ジークレスト長沢氏が語る,オンラインゲーム内コミュニティの現状と,その活性化戦略について
ジークレスト代表取締役兼CEO 長沢潔氏
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「アットゲームズ」「トリックスター+」「バルビレッジ」など,コミュニティ色を前面に押し出したコンテンツを有するジークレスト。その代表取締役兼CEOである長沢潔氏は,2月22日に行われた「Asia Online Game Conference 2007 Tokyo」において,「オンラインゲーム内コミュニティの活性化戦略」と題した講演を行っている。 コミュニティの重要性については,デベロッパ/パブリッシャを問わず,多くの人物が言葉を重ねてきているが,長沢氏は,その活性化戦略としてどのような施策を実行しているのか。AOGC 2007の講演内容を軸に,より具体的な話を聞いてきた。興味のある人は,講演で提示されたスライド画像と合わせて,チェックしてほしい。
■アットゲームズで体現する ■コミュニティの活性化戦略
4Gamer: 長沢さんは,AOGC 2007で「オンラインゲーム内コミュニティの活性化戦略」と題した講演を行っていましたが,本日はその講演内容を軸に,ジークレストが運営するオンラインゲーム/サービスについて,あれこれ話を聞かせてください。 まずは,講演内容の概要について,あらためて教えてください。
長沢潔氏: インターネット市場の中で,コミュニティに関連するビジネスの重要性が,確実に増してきています。ソーシャルネットワーキングサービスやブログの影響力は,非常に大きくなってきていますよね。 一方,オンラインゲームに目を向けたとき,そのコンテンツを軸に,プレイヤー同士がお互いにどう作用していくのかという点が,特徴/注目点として挙げられます。 今回の講演では,オンラインゲームのゲーム性の確保を大前提として掲げつつ,“コミュニティ”という視点から捉えた場合,プレイヤーが実際にはどんなことを考えながら遊んでいるのか,という点に注目し,オンラインゲームのコミュニティは,今後どんな形になっていくべきかをお伝えしたつもりです。
4Gamer: ジークレストのゲームポータル「アットゲームズ」(@games)を具体例として,コミュニティを自然発生させる仕組みや,新しいビジネスモデルの構築などに関する話題を展開していましたね。
長沢潔氏: そうですね。アットゲームズは,ジークレストにとって最も新しいチャレンジですから,ぜひ紹介させてもらいたいなと考えていました。
4Gamer: 最近では多くのパブリッシャが,コミュニティを含むゲームポータルサイトを持ち始めてきていますね。そういった流れの中では,ジークレストは比較的後発ということになりますが,アットゲームズの強みや独自性は,どこにあると考えていますか?
長沢潔氏: アットゲームズを立ち上げる前に,我々が一番熱心に議論したのは,「コミュニティを活性化させていくポイントは一体どこにあるのか」についてでした。そもそも,コミュニティって何なのか,という部分から始めたんです。
4Gamer: とくに日本のオンラインゲーム市場では,コンテンツと一緒に「コミュニティの形成が大事」という概念が,そのまま輸入されてきた感がありますね。当初は,それは本当に大事なのか,どうすれば育てられるのか,という本格的な議論は,あまりされていなかったように記憶しています。
長沢潔氏: そのとおりですね。コミュニティは大切だと言われ続けているのに,じゃあ,どうしたらコミュニティはうまく動くのか? コミュニティとは何なのか,という根本は,あまり議論されてこなかったように思います。 つまり,コミュニティとは人と人とのつながりだ,ということに関しては,皆さん理解が深いんです。ところが,ではその人と人のつながりを作っていくものは何か,ということに対しては,まだ曖昧な部分が多いように感じられます。 例えばサークルがあれば,掲示板が設置されていればいいのか。チャットができればいいのか,みたいな形に落ち着いてしまっている。我々はそうではなく,もう一歩踏み込んで何かできないかなと,ずっと考えてきたんです。ゲームポータルサイトには,すでに先行して作られたものや,非常に大規模なものに成長しているものが多々あります。我々はまさに後発組になりますが,そのデメリットを嘆いてもしかたがない。むしろ後発だからこそ生み出せるメリットを考えたとき,コミュニケーションを発生させるキーワードとして,「リアクションの視覚化」という発想に行き当たったんです。
4Gamer: ゲームポータルサイトにおけるアバターシステムをさらに突き詰め,アバターそのものがコミュニケーションのトリガーとして機能するようにデザインしたというわけですね。
長沢潔氏: インターネットコンテンツの場合,相手が本当に画面の向こうにいるのかどうか,こちらには分かりませんよね? 例えばチャットの場合,発言は一切していないけれど,黙って見ているだけの人がいるかもしれない。また,そういうケースはほとんどないと思いますが,相手は自動会話ツールで応対しているかもしれない。 だからこそ,オンラインでのコミュニケーションで最も大事なのは,相手の存在をそこに意識できるか否か,だと思うんです。さらに,コミュニケーションに対してのリアクションをどう相手に返せるかが,コミュニティをさらに盛り上げる要素になっているというわけです。
4Gamer: チャットをしていて,相手からは何の反応もないけれど,実は画面の向こう側で,腹を抱えて爆笑している,というケースもありますからね。また,相手が悲しい話題を振ってきたとき,どう言葉をかけていいのか思いつかないんだけれど,こちらも確かに悲しみを抱き,慰めたいという気持ちも抱いている。そんなケースもあるでしょう。
長沢潔氏: そうなんです。そこで我々が考えたのは,そのリアクションをどう視覚化できるか,です。多くのゲームポータルで,ユーザーの分身となるアバターが採用されていますが,我々は後発だからこそ,そのアバターというシステムの可能性を,より有効に活用していく必要があるのではないかと。
4Gamer: だからこそアバターなのかもしれませんが,単なるマネキン,着せ替え人形としての機能を中心にしたものが,確かに多いですね。
長沢潔氏: コミュニティを活性化させるツールとして,もっとアバターを有効活用できないものかと議論を深める中で,アバター自体が画面の中で動き,感情表現をするという,アットゲームズのセルフィが生まれたんです。その目的はやはり,画面の向こうには,今確実に相手がいるんだということを,視覚的に表現することにありました。
4Gamer: 表現力豊かなアバターを実際に動かせる「ポータル内世界」を用意したことで,アバターへの感情移入や,コミュニティの活性化を図ったわけですか。
長沢潔氏: そうですね。オンラインゲームのマーケット自体は非常に速いスピードで広がっています。その背景には,インフラ環境/PCスペックの向上などがありますが,それゆえに,まったくの「PCゲーム初心者」が増え,そういった新規プレイヤー達が,マーケットを拡大させていると思うんです。だからこそ,既存のサイトとはまた違ったアプローチのゲームポータルが必要だと考えたわけです。
「トリックスター+」や「バルビレッジ」で得たノウハウを注ぎ込み,後発であることの優位性を随所に盛り込んだゲームポータル「アットゲームズ」。長沢氏の語る「オンラインゲーム内コミュニティの活性化戦略」を具現化したサービスといえるだろう
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■バルビレッジの発展系=アットゲームズ?
長沢潔氏: オンラインゲームフォーラムの調査によれば,アイテム課金制を採用しているオンラインゲームの平均利用単価は,月で約4400円となっていました。オンラインゲームに毎月4000以上を支払うって,結構なボリュームですよね?
4Gamer: ええ,平均利用単価とはいえ,予想以上に高い数字だと思います。
長沢潔氏: 現時点でコンスタントに課金アイテムを購入しているプレイヤーさんが,将来今の2〜3倍のお金をつぎ込んでくれて,それによりマーケットが広がっていく。……という考えは,あまり健全ではないし,リアリティはないですよね。 どちらかといえば,新規のプレイヤーさんが市場に入ってきて,コンテンツの面白さを体感し,そのうち「お金を払ってもいい」と考えるようになる。それにより市場が広がっていくのではないかと思っています。そこで我々としては,ライトユーザー層をターゲットとし,いかに取り込んでいくかが,ビジネスのポイントになると考えているわけです。
4Gamer: そこで,アットゲームズというゲームポータルが生まれた,と。
長沢潔氏: はい。もちろんこれは,コアプレイヤーを切り捨てるということではなく,より多くのプレイヤーに楽しんでもらえるようなポータルを用意した,ということです。 また,ゲームポータルサイトでPC初心者がコミュニケーションをとっていくのに,ハードルとなり得るのはどこかを考えました。いろいろポイントはあるのですが,その中の一つとして,PCゲームをほとんどプレイしたことがない本当の初心者にとっては,まずチャットがハードルになると思っています。
4Gamer: ケータイのメール機能を日常的に利用している人でも,いきなりPCでチャットをするのは難しいですね。会話のスピードについていくのはもちろん,面識のない人に話しかけたり,話しかけられたりすることにも,慣れていないでしょうし。
長沢潔氏: ええ。私自身がかつてそうでしたが,いきなりチャットに加わるのって,かなり勇気がいるんですよね。知り合いが一人でもいればともかく,まったく知らない人ばかりの中で声をかけるのは,初心者でなくとも難しいです。 ただ,コミュニティを形成し,広げていくためには,そのハードルを下げて,きっかけを作ってあげることが非常に重要になってきます。そこで,アットゲームズでは1クリックで「こんにちは」と挨拶できたり,さまざまなモーションが表現できる機能を実装したんです。相手も同じように挨拶モーションを返してくれれば,そこから会話につながりやすいでしょう?
4Gamer: 会話のきっかけとしては,使いやすいですね。そういえば,ワンボタンで基本的な会話や感情表現ができるというのは,「バルビレッジ」にも盛り込まれている機能でしたね。
長沢潔氏: バルビレッジはそのおかげか,プレイヤーの8割が女性という,驚異的な数字を出しています。オンラインゲーム全般で考えると,逆に8〜9割が男性プレイヤーです。バルビレッジは,今までゲーム業界がターゲットとしてきた層とはまったく違う層に,支持されていると言えるでしょう。 もちろん,バルビレッジの成功の理由としては,会話のアイコン化だけではなく,さまざまな要因が挙げられますが,コミュニケーションの簡略化により,インターネット上のコミュニティに不慣れな方でも,次のステップに進みやすくなっていることは確かでしょう。
4Gamer: 実際にバルビレッジをプレイしたことがある人なら分かるでしょうが,本当にコミュニケーションが取りやすいタイトルですよね。
長沢潔氏: バルビレッジで得た経験を元に,ライトユーザーにできる限り分かりやすく,親切にしていこうという考えは,アットゲームズにも積極的に盛り込んだつもりです。 ただゲームとしてのバルビレッジは,できることがかなり限定された,非常にシンプルなタイトルです。 一方アットゲームズには,今のオンラインゲーム全般のトレンドである,衣装を自由に変更できる機能を導入することで,「人に見せたい自分」を作り上げられる世界を構築しています。我々は,バルビレッジのコミュニケーションシステムを進化させた「簡易型MMORPG」として,アットゲームズを捉えていますよ。
4Gamer: 以前インタビューしたとき,「バルビレッジは一種のチャレンジだ」と話していましたが,現在のチャレンジはアットゲームズということですね。ところで,そのチャレンジは結果的に正解だったと考えていますか?
長沢潔氏: まだチャレンジの過程なので,正解かどうかは断言できませんが,バルビレッジや,「トリックスター+」のようなMMORGから得たノウハウをうまく盛り込んで,これからのマーケットに最適化したものが,アットゲームズだと言えます。
4Gamer: アットゲームズには「サークル」という形でコミュニティが用意されていますが,1カテゴリにつき数百近いコミュニティがすでに登録されていて,かなり賑わっている印象を受けました。
長沢潔氏: 中には,セルフィ用アイテムの交換コミュニティや,ゲーム内コイン(ぷちコイン)を欲しい人に配布してあげるコミュニティなどもあるんですよ。配布してあげるプレイヤーさんのほうも,それをきっかけに別のコミュニティに新しいプレイヤーを誘ったりと,さまざまな場面でコミュニケーションのきっかけを作っています。
4Gamer: ログインするだけで1日1枚もらえるぷちコインや,運営側からのプレゼントアイテムなどは,かなりありがたいですね。一般的なゲームポータルだと,有料アイテムを買わない限り,かなりの期間をみすぼらしい姿で過ごすことになりますし……。 そういえば,プレイステーション2版のゲーム「SIMPLE2000シリーズ Vol.115 THE ルームシェアという生活。」に,セルフィが登場するようですね。あの展開は,家庭用ゲーム機へのチャレンジの第一歩として,のちの本格進出も検討しているんですか?
長沢潔氏: いいえ,あれはそんなに大げさなものではないですよ。ディースリー・パブリッシャーさんに,たまたま声をかけてもらっただけなんです。 こちらとしては,セルフィのキャラクターとしての魅力をアピールするのが目的でして,幸い好意的に受け止めてもらえたようです。コンシューマゲーム市場は可能性もあるし,非常に魅力的ではありますけれど,今の我々の強みを生かせるフィールドは,やはりインターネットコンテンツだと考えています。
写真左列:アットゲームズのアバター「セルフィ」のイメージ。デザインが秀逸なだけでなく,ゲームポータル内の架空世界を動き回ることもできる 写真中央列:プレイヤーの8割が女性だというバルビレッジ。一度プレイしてみればわかるだろうが,非常にコミュニケーションの取りやすいタイトルだ 写真右列:バルビレッジと同様,女性プレイヤーから高い評価を集めているトリックスター+
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■さまざまなノウハウを生かし ■ライトユーザー層にアピール
4Gamer: さきほどアイテム課金の話が少し出ましたが,アットゲームズには,これまでジークレストが培ってきたビジネスモデルのノウハウが当然,生かされているわけですよね。
長沢潔氏: はい,これまでの経験をうまく適用できたと思います。実際に,アットゲームズで有料アイテムを購入してくれるプレイヤーはとても多く,一人当たりの平均課金単価も非常に高いレベルで推移していると言えます。 一般的なポータルサイトでは,有料アイテムの利用はだいたい月1000円前後と聞いていたので,我々もそのレベルを予想していたのですが,実際にはそれを大きく上回る,月5000円前後という数字を記録しています。
4Gamer: セルフィというキャラクターにそれだけ魅力がある,ということでしょうか。キャラクターそのものが,コンテンツとして成り立っていると。
長沢潔氏: そうですね。アットゲームズというポータルサイトは,簡易版MMORPGのようなもの,と先ほど言いましたが,より世界観やシステムを作り込んだ従来のMMORPGと比べても,セルフィのアバター性の高さは負けていないと思います。
4Gamer: ジークレストでは,「競馬伝説Live!」や「トリックスター+」「バルビレッジ」と,複数のタイトルを提供していますが,各タイトルから流れてきたアットゲームズユーザーというのも,相当な人数がいるんですか?
長沢潔氏: そういう人も,決して少なくはないでしょうね。しかし,正確な数字を取っていないので,これはあくまで私の体感なのですが,まったくの新規加入者のほうが,多いように思えます。
4Gamer: バルビレッジは8割が女性プレイヤー。また,トリックスター+は10代〜20代前半の女性プレイヤーが多いと聞いています。従来のオンラインゲーム市場がターゲットしてきた層よりも,さらに広い範囲をターゲットにし,確実に取り込んでいることがうかがえます。アットゲームズの新コンテンツとして,これまた女性が好きな「占いの館」が追加されましたし,今後もあくまでもライトゲーマー層を中心に展開していくつもりでしょうか。
長沢潔氏: アットゲームズについては,まさにその通りです。トリックスター+は,結果的には女性に受け入れられましたが,やはりクライアントをダウンロードしてインストールして……,というハードルがあるため,本当の意味での初心者には,まだハードルの高いゲームかなと思います。アットゲームズは,たまたま訪問した人がキャラクターの魅力にひかれ,「何となく面白そう」と感じれば,すぐに始められますから。
4Gamer: なるほど。その理念は,アットゲームズだけでなく,今後展開する予定のクライアントダウンロード型コンテンツにも通じるものですか?
長沢潔氏: 基本的に我々は,提供するコンテンツにチャレンジと優位性がなければ,あまり意味がないと考えています。差別化できる部分がなければ,勝てませんから。従来にはなかった特徴や面白さなど,新しいエンターテインメントを提供することが,社の理念です。 例えば,フル3DグラフィックスのMMORPGというのは,もちろんそれだけで一つのアピールになりますが,それだけでは優位性が得られるわけではなく,むしろ大事なのはゲームそのものが楽しいかどうかです。今回我々は2Dグラフィックスを採用したのですが,幅広いユーザー層に受け入れられるためには,我々が考える優位性があると思い,意識的に2Dグラフィックスを選びました。
■長沢氏が考える,オンラインゲーム市場の今後
4Gamer: それでは,ゲームタイトルそのものからは少し離れたお話を聞かせてください。長沢さんは「サイバーエージェント」ご出身ということで,いわゆる純粋なゲーム業界出身者ではありませんよね。その長沢さんから見て,今のゲーム市場はどう映っているのか。これからのオンラインゲーム市場はどうなっていくと予想しているのか,教えてください。
長沢潔氏: まず,私はオンラインゲームの今後を語っていくうえで,インターネットマーケット全般のトレンドを意識しています。現在Web2.0というキーワードに代表される,さまざまなメディア/ユーザーの変化が顕在化し,ユーザー個人がブログなどを通じて,簡単に情報を発信したり,コンテンツそのものを作り上げたりしていますよね。ユーザー参加型のリッチコンテンツが,加速度的に増えていくのは間違いないでしょう。 その中でWeb2.0のキーになっているものはいくつかありますが,その中の一つとして「検索エンジン」が挙げられます。検索エンジンの機能自体の洗練に加えて,ユーザーの検索に対するリテラシーも向上してきました。この二つが合わさることにより,昔に比べるとはるかに簡単に,欲しい情報へピンポイントでたどり着けるようになりました。その結果,極端な言い方をしてしまうと,ナンバーワンかオンリーワンしか生き残れない,という状況が生まれてきつつあります。
4Gamer: ナンバーワンかオンリーワンしか生き残れない状況がくると。それは具体的に,どのような状況だと考えていますか?
長沢潔氏: いろんなものを一度に比較できるようになった結果,わざわざ2番目のサービスを選ぶ理由はないでしょう? これがリアルなら「家から近いから」というのも一つの優位性になりえましたが,ネット上で距離は関係ありません。同一の商品やサービスを求めるのであれば,ユーザーは価格帯や信頼性などで優位性のある一番を当然選びます。あるいは,自分のニーズにぴったりマッチした,そこでしか提供されないオンリーワンを選ぶことになるでしょう。 今までは,オンリーワンのサービスはニッチなものが多く,ビジネスとして成り立たないケースも多かったと思うのですが,検索エンジンの機能向上およびユーザーの検索リテラシー向上により,欲しいと思っているサービスにユーザーがたどりつきやすくなったわけです。 これをオンラインゲームに当てはめてみたとき,「特徴のはっきりしないオンラインゲーム」は,成功することが難しくなる可能性があると思います。そのゲームが持つ特徴やターゲットを,明確に打ち出せなければ,市場で生き残ることは以前よりも難しくなってきているのではないでしょうか。
4Gamer: なるほど。その傾向は確かに,SNS,ポータルサイト,MMORPGを問わず見え始めてきていますね。では後発のメーカーは,先にユーザーを囲い込んでいるメーカー/タイトルに対抗できないのでしょうか?
長沢潔氏: そういうことではありません。私は,人気タイトルを抱え,そのユーザーを囲い込んでいる先行メーカーの優位性の一つに,すでに構築されたコミュニティがあると考えています。 コンシューマゲーム機の場合,5年前にヒットしたソフトが,今もなお爆発的に売れるなんてことは通常あり得ないですよね。スペック的にも現在のものに比べ劣っている点が多いでしょうし,現在のユーザーのニーズを捉えていないのが普通だと思うんです。 その一方で,オンラインゲームの場合,数年前にスタートして今もなお人気のあるタイトルはいくつもありますが,新しく市場に投入されるタイトルのほうが技術的に優れていることのほうが多いと考えられます。それでもなお,そのタイトルが今も比較的強いポジションを維持できている状況を考えると,私は,ゲームそのものの価値は,技術力だけではなく,違う何かも大きな影響を及ぼしていると考えています。 その点において,私は内部に存在しているコミュニティの影響も大きいと思うんです。オンラインゲームの場合,「アノ人がいるからこのゲームは面白い」といったプレイヤー同士の盛り上がりこそが,継続的にゲームを続けていく強いモチベーションになるケースは多いのではないでしょうか。
4Gamer: 個人的には,非常に納得のできる意見です。オンラインゲームもSNSも,基本的にはそこでしか成り立たない人間関係があるからこそ,そのサービスへの愛着が深まっていくというものですし。確かに機能や見栄えは,そのサービスを利用するきっかけにはなりますが,継続的な利用へのモチベーションにはなりません。
長沢潔氏: これは私見なのですが,オンラインゲームの選択肢が非常に少なかった時代,誰か先駆者がいて,その人が「これ面白いよ」と言えば,人がワッと集まり,コミュニティが形成されていました。これは,ゲームユーザーの分母が増えた今も,まったく同じだと考えています。 ただ,かつてPCゲームにハマった人々というのが,どちらかといえばネットリテラシーが非常に高く,またPCというプラットフォームにも詳しかった人が大多数を占めていたのに対して,現状はライトユーザー層も意識していく必要がある。状況が変化する中で,アプローチも変えていく必要性を感じています。我々は,ユーザーが感じるハードルの高さをできるだけ下げ,今後どのようにして彼らが欲しいものを提供できるか,きちんと考えていかなければならないでしょう。
4Gamer: Web2.0という言葉は確かにキーワードであり,トレンドにはなっていますが,それが何かという定義は実はまだ明確にはなっていません。ただ確実にいえるのは,今までのように,言い方は悪いかもしれませんが,ユーザーをコントロールしづらいということでしょうか。
長沢潔氏: コントロールという意味合いとはちょっと違うかもしれませんが,Web1.0といわれるメディアは,メーカー側が情報を出し,それを公式サイトに掲載して見てもらうという一方通行でした。その内容を管理したり,クオリティを上げることはメーカー側にしかできないことでもありました。 一方,Web2.0の概念で言うCGM(Consumer Generated Media)というのはそうではなく,実際の一般消費者/ユーザーがコンテンツを集めて作り上げてくれるようなイメージです。ただその中の情報は玉石混交。しかも一般的には,「石」の割合が圧倒的なんですよね……。 全体のほんの1割しかない「玉」,つまり質の高い情報に,一般のユーザーをどうやって導くかは,先ほども言った検索エンジンの質の向上が大きな役割を担うと考えています。つまり,検索エンジンの機能向上は,Web2.0の広がりに大きく貢献していると言えるでしょう。 我々としては,このトレンドの中で,PCのオンラインゲームはどう立ち居振る舞えばいいのか,しっかりと考える必要を感じています。今までとは別の視点やアプローチのポイントを再考すべき時期ではないですかね。
■サービス/コミュニティありきの海外展開は ■安易な決断を避けるべき
4Gamer: ここまでのお話は,基本的に国内に関するものでしたが,ジークレストとしては,海外展開に対する構想はあるのでしょうか?
長沢潔氏: 携帯コンテンツ「ドリームダービー」は,すでに台湾への進出が決まっています。アットゲームズの海外展開も,意識していないわけではありませんが,我々としては,日本のユーザーに受け入れられないうちは,海外展開を考えてもしかたないと考えています。まずは,国内市場での基盤作りのために,リソースを集中させたいですね。
4Gamer: なるほど。分母を増やすために海外へ……,という流れではなく,まずは地盤固めですか。
長沢潔氏: 海外で成功するコンテンツビジネスは,例えばアニメであったり,漫画やゲームなどもそうですが,まずコンテンツありきというものですね。 一方で,サービスやコミュニティに軸足を置いたものについては,海外展開は慎重になる必要性を感じています。一般的に,サービスという目に見えないものは,その国の地場をよく知っている,その国の企業がやったほうが,成功することが多いので。
4Gamer: 最近注目を集めている中国のオンラインゲーム市場も,そういった側面が徐々に顕在化してきてますね。もちろん例外的なサービスも存在しますが。
長沢潔氏: オンラインゲームをコンテンツビジネスとして捉えて,しっかりと開発したものであれば,海外へのアプローチは積極的に考えるべきだと思います。その一方で,コミュニティを中心としたアプローチでのオンラインゲームは,安易な海外進出をした場合,苦労することも多いかもしれません。 一番避けたいのは,海外に向けてタイトルを輸出して,大きな契約金を得た時点で仕事が終わったかのようなやりかたのビジネスです。現地のパブリッシャとデベロッパは,常にWin-Winの関係であるべきです。進出したはよいが,コンテンツが現地の文化になじまず,結果的にその国のユーザーからそっぽを向かれてしまったとしたら,契約金も,その後入ってくるロイヤリティも,すべて後味の悪いものになってしまいます。それが分かっていながら,安易な海外進出はやりたくないというのが,正直なところです。
4Gamer: ジークレストとして,今後コンテンツを開発するとしたら,それはどのようなものになるんでしょうか。非常に興味深いですね。
長沢潔氏: 私がかつて所属していたサイバーエージェントは,ネット専門の広告を扱い,インターネットメディアの立ち上げ/運営も行う企業なので,当社は,ネット上のトレンドについてはある程度の情報量を持っていると思います。オンラインゲームに関しても,そういった観点からも見てきました。インターネット上のメディアが変化していく中で,オンラインゲームにはまだまだ多くの可能性があると感じています。 オンラインゲームを一つのメディアとして考えて,例えば「Second Life」のように,運営側が遊び場を提供し,その中のプレイヤー間でアイテムなどの取引が行われるB2C2Cモデルのビジネススタイルでさえ生まれてきていますし,それ以外の新しいビジネスモデルも,まだまだ考えられそうですね。
4Gamer: なるほど。日本での地盤固めが納得のいくレベルに達したとき,ジークレストはどういった方向性で新しいチャレンジを始めるのか,楽しみにしています。本日はありがとうございました。
ジークレストの社内には,部署ごとにデザイン/作成したというポスターが貼られている。遊び心や顧客に対する想い,仕事に対する責任感などが表現されており,実に興味深い
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アットゲームズというゲームポータルサイトを軸に,自らが抱えるゲーム内コミュニティの活性化を図るジークレスト。いち早く時流を読み,コンテンツの優位性を冷静に判断しつつ,次々と新たなチャレンジを行う同社だが,そこには常に,確かな勝算があるようだ。 ナンバーワン/オンリーワンしか生き残れないWeb2.0時代だからこそ,安易にコミュニティを用意するのではなく,そこへユーザーを導く手段/きっかけを用意することが大切なのだという方向性には,人それぞれ思うところがあるだろう。まずは,アットゲームズでの成果に期待したいところだが,「規模が大きく,立ち上げて間もないため,アットゲームズ単体では,ビジネスとしてはまだこれからという状況です。しかし,ほかのオンラインゲームは順調に成果を上げていますし,アットゲームズそのものの,黒字化の目処は立っており,遠くない将来には実現すると思いますよ」と長沢氏は語っている。同社の「オンラインゲーム内コミュニティの活性化戦略」の実効は,案外早い時期に確認できるのかもしれない。次なる「新たなチャレンジ」にも,注目したいところだ。(ライター:麻生ちはや/大路政志)
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