プレイレポート
成功を掴むか,それとも罪悪感に潰されるか。とある男の葛藤を描いたADV「ドットホラーストーリー」を紹介
本作は海外では2015年に「DISTRAINT」というタイトルでSteamやスマートフォン向けに発表された作品で,高い評価を受けている。
コンシューマ機向けのリリースにあたり,正式に日本語に対応し,誰もが気軽にプレイできるようになった……わけだが,ずしりと重いテーマを抱えている。本稿では,そんな「ドットホラーストーリー」のプレイレポートをお届けしよう。
主人公のプライスは有名法律事務所の社員だ。といっても,主に任されている仕事は,物件からの立ち退き(Distraint)を住人に迫ること。彼は身寄りのない老女や,人里離れて犬と暮らす男,夢破れたと思しき人物など,さまざまな背景を持つ人々の「家」を訪れ,立ち退きの同意を得るために手を尽くすことになる。
プレイヤーがやるべきことはとてもシンプルで,舞台となるマンションや山小屋などを歩き回り,アイテムを入手し,それを適切な場所で使うという流れを繰り返していく。
個人差はあるだろうが,映画を1本見終わるくらいの時間で,最後までダレることなく楽しめるはずだ。筆者は1か所だけ,時間制限のあるパズルのような場面で苦労したが,そのほかはおおむね淀みなく進められた。
もしアイテムを間違った場所で使ったとしてもゲームオーバーになったり,アイテムを取り直すハメになったりということはほぼ起こらない。むしろ間違った場所で使用してもユーモアたっぷりのリアクションが返ってくるので,それを読むのもまた一興だ。
このように,ゲームの手触りや進め方はとてもスッキリしているが,そこで描かれている物語やテーマはまったくスッキリしないものだったりする。プライスは仕事のストレスでかなり疲弊しており,「実際にはその場にないもの」まで見聞きするようになっている。それどころか,現実と夢の境目も,いまひとつ定かではない。
あるいはこの物語全体が,彼が見る悪夢の中の出来事なのかもしれないが……。
独特のグロテスクさを備えたアートワークも本作の見どころだ。映像全体はわずかに色を帯びたモノクロ風,あるいはセピア風でまとめられている。それにもかかわらず,血のイメージだけは明確な「赤」で表現されるため,プレイヤーに強烈な印象を残す。
無声映画やモノクロ映画,そしてレトロゲームなど,人は表現力の限られたメディアに触れる際,欠けている「音」や「色」,そして「形」をイメージしながら作品を楽しんでいるところがある。
いわば,脳がイメージを増幅するモードに切り替わっているわけで,そこに突如凄惨な光景が差し込まれると,その恐怖はとても大きく感じられる。
物語の中で,プレイヤーは間接的とはいえ,人の「破滅」や「死」に加担することになる。プライス本人が受けた衝撃やストレスが,プレイヤー自身にも伝わる作りになっているのだ。
プライスはストーリー中,ずっと罪悪感に苛まれ続けている。それは作中に繰り返し挿入される「巨象に押し潰されそうになる」光景などで表現されている。
しかし,皮肉なことにプライスの罪悪感が大きくなればなるほど,彼の生活は少しずつ豊かになっていくのだ。
確かに「罪の意識」というものは,個人の成功や幸せを追求するためには不必要なものだろう。しかし,誰もが「罪の意識」を持たずに己の幸せを追求したなら,この世はどんな場所になってしまうだろうか?
それはまさに本作が描く「悪夢のような世界」にほかならないのでは……そんなことを感じさせる作品だった。
作中,プライスはことあるごとにコーヒーを飲むが,本作の物語もまた,苦いコーヒーのような味わいだ。
作者であるJesse Makkonen氏の実体験をどこかで反映しているかのようにも思える印象深いエピソードの数々。それらに触れているうちに,プレイヤーである筆者も己の「過去の所業」「罪悪感」をいろいろと思い出して,身悶えてしまった。
本作は多くの苦い経験を経て生きてきた人がプレイしてこそ,その真の味わいがわかるゲームなのかもしれない。
「ドットホラーストーリー」公式サイト
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(C)2016-2019 Jesse Makkonen. c2019 Ratalaika Games S.L.Licensed to and published by Rainy Frog LLC.
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