[GDC07#12]元「Might&Magic」開発者の在籍するTrion World Networkとは?
壇上に立つ「Might&Magic」シリーズの生みの親ヴォン・カネガム(左)氏と,パートナーのバトラー氏
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2006年9月,カリフォルニア州レッドウッドシティ市に設立されたTrion World Networkは,Electronic Artsでオンラインゲーム部門を担当していた幹部Lars Buttler(ラース・バトラー)氏と,New World Computingの設立者で「Might & Magic」や「Heroes of Might & Magic」シリーズの生みの親として知られるJon Van Caneghem(ジョン・ヴォン・カネガム)氏の両名が,ベンチャーキャピタルから多大な資金援助を受けて設立した会社である。 そんなバトラー,カネガム両氏が,今回のGDCにおいて行ったのが「Tip of the Iceberg: Future of Games and Entertainment Resides Online」(氷山の一角:オンライン化に共生するゲームとエンターテイメントの未来)と題する講演。彼らは,どんなビジネスモデルでオンラインゲーム業界に切り込んでいくつもりなのか。そのビジネスモデルや企画を聞くことができた。
まずバトラー氏は,「オンラインゲーム市場は,年率60〜90%の急速な成長をしばらく維持し,2011年までには130億ドル(1兆5600億円)の規模に達する」という,リサーチファームDFC Intelligenceの予想を提示。「ゲーム産業のオンライン化は臨界点には達していない」と語り,まだまだ伸びる分野だと解説。順調に市場が成長すれば,2011年にはオンラインゲームが誰にとっても不可欠な「社会の一要素」となるという趣旨の論を展開した。 またバトラー氏は,アメリカのテレビエンターテイメント界にケーブルテレビの波が押し寄せたときについて,「24時間ニュースばかりやっているプログラムだとか,映画や音楽専用チャンネルといった,“新しい機会”が次々と開発され,定着していった」とし,ブロードバンド時代はまだこのような機会も十分に整っていないと指摘する。
ただオンラインゲームというと,アイテム課金制のビジネスモデルやゲーム内広告,内容を小分けにして配信(販売)するエピソディック方式など,すでにさまざまなビジネスモデルが芽生えている分野である。 筆者としては,そういった手法に新たな何かを付け加えるヒントが語られないかと期待していたのだが,バトラー氏は,これらの変化/動きに対して柔軟な姿勢をとっていくつもりだと語るに止まった次第。オンラインゲーム・ビジネスそのものがまだ未成熟であり,どの手法にもチャンスはある(結果はこれから)のは分かるが,何も新しい戦略/思想が見えてこないところは少々残念であった。正直な感想を言ってしまえば,Trion World Networkに格段新しい戦略があるわけではなく,オンラインゲームの成長気流に乗っかっていこうという,セールストークにしか聞こえなかったのが本音だ。
ただ今回のセッションでは具体的な作品の提示がなかったものの,現在のテレビエンターテイメントのほうが,ゲームポータルサービスよりも柔軟でユーザーのニーズを汲み取りやすいことを指摘していた点はユニーク。そういった着眼点でゲームを開発していくという部分は,なかなかに期待が持てるといえるかもしれない。 Trion World Networkの理想としては,ユーザーの要望に合わせて,毎日でもストーリーをはじめとしたコンテンツの中身を変更していく……そんなテクノロジー作りを進めていくことだという。コンテンツの一つ一つを,テレビネットワークのチャンネルに見立てているところに,彼らのビジネスモデルの核心があるような雰囲気が感じられた。
「GoogleやEbayは,特定の期間を経て続編を出してきたりはしない。日々,彼ら自身を作り直しているのだ」と語るハドラー氏。オンラインを前提としたゲーム・ビジネスにおいて,これは避けて通れないスタイルではあろう。オンラインゲームにまつわる講演会で,「オンラインゲームは,サービスである」という話をよく耳にするが,それとまったく同じ話だと思って差し支えあるまい。恒常的な,そして早いペースでの変化が,オンラインサービスには必要というわけだ。 コンテンツ自体の開発を担うヴォン・カネガム氏も,かなりやる気を見せているようで,「現在オンライン化が進められているのは,PCゲームの数々のジャンルでも一部分だけ」とし,現在のオンラインゲーム市場が氷山の一角に過ぎないと,将来への期待と展望を語っていたのは印象的。彼が見つめるその先には,カジュアルゲームやコンソール機用ゲームなど,やや大衆向け(?)の分野が映っているような感じだが,ヴォン・カネガム氏の作品を知る往年のゲームファンとしては,彼らしい独特のゲームもぜひ作ってほしいところだろう。やや不透明なところも多かったが,今後の動向に注目したい二人である。(ライター:奥谷海人)
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