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Access Accepted第807回:「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」の楽曲を手掛けた気鋭のアメリカ人作曲家
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印刷2024/11/04 10:00

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Access Accepted第807回:「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」の楽曲を手掛けた気鋭のアメリカ人作曲家

画像集 No.001のサムネイル画像 / Access Accepted第807回:「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」の楽曲を手掛けた気鋭のアメリカ人作曲家

 東京ゲームショウ2024にて,ゲーム音楽の作曲家として注目され,「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」にも携わったウィルバート・ロジェ2世氏にお話を聞く機会があった。今年だけでも「Helldrivers 2」「Pacific Drive」,そして「スター・ウォーズ 無法者たち」などさまざまな参加タイトルが発売されている多忙なロジェ氏だが,今回の来日理由は少し意外なものだった。


数々の名作ゲームに加え,「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」の楽曲を作った男


 2024年9月に開催された東京ゲームショウ2024では新作の発表が相次ぎ,4Gamerに掲載されたニュースやイベント関連記事は467本にもおよぶ。44の国・地域から985社の企業や団体が参加し,4日間の延べ来場者は歴代2位となる総計27万4739人となり,週末はもはや身動きが取れないほどの賑わいだった。
 会期中,海外から訪れている作曲家の取材機会があった。その作曲家とは,フィラデルフィア生まれで今年40歳のウィルバート・ロジェ2世(Wilbert Roget II)氏だ。

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 その略歴によると,ロジェ氏が音楽に触れたのは,ピアノを習い始めた4歳のこと。その後,ゲーム好きになった彼は,植松伸夫氏や崎元 仁氏ら「ファイナルファンタジー」シリーズを手掛けた日本の作曲家のファンとなり,ゲームというメディアで音楽を使ったストーリーテリングに興味を持ったという。2005年にはエール大学に入学し,音楽で学位を得た。

 ロジェ氏がゲーム業界に入ったのは2008年のことで,LucasArts Entertainmentに雇用され,同年にPlayStation 3およびXbox 360向けにリリースされた「Star Wars: The Force Unleashed」のサウンドチームに参加。「Indiana Jones and the Staff of Kings」(2009年)や「Star Wars: The Force Unleashed II」(2010年)などのサウンド編集に関わった後に独立し,スター・ウォーズ作品に多く関わった縁によって,BioWareが2011年にリリースした「Star Wars: The Old Republic」で初めてゲームの作曲家としてデビューすることになった。
 その後のロジェ氏の参加作品を見ても,話題作だらけだ。

  • 「ララ・クロフト アンド テンプル オブ オシリス」(2014年 / スクウェア・エニックス)
  • 「Guild Wars 2: Path of Fire」(2017年 / Arena.net) * 一部のみ
  • 「コール オブ デューティ ワールドウォーII」(2017年 / Activision)
  • 「Destiny 2: Forsaken」(2018年 / SIE)
  • 「モータルコンバット 11」(2019年 / ワーナーブラザーズ)* メインテーマなど一部のみ
  • 「Vader Immortal: A Star Wars VR Series」(2020年 / Disney Interactive)
  • 「Call of Duty: Mobile」(2020年 / Activision & TiMi Studio Group) * シーズン 5の一部およびシーズン9全て
  • 「Mortal Kombat 1」(2023年 / ワーナーブラザーズ)
  • 「Helldivers 2」(2024年 / SIE)
  • 「Pacific Drive」(2024年 / Kepler Interactive)
  • 「スター・ウォーズ 無法者たち」(2024年 / Ubisoft Entertainment)

 こうした作品への楽曲提供だけでなく,ロジェ氏はGame Audio Network Guild(GANG)やAcademy of Interactive Arts and Sciences(AIAS)などのメンバーとして活動するとともに,レクチャラーとしてイベントに立つことも多いため,近年のゲーム業界ではよく知られている。2018年にはGame Developers Conference(GDC)で併催されるGANGアワードで,「コール オブ デューティ ワールドウォーII」が評価されて3部門を受賞するなど,その実力も本物だ。
 直近では,Netflixで公開されたアニメシリーズ「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」にも楽曲を提供している。

フルオーケストラを前に,「スター・ウォーズ 無法者たち」の楽曲のレコーディングに挑むロジェ氏。同作では,それぞれの惑星を表現するために,楽器の構成を細かく変更したという
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ウィルバート・ロジェ2世氏インタビュー


4Gamer:
 「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」がいよいよ公開されますが,今年はどんな1年でしたか?

ウィルバート・ロジェ2世氏(以下,ロジェ氏):
 普通じゃない1年でしたね。何年も関わっていたプロジェクトが,一気に今年になってリリースされたのです。

東京ゲームショウ2024のArea 35にて。日本のゲーム作品に関わりたいと願うロジェ氏にとって,「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」への楽曲提供は大きな弾みになりそうだ
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4Gamer:
 ロジェさんの過去のコメントからは,日本のゲーム音楽にかなり影響を受けていたそうですが。

ロジェ氏:
 はい。私がゲーム音楽を書いてみたいと思ったのは,「ファイナルファンタジー」が原点なんです。植松伸夫さんの存在を知り,そこから広がって光田康典さんが中心となった「クロノ・トリガー」の楽曲を聞いた時は,本当に頭が吹っ飛んだような気分になったのを覚えています。
 それから崎元 仁さんと岩田匡治さんが手掛けた「ファイナルファンタジー タクティクス」も若い頃の私をインスパイアした作品です。とにかくスクウェア・エニックス作品が大好きで,崎元さんと言えば,2000年の「ベイグラントストーリー」でオーケストラでは一般的に使われないような楽器も使っていることに感銘を受けました。大学に入ってからはアニメもよく見るようになって,「カウボーイビバップ」の菅野よう子さんの音楽が好きになりました。

4Gamer:
 なんとなくガンダムにつながってきましたね。

ロジェ氏:
 菅野さんと言えば「∀ガンダム」ですが,ほかにも「新機動戦記ガンダムW」の大谷 幸さん,「機動戦士ガンダム00」の川井憲次さんも私が尊敬する作曲家です。勝手ではありますが,自身がガンダムの新作に関わる機会があったことに感動するとともに,その重責から作曲中は最も苦心したプロジェクトになりました。プレッシャーが,途轍もなかったです。

4Gamer:
 ファンに対するプレッシャーですか?

ロジェ氏:
 ファンもそうですが,同業者に対してもです。菅野さんや大谷さん,川井さんたちは私が尊敬する人たちで,ゲーム業界にとってもレジェンド級の人たちですから,私が突然アメリカからやってきて,作った楽曲が平凡なものに甘んじてしまわないのかという緊張感が常にありました。
 でもある時,サウンドプロデューサーが私に「君を選択した理由があるのだから心配しなくてよい」と背中を押してくれたのです。その理由というのが「コール オブ デューティ ワールドウォーII」の楽曲で,あの戦場のドキドキする感覚をガンダムの世界観に落とし込めるかどうかが,私の「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」での大きな目標となりました。

4Gamer:
 その目標のために,どういった楽曲にされたのでしょうか。

ロジェ氏:
 ガンダムのシリーズ作品を聞いていて興味深いと思ったのは,いずれの作曲家さんたちもヨーロッパのクラシック音楽,例えばベートーベンやチャイコフスキーのエッセンスが感じられることです。最近では,「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」の澤野弘之さんが手掛けられた,クラシックなオーケストラ要素を取り入れた楽曲に感銘を受けました。
 「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」でも,映画音楽っぽくすることなく,ロマンチシズムに溢れたクラシックなオーケストラにすることで,シリーズの伝統を受け継いだ魅力を引き出せていると,皆さんにも感じていただければと思います。

4Gamer:
 フランチャイズ作品の楽曲作りにおいて,先輩たちとコミュニケーションを取ったり意見を仰いだりするものなのでしょうか。

ロジェ氏:
 いえ,そういう慣習はあまりないと思います。大谷さんとはセッション中のスタジオにお越しになっていたのでお会いしたことがありますが,私が多く手掛けたスター・ウォーズ作品も含めて,シリーズの作曲家に意見を仰ぐことはないですね。
 もちろん彼らの楽曲は聞き込みますが,テーマに相応しい雰囲気だとか,その曲が使われるシーンについてディレクターと話し合って,視聴者やプレイヤーの心に響くような自分なりの作品を作り上げていくのです。

4Gamer:
 そもそも,ロジェさんはどうして今回,来日されたのでしょうか。日本でお仕事でも?

ロジェ氏:
 そうなれば良いですね! 私の好きなゲームシリーズは日本で生まれたものが多いので,日本のゲーム作品に関わるのは私の夢であります。しかしそれよりも,私は日本のゲーム業界とアメリカのゲーム業界の橋渡しになれればと考えているのです。現在,私はGANGの運営役員長をしており,Game Developers Conferenceにも大きく関わっています。問題として感じているのは,今年は生涯功労賞に下村陽子さんが選出されたように(関連記事 https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20240209021/),日本には素晴らしい作曲家が多く存在するのに,賞にノミネートするために登録していただいている作品が少ないのです。

4Gamer:
 つまり,TGSに参加するのは,より多くの日本の作曲家さんたちとコンタクトを取りたいから?

ロジェ氏:
 そうです。日本のゲーム業界や企業の方針に一定のルールがあるというのは理解しています。例えば,日本には私のようなフリーランスの作曲家が所属できるGANGのようなギルドが存在しているのでしょうか? 音楽にスポットライトをあてることで,現在音楽に携わっている人ももっと評価されると思うので,そのために私はいつでも協力を惜しみません。

4Gamer:
 なるほど。音楽は国境を越えた言語と言いますしね。

ロジェ氏:
 そうです。もっと交流を重ねることで,我々の創造性も向上しますし,より良い作品が正統に評価されるべきなのです。

4Gamer:
 ロジェさんが楽曲を手掛けたゲームで,最も心に残っているものはなんでしょうか。

ゲーム音楽に携わる業界人たちが参加するGame Audio Network Guild(GANG)のリーダーでもあり,業界イベントへのレクチャラーとしてもオンラインやオフラインで多忙を極めるロジェ氏
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ロジェ氏:
 うーん,反響に驚いたものは「Helldivers 2」ですね。あの規模の作品であれば80万本の売り上げがあれば大成功の部類ですが,1200万本まで伸びましたからね。「A Cup of Liber-Tea」という,ちょっと変わった名前の楽曲を書きましたが,ファンの皆さんのSNSでのコメントを見ていると,あの1本で私の知名度が上がったような気がします(笑)。
 また,最近のゲームでしたら「Pacific Drive」は,肩の力を抜いて非常に楽しく作曲できたプロジェクトです。私がよく使うオーケストラではなく,エレクトロニック系のコンテンポラリーな曲作りができましたから。

4Gamer:
 それでもやはり,ロジェさんと言うとフルオーケストラというイメージがあります。

ロジェ氏:
 そうかもしれません。コンピューターで音楽を作るのは,私と画面だけですが,80人の楽団員がいると80人分の人生や音楽への取り組み方があります。それが,私が想像していたものとは違う音楽となり,時として想像を超えた素晴らしいものになるんです。それがフルオーケストラのたまらない魅力ですね。

4Gamer:
 ずっと皆と一緒にスタジオに籠ったりするものなのでしょうか?

ロジェ氏:
 いえ,あまり知られていないことですが,一般的なゲームのセッションで楽団員の1人あたりのコストは1秒間につき4ドルです。何か一言話しているときも休憩しているときも,1人あたり秒間4ドルが飛んでいくと考えると怖くなります。ですからセッションでは効率的に録音を行っていかなければなりませんが,16年もこの緊張感に包まれていると,かなり慣れてきているほうだと思います(笑)。

4Gamer:
 1秒4ドル! それは確かに怖くなりますね。
 本日は,お時間ありがとうございました。今回の来日が良いものになればと思います。

ロジェ氏:
 こちらこそありがとうございます。

 「Helldrivers 2」や「Pacific Drive」など,まだホットトピックなゲームに関わった経験だけでなく,Netflixで第1シーズンの公開が始まったばかりの「機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム」への参加により,日本人から認知される機会が増えてきたであろうロジェ氏。その楽曲だけでなく,彼のゲーム音楽業界への貢献も頼もしい限りで,今後の活動にも注目していきたいところだ。

ロジェ氏の作品や活動については,YouTubeチャンネルSoundCloudでもチェックできる(写真はIMDbより)
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※次週11月11日の「奥谷海人のAccess Accepted」は筆者取材のため休載します。次回の掲載は11月18日を予定しています。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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