[GDC07#26]GDCでは日本人講演者が大人気! 任天堂の宮本氏,カプコンの稲船氏など
3月7日(現地時間)に行われた,デベロッパーズチョイス・アワードで,任天堂の宮本茂氏が大活躍していたのは,[GDC07#14]でお伝えしたとおり。その宮本氏の基調講演は,盛況というありきたりな言葉では足りないくらい多くの人が参加し,そして盛り上がりを見せたが,ほかにも多くの日本人が講演を行い,どれも非常に人気を集めていたのが,2007年のGDCの特徴といえるかもしれない。 ここでは,興味深かった講演を四つピックアップして紹介しよう。基本的にはどれも,家庭用ゲーム機の話が中心だが,ゲーム全般に関わるような視点,論点も含まれているので,“PCゲーム情報サイト”である4Gamerの読者でも楽しめるのではないだろうか。(Iwahama)
■任天堂 宮本茂氏
何はともあれ,まずは任天堂の宮本茂氏の紹介をしなければならないだろう。ウィル・ライト氏が講演を行わない2007年のGDCでは,話題を独占している感さえある。 宮本氏の講演の前にまずお伝えしたいことが,その聴講者の多さである。氏の基調講演は,7日の10:30AMに開始予定だった。筆者は,10:00AM終了予定の講演を5分ほど早めに退席し,30分前に会場に向かったのだが,入り口近くで会場スタッフに呼び止められた。スタッフいわく,あまりに聴講者が多すぎるので,裏口に回ってほしいというのだ。なのでほかの大勢の人と一緒に裏口に回ったら,そこから長い長い行列が延びている。その最後尾を探して歩いていったら,……会場の入り口にまで戻ってきた(逆方向に回っていたら,軽く500番くらいは前になった気がする)。が,その筆者でも,順番は早いほうなのである。正確な聴講者数は不明だが,数千人という規模なのは間違いないだろう。講演開始が大幅に遅れた理由は,聴講者の多さにあったことは言うまでもない。
宮本氏の基調講演に並ぶ人の列。先頭からはるか後方にいた筆者から後方を撮影してみた。実はこの列の向こうに,さらに折り返して別の列があり,最後尾は,そのはるか後ろに……
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講演内容については,家庭用ゲーム機中心の話題だったことと,詳細に書き出すとそれだけでかなりの量になってしまうので,4Gamerではその一部をお伝えするにとどめておく。
講演で宮本氏は,Wiiリモコンを片手に,氏の,そして任天堂の,ゲーム開発におけるビジョンについて説明していった。ちなみにプレゼンテーションにWiiの「写真チャンネル」を使っていたというのが印象的だった。 ゲームに夢中になっている,というか夢中になりすぎている人の顔に写真チャンネルの機能を使ってモザイク処理を施したり,「Wife-o-Meter」という指針(?)を披露したりなど,ユーモアたっぷりの語り口で,会場は笑いに包まれっぱなし。
なおWife-o-Meterとは,“奥さんのゲームへの興味度を示すメーター”とでもいうべき意味の造語。ゲームに興味のない人がどうしたらゲームに興味を持つのかを計る指標として,奥さんのような身近な人が適しているというのだ。 宮本氏の奥さんは,「スーパーマリオブラザーズ」のようなゲームには一切興味を示さなかったらしいが,敵の出てこない「どうぶつの森」や,犬と戯れる「nintendogs」で徐々にゲームに興味を持つようになり,今では宮本氏にゲームの勝負を挑むほどになったという。任天堂が基本戦略として掲げる“ゲーム人口拡大”において,Wife-o-Meterは現在のところ効果的に働いているといえるわけだ。ニンテンドーDSやWiiの快進撃の陰の功労者は,実は宮本氏の奥さんだったりするのかもしれない。
また,宮本氏の講演で筆者がとくに印象に残ったのが,「心がけているのは,プレイする人の顔を思い浮かべながらゲームを開発すること」という氏の言葉だ。 開発者は誰でも,つい過ちを犯す。それは,開発者にとっては当たり前なことが,“ゲームをプレイする人にとっても当たり前”だと考えてしまうことである。まったくのゲーム初心者が,ゲーム開発者と同じ意識レベルでゲームに接することができるとは限らない。……いや,できない場合のほうが多いはずだ。 宮本氏自身も,いまだにこの過ちをしょっちゅう犯してしまうと話していた。そこで,先の言葉になるわけだ。プレイヤーの顔を思い浮かべる,つまりプレイヤーの気持ちを想像しながら,ゲーム開発をすることが重要なのである。さまざまなタイプのプレイヤーの顔を思い浮かべ,そこに一様に笑顔が見られるならば,その方向性は間違っていないということだろう。
なお,WiiやニンテンドーDSの紹介映像(実際にプレイさせて,その反応を見るというもの)を流していたとき,宮本氏が,プレイしている人達の,“周りの人”の表情に注目していたのが,個人的には興味深かった。プレイヤー達が初めてこれら新ゲーム機に触れ,ゲームを楽しんでいる様子を撮影しているだけだと説明されたところで,(こう書くと身もふたもなくて恐縮だが)基本的に宣伝用の映像なので,当たり前といえば当たり前である。しかしそこに映し出された人達は,プレイヤー本人以外も,みんな笑顔なのだ。つまり,“子供が本当に楽しんでいる”のが嬉しくて笑顔がこぼれるおじいさん,“恋人がゲームに夢中になっている”様子が面白くて一緒にはしゃいでいる男性,といった感じである。そのことについて,宮本氏は誇らしげに指摘していた。 宮本氏を擁する任天堂の両現行ゲーム機は,確かに,“プレイしている人を見ている人”まで,幸せにする魅力があるのかもしれない。これは,任天堂のスタッフ一人一人に,宮本氏の「表情を思い浮かべて」という考えが浸透していることの表れなのだろう。笑顔を見れば,大抵の人は,自分も笑顔になるものである。
■カプコン 稲船敬二氏
カプコンの稲船氏は,PCゲーマーにとっても,実は重要な人物である。例えば,氏が深く関与したロックマンシリーズや鬼武者シリーズはどちらもPC版が発売されているし,期待のMMOアクションゲーム「モンスターハンター フロンティア オンライン」をサービスすることが決まっている,ダレットの代表取締役社長でもあるのだ。 稲船氏の,毒舌混じりのジョークを関西弁でまくし立てる講演は,宮本氏に負けず劣らず,会場を沸かせっぱなし。カプコンの経営陣をゾンビにたとえたジョークはとくに大うけで,その後は会場からの質問などでも,経営陣のことは“ゾンビ”の3文字で通していた(一応説明しておくと,稲船氏は企画を通すために,しばしば経営陣と戦っているそうで,それを「デッド ライジング」の敵キャラにたとえたわけだ)。
さて,本題の講演は,稲船氏と「Wired」の編集者Chris Kohler氏の対談となるはずだったのだが,Kohler氏が腹痛のため急きょ代役が立てられるというハプニングがあり,あらかじめKohler氏が用意していた質問を代役が読み上げて稲船氏に答えてもらうという形式で進められた。 話題の中心となったのは,Xbox 360用タイトルとして稲船氏が同時にプロデュースした2タイトル,「ロストプラネット エクストリームコンディション」とデッド ライジングに関するもの。その中で,4Gamerとして聞き逃せなかったのが,ゲームエンジンの話だ。
その質問は,「両作のゲームエンジンは,カプコンが独自に開発したものとのことですが,PlayStation 3やWiiに移植される可能性はありますか?」というもの。これに対し稲船氏は,まず日本のゲーム会社の従来の考え方を説明。それは,エンジンを開発するときには,“そのハードの性能を最大限まで引き出そうとする”というものだ。しかしそれは,すでに時代のニーズに合っていないと指摘し,今回Xbox 360用のゲームエンジンを開発するときには,PlayStation 3,および“PC”に,容易に移植できることを重視したというのだ。ちなみにこのゲームエンジン,Wiiには使えないため,Wii対応タイトルにはゲームキューブ用のエンジンを応用するとのこと。 もっとも,このゲームエンジン「MTフレームワーク」が,PCにも対応していること自体は,すでに4Gamerでお伝えしたことがある話。しかし,稲船氏の口から,“容易にPCに移植できるように作るべき”だと考えた(PlayStation 3もだが),という言葉を聞くのは,PCゲーマーとして実に嬉しいところ。移植が容易なことや[GDC07#04]の記事で取り上げた「Games for Windows Live!」がサービス開始されるであろうことを考えれば,Xbox 360用の上記2タイトルは,いずれPCで遊べるようになる可能性は低くないだろう。それ以降も,カプコン製のPCゲームがコンスタントに登場するかもしれない。
■ソニー・コンピュータエンタテインメント 河野 力氏
河野 力氏は,PSP「プレイステーション・ポータブル」で人気の「LocoRoco」の開発者。LocoRoco誕生秘話を,丁寧に丁寧に説明していたのが印象的だった。 語り口だけを聞いていると,純朴な若手社員がやや緊張しながら話しているという感じだったのが,氏のセンスの良さが言葉の端々からにじみ出ていた。 面白かったのは,雰囲気だけなら,カプコンの稲船氏とは対照的な河野氏だが,講演内容には,重なる部分もあったこと。稲船氏が,“業界の荒波をくぐり抜けてきた歴戦の強者”なら,河野氏は,“自分のセンスを武器に挑戦を始めた期待の新星”という感じだろうか。具体的には,自分の企画を信じて,通るまで諦めない姿勢などが,似ていると感じた。 というのも,LocoRocoの企画も,稲船氏におけるXbox 360用2タイトルと同様に,最初はあっさりボツにされ,さらに企画書を書き直して再提出するも,やはりボツされたというのだ。稲船氏の場合は,密かにチームを動かし,説得したり既成事実を作ったりして半年後に企画を認めさせていた。河野氏は,まだまだ若手……つまり社内での“力”がそれほどなかったにもかかわらず,なんと1か月もの間,仲間と共に密かにプロトタイプの開発に精を出し,それをもって企画を通すことに成功したのだ。
さて,河野氏の講演では,とにかくQ&A時の質問者が,誰もが質問の前に,LocoRoco,もしくは河野氏本人を大絶賛していたのが印象的だった。氏のセンスは,とくにヨーロッパの人に受けているようで,会場では,フランス語などもよく耳にした。ちなみに,発売時期などの詳細は一切明かされなかったが,LocoRocoの続編を開発中という。そのプラットフォームも言明されなかったが,「待っているファンを裏切ることはしない」(河野氏)という言葉を聞く限り,PSPのような気がしなくもない。一発逆転でPC,の可能性はさすがに低いか……。 なお余談だが,氏が「ICO」にレベルデザイナーとして携わっていたことを話したときに,それだけで会場が拍手に包まれたのも,日本人としては,なんだか嬉しい一場面であった。
河野氏がPDAに描きためていた,ラフスケッチのアイデアの数々などがスライドで上映された。スライドの最後の“ぬいぐるみ”は誰が作ったのかという質問に対し,ここだけ英語で「My Wife」と答えていた。ここでも拍手が起こったのは,もちろん氏が英語をしゃべったからではない
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■任天堂 青沼英二氏
基調講演を除くと,この青沼氏の講演が,最も長い行列ができたかもしれない。こちらは「ゼルダの伝説 トワイライトプリンセス」(以下,ゼルダ)の開発秘話……というか“苦労話”を語るという内容だった。外から見ている限り,順調に開発→大ヒットという「さすが任天堂! さすが宮本!」なんて感じの同作だが,いやいや,かなりの試行錯誤と挫折を経て作られたことが明らかになった。 天の声ともいえる,宮本氏からの「やるなら120%を目指せ」(青沼氏は,「ゼルダの伝説 時のオカリナ」を超えろ,という意味だと受け取ったという)の前に何度も挫折しかけながらも,その言葉の主である宮本氏による助けなども借りながら,いかに直感的なユーザーインタフェースと,“新しいゲームプレイ”を両立させていったのか,詳しく語られたのだ。
中でも,発売4か月前に,宮本氏から“ちゃぶ台返し”を喰らったときの話は圧巻だった。もう開発も終盤だというのに,E3での展示の評判が良くないという理由で,システムの全面的な見直しを迫られたのだ。しかし,なんとかやる気を取り戻し,そこから次々と問題点を解決していく。 その中でもとくに筆者の記憶に残ったのが,Wiiリモコンを振ることで剣を振る動作の解決方法。主人公キャラクターのリンクは左利きであるため,右利きの人がプレイすると違和感を感じるというものだ。これに対しては,なんと世界全体を(ベースとなったゲームキューブ版と)左右反転させるという荒技で乗り越え,見事完成に至ったのである。結果,リンクは右利きとなったのだが,まさにコロンブスの卵的発想である。
ちなみにゼルダの後日談として,青沼氏の5歳になる息子さんが,父親の仕事に関係あるとは知らずにWii(のリモコン)に,その後ゼルダにも興味を持ったという話が面白かったので,簡単に紹介しておこう。 青沼氏が無理だろうなぁと思いつつ息子さんにゼルダをプレイさせると,これが徐々に馴れ,1時間も経った頃にはすっかり楽しんでいたのだ。これだけでも驚きだが,翌日,氏は帰宅時に,さらに仰天する。ゲームには興味がないと公言してはばからない氏の奥さんが,必死にWiiリモコンでモンスターと戦っていたというのである。息子さんが先に進めず悲しんでいたので……というのが理由だそうだが,それを機に奥さんもすっかりはまっちゃった模様。宮本氏の“Wife-o-Meter”のエピソード(宮本家の場合は,息子さんではなく娘さん&飼い犬が,メーターを押し上げていた)とほぼ同じことが,ここでも繰り返されていたわけだ。
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