“発売延期”は,欧米ゲーム業界の恒例行事になってしまっているようだが,その知らせを聞くたびにヤキモキしてしまう人も少なくないはず。2007年に入ってからは,「Half-Life 2: Episode Two」や「Warhammer Online: Age of Reckoning」,さらにはあの「Spore」までが発売予定日の延期を発表している。果たして誰も望まない発売延期はなぜ起こるのだろうか。
あと一年は待たされることになった「Spore」
2007年にリリースされるPCゲームの本命と思われていただけに,Sporeの発売延期は非常に残念
2007年5月8日(現地時間),Electronic Artsは,“ダーウィンの進化論”シミュレーション「Spore」の発売を,大幅に延期することを発表した。これは,株主への定例会合で明らかになったものだ。
予定としては,2008年3月31日が新たな発売時期に設定されている。いかにも「本年度の会計に間に合うようにゲームを仕上げます」という,“言わされた”期日に見えてしかたがない。
すでにお伝えしているとおり,Sporeは,単細胞生物からスタートするプレイヤーキャラクターが,世代を通してより複雑な生命体へと進化していき,やがては惑星を支配するような文明を生み,宇宙の開拓に乗り出すという壮大なスケールのゲームだ。
プレイヤーキャラクターの進化形態に合わせて,ゲーム性が大きく変わるのに加え,プレイヤーが粘土細工のようにクリーチャーをデザインし,それをProcedural Animationと呼ばれる技術を利用して,ゲーム内で動かせるなど見どころが多い。
開発者であるWill Wright(ウィル・ライト)氏は,「プレイヤーがスター・ウォーズや指輪物語の主人公としてプレイするゲームではなく,(映画監督や作家である)ジョージ・ルーカスやJ・R・R・トールキンになるためのゲーム」だと説明している。
その壮大なスケールや技術力の高さ,ゲームでありながらツールソフトと言っても過言でないオープンエンドな感覚,そしてクリーチャーの交換などを通したコミュニティ形成など,ワクワクしてくる要素が多いゲームなのだ。
今年も,ぞろぞろと延期が発表されていく……
そんなSporeが,2007年内に遊べなくなったのは本当に残念。しかも,Electronic Artsの新CEO John Riccitiello(ジョン・リキティエロ)氏が上述した会合で,「Sporeの開発は,2008年第1四半期に終わる見通しだが,2008年4〜6月になることもある」と語っていたという。つまり,今のところ来年夏近くにまで遅れる可能性も肯定されているのだ。
Sporeは,開発費が4000万ドル(約50億円)を超えているとも言われている。しかし,現時点でさらに1年以上も遅れる可能性を示唆していることを考えると,“ヒット予定作を早く発売して元を取る”のではなく,“ヒット予定作を大ヒット予定作になるまで作らせる”という,Electronic Artsなりの開発者への思いやりと見るべきだろうか。
Electronic ArtsのCEOに就任したばかりのジョン・リキティエロ氏は,短期間だけ投資事業立ち上げのために退社していたものの,元々は同社のCOOとして腕を振るっていた人物。今後のEAはどうなっていくのだろうか
PCゲームファンにとっては,ゲームソフトの発売延期はいつものことで,制作発表当初の予定どおりにリリースされることのほうが少ない。もはや慣れっこになってしまった人もいるだろう。
例えば,ライト氏の前作「The Sims 2」は,2000年末に発表された発売予定は2003年春だったが,実際にリリースされたのは2004年の9月だった。
以前,「第4回:すでに開発8年目に入った,あの迷作について」で詳しく書いたが,開発の延期で有名なゲームといえば,あの「Duke Nukem Forever」をおいて,ほかにないだろう。前作「Duke Nukem 3D」がリリースされたのが1996年のことで,同年末にはDuke Nukem Foreverの企画があったということを考えると,開発開始から10年を超えてしまったわけだ。
THQから3月にリリースされたばかりの「S.T.A.L.K.E.R.: Shadow of Chernobyl」は,発表されたのが2001年末で,当初の発売予定は2003年末だった。また,Richard Garriott(リチャード・ギャリオット)氏が開発している「Tabula Rasa」も,2001年末に制作が開始していたが,ようやくクローズドβテストに入ったことがニュースになったばかりだ。
どちらもさまざまな要因で,リリースまでに6年以上を費やしている。これらに比べれば,本格的な開発が2004年に開始されたSporeの延期は,可愛いものかもしれない。
2007年になって,延期が発表されたタイトル(の一部) |
Savage 2: A Tortured Soul | 2006年末 | →2007年 |
Gods & Heroes: Rome Rising | 2007年第2四半期 | →2007年夏 |
Half_Life 2: Episode Two | 2007年第2四半期 | →2007年秋 |
Gray Matter | 2007年末 | →2008年第1四半期 |
Frontline: Fuel of War | 2007年第3四半期 | →2008年第1四半期 |
Wahammer Online: Age of Reckoning | 2007年末 | →2008年第1四半期 |
Alan Wake: A Psychological Action Thriller | 2007年 | →2008年 |
発売予定日を発表する意味はどこにあるのだろうか
Crytekの「Far Cry」も発売が遅れたタイトルの一つで,一年以上も延期された。とはいえ,発売されるや否やヒット作となった
なぜゲームの発売予定が遅れてしまうのだろうか? 聞く人によって答えは異なるが,ヨーロッパのとある独立系デベロッパに属する開発者は,「プログラマーやアーティストには,スケジュール管理が苦手な人が多いからかな」と,自虐的に笑いながら筆者に話してくれたことがある。
中小規模の開発会社では,一分野に秀でた技術屋タイプに人材が偏りがちで,うまくチームをまとめてロードマップを組み立てる能力のある人が少ないのだろう。
とはいえ,アメリカでは大きな規模の開発会社でもプロジェクトが遅れるのは珍しくない。これに対しては,アメリカの某ゲーム誌の編集者が「ゲームに詳しくない企業から投資(開発資金)を受けるには,より壮大なプロジェクトのほうが魅力的に見える。そうするうちにゲームの規模が膨らんで,収拾がつかなくなってしまうようだ」と内情を話してくれた。
グラフィックスに凝っていなかったり,CGを使ったムービーを用意していなかったりというだけで,投資家達から見向きもされないということがあるのだそうだ。
発売予定日が変わってしまう理由がなんであれ,ここまで守れない会社が多いなら,期日を公表することに何の意味があるのか分からなくなってくる。Id SoftwareやEpic Gamesと同じように,発売予定日は「When it's done」(完成したとき)で問題ないのではないか,というのが筆者の本音だ。
発売を期待させておいて,結果としてはぐらかしている現状は,好ましい状況ではない。発表のタイミングや報道の仕方などを含め,業界全体としてなんらかの対策を考えるときが来ているのではないだろうか。