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[AOGC2007#11]欧米のオンラインゲームがなぜアジア市場で失敗したか? そして韓国ゲーム市場の最新動向とは
2007/02/23 13:40
 オンラインゲーム産業を研究する第一人者として知られるソウル中央大学教授 魏 晶玄(ウィ・ジョヒン)氏。オンラインゲーム関連の講演会ではお馴染みとなっている同氏だが,22日より開催される「Asia Online Game Conference 2007 Tokyo」でも講演を行った。今回は「なぜ欧米のオンラインゲームはアジア市場で失敗したか」をテーマに講演を実施。その原因についての自説を展開していった。
 ちなみに同氏には先日単独インタビューを行い,当サイトの「こちら」に記事を掲載している。そちらも合わせて読むと,今回の講演内容の理解が深まると思うので,ぜひ参照してほしい。



 ウィ氏は,今回の講演テーマに入っていく前に,まず韓国のオンラインゲーム市場における注目ニュースをいくつか紹介。オンラインゲームの教育目的での利用実験について動きがあること,NCsoftの「Lineage 3」開発チームの解散,NEOwizとElectronic Artsの提携,そして韓国でRMTを取り締まる法案が実行されること(2007年3月1日から施行)などを報告。その背景にある課題や流れなども合わせて解説した。
 なかでもNCsoftの一件に関しては,「これは,NCsoftだけの問題ではない。韓国のゲーム産業における開発費の高騰化/巨大プロジェクト化は,右肩上がりの市場拡大に支えられてきた背景があるが,それが通用しなくなっている一例ではないか」と指摘。プロジェクトの効率化などを追求していかなければならないとした。
 またRMTについて取り締まる法案「ゲーム産業振興法」についても軽く言及し,「このような法案の成立によって,今後,ゲーム内アイテムなどの管理が,ゲーム会社にとって負担になる可能性がある」と説明。氏は「このまま状況が推移して,ゲーム内アイテムが現在のように会社のモノとしてではなく,ユーザーの財産ということになると,サーバーに溜まったデータが,財務表上は“会社の負債”扱いになるかもしれない」と語り,そうなった場合,その管理負担は相当なものになるだろうと解説した。
 これは例えば,現在は,ゲームサービスが不調の場合,会社側が一方的にそのサービスを終了してしまう例は少ないわけだが,サーバーにあるデータがユーザーの財産だとすると,それが会社側に許されなくなる(なんらかの賠償が必要になる)……などということだ。もちろんそんなことになると,大抵のサービス会社はうかつに参入できなくなってしまうなど,あまり良い方向にいくとは思えないのだが,そういった展開になる可能性も否定できないとウィ氏は語っているわけだ。




 一通りの報告を終えたあと,ウィ氏は,いよいよ今回のテーマ「なぜ欧米のオンラインゲームはアジア市場で失敗したか」について,話を進めていった。
 ウィ氏が指摘したのは,まず「コミュニティ要素」についての部分だ。ここに関しては,先日行ったインタビューで詳しく聞くことができたので,ぜひそちらを参照してほしいが,端的に言うと,欧米の作品はコミュニティ周りのシステムがまだまだだという話。ウィ氏は「Counter-Stirke」と「Special Force」を例に挙げながら,「欧米の作品は,勝敗を付けるというだけで終わってしまっているが,Special Forceには,MMORPG的な要素が存分に取り入れられている」と,その差異を説明した。
 また氏は,欧米のオンラインゲームが失敗する理由として「ユーザー属性の違い」を挙げる。ここでウィ氏は,自身が調査した結果のデータを参照しつつ,欧米とアジアのユーザーの違いを指摘。PK(Player Killing)に対する意識の大幅な違いや,ゲームに対する接し方の違いなどを解説した。以前からウィ氏が語ってきていることではあるが,アジアユーザーは競争意識が強く「結果」を重視すること,欧米のユーザーはゲームそのものを楽しむ傾向があり「過程」を重視することなどを,改めて強調していた。
 またアジア展開をするにあたっては,要求するPCスペックの低さも重要だとし,中国内陸部や発展途上国においては,そこが最大の関門になっている実情も紹介。ハイエンドなグラフィックスなどが,アジアでは逆に仇となっていることも多いと説明した。



 さて,順を追ってその分析を披露していったウィ氏だが,講演の最後に「欧米のタイトルはほとんど失敗していますが,World of Warcraftだけは大成功を収めています。それについての分析は,GDC(Game Developers Conference)で講演する予定です」と発言。これは会場の多くの視聴者にとって興味深い話題だったのか,質疑応答の時間で「World of Warcraftが成功した理由を簡単にでも教えてください」といった質問が飛びだしたのは印象的。
 ウィ氏は,「ここでしゃべると,GDCで講演ができなくなくなってしまうのであまり話せないのですが・・・・・・」(GDCでの講演は,ほかの講演とかぶらないことが登壇の条件になっている)とややたじろきながらも,「欧米のMMORPGは,パーティプレイをし向けるシステムが多いが,アジアではソロプレイも重視する」など,いくつかのヒント(?)を披露。World of Warcraftには,アジアユーザーが好むシステムがふんだんに盛り込まれていること,グラフィックスや世界観などといった表面的な部分ではなく,ゲームの設計それ自体でアジアユーザーを意識しているという点を指摘し,またそれがBattle.netを通じて長年培った分析の賜なのではないかと解説した。

 今回の講演でウィ氏が指摘するように,Blizzard Entertainmentや一部の例外を除いて,欧米の企業がオンラインゲーム的な要素にまだ目を向け切れていないのは事実であるかもしれない。ただそれは,どちらかといえば,アジアと北米におけるビジネスモデルの差異という理由が大きく,パッケージ主体の欧米(とくに北米)のゲーム市場,そしてその延長にある欧米のオンラインゲーム市場は,アジアとはあまりに状況が異なりすぎるという点は指摘しておくべきだろう。
 また韓国産のオンラインゲームがいくらアジアで多くの成功例があるとはいえ,世界的な……言い換えれば,万国共通で人気を博しているオンラインゲームは,未だ欧米のタイトルのみだという点も指摘しておくべき点であるかもしれない。「Diablo」「Warcraft」そして「Counter-Strike」など,これらのタイトルの人気に国境というものは見受けられないのだ(日本ではいまいちというパラドックスはあるが)。
 ウィ氏が,GDCでどんな講演を行うかは分からないが,World of Warcraftもまた,その人気に国境がないタイトルの一つ。ゲームの人気とは,ユーザー属性や地域性だけで割り切れるものなのか。筆者としては,非常に興味深いところである。次回の講演に注目したいところだ(TAITAI)


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http://www.4gamer.net/news/history/2007.02/20070223134014detail.html