッパが鳴り響くっていう。
鳥塚氏:
僕は,最後の決戦に向かうときのブライトの言葉ですね。「すまんが,みんなの命をくれ」ってセリフとともにテーマ曲がかぶってきてね!
4Gamer:
逆シャアだけでなく,映画「動乱」の楽曲についてはいかがでしょう?
鳥塚氏:
映画はDVDを買って視聴しました。当時の超大作だったようで,スケール感がすごかったですね。とあるドキュメンタリー番組では,“吉永小百合の人生を変えた一作”と紹介されていました。楽曲はチェロのソロが印象的でしたね。
4Gamer:
三枝さんは,ピアノが高倉 健,チェロが吉永小百合というイメージで作曲されたそうです(関連記事)。
ところで,三枝さん楽曲の魅力ってどこにあると思いますか?
鳥塚氏:
個人的にもともと好きなので,客観的に説明するのは難しいですね(笑)。「華の乱」とかもよく聴いていますし,合唱や吹奏楽のコンクール課題曲なんかも書かれているんですが,楽曲それぞれに“三枝さんの音”があるなと。
澤田氏:
世界観を秘めた泣きのメロディとかね。
鳥塚氏:
ちょっと暗めのね!
4Gamer:
そういったイメージが,ガンダムの世界観にはまっているのかもしれませんね。
鳥塚氏:
三枝さんが作曲したオーケストラ楽曲とガンダムの世界観が溶け合って,ある種の土台が作られたんじゃないかと思います。ガンダムシリーズは,それ以降に服部克久さんや千住 明さんが作曲を手がけられていますが,その方向性を決定づけたように思うんです。
トランペットはいいところばかり持ってくからズルい
4Gamer:
東京交響楽団の皆さんには,Music 4Gamerでも演奏をしていただいています。アニメやゲームの音楽を演奏することについて,率直なところどんな風に思っているんでしょう?
知らないもの,新しいものに思い入れを持って演奏することは難しいですけど,それはどんなジャンルの楽曲であろうと同じです。それでも真摯に音楽に取り組んでいくということは変わりありませんし,演奏しているうちに楽曲に対する思い入れは生まれてくるものなんですよね。
そしてこれはお伝えしておきたいことなんですが,アニメやゲームの楽曲の多くは金管楽器が活躍するので,楽しくてしょうがないです!
4Gamer:
やはりたくさん吹けるほうが楽しいものなんですか?
鳥塚氏:
そりゃもう(笑)。
自分で吹いた楽曲のCDが出たら自腹で買っちゃうくらいですから。
澤田氏:
劇伴はシーンに紐付いた楽曲だというのが分かりやすいから,そういった意味でも演奏はしやすいですよね。どういうシーンなのかが分かっていれば,演奏する側も思いを込めやすいですし,聴いてくださる方も盛り上がるんじゃないでしょうか。
そういえば「モンスターハンター」の「英雄の証」を吹いたときは燃えました。
鳥塚氏:
トランペットはいいところばかり持ってくからズルい。
(一同笑)
4Gamer:
逆に出番が多すぎてつらい,ということはありませんか?
鳥塚氏:
作品によりますね。
下村陽子さんの30周年記念コンサート(関連記事)で演奏した「キングダムハーツ」のメドレーは,楽しかったんですけどきつかった。作品がどんどん変わっていくので,吹いても吹いても終わらない(苦笑)。「ワンダと巨像」もエグかったかな。
4Gamer:
ですよね……(笑)。「ワンダと巨像」のコンサート音源を配信しているので(関連記事)たまに聴いているんですが,その都度「これを最後まで演奏できるのは凄いな」と驚いています。
ところで,作品を知らずに演奏をして,あとから作品に興味を持つケースもあるんでしょうか?
鳥塚氏:
ええ,スタジオ録音をしたものなんかは気になることがあります。とくに最近は,絵コンテや映像にあわせて収録することが多いので,作品の内容にも興味は向きやすくなりました。自分が関わった作品だと,「TIGER & BUNNY」や「鬼滅の刃」はオンエア後にDVDを買いましたね。
4Gamer:
そのあたりの録音にも参加されているんですね。
先ほど挙げられていたような,影響を受けた作曲家の録音に参加されたことはありますか?
鳥塚氏:
ありますあります! 実は鷺巣さんの曲を吹いたことがあるんですよ。「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のAAAヴンダー発進のシーンで流れる音楽が,「ふしぎの海のナディア」でのニューノーチラス号のBGMのアレンジだったんです。だから「もう奏者として思い残すことはないな……」ぐらいの感動がありました。
でも今回,逆シャアを演奏できるので,あのときに辞めなくて良かったなと(笑)。
4Gamer:
良かったです(笑)。
では,サエグサシゲアキ1980sに向けての意気込みをお願いします。
鳥塚氏:
これまでの演奏会で一番気合が入っています。ずっと演奏したかったんですけど,まさかやれるとは思っていませんでしたから。劇伴を再構成した「交響組曲 Zガンダム」なら可能性はあるかな? と思っていたんですけど,逆シャアの劇伴そのままの演奏ができるとは思っていなかったので,「やったー!」という気持ちですね。
澤田氏:
公演までに逆シャアを見返しておきたいですね。当日は演奏しながらも逆シャアの世界に浸りたいので,学生時代の気持ちに戻って,もう一度頭に叩き込んでおきます。
鳥塚氏:
オクターブユニゾンが多いからね。きっちりパート練習しないと(笑)。
4Gamer:
本当に気合いが入ってますね(笑)。
本日はありがとうございました。
作曲家・三枝成彰氏が語る,「逆襲のシャア」「動乱」を作曲していた80年代当時の記憶
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