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「SPORE」で作る,あなたの銀河 / 第1回:かくも長き助走
「ええと,次のゲームでは銀河系をシミュレートしよう」と,もし筆者が提案した場合,冷ややかな苦笑をもって反応されるのが関の山だが,これを天才的ゲームデザイナーであるWill Wright(ウィル・ライト)氏が提案した場合,世界が固唾をのんで見守る問題作になるのだから,人生というものは不公平である。歳も近いのに。
銀河シミュレーションの構想について10年近く前から折に触れて語っていたWright氏だったが,「SPORE」(「胞子」「種子」という意味)というタイトルとともにその構想が大っぴらになったのは,2005年にサンフランシスコで開催された「Game Developers Conference 2005」でのこと。生物の誕生と進化を六つ(五つではなく)の進化段階に分け,単細胞生物からスタートしてやがて宇宙に乗り出していくというものであり,当時の記事を読んでいただければ分かるように,現在のSPOREと似ていながらも微妙に違っているのが興味深い。
Wright氏のレクチャーが終わったとき,満員の聴衆は万雷の拍手とスタンディングオペーションで彼の新作を迎え入れたのである。とはいえ,話があんまり大きすぎて,内心「で,それってどんなゲームなの?」と思った人も多いはずだ。
その後,ロサンゼルスで開催されたE3(Electronic Entertainment Expo)でムービーが公開されたり,ドイツのGames Conventionでクリーチャー クリエイター のβ版がプレイアブル展示されたりして開発は順調のように見えたものの,二度にわたってリリースが大幅に延期され,さすがのWright氏も相手がだだっ広い宇宙だけに割と苦労しているに違いないと想像されたものである。
やがて情報も限定的になり,エディタの内容やSNSなどとの連動といったことは発表されるものの,肝心のゲームについては,発売日にかなり近づくまで「Wright氏だけが知っている」という状況だったように記憶している。
さて,もう何度も書いているような気がするが,ゲームは五つの“ステージ”(以前は“フェイズ”と呼ばれていたこともあるが,日本語版ではステージに統一)で構成されている。プレイヤーはそれら「細胞ステージ」「クリーチャーステージ」「集落ステージ」「文明ステージ」,そして「宇宙ステージ」を通じて数十億年にわたる生命の旅を追体験しつつ,自分の好きなように作り上げた生き物や建物,ビークルなどを使ってあなた好みの宇宙を作り上げていくというシミュレーションだ。
これらのステージは操作法からクリアの目的までそれぞれ違い,ちょっと見には五つのゲームが集まったような印象を受ける。
例えば細胞ステージ,プレイヤーはたった一匹の生物を操作して潮だまりをふわふわと泳ぎつつ,草食動物なら植物を,肉食動物なら肉片だのほかの単細胞生物だのを食べていく。ほかの生物から襲われたり,食料の奪い合いだのといった生存競争を切り抜けながら進化を続けていくのだ。
やがて多細胞生物になって足を獲得し,上陸を果たす。そこには先んじて陸に住み家を求めた種族がおり,このクリーチャーステージでは彼らとの競争が待っている。
クリーチャーステージでは種族の概念が出てくるが,彼らが一人の族長のもとに集団行動するのは,次の集落ステージでのこと。集落ステージでは多数のクリーチャーを操作することになるため操作方法が変わり,これまでとは違ったRTSっぽい慌ただしさが待っている。
RTS色がさらに強くなるのは,次の文明ステージからだ。登場する生き物は一種類(あなたの種族が惑星の覇者になったのである)だが,今度は国家という概念が現れる。国家間の生存競争なのだが,ここでまた操作法などが変化し,戦うにせよ仲間に引き入れるにせよ,その星を自分のモノにすることが目的となる。
……かくして,惑星を統一したあなたや私は,宇宙へとその目を向けるというのがゲームのあまりにもザックリとした流れである。
果たして,そんなSPOREとはいかなるゲームなのか? について,今日から4回にわたって紹介していこうかと思う。とっくにプレイしている人もかなり多いと思うが,まだの人はぜひここで必要以上にワクワクしてもらえると,私も楽なのでよろしくお願いします。
第1回となる今回は,細胞ステージとクリーチャーステージについて紹介しよう。
生命誕生のいきさつについては諸説あるが,SPOREで採用されているのはいわゆる「パンスペルミア仮説」だ。これは,あまねく宇宙には生命が存在しており,それが何かに乗っかって地球にやってきたというもの。最近の宇宙論ではあまり人気のない仮説らしいが,それはともかくゲーム冒頭,灼熱する惑星がやがて冷えて海ができ,そこに降り注ぐ隕石の中にあなたの単細胞生物がひっそりと隠れているというアンバイだ。
ゲーム開始前,プレイヤーはその単細胞生物が「草食」か「肉食」かを選ぶことになる。もっとも,誰でも知っている秘密テクニックの使用により雑食にすることも可能。これは肉食用の口と草食用の口を一緒に取り付けることによって可能になる。
ただし,単に両方の口を取りつけておくだけではダメで,緑色の塊と肉片をまんべんなく食べていなくては,次のクリーチャーステージで結局どちらかになってしまう。雑食動物たるもの,偏食はいけないということだが,自分の単細胞生物がどっちに偏っているかは「歴史」ボタンを押すことで確認できる。
まあその,攻略というほどのことのないチュートリアル的なステージだが,ともあれプレイヤーはその単細胞野郎をふわふわ泳がせて,エサを食べていく以外,さほどやることはない……と思っていたら,おおっと,向こうから大型肉食単細胞生物がやってくるではないか。ここは,三十六計逃げるにしかずである。とはいえ相手のスピードも速く,哀れ,あなたは食べられてしまった。デッド・オア・アライブ。生存競争は厳しい。
だがゲームオーバーというわけではない。いつの間にやら,プレイヤーの操作する種族はたくさん増えており,再び別の個体として生まれ変わってプレイ再開だ。行く川の流れと命の流れは連綿として途絶えることがないのである。
漂う植物のカケラや肉片などを次々に口に運び,ときには別の種族を襲ったりして「DNAポイント」を増やしていこう。進捗状況は,ゲーム画面の下に横たわるプログレスゲージで確認できる。ときどき,スパイクだのヒレだのといったパーツを作れるDNAを獲得することがある。そういうときには「求愛コール」で同種族の異性を呼ぶのだが……うーん,単細胞生物の分際でどうしてオスだのメスだのがあるのかという点をあまり気にしてはいけないだろう。ハートのマークを浮かせたお相手がやってくると単細胞生物専用のエディタが開き,ここで獲得したさまざまなパーツを子孫どもに与えられる。
DNAポイントが不足してパーツが購入できない場合もあるのだが,ところでこれ,誰から買ってるんだろう?
ともあれ,さあ,スピードが遅くてどうも食べられやすいなあと日頃お嘆きの方は,ヒレをどうぞ。スイスイです。いつもいじめるアイツに復讐してやりたいという方は,とんがったクチバシが大変お得。食事にも使えるうえ,突っついて逆に食べてやれるのも嬉しいところ。ゴーゴー。
と,このようにして,やがてプレイヤーの単細胞生物は潮だまりの覇者となり,新たな住居を地上に定めることになる。上陸である。
と,その前に潮だまりに生きる単細胞生物の比較単調だが,それなりに喜怒哀楽のある暮らし向きを撮影してので,軽く見てほしい。
肉食動物はその性質上,他種族を襲う必要が出てくるが,最初のうちは連中もなかなか手強く,返り討ちにあう場合もしばしばだ。とはいえ,ほかの種族を倒すことでパーツを入手できる場合が多いので,進化には向いている。
反対に草食動物は,そこらへんに生えている緑色の塊をかじっていればいいので,暮らし向きは楽なモノだが,パーツの入手が面倒で大型単細胞生物のエジキになりやすい。
というわけで,もし現在の食性と異なる口パーツを手に入れた場合,両方くっつけて雑食になっておくのがプレイするには楽である。この性質は次のクリーチャーステージにも持ち越されるので,やはり雑食は楽だ。何でも食べられる。
とはいえ,もちろん「私は草食動物で銀河を支配する」というベジタリアンの人は,そのようにゲームを進めればいいのである。
生命の発生は約39〜40億年前のことと考えられている。地球は誕生してから約45億年が経過しており,これを分かりやすく一年に例えると,生命の誕生は2月の末あたりのことになる。やがて多細胞生物になり,魚類などに進化し,ついに上陸に至るのだが,これは約5〜4億年前のことで,これをまた1年に例えると,なんと11月頃の話になる(筆者の計算による)。つまり,地球の歴史のほとんどすべての時代は,地上に一木一草もなく,海の中の小さな小さな生き物がきわめてゆっくり進化しているといった情景が広がっていたのである。誰も言わないので自分で言うが,ためになる記事だ。
だが,あなたや私の生物にとってはこれからが本番。
“足”を獲得したあなたのクリーチャーが地上にあがってみると,そこにはすでに先行する種族が居を構えており,ここでもまた厳しい生存競争がプレイヤーを待っている。
このクリーチャーステージの目的は我々のような「知的生命への進化」だ。普段,ついつい忘れがちだが,我々は知的生命体なのである。「職場で私の隣の席に座っている男は,どうも知的生命体とは思えないなあ」なんて言われても困るので,それはそっと胸にしまっておこう。ちなみに,細胞ステージは2Dだが,ここからは完全3Dグラフィックスになる。
さて,進化の主たる要因は「環境」だ。SPOREにおける環境とは「ほかの種族」と同義であり,つまり,ほかの種族と関わり合うことによって知的生命への道が開けるのである。
関わり合いかたには,「攻撃スタンス」と「社交スタンス」がある。一般的に,肉食動物は攻撃スタンスに長け,草食動物は社交スタンスを得意とするが,これは,細胞ステージから受け継ぐ「継承アビリティー」によるものだ。肉食動物の継承アビリティーは「激しいうなり声」で,草食動物のそれは「セイレーンの歌」,そして雑食の場合は「群集の召喚」となり,それぞれの生き方を助けてくれる。
戦っている最中「ああ,こりゃダメだ」となったときに激しいうなり声を上げれば,ほかの連中は一瞬ひるむので,そのスキに逃げ出せる。セイレーンの歌は,どんな相手でも一定時間感心させられるので,友達になりやすい。どこからともなく現れた群集というか,ほかの友好的な種族は,社交にも戦闘にも役に立つという寸法だ。
さて,この段階でのプレイは簡単。すなわち,ほかの種族を攻撃して相手をエサにするか,友好的に接して仲間にするかのいずれかというわけである。
肉食動物の場合,ほかの動物を襲って食べない限り空腹で死んでしまうわけで,必然的に攻撃主体とならざるを得ないような気がする。自分と違う生き物はとりあえずエサであるのだ。群れの一匹を攻撃すると「3匹の××を狩りましょう」という表示が出るので,それを達成することで相手の種族は絶滅する。気弱な種族がこちらを見てブルブル震えていたり,あるいは彼らの子供にまで手をかけなければいけないなど,肉食の暮らしはなかなかシビアである。生きるためだ,仕方がない。
もっとも,相手も捕食性でしかも強力だった場合,自分がエサになってしまう。それを防ぐにはパーツ探しを行い,攻撃的な形質を獲得することだ。パーツは相手を倒したり,ピカピカ光っている「骨」のあたりを掘り返すことで入手できる。「かみつく」「突進」「ストライク」,あるいは「スピッツ」という能力を持ったパーツを入手したら,またお相手を見つけてクリーチャー用のエディタ(つまりこれが,クリーチャー クリエイター)に入り,あなたの子孫をさらに強力にしよう。もっとも,それなりの数の敵を倒してDNAポイントを確保しておかないと,コスト不足で取りつけられなくなるので注意が必要だ。とりあえず,世界を食らい尽くすという気構えを持って進化に臨みたいところである。
草食動物の目的は,とりあえず社交スタンスで相手の種族を感心させること。食べるだけなら,そのへんに生えている植物を口に運べばいいので手間いらずなのだ。社交スタンスで相手に近づいていくと,「4匹の××を感心させましょう」といった表示が出るので,達成すればその種族は味方になり,以降,彼らの巣で体力を回復したりできるようになる。
感心させるには,とりあえず相手の行動をそっくり真似することが必要で,社交の進捗につれてゲージが上がり,それが一杯になったら目的達成だ。ただ,相手が何をやっているのかがちょっと分かりにくいのが困りもので,「歌う」と「踊る」は簡単だが,「チャーム」「ポーズ」が区別しづらくて慣れが必要だ。もちろん,こちらもしかるべきパーツを見つけて取りつけておかないと,歌に感心してもらえなかったり,そもそもポーズが取れなかったりする。
草食動物の場合,DNAポイントはほかの種族を味方にすることによって獲得する。
雑食動物はケース・バイ・ケース。継承アビリティーによって呼び出した仲間は,戦闘には参戦してくれるし,社交には一緒に歌ったり踊ったりしてくれるので,ここでも雑食はいいなあ。口が二つってのは,えーと,ちょっと気になるけど。
……やがて,彼らの素朴な脳はほかの種族との接触によって拡大し,「群れ」の形成が可能になる。ようするに,一,二匹の同族または友好関係にある種族の個体を引き連れて歩き回れるのである。仲間がいれば戦闘においても社交においても有利になる。
かくして,プログレスゲージが一杯になれば,クリーチャーステージは終了だ。ほかにもいろいろあるが,まあ基本は以上のごとく。詳しくはゲーム中の「SPOREガイド」をぜひご覧あそばせ。
ステージ終了間際にもう一度クリーチャー クリエイターが開く。クリーチャーの形を変えるこれが最後のチャンスとなるので,よく考えておこう。なぜならこれ以降,能力は彼らの身体的特徴ではなく「道具」によって付与されていくのだ。いよいよ「集落ステージ」が始まるのである。
さて,下のムービーはクリーチャーどもが社交したり戦闘したりする様子を撮影したもの。題して「戦争と平和」って,ちょっとベタでしたか?
というわけで,今回は序盤の二つのステージを簡単に紹介した。文字で書くといろいろな要素があって複雑そうだが,実際にプレイしてみれば実は簡単。ゲームオーバーになることもなく,あれやこれや試しながら進められるチュートリアル的なステージであり,それでいてSPOREのいささか風変わりなムードをたっぷりと味わえるはず。
発売後,さっそく世界累計100万本の販売実績を記録したという本作。PCゲームとしては,久々の大ヒット作となることは間違いなく,やるなあという感じ。ますます面白くなるような予感がしてならない来週の集落/文明ステージもお楽しみに。
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