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[CJ 2007#番外編]会社はWoWのみで出来ているわけではない。The9代表 朱駿氏のショートインタビュー
2007/07/19 18:47
ChinaJoy会場からほど近い場所にあるThe9の社屋
 日本でこそ万人に知られている著名な会社というわけではないが,いま中国で最も勢いのあるオンラインゲーム会社は,間違いなく「The9」だろう。現在,世界中で最もプレイヤー数の多いMMORPG「World of Warcraft」の,中国での運営を行っているThe9は,同作の人気に引っ張られる形で,急速にその勢力を拡大している。
 しかしその一方,現状でその収益のほとんどを同作に負っている同社の経営体質は,World of Warcraftの人気次第で,いとも簡単に突き崩されてしまうという弱点をも抱えていることは間違いない。The9は,そこをどのように捉えているのだろうか。

 The9の代表である朱駿(J.Zhu)氏にそこを聞いてみたいと思いコンタクトを取ってみたが,政府関係者や金融関係者などとのミーティング,テレビ出演などで,文字通り分刻みのスケジュールで動いている氏の予定を,日本のメディアが押さえることは極めて難しく,「これはもうダメかな」と思って諦めていた。ふとしたことから,とある人物を通じてコンタクトを取ることに成功し,30分だけ時間をもらうことができた次第だ。
 「代表は忙しい身ですから,あなたがたがこちらまで来てください」という,いかにもな言葉と共に許可をもらい,ChinaJoy会場から車で10分くらいのところに社屋を構えるThe9を訪問,わずか30分程度のコンタクトに成功した。なにぶん大したことは聞けなかったのだが,成長のまっただ中にある会社の代表の,自信に満ちた雰囲気が少しでも伝われば幸いだ。

既存タイトルから新作まで,計10本のタイトルを出展していたThe9ブース。[CJ 2007#38]の記事でブースレポートをお伝えしているので,そちらもチェックしてほしい


■多くのゲームを運営するが,ポータル化の構想は一切なし

The9(第九城市)代表 朱駿(J.Zhu)氏。堂々たる態度,答えづらそうな質問にも素早く返ってくる返答,刺すような目線。急速にのし上がってきた人物は,やはりオーラが違う
4Gamer:
 先ほど上海の若者に聞いたら,頻繁にテレビなどにも出演する多忙な方だったんですね。The9の方に「社長は30分が限界です」と言われたのですが,それほど忙しいとは知らず,わざわざお時間を取っていただいてありがとうございます。本日はよろしくお願いします。

朱駿氏:
 いえいえ,まったく問題ありませんよ。こちらこそ,よろしく。

4Gamer:
 時間もないので手短に進めますね。
 色々と中国事情を調べているときに,中国のオンラインゲームパブリッシャの中で,ほかの会社とは明らかに一線を画していると感じたものの一つがThe9です。なぜこれほどまでにたくさんの大作MMORPGを,一手に運営しているのですか?

朱駿氏:
 MMORPGばかりじゃなくて,「FIFA Online」や「Audition2」(勁舞団II)などの運営権も獲得していますよ。

4Gamer:
 ええ,確かにそのとおりですが,他社であれば主力級のMMORPGをこれほど揃えているところはありませんよね?

朱駿氏:
 あぁ,なるほど。確かにそうですね。NETEASE(網易)やSHANDA(盛大)などは,主力級と呼べる大きなタイトルを一つか二つ程度しか持っていません。確かにそういう意味では,The9はほかとは違うかもしれません。

4Gamer:
 2005年6月に「World of Warcraft」(魔獣世界,以下WoW)の運営を始めてから,一気にこうした方針が推し進められているように見えます。最近日本ではゲームポータル事業が活発になっていますが,The9はこれだけの数のタイトルを抱えているのに,自前のポータルを持っていませんよね。今後は,ポータル事業に乗り出すようなことも考えているんでしょうか?

朱駿氏:
 当面はそうした計画はありません。しかし,The9では比較的小さなオンラインゲームも含めて,複数のタイトルのサービスを行っていますので,ある意味,ポータル的側面も持っていると言えるんじゃないでしょうか。ゲームポータルというよりは,プラットフォームに近づいていくと言ったほうが近いかもしれませんね。

4Gamer:
 数多くあるタイトルのうちで,間違いなく主力タイトルなのがWoWだと思います。中国のアナリストの中には,同作の今後の成長性を過小評価する意見も散見されますが,その点についてはどのようにお考えですか?

朱駿氏:
 一体どんな理由で過小評価するのかはさっぱり分かりませんが,いまのところWoWの勢いが衰える様子はまったくありません。

4Gamer:
 中国でのプレイヤー数は現在どのくらいなんですか?

朱駿氏:
 最近の報告では700万人くらいです。

4Gamer:
 その700万のユーザーの同時接続数はどのくらいになるんですか?

朱駿氏:
 約60万人ですね。

4Gamer:
 同時接続数60万人ですか……。

「SUN」(上段)や,「グラナド・エスパダ」(下段)など,ほかの運営会社であればそれ一つで主力級とも言えるタイトルを数多く運営するThe9。これほどまでに大作を揃えた運営会社は,世界を見渡してみても稀だ


■The9は「World of Warcraft」だけの会社ではない

4Gamer:
 さてWoWの話から入ったのは,実は御社の運営について一つ気になる点が。実に収益の98%もの部分をWoWに依存している御社にとって,もしも近い将来にWoWのプレイヤー数が減少して,収益が上がらなくなったときにはどういう行動を取る予定ですか? また,そうなったときのために,現在どのような手を打っているんですか?

朱駿氏:
 それに対する答えは二つあります。一つには,WoWはこの先もまだまだ人気が持続するだろうということ。原作の「Warcraft」は,中国で最も人気のあるPCゲームの一つで,WoWの人気も非常に高いです。
 二つめは,The9は,ほかのタイトルでもすでに大きなプレイヤー数を獲得しているということです。中国では,「Audition」(勁舞団)などのダンスゲームの人気が非常に高く,多くの同時接続者数を達成しています。

4Gamer:
 それは,どのくらいの人数なんでしょうか?

朱駿氏:
 Auditionの同時接続者数は70万人くらいで,The9は「Audition2」の運営権を獲得しています。Auditionは現在,NINEYOU(9YOU)が運営していますが,The9ではその後継作の運営権をもっているので,大きな期待をしています。

4Gamer:
 それはWoW以上の数字ですね。ところでその運営権獲得に関して,ちょうど先頃,世間では情報が錯綜していたのですが,The9は,Auditionシリーズの何作めまでの権利を獲得したんですか?

朱駿氏:
 それは一切お答えできません。あなたがたはメディアですからね(笑)。ただ,このほかにも「Hellgate: London」(暗黒之門)の運営権なども獲得していますので,収益の低下による会社の危機といったような問題は,まったくありません。

4Gamer:
 とはいえ,事実上WoWへの依存度は相当高いですよね。では質問を変えまして,WoWは,中国でこの先何年持つと思いますか?

朱駿氏:
 何年続くかまでは予想できません。ただ,現在のプレイヤー人気の高さを鑑み,同時接続100万人まで耐えられるサーバーをすでに用意しています。WoWは非常に素晴らしい作品なので,まだまだこのままいけるでしょう。
 中国マーケットは急速に成長しており,しかも日本やアメリカが比較にならないほどに巨大です。マーケットの拡大とともに,The9も発展していくと考えています。

中国でのプレイヤー数700万人,同時接続者数60万人という圧倒的人気を誇る「World of Warcraft」。同社の売り上げの実に98%を占める,大黒柱ともいえるタイトルだ


■自社開発を視野に入れた今後の展開

4Gamer:
 ところで,The9では自社開発をしないのはなぜですか? 莫大な資本を元に開発会社などを買収して,自社開発に乗り出すという手も十分にあると思うのですが,なぜそうしないのかを不思議に感じます。

朱駿氏:
 実はここで初めて話すことなのですが――まだ正式な発表はできませんが――The9では今,韓国や北米の開発会社と共同作業という形で自社開発を進めています。
 これまで中国でオンラインゲームの開発に成功した会社は,そのほとんどが2Dグラフィックスのゲームで,いまでも2Dグラフィックスのゲームがたくさんあります。2Dグラフィックスがメインだった頃は,NETEASEやSHANDAがトップ企業でした。しかし,そうした中で,WoWのような3Dグラフィックスの作品を持ってくることで競争力を高めるというのが,The9の戦略です。今後,3Dグラフィックスのゲームが中心的な存在となったときには,The9がトップに立っていると思います。

4Gamer:
 他社を遙かに先んじて次の主力となるゲームを投入するのが,The9の戦略というわけですね。しかし共同開発というのは,確かに初めて聞きました。それは,The9の開発チームと韓国や北米の開発会社が,共同で作業を進めているということですか?

朱駿氏:
 それにはいろいろな方法がありますが,ここではまだ具体的なお話をするわけにはいきません。おそらく,この先半年くらいの間に,正式な発表ができるようになるでしょう。

4Gamer:
 分かりました。では,自社開発を進めると同時に,今後も世界中のよいコンテンツを集めていくという方針が続くと見てもいいですか?

朱駿氏:
 今後の方針については,マーケットの動向を見ながら変えていくので,この先どうなるかについては私にも分かりませんし,お話もできません。そもそも会社の方針は,ここで話すようなことでもないでしょう?(笑)
 でも一つだけ言えることは,私達はこれからも自分の信じる道を進み続けるということです。そしてその方針は,いま質問にあったようなものとは違います。

4Gamer:
 なるほど。でもThe9は,日本では,ありとあらゆる有名なオンラインゲームを買い集める会社だと思われていますよ。

朱駿氏:
 その通り! 中国でもそう思われていますよ(笑)。

4Gamer:
 では,最後に軽い話題を。日本のプレイヤーには非常に馴染み深い「ラグナロクオンライン2」と「エミル・クロニクル・オンライン」(ECO)の,中国での評判はいかがですか?

朱駿氏:
 ラグナロクオンライン2は中国でもよく知られていて,巨大なプレイヤー基盤があります。ですので,中国マーケットに合わせたローカライズや運営を行っていけば,十分に成功すると思います。
 ECOは,中国で大成功するほど大きなゲームではないとは思いますが,アニメっぽさのある日本的なスタイルのゲームで,必ずや中国でも人気を集めると思いますよ。

4Gamer:
 なるほど。日本の作品も人気があるというのは嬉しいですね。本日はありがとうございました。

The9が中国での運営権を獲得した「ラグナロクオンライン2」(上段)と「ECO」(下段)。自社開発にも乗り出したという同社だが,海外の大作ゲームを買い集めるこれまでの方針も,今後も当面は継続されそうだ


 以上が,「滅多にメディアのインタビューは受けない」と言われている朱駿氏の言葉のすべてだ。筆者も様々な業界人にインタビューをしてきたが,とても正直に言うならば,インタビューの最中にこれほどまでに緊張したのは,これが初めてだ。誌面からでは伝わりづらいと思うが,目線といい,言葉の力強さといい,無名の会社からのしあがった“やり手”の凄み――まるで裏の道までも熟知していそうな――を十分に感じさせる人物であった。

 上海の若者に聞いた話だが,かつて上海には二つのサッカーチームがあった。一つは歴史があって大きいチーム。もう一つは歴史が浅くて小さいチームだ。
 朱駿氏は,新しいほうのチームを丸々買収し,膨大なお金を投下して選手を強化し,結果を出した。そしてその後,大きかったほうのチームをも買収し,自分のチームに組み込んでしまったのだ。中国のサッカーチームは,たいていはバックに「国」(というよりは国の息がかかった企業,というべきか)がついているので,個人が起こした企業でサッカーチームを持っているのは,The9だけだと言う。
 その行動をもって,「自分の実力をもってのしあがっていく正義のヒーロー」という意見と,「周りをまったく顧みない悪のヒーロー」という意見で,上海の若者の間でも評価がまっぷたつに分かれているという。実際に会って話してみて,氏の人物像を表すのにそれほど適切なエピソードはないな,と思った次第だ。

 そんな若者の評価はどうあれ,「大作」と呼ばれるものにはすべてビッドしてそれを手に入れ,会社をどんどん大きくしていっている成功者であることは事実だ。The9が抱えるラインナップときたら,「World of Warcraft」「Ragnarok Online 2」「Hellgate: London」「FIFA Online」「Huxley」「ECO」「Granado Espada」「SUN」「Audition2」……。話題性だけで述べたとしても,十分にその効果がある作品ばかり。
 ここまでくると,単にWoW依存体質のリスクをヘッジしようとしているだけではない,違う意志を感じる。素人目に見ても明らかに一作品に依存しすぎなこの状況から脱却するため,The9はいかなる手を講じていて,いかなる展望を描いているのか。それを聞き出したかったインタビューなのだが,結果としては失敗に終わってしまった。
 唯一の戦果は,「The9が独自にオンラインゲームの開発を始めている」ことが分かったことだろうか。The9が持つ資本力と海外とのコネクション,そして蓄積された運営ノウハウを考えると,一作目から中国のプレイヤーを唸らせるのに――そして諸外国に輸出するのにも――十二分な作品が登場しそうな気もする。

 Nineyouの例を挙げるまでもなく,成功しつつある中国企業の次なるターゲットは,売るにせよ,買うにせよ,間違いなく日本だ。The9はその会社の構造上,日本マーケットに直接関与することは少ないと思うが,次のアクションが予想できないだけに,注目しておくべき会社であることは異論の余地はないだろう。おそらくこの朱駿氏という人物が何か日本に向けて本腰を入れてアクションを取るときは,それは途方もない規模で行われるのだから。(Kazuhisa/ginger,photo by kiki)

(2007年7月13日収録)


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