インタビュー
[インタビュー]「Stellar Blade」ディレクター キム・ヒョンテ氏に聞く。日本や世界のユーザーに向けた韓国発のAAAアクションへの大きな挑戦
韓国のデベロッパSHIFT UPが「Project EVE」として開発を進めてきたアクションアドベンチャーで,異性物に侵略され廃墟となった地球を舞台に,宇宙へと移住した人類が地球を奪還するための戦いを挑む物語が描かれる。
今年3月には本作の体験版が配信され,主人公のイヴのセクシーな姿や激しいアクションなどに大きな注目が集まった。
本作の発売にあたり,開発を手がけるSHIFT UP代表で「Stellar Blade」ゲームディレクターのキム・ヒョンテ氏が来日。メディアのインタビューに対応した。本稿では4Gamerを含む2メディアによる合同インタビューの模様をお届けする。
[プレイレポ]キム・ヒョンテ氏率いるSHIFT UPの最新作。「Stellar Blade」は,幅広いACTファンを受け入れるゲームデザインにも注目
ゲームクリエイターのキム・ヒョンテ氏が贈るアクションアドベンチャー「Stellar Blade」が,2024年4月26日に発売を迎える。魅力的なキャラクターや世界観が目を惹くタイトルだが,こだわり抜いて作り込まれたゲームデザインにも注目だ。
「Stellar Blade」公式サイト
韓国のゲーム市場から日本や世界に届けるための,AAAタイトルへのチャレンジ
――まずはこの企画がどのようにして立ち上がったのかをお聞かせください。
キム・ヒョンテ氏:(以下,キム氏)
皆さんご存知かもしれませんが,韓国では現在,家庭用ゲーム機向けのゲームがほとんど作られていないんです。モバイル市場に限定したゲームが多く,この状況が長く続くと,日本や世界のユーザーの方に届けるチャンスを逃してしまうのではないかという危機感を持ったんです。
もちろんモバイルのマーケットもとても素晴らしいので大切にしているんですが,ハードウェアとしての限界もあり,会社としてもその道一本で進むのはリスクが伴います。今後時代が変わったときに,AAAクラスのクオリティのゲームを作っておかないと取り残されてしまうのではないかという不安もあったので,本作に挑戦することにしたんです。
――最初から家庭用ゲームとして企画されたのでしょうか。
キム氏:
そうですね。最近はPCゲームでもコントローラを接続してプレイすることも多いですが,作っているときは家庭用ゲームを意識しています。
――本作が「Project EVE」として発表されたときは,SIEさんがパブリッシュすることは発表されていませんでした。パートナーを組むことになったきっかけを教えてください。
キム氏:
私自身が以前からPlayStationのファンでして,PlayStation用のゲームを作ることは,一つの目標でした。あるときSIEの吉田修平さんが弊社にお越しいただいて,いろいろなゲームを遊んでくださったんです。
吉田さんは本当に熱心で,プレイされたゲームにたくさんフィードバックもいただきまして,それがご縁でお話をさせていただく機会が増えて,弊社のゲームを世界中の方に広く届けるためには,SIEさんがベストなパートナーであると考えたんです。
――アクションゲームで作るということを,企画の段階から考えられていたんですか?
キム氏:
これも個人的な話なんですが,私が一番楽しく遊んでいるジャンルが,アクションアドベンチャーなんです。
ゲームは進化するにつれ,ジャンルの区別が曖昧になって統合されていくと思っていて,本作も一つのワールドの中で,敵と戦って探索をして何かを発見して,そして登場キャラクター達が描くストーリーを楽しむなど,すべてを盛り込んだ最適解としてアクションアドベンチャーとしました。
――アクションアドベンチャーを作るにおいて,気を付けたところはありますか?
最近のアクションゲームは,いわゆる「ソウルライク」と呼ばれる高難度のものや,ハック&スラッシュを楽しむものが遊ばれています。本作は,これらの要素のいいところを融合したいと考えました。
例えばプレイヤーが敵に一方的に攻撃をして,爽快なコンボを繰り出して満足するようなゲームシステムにはしたくなくて,敵の動きをしっかり見極めて対応するような,戦闘を読むことも必要なゲームを目指しました。ゲームの中盤以降,アクションに慣れてくると,敵の攻撃を途中で遮断して,こちらからさらに攻めることができるような作りにもなっています。
アクションゲームが好きな人はもちろんですが,そこに縛られず,どなたでも楽しめるようなゲームになっていると自負しています。
――戦闘や移動などでプレイヤーを動かしているときはもちろん,ムービーやカットシーンに至るまで,DualSenseのハプティックフィードバックによる演出が効いていましたが,振動による演出へのこだわりを教えてください。
キム氏:
DualSenseというコントローラは本当に素晴らしくて,ゲームを開発している最中も感動するところがたくさんありました。それを踏まえて,ハプティックフィードバックによる振動の演出は,ゲームのあらゆる部分に取り入れるために工夫をしました。
アクションやイベントに振動の演出を効果的に取り入れるために,サウンドチームとも協力して,音楽やSEともシンクロさせています。
またゲームの中盤で手に入れる遠距離武器を使うと,アダプティブトリガーが生きてくるシーンもあります。さらに内蔵スピーカーやタッチパッドなども活かしていますので,DualSenseならではのプレイフィールを楽しんでみてください。
――ゲームディレクターのキムさんから,本作を遊ぶにあたり,どうすればこの「Stellar Blade」を楽しく遊べるかアドバイスをいただけますか。
キム氏:
まず序盤では,ジャストパリィやジャスト回避に慣れることが重要です。ゲームを進めると「ギア」や「エグゾスパイン」といった装備品を入手できますので,それによりバトルスタイルを自分好みにアレンジできるようになります。例えば主人公の動きを速くするギアなどは,存在する3種類をすべて装備すると,とてもハイスピードなバトルができるようになるんです。
またスキルツリーを見ていただくと,その活用法についても分かるようになっています。例えばジャストパリィを決めることで,単純に敵の攻撃を防げるだけでなく,そこから派生する攻撃やスキルもありますので,自分のプレイスタイルに合ったものを選んでイヴを成長させてください。
――「ノーマルモード」と「ストーリーモード」による難度の違いもありますね。
キム氏:
敵の強さを抑えているストーリーモードでは,特定の敵の動きに対して押すべきボタンが表示される「アクションアシスト」という機能が発動します。ボタンを押すべきタイミングのガイドが表示されるので,アクションゲームのビギナーの方も楽しめるようになっています。
ポストアポカリプスの廃墟世界に,星からやってきたイヴ達が舞い降りる
――デザイン面に関して,オープニングの宇宙船やイヴ達が乗っているポッドなど,メカニカルなところがとても個性的に感じられました。その一方で,舞台となるワールドは現代世界の廃墟という印象でした。こうした世界観におけるコンセプトのようなものがあれば教えてください。
キム氏:
イヴ達が乗ってくる宇宙船やドロップポッドは,クラシックなバロック時代の様式をモチーフにしているところがあります。
イヴや仲間達のコスチュームなどもそうですが,一目見て地球の世界観とはかけ離れたものだと印象づけるようなデザインがコンセプトです。滅亡した地球と彼らが住んでいる宇宙コロニーが長い間断絶されて,別々に発展してきたことを強調しています。
ワールドに関しては,あえて新しいものや奇抜なものは取り入れず,'80年代や'90年代の映画やアニメなどで描写されたポストアポカリプスものを踏襲し,それを現代の解釈でデザインすることで魅力的なものを表現できるのではないかと思ったんです。
こうした世界観をリアルタイムで楽しんだ方はきっと思い出が蘇るでしょうし,それを知らない若い方には斬新なものとして見ていただけるのではないでしょうか。
――本作は主人公のイヴをはじめとするキャラクター達のセクシーさや可愛さ,格好良さなどが大きな魅力ですが,敵キャラクターのグロテスクなデザインにもフェティッシュなところを感じられました。何かこだわりがあるようなら教えてください。
キム氏:
そこに気づいていただけたのはとても嬉しいですね(笑)。敵キャラクターのネイティブのデザインは,メインキャラクター以上にこだわったところで,戦いにおいてはイヴと最も近しい関係の存在であり,ゲーム画面に映る機会も多いので,デザインやイメージ,設定については強いこだわりがあります。
ネイティブは一般的なモデリングではなく,事前にクレイフィギュアのような模型を作って,それを3Dスキャンしたものをベースに作っています。そのため,モデリングにおけるパターン化が少なく,自然な質感になっています。
ネイティブの姿をよく観察していただくといろんな発見がありますし,なぜこのような姿になったのかは,ゲームをプレイすることでわかるような展開になってりいます。
――ゲームタイトルの「Stellar Blade」とは,どんな意味があるのでしょうか。
キム氏:
「Stellar(ステラー)」とは,ラテン語で「星」という意味の「stella」から来ています。「Blade(ブレイド)」は皆さんおなじみの「剣」です。主人公のイヴは宇宙で生まれて地球を奪還するために訓練をして,剣を手に地球に降りてくるんです。「星から来た剣」という意味を込めたのが,「Stellar Blade」というタイトルなんですね。
――体験版をプレイさせていただいて,本作のアクションにある「ジャストパリィ」や「ジャスト回避」が,ボタンを押してから発動するまでちょっとだけ隙があるように感じたんですが,この設計に意図はあるんでしょうか。
キム氏:
「Stellar Blade」は,ボタンを押してからスキルが画面に反映されるまで,0.05秒ほどのラグがあります。もうこれ以上は縮めることができないタイムラグです。
こちらとの意図しては,ボタンを押していきなりモーションが繰り出されるのは,本作のキャラクターの動きを見せるアニメーションのスタイルとして合わないと思い,ボタンを押すとスキル自体は発動されていて,動きのアニメーションが後からついてくるような見せ方をしています。アクションのつなぎやプレイする映像機器などの関係で若干の誤差が出ることもありますが,もし今後フィードバックとして問題になるようであれば,より遊びやすくなるよう改善していくこともあるかもしれません。
――「Project EVE」としての発表から,2024年の発売を迎えるまで,発売延期などもあってすごく開発に時間をかけられていましたが,開発で苦労された点についてお聞かせいただけますか。
キム氏:
まずはPlayStation 5でクオリティの高いグラフィックスを表現することが簡単なことではありませんでした。家庭用ゲーム機でアクションゲームを作ること自体が初めてでしたので,すべてがチャレンジのように感じられました。
中でも大変だったのは,キャラクター達の会話が自然につながって物語が進んでいくようにするための,ナラティブなカットシーンやドラマの表現ですね。
またカットシーンでのフェイシャルモーションにおいて,リップシンクにも強いこだわりがあり,苦労したところです。本作では英語,日本語,韓国語の言語の違いで,キャラクターの口パクが自然に馴染むようにしているんです。長期的にはすべての言語でのリップシンクはサポートしていきたいと考えています。
「Stellar Blade」を日本のユーザーに愛してもらうために,SHIFT UPならではのエンターテインメントを作り上げた
――韓国のゲームはキムさんのおっしゃる通り,モバイルやMMORPGが強いというイメージがありますが,近年はこの「Stellar Blade」をはじめ家庭用ゲーム機向けの大中規模作品やインディー作品などにもヒット作が見られます。そのような傾向について,キムさんはどうお考えですか?
キム氏:
おっしゃる通り,韓国のゲームMMORPGなどは飽和状態で,伸び悩んでいます。その突破口として,国内外のマーケットや家庭用ゲーム市場に目を向ける動きがあり,それについてはポジティブな傾向だと思っています。
私達はそうした時代が予想より早く来ると考えまして,その筆頭としてこの「Stellar Blade」を皆さんにお届けできることを,とても嬉しく思っています。
――キムさんから見て,日本のゲーム市場と韓国のゲーム市場に親和性を感じるところや,逆に違うというところはどこでしょうか。
キム氏:
韓国のゲーム市場の面白いところは,欧米とアジアの両方の特徴を持っていて,さらにMMORPGが盛り上がるなど,韓国独自のマーケットがあります。売れている作品の傾向としては,欧米や日本を含むアジアのタイトルが占めていて,近年は中国のタイトルが勢いを増しています。ただし売上だけで見ると,少数の重課金ユーザーに訴求した「リネージュ」ライクなMMORPGが上位を占めているという印象です。
日本の市場は,実に多様なジャンルのゲームがある一方で,海外のゲームが参入するにはとてもハードルが高い印象があります。日本のユーザーの皆さんに手に取っていただくまでの基準値はとても高いのですが,そこを超えることができれば作品をずっと愛してくれることも理解していますので,この「Stellar Blade」もそんなゲームになることを目指して作りました。
――体験版配信後のユーザーからの反響はいかがでしたか?
キム氏:
まだすべての反響を確認できてはいないのですが,幸いなことにゲームの面白さやバトルのアクションについて高い評価をいただき感謝しております。また先ほどのご質問にあったアクションのタイムラグのように,修正が必要ではないかとというご指摘についても確認しています。
それとイヴの見た目についても,たくさんの反響をいただきました。彼女のルックスやコスチュームに関しては,完全に私の好みが反映されたものです(笑)。
ポジティブなご意見もネガティブなご意見も,すべて私に責任があります。ゲームはエンターテインメントですから,ユーザーの皆さんの好みで選択していただけるものだと思っているので,私が本作で提示した何かしらの要素が好きだと感じていただけたなら,ぜひプレイしていただきたいですね。
――オプション画面で,イヴのポニーテールの長さが変えられましたが,あれはどんな意味があるんですか?
キム氏:
イヴのポニーテールは,アクション時に髪の毛が複雑な動きをする技術的な表現として長く設定したんですが,あの長さだとイヴのコスチュームの一部が隠れてしまうことがあるんです。コスチュームをしっかり見たいという方もいらっしゃると思うので,オプションで変えられるようにしました。ゲームの内容に変わりはないので,お好みのほうを選んで楽しんでください(笑)。
――ゲームのBGMの完成度が非常に高く,キャンプで流れるBGMを変えられたりしますが,サウンドクリエイターにはどのようなオーダーをされたのでしょうか。
キム氏:
本作のビジュアルに対して音楽のコンセプトを決めることは,大変難しいポイントでした。韓国ではSFのゲームがあまり作られていませんので,それにマッチするBGMの方向性を決めることには非常に悩んだところです。
私が出したサウンドクリエイターに出したオーダーは,「ボーカル入りのミディアムテンポの曲をたくさん作ってほしい」という点でした。全体的に高級感が漂って,クオリティの高いボーカルが盛り込まれた曲ですね。
――ちなみにボーカルの歌詞は韓国語なんですか?
キム氏:
韓国語と英語の曲が中心ですが,ラテン語や架空の言語を使った曲もあります。ゲーム全体で100曲以上の楽曲を用意していますので,ゲームプレイの際に楽しんでいただければと思います。
――体験版などで日本のユーザーにそのクオリティが伝わったかと思いますが,それを踏まえて本編を期待している皆さんにメッセージをいただけますか。
キム氏:
家庭用ゲームで私が日本のユーザーの皆さんにご挨拶をするのは,2004年の「マグナカルタ」以来 20年ぶりのことで感無量です。
戦闘が好きな方も,冒険が好きな方も,ゲームに慣れている方もそうでない方も楽しく遊べるようなゲームを目指して作ってきました。我々が贈るエンターテインメントとして楽しんでいただくために作っていますので,気軽に手に取っていただきたいですね。
PlayStation 5からできる限りたくさんの方にこの「Stellar Blade」が届いて,それをきっかけに日本のユーザーの皆さんとたくさん交流ができたらといいなと思っています。よろしくお願いします!
――ありがとうございました。
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