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「日中Online Game Forum 2012」アジア諸国ならびに北米のオンラインゲーム市場を分析した講演内容をレポート
そんな情勢の中,東京ゲームショウ初日にあたる2012年9月20日,シーアンドシーメディア,日本オンラインゲーム協会(JOGA)の協賛で「日中Online Game Forum 2012」が開催された。各国の情勢をより詳しく知り,今後グローバルな展開を目指すうえで有益な情報をシェアしようという本旨で行われた当フォーラム。中国,日本,台湾,北米,それぞれの国の最前線で活躍している関係者が登壇し“生”の現場の声を語ってくれた。なお,東京ゲームショウ開催期間中ということもあって各国の関係者160名以上が参加し,登壇者の話を熱心に聞いていた。
植田氏は,日本,中国,台湾,北米のオンラインゲーム業界を牽引するトッププレイヤー(ここではビジネスを舞台にした業者の意)が集まったカンファレンスが開催できたことに対して各社に感謝を述べ,「オンラインゲーム業界は10年ほどの歴史を持っていて,日本のマーケットは年々成長しています。グローバルで成長しているのがオンラインゲーム市場の特徴だと思っています。最近はスマートフォンやソーシャルゲームなどオンラインゲームも形を変えてきていて,マーケットのスピードの流れも速くなってきているのも事実です。今回は世界各国の市場の状況についてトッププレイヤーの方々からスピーチがありますので,グローバルなトレンドを感じていただいて,今後のビジネスに活用していただければと思っております」と来場者に語った。
世界の中で最も成長が早く,最も変化が大きかった中国のオンラインゲーム市場
「中国は,世界のオンラインゲーム市場の中でも特殊なマーケットです」と切り出したWu氏。世界の中で最も成長が早く,変化が最も大きかったのが中国市場であり,それは,発展著しい中国の中でも常識を覆すほど大きな成長であったという。
「世界エンターテイメント及びメディア産業」と題された報告によると,2009年の時点で中国はすでに世界最大のオンラインゲーム市場となっており,世界総売り上げの33%を,アジア太平洋地域の56%を占めるに至っていたとのこと。また,2011年世界ゲーム産業投資報告によると,2009年で594億ドル,2014年には推定870億ドルまで拡大する見込みで,収益はハリウッドに匹敵するといわれる。アメリカに代わり,中国が世界のオンラインゲーム市場を牽引する存在になるというのだ。
このようになるまでに,中国はどういった道を歩んできたのだろうか。Wu氏は「中国のオンラインゲームは,ここ10年間で3回の飛躍を遂げました」と語る。2002年に始まった中国のオンラインゲーム市場は,最初は海外タイトルをライセンス運営しているだけで1.2億ドル規模しかなかった。それが10年後にはタイトルの自主開発,そして海外への進出を経て68.77億ドルまで成長しているという。
2011年の時点で,世界ではスマートフォンビジネスが注目を集め始めるが,中国では違った様相を見せているという。むしろ2年前の日本と近い状況であり,SNS向けゲームなどが発展しているが,それでもなお中国ではクライアント型ゲームが中心になっているとのこと。
続いて,中国におけるオンラインゲーム自主開発と海外進出の現状が説明された。
自主開発に関しては,確実に伸びているものの,市場の爆発的な伸びに比べるとやや控えめな印象。この自主開発数について,Wu氏は「ここで計上されている数値は,正式に発売し売り上げを上げているゲームのみで,開発中のタイトルは含まれておりません」と説明した。ショウなどで発表されているものの,まだ開発中というタイトルも多いということだろう。
海外進出にも積極的で,2003年に初めて海外進出をした際はわずか6社による7タイトルのみであったが,2011年には海外進出を行う会社が6倍に増え,実に34社が131タイトルのPCオンラインゲームを海外に送り出した。その売り上げは3.6億ドルに達するという。
そうした自社開発のタイトルについては「人口が多いこともあり,エンターテイメントは必然的に多様化していきました」とDane Wu氏はいう。
10年間の発展の結果,中国のゲーム産業に構造的な変化が表れた。とくに顕著なのは。オンラインゲームにおいてブラウザゲームとモバイルゲームが日に日に成長していったこと。それに伴い,ゲームの多様化と軽量化が進んだと氏は語る。
ブラウザゲームとモバイルゲームの売り上げは,2011年まででそれぞれ8.86億ドルと2.72億ドル。市場シェアはそれぞれ前年より32.2%,86.8%成長しているという。
Wu氏は「ビジネスモデルはフレキシブルなもの」と前置きしながら,中国オンラインゲーム企業は“自主開発型企業””プラットフォーム型企業””運営型企業”の3種類に大別できると説明してれた。
続けて「ゲーム産業,エンターテイメント産業というのは,クオリティの高さは大事ですが,それ以上に製品をプレイヤーが好むかどうかが重要となってきます」と語り,中国のオンラインゲームの勢力構造についてが説明された。
2011年,中国産オンラインゲームの運営会社で最も注目を集めたのは,プラットフォーム型企業であるTencentで,注目度は24.6%。第2位のNetEaseは運営型で注目度16%,第3位に自主開発型企業の完美世界がラインクインしている。なお,日本でもよく知られている運営型企業のShandaは第5位で注目度は5.7%であった。
では,中国のプレイヤーにはどのようなスタイルのゲームが好まれるのだろうか。BAIDUデータ研究センターからの報告によると,中国プレイヤーが最も好むのは“神話RPG”というジャンルで,その支持率は37.3%に達している。神話RPGとは,ギリシャ神話,中国神話,日本神話などなど,神話をモチーフにしたタイトルすべてを含んだもので,だいたいファンタジーRPGと同義と思ってもいいだろう。なお,神話RPGに続く2位は“カジュアルゲーム”で21.9%。中国のイメージが強い“武侠RPG”は3位で20.6%だった。
カジュアルゲームが予想以上に支持されていることについて,Wu氏は「社会が進歩するにしたがって,プレイヤーが一つのゲームに集中できる時間は限られてきます。したがって,余暇を利用してゲームをプレイするスタイルが確立されたのではないでしょうか」と分析する。
最後に中国オンラインゲーム業界の今が分かる生の情報が「6大発展トレンド」として公開された。「今後も中国市場において,なんらかの情報協力を展開できればと願っています」というWu氏の言葉で講演は締めくくられた。
長く収集されてきたデータから日本のオンラインゲーム市場の動向を探る
最初に提示されたのは,年間を通してどのくらいのオンラインゲームタイトルがサービスされているかを表したデータだ。中国ほどの伸びはないが,2005年から2011年まで増加傾向にあることが分かる。サービス中のタイトルの内訳を見ると,カジュアルゲーム(MOとブラウザゲームを含む)が伸びてきているが,MMOタイトルは2009年をピークに近年は減少傾向にある。このデータを見ると,増加傾向のカジュアルゲームが2006年から2007年にかけて大きく減少しているのが分かる。これはダウンロードタイプのMOタイトルが減ったためであると川口氏は述べていた。
また,近年増加しているカジュアルゲームだが,その増加分のほとんどはブラウザゲームが占めている。具体的なブラウザゲームのタイトル数は,2009年に40タイトル,2010年に51タイトル,2011年には78タイトル。この数値は,PC向けのブラウザゲームタイトルのみを計上したもので,携帯電話向けのソーシャルゲームなどは含まれていない。
ゲーム開発国別の割合を表したグラフも提示された。日本国内の開発タイトルと並んで韓国産タイトルも大きな割合を占めるが,ここで面白い傾向が見られる。韓国産タイトルのほとんどはMMOタイトルであり,日本国内で開発されたタイトルのほとんどはブラウザゲームであるというのだ。なお,中国および台湾産のタイトルは,MMOとブラウザゲームが半々になっている。
さらに突っ込んで,オンラインゲームのビジネスモデルについても解説された。
2004〜2005年は定額課金のタイトルが多かったのが分かる。今では一般的となったアイテム課金というビジネスモデルは日本では2004年から出始めたが,当初はわずか12タイトルしかなかった。その後アイテム課金のタイトルは急増し,2006年以降はアイテム課金タイトルの売り上げが,市場の大半を占めるようになったという。「オンラインゲーム市場とアイテム課金というビジネススタイルは,お互い影響し合いながら成長してきました」と川口氏は分析する。
JOGAでは,プレイヤーがオンラインゲームに1人あたり1か月でいくら使うのか,といった数値も集計している。2004年の時点では,定額課金はプレイヤー1人あたり1か月で1437円,アイテム課金のほうは4278円となっている。2004年以降,定額課金は減少傾向,アイテム課金は増加傾向となっており,2011年になると定額課金1100円程度,アイテム課金は2004年から1000円増の5243円という結果になったという。
日本のPCオンラインゲームは,2007〜2009年まで男女比は男性が70%以上を占めていた。しかし,2010年にPCのソーシャルゲームが本格化したあたりから状況は変化し,プレイヤーの女性比率が高まっており,2011年の段階では男性67.2%に対し女性32.8%となったとのこと。実際,PCソーシャルゲームでの男女比の推移を見ると,2011年で男性57.6%に対して,女性42.4%という高い数値であり,最近のPCオンラインゲームでの女性プレイヤーの伸びはこれに引っ張られているという見方だ。川口氏は,ソーシャルゲームからもっと本格的なオンラインゲームへと向かう流れは確実にあると見ている。
日本でのオンラインゲーム市場の規模はどの程度なのだろうか。JOGAの調べによると2011年現在で1400億円規模。日本ではコンシューマゲームの市場が大きく,オンラインゲーム市場は伸びないのではないかと言われていたが,実際には2004年から2倍以上の市場に成長している。
総売り上げを運営サービスとパッケージ販売に分けて分類してみると,2004年あたりはパッケージ販売をするのが普通であったが,2009年からパッケージの売り上げは減少してきている。一方,運営サービスの売り上げは右肩上がりに伸びており,運営サービスの売り上げが市場を牽引しているといっていい。
ゲーム業界全体の売り上げの内訳はコンシューマゲームが40%,オンラインゲームが20%,そしてソーシャルゲームが40%。ここ5年間の推移は,コンシューマゲーム市場は縮小していて,逆にオンラインゲームとソーシャルゲームの比率が高くなってきている。中でも特徴的なのがソーシャルゲーム部門で,モバイルに関する売り上げが多くを占めているという。ここで示した内訳にアーケードゲームなどは含まれておらず,それらを合わせたゲーム業界全体の売り上げは1兆円規模に達する。
最後に,今後のゲーム市場について語る川口氏のコメントを掲載しておこう。
「市場調査は今も継続して行っていますが,iPhoneを中心としたスマートフォン市場が確立し,だんだんと大きくなっていく傾向にあります。同じく増加傾向のソーシャルゲーム部門とあわせ,これからどんな動きをするのか注目されるところです。一つ言えるのは,家庭用ゲーム機やフィーチャーフォンといったローカルなデバイスではなく,PCやスマートフォンなどオープン化したデバイスへのゲーム市場がこれから拡大していくということです」
グローバルパートナーシップを広げ,独自の路線でデジタル産業を発展させたい台湾
Chang氏は講演冒頭で「Runes of Magic(邦題:MysticStone -Runes of Magic-)」「King of Kings(邦題:KNIGHTS of KINGDOM)」「Bounty Hounds Online」など台湾を代表するゲームのムービーを紹介し,日本,中国,アメリカなどと比べると,台湾オンラインゲーム市場の規模は小さく,1年の売り上げは10億ドル程度だと語る。「しかし,台湾のゲーム産業は(冒頭のムービーで紹介したような)楽しいものを作り出すことに長けているといえるでしょう」と氏は自信を見せた。
GIPAには,台湾で33の関連企業が加入しているとのこと。台湾におけるゲーム開発会社は200社を超えるが,GIPAに加入する33社で台湾市場の90%以上のシェアを保持しているという。そして,この33社は先に説明した“楽しいゲーム”を制作することに長けた企業であるとし,ジャンルごとに代表的なゲームを紹介してくれた。
台湾のデジタルゲーム産業は持続的に成長している市場であり,2006年から2011年の年平均成長率は15.84%になる。産業成長率を表すグラフを見ると,デジタル産業全体の中でオンラインゲームが占める割合は57%。台湾市場の特徴は,アーケードゲームが占める割合が高いところだろうか。
Chang氏は「2012年になると,この産業成長率の割合は大きく変わるかもしれません」という。まだ統計は出ていないが,2012年はオンラインゲームの主力であるMMORPGが落ち込み,モバイルゲームが成長しているというのだ。
台湾市場の特徴については,Chang氏により「台湾は歴史の関係でゲームの種類は多くなっており,台湾の人々は,中国/日本/アメリカ/韓国/ヨーロッパ,それぞれの国の文化を広く認識していると思います。こうした背景があるからこそ“外来文化に対して受け入れやすい”という特徴があるのです」という説明がされた。中国企業の多くは,そうした特徴から台湾をテスト地域として使い,海外進出するかどうかを査定しているのだとか。また,日本/アメリカ/韓国/ヨーロッパなどからは,中国進出への判断材料として,台湾でテストを行う例が増えてきているという。
GIPAが市場で行っている取り組みについても話された。取り組みの一つめは,ゲームソフトの年齢制限管理方法について。
「我々の希望としては,すべてのゲームに対して年齢制限という方法を使って,子供達にも安心して遊んでもらえるゲームを作ろうと考えています」と語るChang氏は,「こうした年齢制限管理方法があるからこそ,親は子供に安心してゲームを遊ばせることができます」と続けた。
二つめの知的財産に対する保護について,Chang氏は「台湾は地理的,そして文化や背景的に特殊な場所で,海外のメーカーは台湾のメーカーと協力して多くのゲームを開発しようと考えています。我々は知的財産を守る制度と環境を提供することで,多くの海外の業者が台湾に進出してくれることを期待しています」と語った。
最後に「台湾はデジタルゲーム産業において各国のより良きパートナーでありたいと考えており,グローバルパートナーシップを今後も進めてまいります」とするChang氏は,各国との友好的な関係強化を行いながらも自国の開発スピードを上げ,積極的にグローバル展開を行いたいという意欲を示して講演を締めくくった。
Perfect World Entertainmentが北米の市場から学んだものとは
2011年時点のアメリカゲーム産業は,総売り上げ247億ドルを超える巨大な市場を抱えている。その内訳は,PCやゲーム機用ソフトなどのコンテンツとハードウェアが大多数を占め,iPadやモバイルゲームの躍進はあるものの,依然としてコンシューマゲームが主流となる市場だ。
アメリカで販売されたコンシューマゲームとPCゲームの分類図からは,興味深いデータが見い出せる。アメリカにおいて,コンシューマゲーム部門はシューティングゲームや格闘ゲームといったアクション要素の強いゲームが好まれる傾向にあるが,PCゲーム部門ではストラテジーやロールプレイングゲームといったものが支持されている。つまり,コンシューマゲームとPCゲームは,まったく違う志向性を持ったプラットフォームであるということだ。
このプレイヤーの志向については,アメリカとアジア諸国で大きな違いがあるとChen氏は語る。欧米のプレイヤー達はゲームが持つ楽しさを重視しているが,中国をはじめとするアジア諸国のプレイヤーは,レベルを早く上げてその成果を仲間に自慢したり,ほかのプレイヤーたちと戦ったりして楽しむ傾向があるというのだ。
こうした志向の違いがあるため,Chen氏によると「一つのゲームが,なんの変動もなしにグローバル化することは困難」だということになる。例えば,中国や日本のマーケットを想定して作られたゲームを,そのままアメリカでサービスしても,売り上げを上げることはできない。ゲーム性を含めたローカライズが必要になってくるのだ。
しかし,中国の市場においては変化の兆候があるという。レベルを上げて強敵を倒すといった楽しみは根強く残っているものの,アメリカの市場と融合する傾向もあり,「中国のプレイヤーは本当の意味でのゲームの楽しさを求めるようになってきている」とChen氏は説明する。
PWEは,2008年に北米でスタートし,同年の年末にはすでに黒字になっていたという。運営するタイトルを増やし,来年にはCryptic Studiosが開発する「Neverwinter」が始まる予定となっている。
PWEの売り上げの割合を見てみると,細かく変動しているものの,概ね上昇傾向にある。この売り上げはすべて,MMORPGの運営からきているものだという。
PWEを含む完美世界の世界展開を示した図では,北米,ヨーロッパ,中国,韓国といった各国に支社があるのが分かる。なお,各支社では現地の人材を採用することで,タイトルを広めるのに役立てているという。「一歩一歩堅実に,世界の主要なマーケットに広めていく」というのが,グループの戦略のようだ。
続いて,「PWEが北米の市場で学んだこと」についてが明かされた。
2008年にPWEが北米へと進出したときは,F2P(Free-to-Play)のゲームはロークオリティの代名詞であるといった認識があったという。こういった状況に対し,PWEはPR活動に力を入れ,結果的に同社のタイトルを売り込むことに成功したのである。
さらにカルチャライズの大切さについても改めて言及された。PWEがカルチャライズを行う際は,まず翻訳を含むゲーム全体のローカライズを行い,次にQA(品質保証)やプレイヤーの意見を聞いて,より緻密に修繕を施すという。「ディテールにまでこだわって,はじめてプレイヤーから評価を得られる」という理念のもとで,きめ細かなカルチャライズを行っているのだ(編注:完美タイトルで各国向けのカルチャライズが行われるようになったのは比較的最近の話)。
コンシューマゲームは販売してから2か月で売り上げが落ち込んでしまうが,オンラインゲームでは発売から長い期間をかけて売り上げを伸ばしていくことができる。したがって,開発やローカライズだけに留まらず,その後のサービスの質も重要になってくるとChen氏はいう。
グローバリゼーションについての話で,Alan Chen氏は「DO RIGHT THINGS RIGHT(正しいことを正しくやる)」という言葉を使っていた。これは現地の資源を有効に活用して,必要なことを正しくやる,という意味だという。例えば,コストが優位性を持っている中国なら,コストの優位性を活かしたサービスを展開し,プレイヤーに消費してもらいたくなるようなゲームに仕上げることが大事であるということだ。「ゲームのクオリティとコストのバランスをうまく取ることも重要である」とChen氏は付け加えた。そして,「NO FREE LUNCH(努力なくして成果は得られない)」というChen氏の言葉で当講演は締めくくられた。
予想以上のスピードで発展,そして変革していくオンラインゲーム業界。そんな業界を牽引するトッププレイヤーの方々の生の声を聞けたことは有意義であった。海外までを含めた動向で貴重なデータが公開されたので,来場した業界関係者にとっても参考になるところは多かったのではないだろうか。
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