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【鈴木謙介】「チュートリアルと〈ゲーム〉性」
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印刷2010/04/01 10:30

連載

【鈴木謙介】「チュートリアルと〈ゲーム〉性」

鈴木謙介 / 社会学者

画像集#001のサムネイル/【鈴木謙介】「チュートリアルと〈ゲーム〉性」

鈴木謙介の「そこ見るんですか?」

ブログ:http://blog.szk.cc/


説明書なんか,読まない


 子供のころ,春休みが明けて学校が始まり,新しい教科書をもらって帰るのが楽しみでした。国語の教科書なんかは,もらったその日に全部読み通していたものです。
 言葉や字を覚えたてで,新しい読み物に触れたかったというのもありますが,これから一年間勉強することへの期待に,胸をふくらませるという楽しみもあったのだと思います。
 まあ,だからといってそのわくわく感が成績につながるわけではないのですが。

 いまでも新しい電化製品やゲームを買ってきて,最初に説明書を読むときの感覚は,子供のころに教科書を通読していたときと変わらないな,と感じます。
 世の中にはパッケージを開けるなり,製品を組み立てたりゲームを始めたりする人もいますが,僕はどっちかというと,簡単でも一度はマニュアルに目を通す派です。

 ですが,説明書を一読しただけでは何をすればいいのか分からないゲームが,最近は目につくような気がします。説明書の編集に問題がある場合もありますが,ゲームシステムが複雑すぎて,言葉と写真ではうまく説明しきれない,あるいはプレイヤーが理解できないと,そういったことが根本的な原因のようです。

 代わって近年では,ゲームの中に「チュートリアル」を組み込む例が増えてきました。要するに「習うより慣れろ」で,実際に操作をしてみて,ゲーム内のルールを体感で覚えていくということですね。
 僕が今回,この話題を取り上げたのは,この連載で何度も使うだろう概念を理解してもらうためです(つまりこの記事も,今後の連載を読んでもらうためのチュートリアルということです)。その概念とは,ずばり“「ゲーム」”です。
 といっても,皆さんが知っている概念にややこしい意味を貼り付けていこうというのではありません。ソフトウェアとしての「ゲーム」と,そのゲームの中で遊ばれる,一定の規則を持った遊びとしての〈ゲーム〉を区別しましょう,ということです。


 例えば,「モンスターハンター」というゲームソフトには,いくつもの〈ゲーム〉を見いだすことができます。
 普通にモンスターを狩る〈ゲーム〉だけでなく,武器素材をコンプリートするために同じクエストを繰り返す〈ゲーム〉もあるでしょう。さらに,友人と協力してオンラインプレイする場合でも,仲間内でリーダー役になる人は自然と決まっているという風な暗黙のルールにのっとった〈ゲーム〉なんかもあります。
 少し分かりにくかったでしょうか? 今回は,そうした「ゲーム」の〈ゲーム〉の部分を学習するための手段,「チュートリアル」に焦点を当てて,〈ゲーム〉と「ゲーム」の関係について考えてみましょう。


壮大なチュートリアル


画像集#002のサムネイル/【鈴木謙介】「チュートリアルと〈ゲーム〉性」
 最近プレイしたゲームの中で印象的だったのは,「ファイナルファンタジーXIII」のチュートリアルです。
 このゲームに対しては,華麗なグラフィックスに圧倒される一方で,延々と続く一本道マップに不満の声も上がっているようですが,僕が感じたのは,「これってストーリー部分以外は,ほとんどバトルチュートリアルじゃないか」ということでした。

 そもそも「ファイナルファンタジー」シリーズ自体,ストーリーやキャラクターに注目するファンと,ゲームシステムに注目するファンがいます。
 どちらもかなり多くのファンがいることもあって,前者に対しては「お話が決まり切っていてプレイヤーの自由度がない」,後者に対しては「システムの自由度が高すぎて複雑だ」といった具合に,見解の相違に起因する議論が常に起きていたというのが,いちファンとしての僕の見方です。
 ゲームでは,ジョブだのスキルだの魔法だのを細かく組み合わせてバトルに挑むわけですが,その組み合わせの自由度もストーリーの進行に応じて上がっていくものです。となると,ネタバレを避けようとすれば,必然的に説明書には書けないゲームシステムが登場することになっていくのでしょう。
 今作においても,説明書に召喚魔法やドライビングモードなどの単語は出てきますが,そもそも召喚獣を屈服させること自体,ただのバトルではなくパズル性をもった〈ゲーム〉になっていますし,ストーリーにも絡んでくる話題なので,一つ一つのバトルをチュートリアルにするほかない,という事情があります。
 ただ,そうしたチュートリアルを経て上がる自由度と,ストーリーとの関係がいまいち明確でないあたりが,ストーリー厨の僕としては不満なところではあるのですが。

画像集#003のサムネイル/【鈴木謙介】「チュートリアルと〈ゲーム〉性」
 ともあれ,この作品の特徴は「バトルチュートリアル→次のバトルで応用」を繰り返しながら,展開されるストーリーに関しては,ムービーやクリップを確認してね,というもので,その点に注目する限り,「リアルタイムで戦略を切り替えながらバトルすることを〈ゲーム〉として提示したRPG」だといえるでしょう。
 近年進んだRPGの大作化の流れで,壮大なストーリーを期待する消費者も多いと思うのですが,これはこれで,そういうゲームだと思えば納得もいきますし,前作から引き継いだ傾向だとも思います。

 ただ,〈ゲーム〉という観点から見ても,今作のチュートリアルは,言葉による説明が多かったり,戦う前から強力な敵との戦闘回避を勧められたりと,ともすれば,プレイする楽しさを削いでしまう点が目につくのも確か。
 では,どういうチュートリアルなら良かったのでしょう?


「練習台」にされる彼女


画像集#004のサムネイル/【鈴木謙介】「チュートリアルと〈ゲーム〉性」
 この問いに対し,簡単に答えが出せるなら誰も苦労はしないのですが,チュートリアルをうまく〈ゲーム〉の中に組み込めているなと感心した例を挙げて,その可能性について考えてみましょう。そのゲームとは,「ときめきメモリアル4」です。

 実は僕自身,美少女ゲームの食わず嫌いが多く,「ときめきメモリアル」シリーズで初めてプレイしたのが,これでした。そのため,シリーズに慣れ親しんでいるファンなら当然知っているであろうゲームのシステム,あるいは本作の〈ゲーム〉としての楽しみ方などは,まったくの手探り状態でした。

 もちろん説明書には,ゲームの操作方法やルール,女の子と仲良くなるまでの展開についてきちんと書いてあります。しかしそれは,社会通念上のいわば“法律”のようなもので,現実の制度の運用とは別のもの。
 どのくらい女の子を放っておくと爆弾を抱えるのか,デートのローテションをどのように組んでいくべきか,体調管理とスケジュールのバランスをどう考えていくかなどは,実際にプレイしないと感覚がつかめないわけです。

画像集#005のサムネイル/【鈴木謙介】「チュートリアルと〈ゲーム〉性」
 そこで本作では,その「練習台」となるヒロインが用意されています。一年めから主人公の隣の席になり,何もしなくても勝手にフラグが立つとさえいわれる星川真希さんです。僕も一周めでは,星川さんを練習台に,このゲームの〈ゲーム〉について学んだのでした。
 また,本作には「特技」というスキルをうまく習得しなければ,攻略が難しいヒロインが何人もいるのですが,その特技も,周回を経ることで習得しやすくなっていきます。
 そう考えればこのゲームには,高難度のヒロインを攻略するためにほかの女の子を「練習台」にするという,〈ゲーム〉の側面があることも見えてきます。

 さらにいえば,そうやって「練習台」にしてきた女の子達も,自分が〈ゲーム〉の経験を積んだあとで振り返ってみると,もっと上手に攻略できたんじゃないか,と思えてくるあたりも巧妙です。未回収イベントもあるし,一年めからもっと仲良くすることだってできたはずじゃないか,と。
 そうやって「チュートリアル」と「ストーリー」の間を行き来するような〈ゲーム〉が生まれてしまうあたりが,本作の人気の理由なのかなと感じました。


チュートリアルのジレンマ


 もちろん,ときめきメモリアル4の事例をもって,ファイナルファンタジーXIIIのチュートリアルがダメだとか,簡単にはいえません。そもそもまったく性質の違うゲームですし,プレイヤーがそこに割く時間もだいぶ違うと思います。
 それでも両者を比較しながら僕が考えたいのは,ゲーム作品において〈ゲーム〉になりうるのは,作り手側が意図した部分だけではないということです。

 プレイヤーは,やろうと思えばゲームのあらゆるところに〈ゲーム〉を見つけ出すことができるし,それによって作られたシステムを再解釈して,新しい遊び方を創造することさえある。当たり前のことですが,意外と忘れられがちです。
 というのも,チュートリアルが〈ゲーム〉の中に組み込まれている例というのが,なかなかないからなんですね。

 鬼ごっこを初めて遊んだ日のことを覚えている人は少ないかもしれませんが,初めて鬼ごっこの仲間に入ってきた小さい子の姿なら,見たことがあると思います。あるいは,転校して初めて友達と遊ぶときに,その土地のローカルルールを教わるときとか。
 きっと,最初のうちだけルールの適用外扱い(土地によって,“おみそ”とか“おまめ”とか“あぶらむし”とか言いますね)にされて,遊びながらルールを体得していったと思います。つまり,柔軟なルールの運用が,その場その場でのチュートリアルを可能にしていたわけです。
 しかし,コンピュータゲームのようにあらかじめシステムが決められていたり,さらにはルールにロジカルな整合性が求められるようになるほど,チュートリアルはチュートリアルとしてゲームの中に組み込まれないといけなくなり,先に述べたような問題を抱えることになるのです。
 これは,チュートリアルのジレンマと言えそうです。チュートリアルがないとゲームがプレイできないのに,チュートリアルが楽しくない(なぜならそれはあくまで「練習」だから)という。

 ネットワークに接続して,ほかの人と一緒にプレイする中でゲームに慣れていくオンラインゲームのスタイルは,その困難に対応する一つの解決策だったのかもしれません。
 ですがすでに何度も語られているように,そうやって「人に教えてもらう」という方向性は,ネットだけの関係なのに過剰に礼儀やマナーを求められて疲れてしまったり,レベル差があると仲間に迷惑をかけるんじゃないかという不安から,ゲームを遠ざけてしまったり,逆に中毒性を高めてしまったりといった副作用も持っています。

 僕は別に,この連載でチュートリアルのあるべき姿について考えたいわけではないのですが,ゲームの〈ゲーム〉性を楽しむためには,避けて通れない問題だろうとも思っています。
 次回はもう少し,〈ゲーム〉そのものの話に迫れたらいいなと考えていますが,それはまたそのときの話。それではまた。


■■鈴木謙介(関西学院大学准教授)■■
社会学者。パーソナリティを務める「文化系トークラジオLife」でのゲーム談義が面白かったので,今月から連載を依頼することに。原稿料で,これまで食わず嫌いしてきたようなゲームも,ばかすか買ってしまおうと企てているのだとか……。以前聞いた,某量販店さんへの“納税額”,どこまでふくれあがるんでしょうか。
  • 関連タイトル:

    ときめきメモリアル4

  • 関連タイトル:

    ファイナルファンタジーXIII

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