Kim Hakkyu氏インタビュー

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〜常にそういう新しい層をつかまえることを念頭に置いて新作の開発をしなきゃならない

Hakkyu:

 思うんですけどね,どこの国でも,オンラインゲームってこういう風に広がっていくと思うんですよ。もちろん,分かりやすくするために,かなり簡潔に描いてますけど。

4G:
 興味深い図案ですね。

Hakkyu:
 でしょう? まず最初はどこでも小さいパイですよね(図B−1部)。いきなり大勢の人がいるわけないですし,韓国にしてもそうでした。

4G:
 ええ。

Hakkyu:
 その最初の作品が,ある程度の層にリーチして,一定のプレイヤー数を確保します(図B−2部)。これがオンラインゲーム市場の拡大の発端ですね。
 ただここで注意してほしいのは,この一定のプレイヤー数というものは,ボーダーラインまでくるとほぼ拡大しないということです。つまり,そのゲームが持つ"魅力"というものを理解してくれる人は,いくらパブリシティを行っても一定以上には増えないのです。
 では市場が広がるためにはどうすればいいのか? この下に広がっていく三角形の裾野を広げるためには,最初のターゲットとは違うところを目指した作品が登場しないとならないわけです。それがここ(図B−3部)ですね。

4G:
 そこの分岐点で,さらなるユーザーを捉えて市場が広がるっていうことですね。

Hakkyu:
 そうです。なんていうか,"文化分岐点"とでもいいましょうか。ここで,登場した新作がいままでの層(図B−2部)と違った層を捉えることで新たな三角形が分岐して,また一定数確保していくと。でもこれはこれでまた一定数しかつかまえられないので,どんどんそういう"分岐点"が増えていかないと,市場そのもの(図B全体)が広がっていかないんです。

4G:
 なるほど。"新作でのみ市場は広がる"ということだと極端に捉えちゃってもいいですか?

Hakkyu:
 概ね正しい解釈じゃないかと思いますよ。我々開発者は,常にそういう新しい層をつかまえることを念頭に置いて新作の開発をしなきゃならないと思うんですよ。

4G:
 でもその構図によるなら,いままでの層とカブる新作では,新たな層が取得できない=成功は望めない,という図が描けますよね?

Hakkyu:
 ええ。どんな偶発的要因があるかは分からないのでそれを言い切ることはできませんが,限りなく確率が薄いんじゃないかということは考えてます。

4G:
 いまの韓国市場には,そういう分岐点たり得る作品が少ない,と。

Hakkyu:
 Lineageの成功によって,韓国MMORPGプレイヤーにとっての「MMOとはこういうものだ」という概念ができていて,メーカーもプレイヤーもそれにしがみついてる状況だと思うんですよ,今って。

4G:
 なるほど。Granadoは,その新しい"分岐点"を目指して作られてるわけなんですね。

Hakkyu:
 ええ。リスクを冒して(笑)。私の標語は「Safety is risky」ですから。

4G:
 耳が痛い言葉ですね。

Hakkyu:
 私が感銘を受けた本に,Al Ries Jack Troutの「Positioning:The Battle for Your Mind」と,Jeffery Mooreの「Crossing the Chasm」があります。これぜひクリエイターの人は読んでみてほしいですね。で,この2冊の本の理論が意味するものは"ニッチ"です。
 分岐点になるということは,言い換えればニッチな部分を的確に突くということですよね。でもニッチなところから市場を広げるのは並大抵のことではなく,言うならば戦争のようなものです。ほかの競合コンテンツの動きを把握して,限られたヒューマンリソースを有効に活用しなくてはなりません。

4G:
 その分岐点は,「そこまでのものとまったく違う何か」を持ってきても,おそらくはそうそううまく機能しないですよね?

Hakkyu:
 そうですね。あまりに違うものでは,それはそれで意味がありません。それまでのものを踏まえたものでなにか新しいものを作らないと。そうですね……音楽とかによく似てるかもしれません。
 音楽を例にとると,"ロック"というジャンルから,色んなものが派生しましたよね。メタル然り,ハードロック然り。元々ある「ロック」というものからあまりにも違うものが生まれるということはないのです。

4G:
 ええ,分かります。

Hakkyu:
 ある意味,文化遺伝子の理論なんですよ,これ。元々あるものから,新しい遺伝子を探さないといけないのです。まったく違ったものから突然変異を起こすことは期待できません。オンラインゲームというものは,最初小さい市場からスタートしてどんどん大きくなっているんだけど,その最初の文化遺伝子がどこまで広がるかは誰にも分かりません。どんどん巨大化するかもしれないし,すごく少ない数字で止まるかもしれない。それはたぶん,その国ごとの事情とかもありますよね。日本と韓国ではまた違うだろうし。
 なににせよ,そうやって新たな文化遺伝子を獲得してどんどん増殖しないと,市場全体が大きくなっていくことはありえないと思うんですよ。

4G:
 なるほど。それに則るなら,日本には巨大な文化遺伝子と呼べる分岐が,まだ二つしかないといえますね。

Hakkyu:
 ROとFFですね。

4G:
 そうです。少なくとも私はそう思ってます。韓国ではどんな感じで広がっていったんですか?

Hakkyu:
 まずは「風の王国」ですね。ここから本格的なMMORPG文化が始まったといっても過言ではないでしょう。続いてLineage,ここで一気にプレイヤー数が増加しました。あと大きな波としては,MuとROが挙げられるでしょうか。

4G:
 最近でいうならLineageIIってどういう感じで位置してるんですか?

Hakkyu:
 LineageIIは「2」と名乗っているけれども,実質「1」とは違う層を結構捕らえてますね。でもいままでにいなかった層が新規で増えたわけでもなさそうだし,この図で言うところの巨大な文化遺伝子とまで呼べるかどうか,ちょっと見極めが難しいです。若干は侵食してるのかもしれません。

4G:
 日本では,客観的に見て「ライト」と「コア」の狭間で苦労しているように見えますね。どちらとも決めかねてる感じのプロモーションと売り方に見えますし。

Hakkyu:
 "キレイな3D MMORPG"というだけなら,日本はFFとかもありますしね。

4G:
 しかしそうすると,ユーザー数を確保しようと思ったら,どこかの"線"に乗れる作品じゃないとつらいですよね。いくら文化遺伝子といえど,どこかの"線"を引っ張ってるわけじゃないですか。

Hakkyu:
 そうですね。どこにも属さない,という突然変異的なものについては,また別な次元の話です。

4G:
 そういうものの場合はどうなるんですか? いまHakkyuさんが作ってるGranadoなど,一見するとかなり斬新なシステムなので,どこの線にも乗らない作品のような気がするんですけれど。

Hakkyu:
 3D MMORPGである,という以外は結構違うものですからね……。こういう場合は,別な施策が必要です。相手としてみている作品の,弱い部分を攻撃することが重要ですね。先ほど述べたように,これは一種の"戦争"なんですから。念入りな調査は必要です。
 仮にも新規で参入しようと思っているメーカーが,"市場なんて拡大するしな"とか楽観的に入ってくるなどもってのほかです。その時点ですでに失敗が約束されているようなものです。

4G:
 例えばですね。そうですね……例えば韓国市場を例にとらせてください。LineageとMuがいいかな。その二つの強力なMMOがすでに存在する状況で,Granadoは新たな客層を広げようと思って開発しているわけじゃないですか。

Hakkyu:
 うん,そうですね。

4G:
 でもすごくイヤな言い方をすれば,LineageもMuもやっていない層なんて,現実的にほとんどいないと思うんですよ。すると,どこかから奪い取ってこないとならないわけですよね?

Hakkyu:
 まぁ実質そうなるかもしれませんね。

4G:
 その場合のターゲットというのは,どのへんの人たちを考えてるんですか?

Hakkyu:
 ちょっとこれ,言葉だと分かりづらいので図にしましょう。図描いてばっかりですね(笑)。


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