[GC 2006#02]ピーター・モリニューが久々に登場,「次世代コンバットはかくあるべし!?」
ここしばらく,基調講演などの不可解なキャンセルを続けていたイギリスの奇才Peter Molyneux(ピーター・モリニュー)氏。もちろん,その背景にはマイクロソフトとの買収話が絡んでいたわけだが,ゲーム業界でも屈指の人気を誇る人物だけに,ひょっとしたらヤキモキしていたファンだっているかもしれない。 今回も,イギリスでのテロ未遂事件以降のセキュリティ強化がたたり,ノートPCを入れたバッグの届け出で空港の職員と一悶着あったとかで,GCDCでのスケジュールをすべて再調整せざるを得ないほどの遅刻をやってのけた。
それはともかく,今回のGCDCでモリニュー氏は,本来のところは「次世代ゲームデザインへのインスピレーション」というタイトルで講義する予定だったものの,さらにアクションゲームの中でも主要な部分を占める“コンバット”にトークを絞り込んだ。そのコンバットとは,もちろん現在Microsoft傘下に収まったばかりのモリニュー氏率いるLionhead Studiosの筆頭プロジェクト,「Fable 2」(仮題)に関するものである。
Xboxでは,もっとも人気を博したRPGの一つとなった,モリニュー氏の「Fable」
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ただ,現段階ではまだ構想ないしプロトタイプ的なものでしかなく,今回モリニュー氏が語ったことが,必ずしもFable 2に実装されるとは限らないとのことなので要注意。「Fable」(PC版邦題:マイクロソフト フェイブル:ロスト チャプター)や「Black&White 2:Battle of the Gods」では,開発初期から風呂敷を広げすぎたなどと批判されたこともあるだけに,モリニュー氏の言動はかなり慎重に扱われている様子だ。 そんな彼が,依然としてアメリカやヨーロッパの若い開発者から注目を集め続けるのは,考えていることや実験していることを,現在進行形で惜しみなく提供し続けるトークが“インスピレーション”そのものであるからと断言してもよいだろう。
さて,モリニュー氏の新規プロジェクトに対するテーマは,「既存のゲーム的アクションからの脱却」にあるようだ。モリニュー氏いわく,「現在のアクションゲームにおけるコンバットは,『ストリートファイター』の時代の操作性を,そのまま3Dに移行させているだけ」とのこと。つまり,さまざまなボタンを押しながら,していることはヘルスバーの削り合いというわけだ。特殊ムーブの見た目をいくら派手にしても,実際にはあきられてしまうかもしれないし,マニュアルを読まない多くのプレイヤーは“ガチャ押し”でゲームを進めていくことに躊躇せず,結果としてゲームは「ゲームデザイナーにとっては大惨事」になってしまうのがオチなのだと指摘する。
「一方,ハリウッド映画に目を向けると,まったく異なる観点でアクションを描いている」(モリニュー氏)。その例として挙げたのが,クエンティン・タランティーノ監督による,血みどろのアクションシーンで有名な映画「キル・ビル」である。 モリニュー氏が指摘するのは,ユマ・サーマンが22分間に88人という相手を一撃必殺で皆殺しにするのに対し,最後の“ボス戦”,つまりルーシー・リューとの雪の庭園における死闘では,たった一人の相手に18分という時間を費やしている点だ。 モリニュー氏は,「『キル・ビル』で描かれているのは,相手の刀が自分に当たるかもしれないという緊張感。雪の庭園なり,大きな宴会場という環境を駆使し,その刀に一回でも当たると死んでしまう,という事実がアクションシーンにドラマ性を与えている」と説明する。これを突き詰め,「アクションはボタン操作に支配されるのではなく,デザイナーが設計したゲーム内のロケーションによって決定していくのだ」という逆転の発想をすることで,ワンボタンでも楽しめるアクションを実現しようというのである。
簡単な操作で複雑なアクションを実現しようというのは,欧米のゲーム開発でも盛んに取り入れられるようになってきており,最近だと「ゴッド・オブ・ウォー」などがいい例だ。 モリニュー氏が面白いのは,攻撃にも,相手の攻撃を避けるのにも同じボタンを使うようにし,一つのボタンを“アタックボタン”ではなく“アクションボタン”としてまとめているところ。さらに,ダンジョンでの戦闘がだらだらと長く続くのではなく,映画のように“1シーン”の環境を整えて,そこでアクションを楽しめるようにするとのことだ。
と,ここでモリニュー氏はプロトタイプのデモを二つ紹介した。一つは階段で二人の男が襲いかかってくるデモで,階上から迫ってくる敵を素早く弓で射抜いて壁に磔(はりつけ)にし,階下から走ってきた相手は高さを利用して突き落として殺すという内容。もう一つは,酒場のカウンターから押しのけられたことで乱闘が始まる。2人組と主人公の間に割って入ってきた暴漢をカウンターにあったボトルでノックアウトし,続けてフロア中央に移動して椅子やテーブルを相手に投げつけたり,シャンデリアにつかまって相手を蹴り伏せたりという動作を見せた。銃や剣を使っていないこともあり,必ずしも一撃で相手が倒れるわけではなかったが,もはやヒットポイントという概念はなくなっているようだ。
「ここで重要なのは,環境がコンバットを変化させているということ。そこにあるものを駆使し,周辺の地形やオブジェクトに反応してキャラクターが行動する」とモリニュー氏は語る。突然襲いかかってくる敵に対しては,わざわざ剣を抜くこともなく,周囲のオブジェクトに即座に対応して応戦する。相手の攻撃が先であればそれをブロックしようとするし,ボタン操作そのものではなく,タイミングや環境とのインタラクションによって臨機応変するようだった。
このようなアクションシーンの背後には,もちろんそれ相応のテクノロジーが隠されている。とくに,アニメーション数はインタラクトできるオブジェクトによってさまざまに変化するため,もはやモーション・キャプチャーや手動のアニメーションでは追いつかない。そのため,Will Wright(ウィル・ライト)氏の「Spore」でも実装されている,プロシージャル・アニメーション技術を取り入れているという。 モリニュー氏は,「ゲーム開発者は,レベルやマップではなく“環境”を提供するのだ」と説く。それによって,ヘルスバーのような数字の遊びではなく,よりダイナミックでドラマチックなアクションシーンが生み出せると彼は考えているのである。
物理的に正確な表現が可能なゲーム世界を整えなければリアリズムは生まれないし,もちろん,敵AIの“賢さ”も不可欠になってくる。モリニュー氏は「自分が(ハリウッド映画の主人公のような)ヒーローだと錯覚できるのが次世代コンバットのゲームデザインになるはず。そのために,実験やチャレンジを恐れてはならない」と,まとめてみせた。(ライター:奥谷海人)
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マイクロソフト フェイブル:ロスト チャプター |
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