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[OGC 2009#13] 新しい潮流はどこからくる? 新清士氏の見るオンラインゲーム業界の未来とは
その全容を展開するには,1時間弱という公演時間は足りなかったようで,終わりのほうがいささか駆け足になってしまったのは残念だが,それでも多くの示唆が含まれていたことは間違いない。その中でも,主にゲームに関わりが深い部分をピックアップして紹介してみたい。
浸透の兆しを見せ始めたUGCとカジュアルゲーム
今回のセッションでは,まず昨年登場したサービスの中から,氏がとくに注目したものとして,「うごメモはてな」,「Far Cry 2」,「リトルビッグプラネット」,「iPhone」の四つが提示された。
「うごメモはてな」は,正直なところ最初はバカにしていたと自省しながら,今では氏のお子さん共々もハマっているといい,そのUGC(User Generated Contents)の垣根の低さを,高く評価しているのだそうだ。
「Far Cry 2」と「リトルビッグプラネット」では,これらのタイトルに搭載されたレベルデザインツールの完成度と,Xbox 360やPLAYSTATION 3の整備されたModの配信システムを,また「iPhone」についても同様に,「App Store」による整備されたセルフパブリッシング環境を,それぞれ賞賛していた。
Far Cry 2のレベルデザインツール |
リトルビッグプラネットのクリエイトマップ |
氏は,これらのタイトルの登場から,UGCがいよいよ浸透の兆しを見せ始め,混沌としているカジュアルゲーム(FarCry2がカジュアルなのかは疑問だが)の分野こそ,次の潮流,イノベーションが生まれる市場であると予測する。「World of Warcraft」に支配された北米市場,日韓においても数社の「勝ち組」に膠着化してしまった既存の市場は,すでに「終わった」市場なのだそうだ。
そんなUGCが抱える課題としてあげられたのが「生産過剰性」と「正否のフィードバックがかかりやすい構造」の,二つのキーワードだ。せっかく作ったコンテンツも,過剰に供給され続けるコンテンツの中ではすぐに埋もれてしまい誰にも見てもらえない。それとは対照的に,ランキング等のフィードバックを受けた上位コンテンツは,更にアクセスを伸ばしつづける。確かに思い当たる節のある,このような二極化構造こそが,現状のWeb2.0自体が潜在的に持っている性質であり,またこれを解決することが,UGCを次のステップへ進ませることに繋がるのだという。
強力な「コード層」に支配されつつある市場
氏の問題提起はここにとどまらない。オンラインサービスの世界全体を見渡すと,一部のいわゆる勝ち組企業によるノウハウの「隠蔽」が蔓延しつつあるという。その例として,まず槍玉に挙げられたのが,米Electronic Artsの参入によって「Steam」に統合されつつある北米市場だ。
4Gamerの読者にはお馴染みのValveによるデジタル配信システムSteamだが,実のところValveはSteamの実績データをほとんど公開していないという現状がある。非上場企業であるため,外部に向けたIR情報も存在せず,販売本数から売り上げまで,そのほとんどが謎に包まれている。
販売数が180万本を超え,好調さが伝えられる「Left 4 Dead」も,実はSteamでの売上げはカウントされていない |
SteamとWiiでデジタル配信されている2D物理エンジンによるパズルゲーム「World of Goo」 日本での発売はいまだ未定 |
氏はそんなValveを筆頭に,Amazon,Apple,Microsoft,Googleなど,そうそうたる企業名を挙げ,情報隠蔽に向かう彼らの動向を,ローレンス・レッシグの著書「CODE 2.0」から,「コード層による支配」であると指摘する。
新氏は,これらのコード層によるさまざまなノウハウの隠蔽が市場の硬直化を生んでいるといい,これが先の「持てる者と持たざる者の二極化」を生み出しているという。
ここで氏は「コカ・コーラの歴史」や司馬遼太郎の著作を引用しながら,インテグレーテッドシステムの構築に長けたアメリカ企業に対して,伝統的な日本企業の強みを,地理的タイムラグを利用した,後追いのイノベーションと分析。しかしながら,タイムラグがそもそも存在せず,クラウド化(情報処理リソースが,ネットワークを介したサービスとして提供される仕組み。)が進行したインターネットの世界では,サービスがコード層によって直轄運営されるために,この強みを生かせないことが日本の企業を不利にしていると指摘した。
日本企業はクラウド化する世界にどう立ち向かう?
では,これら強力な「コード層」に席巻されつつある市場の中で,日本企業はどう立ち回ればいいのか。講演の最後に,氏からいくつかの提言がなされた。
一つは「イノベーションのチャンスを見逃さず,プラットフォームホルダーにまわる」こと。富の二極化が進んだ市場で勝負するのであれば,自らがコード層に至る以外に勝ちにまわる方法はない。かつては単なるデベロッパーに過ぎなかったValveの成功を例にあげ,彼らのようにその機会を逃がさない嗅覚が重要だと説く。
「それができれば苦労しない」という声が聞こえてきそうな気がするが,成功というのは得てしてそういうものなのかもしれない。
もう一つは,「企業利益に貢献するクラウドワーカーに,財を還元する仕組みを作る」という道。クラウドワーカー(あるいは,Crowdsourcing Slave Labor)とは,クラウド化したネットワークの中で,利益が還元されない末端のユーザーのこと。こう書くとゲーマーとはあまり関係なさそうだが,例えば,うごメモはてなに自分が作ったうごメモをアップロードする行為は,うごメモはてなの価値を高める行為でもある。うごメモはてなの価値があがることは,任天堂やはてなといった運営元にとっては利益になるはずで,にもかかわらず,ユーザーにその対価が金銭として還元されないのは不公平だ,という考え方だ。
このような問題を解決する試みとして,氏はGoogleアドセンス,Amazonアフィリエイト,未来検索ブラジルの「モリタポ」などを例示し,そういう「富の再分配」が進行することで,現行の主要な収益モデルである「月額課金」と「アイテム課金」以外の可能性も生まれてくるのでないか,と説く。
……マクロすぎる話でピンとこないのが正直なところだが,「広告モデル」に比較的近いのかもしれない。ちなみに氏のオススメは後者ということなので,日本の企業の皆さまには,ぜひ参考にしてもらいたいところだ。
デジタル財の収益化の難しさは,オンラインゲームに限らず,この業界の誰しもが実感しているところだ。隣の芝から見ると,どうもオンラインゲーム業界は一歩進んでいるように見えるらしいが,結局は一握りの企業の一人勝ち,というのが共通する認識ではないだろうか。氏も最終的には,「ユーザーが次の世代に変わるまで待つしかないのでは?」と漏らすが,目の前の現実はそう悠長に待ってはくれないだろう。
次の潮流,イノベーションがどこからくるのか,なんとも雲をつかむような話だが,願わくばその結末が,我々ゲーマーにとって幸福なものであってほしいと思う次第だ。
- 関連タイトル:
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