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[TGS 2012]「ゲーミフィケーション」のリアルな話。TGSフォーラム2012:「ゲーミフィケーションが切り開くゲームの新しい可能性」
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印刷2012/09/28 14:06

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[TGS 2012]「ゲーミフィケーション」のリアルな話。TGSフォーラム2012:「ゲーミフィケーションが切り開くゲームの新しい可能性」

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 TGSフォーラム2012 ゲーミフィケーションセッションでは,「ゲーミフィケーションが切り開くゲームの新しい可能性」というタイトルでのリレートークとパネルディスカッションが,2012年9月21日に開催された。登壇者は東京大学大学院情報学環特任助教の藤本 徹氏,博報堂の佐藤 潤氏,グリーの澤田典宏氏と,見事に異業種な3名。学問・広告・ゲームそれぞれの世界から見たゲーミフィケーションは,どのようなものなのだろうか。


「ゲームが社会のためになる」という発想


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藤本 徹氏
 最初の発表者は,学術の分野から藤本 徹氏だ。藤本氏は最初に,ゲーミフィケーションとは「ゲームのように夢中に学べ,仕事できたら」という願いにもとづいたものであると解説。なるほど「楽しんで勉強する/仕事する」というのは,ものの本には必ずといっていいほど登場する記述だが,それはその難しさを象徴していると言える。

 ゲームは,古代ギリシアの時代から社会とともに存在してきた。その主な社会的役割は生活の質の向上(気晴らしや楽しみ)であり,またローマにおける「パンとサーカス」が示すように,不都合なことから民衆の目を逸らしたり,国威発揚のために利用されたりすることもあった。

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 だが,ゲームの社会的役割はそこに留まらなかった。ゲームの役割は徐々に高度化,複雑化を進め,運動促進や啓発活動,学習補助,あるいは社会変革にまでもゲームが用いられるようになってきていると藤本氏は指摘する。これは必ずしもゲームにデジタル技術が用いられるようになってからのことではなく,教育では古くからゲームが利用されてきおり,軍事においても19世紀には机上演習にゲームが用いられているという。

 また近年,ゲームに対するネガティブなイメージは少しずつ薄れてきており,「ゲームが社会のためになる」という発想が受容されつつあって,そういった書籍も増加している。

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 さて,ゲームを社会的に利用するといっても,そもそもゲームとは何なのか。また似たような取り組みとして「シリアスゲーム」という概念があるが,これとゲーミフィケーションはどこが異なるのか。
 藤本氏はゲームを成立させる最低限の要素として,ゲーミフィケーションの提唱者の1人であるジェイン・マクゴニガル氏の書籍から「ゴール(達成すべき成果)」「ルール(制約条件)」「フィードバックシステム(達成度が把握できる)」「自発的参加(強制されたらゲームとはいえない)」を提示した。

 またシリアスゲームとゲーミフィケーションの違いについては,シリアスゲームが「社会的な要素を取り入れたゲーム」(あくまで単体で完結したゲーム作品)であるのに対し,ゲーミフィケーションは「ほかのメディアにゲーム的要素を取り入れること」(必ずしもゲームそのものではない)であると分析。シリアスゲームが従来型のゲームデザインの影響が強いのに対し,ゲーミフィケーションにはソーシャルゲームのデザインの影響が強いと氏は指摘する。

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 もっとも,ゲームを利用すれば何でもOKかと言えば,そうではない。藤本氏は「その活動を行う人の意欲」と「その活動の難度」によって,提供する支援を変えなくてはならないだろうと語った。例えば「なぜ山に登るのか」という問いに「そこに山があるから」と答えるような高いモチベーションを備えた人であれば,極論を言えば「そこに山がある」だけでいいし,登山に高い技術を要求しても構わない(むしろするべき)。だが,「趣味で登る」「健康のため」という人には,また異なる支援が必要となる。

 藤本氏はゲームを取り巻くこのような環境の変化について,2006年に経産省が提示した「ゲーム産業戦略」のなかで示された「日本のゲーム産業が青少年健全育成等の課題に積極的に対応し,教育・学習,医療・福祉等のエンターテインメント以外の分野においてもポテンシャルを発揮するなど,これまで以上に社会や国民に広く支持を受けること」という未来像に,現実が追いついてきたと評価した。

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マーケティング界で増大するゲーミフィケーションのニーズ


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 続いてマーケティング分野から,佐藤氏によって発表が行われた。佐藤氏は博報堂に所属しているが,かつてはディー・エヌ・エーでソーシャルゲームの開発に携わっていたとのこと,マーケティングとゲーム制作,双方の現場を知る立場からの発表と言えるだろう。

 佐藤氏は前提として,マーケティング領域が変化していることを指摘。
 マーケティングの領域には,
(1)認知・態度変容マーケティング:食品の新発売キャンペーンなど,マスメディア中心の広告のほとんど
(2)リレーションシップマーケティング:ダイレクトメールやSNSのファンページなど
(3)ダイレクトマーケティング:カタログ通販やWebショッピング

 この3つがあるが,ここにおいて,

(1)かつてはテレビ・新聞・雑誌・ラジオが程度だった生活者とマーケティングの接点が,SNSやホームページ,web検索など多様化
(2)日本の人口が減少していくなか,マスメディアに頼ったマーケティングだけでは限界がある
(3)ダイレクトマーケティング領域でマスメディアやオンライン広告出稿が拡大

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佐藤 潤氏
という変化が押し寄せているという。
 ここにきて,認知・態度変容マーケティングとリレーションシップマーケティング,またダイレクトマーケティングとリレーションシップマーケティングの連携が重視されるようになり,広告予算がリレーションシップマーケティングにも多く割かれるようになってきた。
 そしてまた,スマートフォンのような携帯デバイスの普及によって,Webが中心となっていたリレーションシップマーケティングを,現実世界とより深くリンクさせることが可能となった(位置情報を利用したサービスなどを想起すると分かりやすい)。佐藤氏は,このリレーションシップマーケティングの領域でゲーミフィケーションが活用されると語る。

 では実際に,マーケティングにゲームのノウハウを適用するにはどうしたらいいのだろうか。
 佐藤氏は端的に「ソーシャルゲームのノウハウをそのまま使う」ことを提示した。もともとマーケティングから発したものではあるが,ソーシャルゲーム業界では定番となっているKPI(key performance indicator,重要業績評価指標)の利用,チュートリアルによるガイド機能,デイリーボーナスによる継続使用に対するインセンティブ付与,デコレーションによる所有感と没入度の向上,期間限定でのメリット提示といった方法論は,すべてマーケティングに利用できるという。

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 また,マーケティング領域においてゲーミフィケーションを活用できるフィールドとしては,オウンドメディア(企業自身が持っているメディア)/アーンドメディア(SNSやブログなど)での利用,製品に付随するサービスとしての提供,オンライン・トゥ・オフライン(O2O)領域での利用,広告コンテンツとしての利用が挙げられた。

 オウンド/アーンドメディアでの利用は,SNSのファンページや企業ホームページでのゲーミフィケーション利用が実例として多い。従来の広告キャンペーンでは,マスメディアに広告を打つことで一時的に利用者が増えても,やがてキャンペーン効果はなくなり,新たなキャンペーンを開始するときはゼロからのスタートとなっていた。

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 これに対し,キャンペーンで集まった顧客に対してWeb上のページを擬似的な「溜まり場」として開放することで,キャンペーンごとにその「溜まり場」の利用者が増加,この人口がその企業にとっての「固定客」として見込めるようになるという仕掛けだ。ここで「溜まり場」に溜まってもらう手段として,ゲーミフィケーションが利用できる。

 このほか,O2Oは近年最も注目される領域となっている。これはスマートフォンなどGPS機能のついた携帯デバイスを利用し,屋外での活動をオンライン情報とひもづける仕組みだが,ここに対して「デイリーボーナス」のようなゲーミフィケーションが有効に機能することは想像に難くない。

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 佐藤氏は最後に,ゲーミフィケーションのニーズは増大中であると指摘。これまで広告代理店や制作会社は独自にゲーミフィケーションを採り入れたキャンペーンを成功させてきたが,より成功の確度を高め,また増大するニーズに対応していくためにも,ゲームのノウハウを持った企業との連携が求められていると語った。


ゲーミフィケーションの「実際」


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澤田典宏氏
 発表の最後を飾ったのはグリーの澤田氏で,ゲーミフィケーションの事例を紹介した。澤田氏はもともとコンシューマゲームの開発者で,いまも現役でゲームの制作に携わっている。

 運がいいと無料でコーヒーが飲める,スターバックスコーヒーの「カルマカップ」は有名な例だ。カルマカップの優れている点について,澤田氏は「UIを見ただけで何をすればいいのか分かる」「スコア表示なども直感的に理解できる」ことを指摘した。

 ゲーミフィケーションで位置情報系サービスとなるとほぼ,必ず挙げられる「foursquare」については,そもそも「ゲームは前向きな評価が多いメディア」であると氏は述べる。foursquareには,スコアはもちろん,バッジやメイヤーといった「褒める」要素が満載で,「ユーザーがアクションを起こすと,それに対して即座に褒めるという,ゲームにとって当然のサイクルがゲーミフィケーションを支えている」と分析した。

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 フィアットが提供する「eco:Drive」は,燃費のいい運転をシミュレートさせるものだが,これはチュートリアルから入って徐々に難度が上がっていくことで,連続的な挑戦を喚起する仕組みになっている。運転のログが残るため,ユーザーは改善の指標も立てやすい。「ちょっとした目的を,段階的に提示することで,ユーザーはよりコンテンツを楽しめる」と氏は語った。

 Samsung NationはSamsung Electronicsが提供するもので,ユーザーはWebページの閲覧などによってポイントを獲得したり,バッジを得たりする。特徴的なのはほかのユーザーのアクティビティも見られることだ。こういったポイントやバッジのシステムは,自分に対する達成感を与えるとともに,「ここまでやってみよう」「もうちょっと先まで行ってみたい」という意欲を呼び起こす。

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 ARGを用いた文脈の共有という手法に関しては,映画「アメイジング・スパイダーマン」のプロモーションとして行われた事例が提示された。ARGとは「代替現実ゲーム」のことで,アメイジング・スパイダーマンの場合は主人公であるピーター・パーカーの学生証が入ったバックパックが見つかる(本当に実物が見つかる)ことに始まり,その学生証に書かれた数字を学校のサイト(これもそれらしいものが本当に作られている)で入力するとスパイダーマンに関するさまざまな秘密が分かる,といった形で運用された。

 ARGを用いたプロモーションは,通常の広告が「押し付けられる」ものであるのに対し,消費者側が自分から探しだして見つけていくという構図になっており,「押し込まれ感」が低いのが特徴だ。だが現状,こういったプロモーションは日本では定着していないという。

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 もう一つのARGの例とされたのは,澤田氏が「かなり究極のゲーミフィケーション」と評価する,オバマ大統領支援サイト(SNS)だ。このSNSに登録すると,ユーザーにはレベルが与えられ,同時にそのレベルを上げるための行動指針が表示される。そして友人にメールを送るとか,プロフィールページを更新するといったミッションを行うことで,レベルが上がっていく。最終的には「なぜ自分がオバマを支持するかを書く」というミッションが与えられ,これは各人のプロフィールページに掲載される。

 オバマ大統領は選挙期間中に非常に多くのビデオメッセージを作ったことで知られているが,メッセージの多くはこのSNSにおける「ユーザーへの報酬」として利用されたという。レベルが上がると特別なメッセージが見られたり,あるいは全ユーザーでメッセージを共有したりするという仕組みになっていた。これによって,ユーザーの間でオバマ氏を応援する一体感が増したわけだ。

 こうした実例を踏まえたうえで,澤田氏は重要なこととして,これらの事例は「ゲームの持つ究極の楽観性」=いつやめてもいいという安心感を備えていると指摘する。

 一方,ゲーミフィケーションに問題がないわけではない。中でも氏が重視するのはビジネスモデル上の問題である。ゲーミフィケーションの仕組みを開発し,運営していくコストは,最終的にそのゲーミフィケーションが支援する商品に乗る。
 ではゲーミフィケーションを活用しているから,100円の商品が200円で売れるかといえば,それはあり得ない。100円の商品は100円で売るしかないわけで,普通に考えれば「ゲーミフィケーションは儲かりにくい」と判断するほかない。澤田氏は,ゆえに「広告宣伝費の範囲でゲーミフィケーションができることが望ましい」と語った。

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異業種交流としてのゲーミフィケーション


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 パネルディスカッションでは,ゲーミフィケーションのさまざまな事例において,トレンドといえるものがあるのかが討議された。
 佐藤氏は,クライアントからの要請としては,やはりキャンペーンで集めたユーザーを維持できるシステムに対する要望が強いと指摘。Facebookページなどユーザーを蓄積できる土壌はあれど,「ページを作ったけれどユーザーが集まらない」「ページのコンテンツをどうしたらいいか分からない」といったケースは多いようで,ここにゲーミフィケーションが導入できるという。

 澤田氏は,ゲーミフィケーションはマスに訴求するものでなくてはならないと語る。ゆえに,「分かりやすい」ということは非常に重要なファクターとなる。ゲームに関して言えば,分からないゲームに出会ったプレイヤーは,自分の理解力に問題を感じるのではなく,そのゲームが“クソゲー”であると判断するわけで,ゲーミフィケーションにおいても「分かりやすさ」の重要性は変わらない。

 続いて,事業としてゲーミフィケーションにはどれくらい簡単に関われるのか,という点が議論された。
 佐藤氏は,「ゲーミフィケーション=ランキングとバッジ」という理解がないわけではないが,きちんと世界観の中にゲーミフィケーションを取り入れないとうまく機能しないという認識はある程度できていると語る。そしてそういったニーズは増えており,このニーズに対応できる人間が増えれば,もっと事業を発展させられるだろうと予測した。

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 澤田氏は,ゲーム業界がゲーミフィケーションに参入していくにあたって障害になるのは,ゲーム業界が「直感」で動くばかりで,ゲームデザインを体系化して考えてこれなかったところにあると語った。マーケティングの世界はデータや統計の世界であり,ここで「直感」と「データ」が衝突してしまうのだ。澤田氏は,「これはデザイナーがコンシューマからソーシャルに移動すると最初に直面する課題でもある」と述べた。

 藤本氏は,ゲームを社会の中で使っていきたいという動きは確実に存在するが,一方でゲームだから分かりやすいというわけではないという点を指摘する。ゲーム業界がゲーミフィケーションに進出していくにあたっては「異業種の人とプロトコルをあわせていく必要がある」と語った。

 議論のまとめとして藤本氏は,「社会はゲームの技術を利用しきれていない。その点でゲーム業界には期待が持たれているが,実際のプロジェクトとのマッチングがうまくいっていない」と指摘した。これに対し佐藤氏は,「広告代理店は窓口になりやすい。広告代理店内部にゲーミフィケーションのノウハウは蓄積されてはいるが,キャパシティがきつくなっているので,ゲーム業界の人は広告代理店と一緒にビジネスをすることを視野に入れてみてほしい」と提案した。

 また澤田氏は,ゲーミフィケーションの収益化モデルとして,ゲームにゲーミフィケーションを導入するというプランを提示した。ゲーム開発コストの内側でゲーミフィケーションを実装すれば,開発コストは抑えられるという発想だ。また,ゲーミフィケーションに触れることで,「ゲームはこんなふうに見られていたのか」という知見をゲームに還元することも可能だと語った。

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 ゲーミフィケーションに対する注目度が急激に上昇しているなか,このムーブメントが本当に「来る」のか「来ない」のか,なんとも不透明な部分もある。だが実際のビジネスの中でゲーミフィケーションをどのように収益化していくかという論点が持たれていることは,とても興味深い。
 社会悪の一つとして強引にやり玉にあげられることがいまだに多い「ゲーム」だが,一方でゲーム(の仕組み)を社会生活のなかで利用していこうという動きが強まっていることは,ゲームの未来にとって重要なことではないだろうか。
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