インタビュー
[OGC 2010]コンシューマからWeb・ソーシャルに挑むエンタースフィア岡本氏が語るフィギュア業界の明日
ゲーム業界,それも任天堂出身でコンシューマゲームに精通しており,Webサービスやソーシャルゲームにも詳しいという,特異なポジションを生かして新たなムーブメントに取り組んでいる同氏に,OGCとはあまり関係ないことまでいろいろ聞いてみたのだが,今回はSNSを中心とした展開について紹介してみたい。
●昨年のインタビュー
フィギュアそして3DCGへ,Wii Fitを作った男が狙うUGCコミュニティの可能性とは
よろしくお願いします。fgのほうは5万人を突破して,もうだいぶ軌道に乗った感じですね。
岡本氏:
ありがとうございます。ただ,当初の予定ではもう1,2万は乗せられると思っていたのですが。いちばんの誤算は,cgのほうの立ち上がりが鈍かったことですね。
4Gamer:
といいますと?
岡本氏:
最初は3DCGのほうがユーザー人口が多いと思い込んでいたんですよ。始めてみると,ツールごとにユーザーが分散してしまっていて,意外ときついことに気付きました。
4Gamer:
3Dツールの壁は難しい問題ですね。みんなMetasequoiaで……というのもハードル高いですし。
岡本氏:
高いですね。最近,mixiで作品を飾れる機能を追加して,分かりやすいかたちでメリットが見えるようになって,ようやく登録が増えてきました。
もう一つ,GPSの位置情報を使ったサイト「まいすぽ!」(アニメやゲームなどに縁のある場所を登録していくサイト)を立ち上げていたのですが,こちらは失敗でした。
4Gamer:
時代的には,そういった系統のサービスはこれからいろいろ出てきそうな時期だと思いますが。
いえ,それにしても,ちょっとひねりすぎました。「まいすぽ!」は開発に3か月かかったんですが,こういうものは2か月で作れないとだめですね。本当にコンテンツが多くて手間がかかるものならともかく,うちの規模だとWebサービスにしてもソーシャルゲームにしても,2か月で始められないサービスはどこか迷走しているわけです。PC版と携帯版と一緒に開発をしていたのも失敗でした。携帯サイトをもっと簡単に作れると思っていたんですが,手間がかかりそうだと分かった時点でクローズできなかったのも敗因です。個人的には反省点の多いプロジェクトになりました。
で,これに懲りてSNSを増やすのはもうやめようと決めました。まあ,すぐにお金にならないというのが最大の理由ではあるのですが。
4Gamer:
SNSだと採算を取るのは難しいでしょう。fgなどは,特定の興味を持ったユーザーが集まっているので,まだいろんなところと組みやすいのかもしれませんが。
岡本氏:
そうですね。でもfgの広告はほとんどがショップさんなんですよ。最初はメーカーさんのほうを狙っていたのですが。これは,pixivさんでも同じような感じで出版社の動きがまったくなかったのと似ています。どうも,そういう立場だと乗り出しにくいようですね。フィギュアメーカーって版権は持っていないじゃないですか。UGCのサイトにどれくらいコミットしていいのかの判断が難しいようです。ニコニコ動画くらいボリュームがあると,「まあ,あれはね」という話もできるんですが。現状では距離感をどう取ったらいいか悩んでいるようです。
そこで最近は公式アカウントを作っていたりするのですが,そういうものでもショップさんのほうが動きが速いんですよ。メーカーだと著作権周りの問題には慎重なようです。例えば,プラモデルなどでも改造して楽しんでいる人がかなりの数いるわけなのですが,メーカーとしては版権モノではそういうのは自社サイトで扱えないらしいんですよ。そういう楽しまれ方をされているというのは承知していて,凄い作品が出てくれば嬉しいわけですけど,表立っては扱えないという。
そのあたりのところが,公式アカウントでなんとかならないかと思っているのですが,やはりもっと会員数を集めて,数の論理で,「これはもう出さなきゃいけないんじゃないか」と思わせるようにしなければならないかもしれません。それは,もう僕らの頑張り次第ではないかと。
4Gamer:
日本のフィギュア人口ってどれくらいでしょうか。ちなみに,ワンフェスってどれくらいの入場者でしたっけ。
岡本氏:
4万数千人くらいですね。pixivが150万でコミケ参加者の何倍かになってますから,在需要を考えると,フィギュアも15万人くらいまではいくのかなと考えています。
4Gamer:
ちなみに,SNSではなくて閲覧だけなら登録なしでもできるようにしたりはしないんですか? ソーシャルニュース系だとそんな感じですよね。
岡本氏:
SNSだとどうしても腰が重くなるのはあるのですが,オープンにするとサーバーや回線を増強しなければなりませんので……(注:fgは最近かなりサイトが重い)。まあ,自然増でまだまだ増えていますから,まだしばらくはSNSでやっていきます。
あとはマーケット機能をつけようと思っていまして,企画を進めています。ユーザーが作ったものを売り買いする場を作れれば盛り上がるだろうなと。
4Gamer:
公式アカウントではないマーケット機能ですか。
岡本氏:
ユーザーさんが作った同人フィギュアを売るのはアリだとして,じゃあ同人フィギュアってどれくらいの市場があるのだろうと考えると,まず現時点だとショップの売り場自体がほとんどないんです。そもそもフィギュアって売り場面積を食うじゃないですか。その手のショップでは同人誌は儲かっていますし,ゲームも儲かっています。なぜ,わざわざかさばってあまり数の出ないフィギュアを扱わなきゃいけないのかって話ですね。同人誌専門店とかだと,自社で企画した東方Project関係のフィギュアとかであれば置いてあります。東方だと数が出ますし,人気の原型師に頼んだ作品を量産して。ただ,店に並ぶのはせいぜい2,3種類といったところで,それではちょっと話になりません。
専門店に行けばもっとあるんですけど,同人誌ショップに比べると格段に数が少なくなります。そういったところに,売り場を用意してあげたいなと考えています。もっといえば,fgから小さなメーカーが出てきてくれるようになるのが理想ですね。そこまでいかないと本物じゃないと思いますし,そういった新しい土壌を作っていくのが使命だと感じています。
メーカーの人と話していても,現状のままでいいとは決して考えてないわけなんですよ。メーカーが増えすぎて,一時期のようにどんどん売れるというわけではなくなって,このままではいけないと考えている人は多いんです。
同人フィギュアというもの自体,原型は日本でも,実際に製造をやっているのは中国ですし,フィギュアメーカーがOEM的に仲介しているわけなんです。メーカーとしては,ノーリスクで利益が出るものですし,東方であれば数千個は出ますので,それくらい売れるのであればなかなかおいしい商売にもなっています。ただ,逆にこういうのは東方くらい強力な版権でないと難しいというのはあります。
しかし,その数千っていうのは,Amazonなどでは絶対扱われないものですし,実はもっとほしいと思っている人もいっぱいいるはずなんですよ。それがfgで宣伝することでもっと売れるようになって,例えば,これまでだと数百しか出なかったものが数千になれば,可能性も広がっていきますよね。
4Gamer:
それでも小規模なところは難しくないですか?
岡本氏:
数個だと自分で型を作って作ったほうが早いですし,数百〜数千になればメーカーに任せるほうがいいでしょう。問題は数十〜百個くらいのものをどうするかというところですね。デジタル3Dプリンタかというと,またちょっと違いますし。
石膏粉を0.1mmずつ積層して立体物を作り上げるZPrinter |
デザエッグによる出力例 |
ちなみに3Dプリンタについてはどういう印象でしょうか。
岡本氏:
まだまだコストが高いですね。自分で型を作る手間と比べると,30個くらいのものを作るのに使えるようになるといいんですけどね。アメリカだと10台並べてフル稼働みたいな状態らしいですから,コストも下げられるのでしょうが,日本では認知度自体が低すぎて,例えば月に数十個とかいうレベルだと,どうやっても安くできないみたいです。
4Gamer:
安くないと需要も出ませんし難しいところですね。
岡本氏:
この状態で安くしても利益が減るだけですし,もっと認知されて需要が出てこないと。昔はプリンタのカラー印刷だってお店に行かないとできなかったんですから,まだまだこれからじゃないですか。
現状では,3Dクリエーターが記念に作品を出力してみる程度の需要みたいですので,それではダメですね。ちゃんと作品を他人が注文して売れるようにしないと。
そのためにも,作者にペイバックする仕組みを早く作らなければいけないんですけどね。作るのはそんなに難しくないんですけど,どういう仕様にするのかを考えるのが大変で。もともと重いシステムを作る気はありませんし,最初は手作業でいいとは思うのですけどね。
例えば,ペイバックが数百円の場合,毎回振り込むわけにもいきません。
4Gamer:
振込手数料を考えるとありえないですよね。
岡本氏:
Amazonみたいに一定額まで貯まったら振り込むってのがいいんですけど,あれはAmazonだから信用されているわけで,うちみたいなところがやろうとしても無理ですよね。1年か2年くらい経っても規定額に達しないものは,その金額で振り込みを希望できるような感じにするしかないかなと考えています。たぶん多少,足は出ますが,それくらいは泥かぶってもいいかなと。とにかく,なにか火は点けたいですね。
4Gamer:
フィギュア作家として飯が食えるところまでは無理にしても,そういう方向に進んでほしいところですね。ただ,フィギュアの量産や先ほどの少数ロットの場合などを考えると,fgよりcg+3Dプリンタのほうが向いているような気もしますが。
岡本氏:
最初に規模の小さいほうからやると,その程度のものかと思われてしまうので,まず,fgのほうである程度立ち上げて,それが軌道に乗ったらcgのほうもやっていくつもりです。なんとか,年の後半までには仕込みたいなと考えています。
4Gamer:
結局,マーケット機能といっても自社で売るわけではないんですね。
岡本氏:
通販機能も入れて,オンラインにおける秋葉原や池袋みたいなフィギュアストリートを作れたらと思っています。ネット通販だけなら,楽天とかにもないわけじゃないんですが,専門店街にするのが分かりやすいかなと。
現在テストケースとして,主にショップ向けに公式アカウントを導入していますが,今後はユーザーにも開放して,ユーザーがショップを持てるようにしていく予定です。
fgという商店街で,ショップの商品とユーザーの商品が一緒に並びます。ただ,スポンサーになってくれているショップは一段高い位置に置く感じになりますが。将来的には,ユーザー側でもプレミアム会員のようなものを作って,なんらかのポイントに応じて,スポンサーのような扱いができるようになればと考えています。
商店街を作って,店には誰でも入れますけど,看板を出すにはお金を払ってくださいという感じです。ただ,実際のお金でなくても,ポイントで同様なことができるようにすれば,いけるんじゃないかと。
4Gamer:
評価が高いところはポイントを与えるなどであれば,作る側の励みにもなりますね。
岡本氏:
例えば,ワンフェスでは当日版権というのがありますよね。古いものですので,いまの時代にあっているかというと,そうとも言い切れません。
当日版権では,版元に一銭も入らないのに手続きだけはややこしい作業が必要になっていますので,もう少し新しい方法を提案できればと考えています。例えば,fg版権のようなものを認めていただいて,ある程度売れたら版元に還元していく仕組みを作れればと考えています。即売会だと,数個ずつしか売れないようなものを集計して集金するようなことは非現実的でしたが,デジタルになればそのあたりはどうにでもなって,版権者側の手間はかかりません。時代にあったものを提案していきたいですね。
4Gamer:
当日版権自体がワンフェスのことしか考えてない版権ですからねえ。
岡本氏:
あれはあれで,あってもいいと思うんですよ。fg自体をもっと盛り上げていって,ネットの動きを無視できない規模になったらメーカーにも版元にも利益を還元できるような仕組みを提案できないかという話ですね。当日版権にしても,ワンフェスの盛り上がりが先にあって,それとどう折り合いをつけていくかというなかで生まれたものですから,それと同じ流れです。
今後リアルの売り場がいらないかというと,そんなことはありません。フィギュアだと,最終的には実物を見てみないと分かりませんし。実際,どれだけ通販が盛んになってもコミケの入場者数とかは減ってませんよね。その辺は楽観視していて,ワンフェスなどともよいかたちで共存できるのではないかと思っています。
4Gamer:
裾野自体が広がると,業界全体にメリットが大きいですよね。
岡本氏:
著作権周りではデリケートな問題がありますので,マーケットの導入でも最初から売買の仕組みを導入するつもりはありません。fg内でそれぞれに宣伝をしてもらうという形です。
4Gamer:
それだと,運営側の利益が出ないのではないですか?
岡本氏:
この部分で利益を得ようとは思ってないんですよ。将来的にはあるかもしれないんですが,売買の場ができて,クリエーター側にもショップにも,ユーザーにもメリットが出て盛り上がってくれれば,サイトのPV自体が増えていきます。fg内に宣伝を出すことのメリットが出てくれればよいわけで,現状ではそちらのほうが重要ですね。
なるほど,ではcgについての展望はありますか。
岡本氏:
cgはぼちぼちですね。ニッチなところなんで,なかなか苦労してます。でも,3DUGCに着目していた人は多かったのか,ほかにも複数のサービスがありますよね。方向性は異なりますが,パーティーキャッスルやSyntheとか。
4Gamer:
いくつか触ってみてはいますが,できることが少ないので飽きも早いというのが正直なところです。
岡本氏:
機能の充実がテーマになりますね。しかし,予算的にはゲームの部分とUGCの部分を両方100%いくっていうのはありえないんですよ。コミュニティをしっかり作らないと人は増えませんし。
4Gamer:
cgのFlashのプレビューはよくできているんですけどね。
岡本氏:
あれはもっと作り込みたい部分ですね。Zソートの問題が解決すればもっと伸ばせるんですけど。
解説:Flashそのものに3D表示機能はないため,cgでの3D表示はソフトウェアで行われており,3D描画の最も基礎となる隠面消去(後ろ側になる面は表示されないようにすること)では,実装の簡単なZソート法が用いられているという。これは,ポリゴンを視点からの距離で並べ直して,遠いものから順番に描いていく手法。かなり原始的だが,初代PlayStationでも採用されていた手法だ(ただし,PlayStationでは手前側から描画)。前後方向に長いポリゴンがあると,前後関係が誤って表示されやすいなどの欠点があるほか,ポリゴン数が少ないうちは軽いのだが,ポリゴンの並べ換えが必要なためポリゴンが多くなると負荷が非常に高くなる。ポリゴンを細分化することで表示の破綻は少なくなるが,負荷が高くなるというジレンマを持っている。
現状では,モデラー各自で表示に破綻が出ないように工夫している人も見受けられるが,誰でも簡単にというわけにはいかないようである。
岡本氏:
実は,この会社で最初に作りたかったのは,pixivみたいに絵を投稿し,その絵がモンスターになって出てくる感じのUGCを使ったソーシャルゲームだったんです。そのために作ったFlashの3D表示エンジンがあれですね。
4Gamer:
なるほど,そうだったんですか。
岡本氏:
あれでゲームを作るのはまだちょっときついですね。うまくいけば相当盛り上がるとは思うのですが。
4Gamer:
重くてもデジタルフィギュアが動くところまでは,なんとか実現してほしい感じです。
岡本氏:
もともとはゲームを作るために起こした会社ですし。いつかUGCサイトに根差したゲームというのは作ってみたいですね。
4Gamer:
期待しています。
ということで,fg,cgなどSNSを中心にした部分についてのインタビューを紹介してみた。
エンタースフィアでは,fgやcgといったWeb開発以外にソーシャルゲームやコンシューマゲームの開発も行っており,実は,OGCにまったく関係ない話のほうが盛り上がったのだが,それは後編ということで機会を改めて紹介してみたい。
同社は,ゲーム業界よりWeb業界でのほうが有名なので,求人をしてもWeb関係の人しかこないと岡本氏は嘆いていた。ゲームプログラマも絶賛募集中とのことなので,興味のある人は連絡を取ってみよう。もっと話を聞いてみたい人は,OGCの会場に出かけてみよう。
フィギュア・立体物の投稿コミュニティ[fg]
http://www.fg-site.net/3DCGの投稿コミュニティ[cg]
http://www.cg-site.net/OGC 2010公式サイト
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