[CJ 2007#12]NVIDIAの「ネットカフェはかせ」に聞く,SLIがインターネットカフェ事業に最適な理由
なんで上海まで取材に来たあげくNVIDIAの人に会うのかと,いぶかしむ読者もいるかもしれないが,NVIDIAはChinaJoy 2007で,中国ゲーム界のビッグネームを集めたカンファレンスを後援している。いや,それとて4Gamerには少々遠い話であると思う読者にこそ,この記事を読んでほしい。NVIDIAはいま中国で,インターネットカフェに対するソリューション提案を精力的に行っているのだ。
Matthew‘Mac' Cuerdon氏(General Manager, iCafes, NVIDIA)
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今回お話を聞いたのは,世界のNVIDIAにただ一人のインターネットカフェ担当ゼネラルマネージャー,Matthew‘Mac' Cuerdon氏。NVIDIAに入社して1年,この2月から北京に住んでいるという氏は,シリコンバレーにあるインターネットカフェの元オーナーでもある。 そんな氏が,北京や上海で何をしているかというと,お店を回ってNVIDIA SLI(以下,SLI)の利用を勧めているのである。氏が順を追って説明するところによれば,SLIはインターネットカフェ事業に最適なソリューションとのことである。
話の大前提として,氏はまず世界のインターネットカフェ事情を簡潔に説明した。インターネットカフェは2007年時点で,北米に約1700軒,南米に約6000軒,ヨーロッパに約5000軒あって,インドは約2万軒,韓国は約2万1500軒である。しかるに中国内に存在する店舗数はおよそ22万5000軒。全世界のインターネットカフェは約30万9000軒なので,中国にはその72.8%が集中していることになる。 お店の標準的な規模は国によって異なり,中国では1軒当たりの平均PC設置台数が約100台なのに対し,韓国では50台ほど。欧米では25台前後が平均で,氏が知っている最小の台数は,1年半ほど前にケニアで見た,ノートPC1台だけの例だという。ともあれ,中国のインターネットカフェビジネスの規模が,ほかの国々のそれと比べていかに大きいかが分かる話だ。
それに続く説明は,各国におけるインターネットカフェの,隆盛と衰退のパターンについて。家庭で使われるPCの合計台数推移と,その国のインターネットカフェにあるPCの合計台数推移をプロットしたとき,前者の伸びが緩やかなうちは後者が伸び続け,その後後者は下降線をたどっていくというもの。
この二つの線の相関を見つつ,氏はその国のインターネットカフェ業界が辿る状況を三つの段階に分ける。第一の段階はInformation Access Period。家庭のPC普及台数が少なく,インターネットカフェが情報源として活躍するがゆえに,カフェにあるPC台数が伸び続ける段階だ。 そのあとに来るのがTransition Period。PCの家庭への普及に弾みがつく時期を迎え,その直前で,カフェにあるPC台数の頂点に達し,やがて衰退期を迎える。Webブラウジングやメールの送受信といった基本的なインターネット利用は家庭のPCがまかなうようになり,ネットカフェは次第にゲーム用途に傾斜していく。 最後がEntertainment Period。インターネット利用はPDAなどでますます普及/多様化し,インターネットカフェは固有の利用価値で生き残りを目指す時期だ。
この時期区分のなかで,各国のインターネットカフェ市場がどこに位置づけられるかというと,アメリカは第三段階,ブラジルは第二段階の終わり,インドはまだ第一段階である。我々がネットカフェ大国と捉えている韓国は第二段階の真ん中,つまりおおむねいまがネットカフェの絶頂期であって,今後の下降が予想される。 中国は基本的に第二段階前半,インターネットカフェの成長期に属しているのだが,その推移については,中国の特殊事情を勘案する必要があるという。氏の見るところ,中国の“ネットカフェPC台数”が頂点を迎えるのは3年から5年後となるのだが,「その後頂点での横ばいが,同じく3年から5年続くだろう」という。 これは,中国国内の経済格差が原因だ。先進地域である東部沿海地域でインターネットカフェが衰退に向かうころ,西部内陸ではまだ成長が続く。そのプラス分とマイナス分を相殺した結果が,この横ばい期間だ。
続いて氏は,NVIDIAの概要と沿革に触れ,中国インターネットカフェにおけるNVIDIAグラフィックスカードのシェアが74.5%,AMD(旧ATI Technologies)のそれが23.6%という数字を挙げつつ,本題ともいうべきSLIの話に入っていった。
SLIがインターネットカフェの運営にどう貢献するのか? それはPCのスペック寿命を安価で延長できる点である。ゲーム用途のPCにおいて,グラフィックスカードを差し替えることでスペックアップを図るのは珍しいことではないが,SLIに対応したPCをインターネットカフェに導入しておけば,後からもう1枚同じカードを足すことで,グラフィックスパフォーマンスの向上が見込める。 そうしたソリューションの実例として,アメリカにおける事例と中国における事例を挙げつつ,前者では,PC台数の半分だけ次の世代のカードに差し替え,そこで余った前の世代のカードを,残り半分のPCに追加することで,単純な差し替えよりも費用負担の少ない方法をとったことを示した。 一方中国の例では,同じグラフィックスカードをPCの台数分購入し,そのまま追加するという方法がとられた。カード製品の実勢価格が下降していくことを考えると,こちらのほうが費用対効果の面で,より上かもしれないという。対象全PCがSLIを使うとなると,次のグラフィックスカードリプレースでは全台差し替えになって,必ずしも安くないようにも思えるが,その前にPC本体の保証寿命,スペック寿命が来るという考え方らしい。
アメリカでの導入例として示されたのが,いまは氏の子息が経営するシリコンバレーのインターネットカフェであるところが,この説明のユーモラスな部分ではある。だが,そうした現場体験を踏まえて氏は,インターネットカフェを運営する側の考え方にも踏み込むのである。いわく運営者とは,- 現実的/実用本意
- 価格に敏感
- 新しいテクノロジーに抵抗がある(安定性/信頼性を重視)
のであって,これらに応えるには,NVIDIAが2005年から積み上げてきた努力と実績の賜であるSLIの利用が最適だというのが,氏の結論であった。
プレゼンテーションが終わったところで,いくつか疑問に思ったことをぶつけてみた。インターネットカフェ事業者が新しいテクノロジーに抵抗を感じるなら,そもそもマルチグラフィックスカードソリューションには相当抵抗があるのではないか,と。それに対する答えは,「NVIDIAが積み重ねてきた検証と改良の実績」であるという。つまり,そこの信頼如何というわけだ。
また,同じメリットはAMDのCrossFireでも発揮できるはずなのではないかという疑問に対しては「現実にシェアが大きく違う」点を強調しつつ,「私のミッションは販売促進とプロモーションなので,AMDのソリューションで同じことが可能であっても,それをどうすべきかは分からない」との答えだった。
氏のミッションそのものについて聞いてみると,「NVIDIAのゼネラルマネージャーには二つの側面があり,それは新しい市場を開拓することと,今後の市場展望を投資計画に反映することである」という回答が返ってきた。 氏の部署は2名で,インターネットカフェ市場の専門家は,NVIDIAに彼一人であるらしい。また,こうしたSLIソリューション――というより,そもそも氏がNVIDIAに起用されたこと――の背景には,2005年のある時期に,中国のインターネットカフェでSLIの利用率が急に上がったことがあるのだと,最後に説明してくれた。そうした内発的な動きを,NVIDIA自身がすくい上げてより広く生かすことが,氏に任せられた仕事なのである。
1973年に日本,1993年に韓国,1995年に中国を,それぞれ初めて訪れたという氏は韓国人を奥さんがおり,アジアに理解を持っているという意味で,うってつけの人材なのだろう。中国各地を歴訪し,その先々でインターネットカフェ事業者に会って,こうしたソリューションを提案しているという。
ミドルレンジ以下のNVIDIA製品がSLIをサポートし,「スケーラブルな性能向上」が可能だと聞いても,正直ピンと来ない人も多かったのではないだろうか。SLIのメリットを素直に性能向上と理解した場合,その分のコストではじめから1クラス上の製品が買えるとあっては,それも無理からぬことだと思う。 だが,インターネットカフェに求められるものと関連させ,それを時間軸の中に位置づけた場合,そこにきちんと実需用があるというのは,実に面白い。ミドル+ミドル=ハイエンドという式でなく,ミドル+ミドル=次世代ミドルという式が,インターネットカフェに向けて打ち出されたSLIの意義なのである。(Guevarista)
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