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DDT所属プロレスラー,男色ディーノ選手にゲームとプロレスの話を聞いてみた
2006/12/27 20:40
男色ディーノ(だんしょくでぃーの)選手
身長:179cm
体重:95kg
得意技:男色ドライバー,男色48手+裏筋48手
テーマ曲:スリル
個人ブログ:あきら道
 地上波でのテレビ放送などなく,比較的小規模の所帯で興行を行っている“インディペンデント系”プロレス団体でありながら,プロレスファン以外をも視野に入れた戦略で人気を集めるDDT。この団体には,男色ディーノという“ゲイ”レスラーがいる(“ゲイ”だから終始オネエ言葉で話す)。
 「男色ドライバー」「男色ナイトメア」「シャイニングあてがい」「ファイト一発(男色バージョン)」など独創性の高い技や,常に観客の目を意識したパフォーマンスで,人気を集めているプロレスラーだ。

 実はこのディーノ選手,無類のゲーム好きとして知られており,4Gamerの読者でもあるという。となれば話を聞きに行くしかない。そこで,トークイベント出演後のディーノ選手をキャッチし,ゲームやプロレスについてのインタビューを行った。
 ディーノ選手が初めて遊んだPCゲームや,お気に入りのメーカー,そしてゲームとプロレスの共通性など,多岐にわたった内容になっているので,プロレスはちょっと……という4Gamer読者にもぜひ読んでもらいたい。



■男色ディーノ選手が最初に遊んだPCゲームは……?

4Gamer:
 初めまして,今日はよろしくお願いします。

男色ディーノ選手(以下,ディーノ選手):
 はい,よろしく。

4Gamer:
 男色ディーノ選手は,4Gamerをご覧いただいているとのことなんですが……本当ですか?

ディーノ選手:
 本当よ。気になるPCゲームを調べようと思って検索すると,だいたい4Gamerさんに行き着くのよ。

4Gamer:
 おお,ありがとうございます。では,4Gamerの存在を認識したのは,いつ頃のことですか?

ディーノ選手:
 そうねぇ……確か,2年ぐらい前かしら,「ヴィクトリア 太陽の沈まない帝国 完全日本語版」が気になっていたのね。これは買いなの? そうでもないの? って思って調べていたら,4Gamerさんにレビューが載っていたのよ。それを読んで,買う決意をしたものよ。

4Gamer:
 なるほど,日ごろレビューは参考になっていますか?

ディーノ選手:
 ええ。なんていうか……レビューに背中を押されることが多いわね。買おうかどうしようか迷っているときの,最後の一押しみたいな感じでね。

4Gamer:
 お役に立てているようで嬉しいです。

ディーノ選手:
 ほかに参考になるようなものも,あまりないのよね。PCゲームって。

4Gamer:
 そんなディーノ選手が,最初に遊んだPCゲームは何ですか?

ディーノ選手:
 うーん……細かくは覚えてないけど,学生時代にPCの授業があって,学校のPCで「ぷよぷよ」を遊んでいるヤツがいたのよ。それで私も……ぷよったわ。

4Gamer:
 脳みそをこねこね。

ディーノ選手:
 5連鎖までは,比較的簡単にできるようになってね。5連鎖できれば,当時はたいがい負けなかったのよ。PCでのゲームにはまったのは,これが最初ね。

4Gamer:
 その次は……?

ディーノ選手:
 そうね……,「同級生」あたりかしらね。

4Gamer:
 というと,エルフ(編注:美少女ゲームのメーカー)の?

ディーノ選手:
 そう。当時は別に意識していたわけじゃないんだけど,やるゲームやるゲームがエルフの作品だったわね。

4Gamer:
 ああ,エルフ黄金時代みたいな時期が'90年代にありましたよね。

ディーノ選手:
 あとは……アリスソフトの「ランス」なんかにも,本気ではまったものよ。

4Gamer:
 そういえば最近もブログで,気になるゲームとして「戦国ランス」を挙げていますよね。

ディーノ選手:
 戦国ランスは本当に気になっているのよ。

4Gamer:
 でも……ディーノ選手って,男色なんですよね?

ディーノ選手:
 ランスは,ゲームとしてきっちり遊べて,エロじゃなくてもいいじゃん! ってところがいいのよね。エロである必要がないのに,あえてエロをしているところが素晴らしいのよ。エロに走る必要がないぐらいゲームとしてしっかりしているのに,エロに対するこだわりもきっちり感じさせてくれるのが,あっぱれだと思うわけ。



■好きなジャンルはシミュレーションやストラテジー

4Gamer:
 そ,そうですか……。えー,あんまり18禁ゲームの話ばかりしていると,掲載できなくなってしまうので,話を少し変えますね。PCゲームで遊び始めた頃,周囲にPCゲームに詳しい友達はいましたか?

ディーノ選手:
 実は当時,ゲーム屋でバイトをしていたの。そこにはPCゲームは売ってなかったんだけど,PCゲームが好きな人はいたのね。その人から譲ってもらったり,一緒に大阪の日本橋に買いに行ったりしたわよ。

4Gamer:
 ああ,ディーノ選手は関西のご出身ですもんね。
 その頃,一番遊んでいたジャンルは何ですか?

ディーノ選手:
 今もそうなんだけど,シミュレーションやストラテジーが好きね。

4Gamer:
 というと,コーエー(当時は光栄)の作品あたりですか?

ディーノ選手:
 もう,チョー好きよ。三國志シリーズなんて,そのうちコンシューマに移植されると分かっていても,少しでも早く遊びたくてね……。パワーアップキットが出るのも,待てなかったわ。

4Gamer:
 気がはやるわけですね。コーエーの作品としては,歴史ストラテジー一辺倒だったんですか?

ディーノ選手:
 いえ,「大航海時代」も好きだったわ。基本的にコーエーが大好きで,コンシューマでしか出ないゲームがあるのを許せないぐらいだったのよ。まずはPCで出してよ! そういう会社だったじゃない! って。

4Gamer:
 ああ,ほんの少し前まではそうでしたよねぇ。

ディーノ選手:
 こっちなんか,それほど興味がない「アンジェリーク」(編注:女性向け恋愛シミュレーション)すら,コーエーが好きっていうだけで遊んでるんだから。

4Gamer:
 本格的に筋金入りのコーエーファンなんですねぇ。

ディーノ選手:
 「蒼き狼と白き牝鹿」や「水滸伝」とか,あまりシリーズが続いていない作品も,かなり好きね。

4Gamer:
 そのあたりの作品は最近,廉価版として売られていますよ。

ディーノ選手:
 うーん……ただなんか,贅沢な飽食の日本っぽくてアレなんだけど,グラフィックスがすべてではないと言われても,もう戻れない自分もいるのよ。

4Gamer:
 それは確かにありますよね。
 それにしてもディーノ選手は,シミュレーション系のジャンルへの思い入れが本当に深いんですね。

ディーノ選手:
 シミュレーションはコンシューマなんかじゃなくてPCで出しなさい! ぐらいに好きね(笑)。

4Gamer:
 その理由を教えていただけますか?

ディーノ選手:
 魅力はやっぱり,数字の増減でその間に何があったかを自分の中で構築できるところじゃないかしら。

4Gamer:
 ああ,戦争や疫病で人口が減ってるのを眺めながら,その数字の向こうにある一人一人の人生,物語を考えたりできますよね。

ディーノ選手:
 そうそうそう。軍と軍がぶつかって,数字が減っていくわけじゃない。でもそこには,何かがあるはずなのよ。どんな奇襲があったのかとかも含めてね。さすがに戦闘のたびにいちいち細かくは考えないけど,数字に感情移入できる仕組みって凄いじゃない。こういうのは,コーエーがうまいのよねぇ。

4Gamer:
 数字の増減で楽しめるか否かっていうのは,あの手のゲームを遊ぶうえで大きなポイントかもしれません。

ディーノ選手:
 そうかもしれないわねぇ。でも一方で,ゲームのロード時間が苦手なのよ。この1秒は何なんだろうって思っちゃって。

4Gamer:
 ディスクを読み込んでいる音だけしかしない瞬間とかですか?

ディーノ選手:
 あれはあれで好きなのよ。でも,画面が暗くなって1秒というのは何かしら。本当は,そこまでも楽しめないといけないのかもしれないけどね。その1秒に何かを期待しなければいけないはずなのに,無機質なものとしてしか見られないの。

4Gamer:
 確かに。うまく処理したり演出に組み込んだりしているゲームもありますけど,集中力が寸断されちゃうだけのケースもありますよね……。
 ところで,最近一番はまっているゲームは何ですか?

ディーノ選手:
 うーん,これまで話してきたのと全然違うんだけど,ニンテンドーDS用の「いまさら人には聞けない 大人の常識力トレーニングDS」。もう1か月半やり続けてるの。おっきい判子が押され続けないと気が済まなくて。

4Gamer:
 どんどん常識的な人間になっていってるんですか?

ディーノ選手:
 今,常識力74なんだけど,別に常識を身につけたいわけじゃないの。でもなんか……やらないと気持ち悪いのよね,日課になってるから。



■プロレスラーにとってプロレスは,ゲームのようなもの

4Gamer:
 プロレスゲームは遊んできました?

ディーノ選手:
 ……「人生プロレス」とかね。

4Gamer:
 じ,人生プロレス……。1995年ぐらいに,「週刊プロレス」に広告が載っていましたよね。すっごく気にはなっていたんですが……,遊んだことのある人に初めて会いました。

ディーノ選手:
 あれはね……,面白さが理解できないまま終わってしまったわ。
 本当に意味が分からないまま……。

4Gamer:
 あれって……一体,何なんだったんですかね。

ディーノ選手:
 今,それが知りたい。どこが出したかも分からないし(編注:プロフォースシステム)。

4Gamer:
 当時の開発者や,関係者がもしこれを読んでいたら,ぜひ4Gamerまで連絡をいただきたいですねぇ。一度,じっくり話を聞いてみたいです。

ディーノ選手:
 ああ,それは賛成ね。

4Gamer:
 ほかのプロレスゲームはいかがですか?

ディーノ選手:
 コンシューマ含め,プロレスゲームは一通り遊んでるわ。ただね,PCで出たプロレスゲームは,すべからく面白くないのよ。

4Gamer:
 プロレスゲームというか,カードゲームですけど「レッスルエンジェルス」もお気に召しませんでしたか。

ディーノ選手:
 あれは,スーパーファミコン版のほうが余計なものがそぎ落とされていて面白かったわね。あとは……「フィニッシュホールド」というシリーズも遊んだけど……うーん。

4Gamer:
 満足できるものに出会ったことはないんですね……。

ディーノ選手:
 プロレスって見る側に妄想力が必要なジャンルだと思うわけ。そういう意味では,シミュレーションゲームが最適なのよ。でも,名作と言い切れるタイトルは,まだないわね。だからプロレスのシミュレーションゲームは,今こそ素晴らしいものをどこかに作ってほしいわ。

4Gamer:
 こちらが想像していた以上に,いろんなゲームで遊んできたようで,びっくりしています。こんなにゲーム漬けだったディーノ選手は,どうしてプロレスラーになったんですか? もちろん,プロレスが好きっていうのは大きいんでしょうが。

ディーノ選手:
 プロレスとゲームって,実はそう遠いジャンルでもないと思うのよ。

4Gamer:
 え?

ディーノ選手:
 プロレスってね,そもそもリアリティがない世界なの。その中で,どうリアリティを表現するかがポイントでね。

4Gamer:
 というと……?

ディーノ選手:
 いやね,ゲームってボタンを押したりキーボードを打ったりするだけで,画面の中で人が動いたりするでしょ。これは本来,おかしなことなのよ。

4Gamer:
 ああ,画面の中とこちら側は,同じものではないですもんね。なのに,感情移入できたりするという……。

ディーノ選手:
 作り手の発想だとは思うけど,このボタンを押したら,どれがどう動くのか,そのときにどうリアリティを感じさせるのか,感性にフィットさせるのか,感情移入させるのかっていうのは重要なことじゃない。

4Gamer:
 生理的に気持ち悪いインタフェースのゲームって,結局,感情移入もできないですしね。

ディーノ選手:
 でしょ? そうやって,どう感性にフィットさせるかっていうのが,プロレスにも共通しているのよ。

4Gamer:
 ???

ディーノ選手:
 難しいかしら。プロレスの技って,必ずしも当たるものばかりじゃないじゃない。避けられるものとか,非現実的なものとかがたくさんあるの。でも,見ている側が感情移入してくれれば,そこにリアリティを感じるはずなのよ。じゃあ,どうやって感情移入させるか,リアリティを表現するかっていうのが,やる側にとってはゲーム性のあるものなの。

4Gamer:
 そういえば,かの前田日明もかつて,「プロレスはイニシアティブを奪い合うゲーム」だと発言していたこともありましたよね。対戦相手とだけではなく,試合を通じた観客とのコミュニケーションにもそういうゲーム性はあるものなんでしょうか。

ディーノ選手:
 そういうことね。

4Gamer:
 それにしても,こういうことを,言語化できるディーノ選手は,選手として“やる側”というより,作り手としての意識が強いような気がするのですが……。

ディーノ選手:
 それはあるかもしれないわね。本当を言うと,選手としてリングに上がりたくないの。ただ,選手としてある程度がんばらないと,ほかの選手が言うことを聞いてくれないじゃない。

4Gamer:
 ああ,なるほど。ほかの選手に対して発言力を持つために,選手をやっていると?

ディーノ選手:
 そのためだけにやってる気がするわね,今となっては。

4Gamer:
 昔から,受け身の一つもとったことのない外野が,リング上のことに口を挟むな! という世界ですもんね。良くも悪くも。

ディーノ選手:
 例えば野球でもね,バッティングフォームを指導されるとしたら,未経験者じゃなくて中日の落合監督に直されたいじゃない。そんな感覚だと思うのよね。

4Gamer:
 それは確かにそうですよねぇ。ではディーノ選手ご自身,現役生活へのこだわりは,あまりないんですか?

ディーノ選手:
 正直,ないわね。ただまぁ,せっかくリングに立っているんだから,やれるうちにやれることは,やってやろうとは思っているけど。現役というものに対しての執着はないわ。



■プロレスもゲームも“無駄”こそが面白い

4Gamer:
 リング上のディーノ選手を見ていると,それはとてももったいない気がします。

ディーノ選手:
 あら,どうして?

4Gamer:
 いや最近ですね……,プロレスを見ていると寝ちゃうことが多いんですよ。好きなはずなのに。でもディーノさんの試合では,寝たことがないんです。それぐらい,選手として面白いわけですから。

ディーノ選手:
 でもそれは,やる側にとってコツの問題なのよね。例えば,グラウンドの展開(編注:寝技)って,好きな人は好きなんでしょうけど,プロレスのダイナミックさだけを見たい人にとっては,退屈なものでしかないじゃない。

4Gamer:
 グラウンドの技術がもの凄く高い人の場合は,見ていても面白いですけどね。

ディーノ選手:
 でも,選手全員がそうじゃないでしょ? だったら,できる範囲のことで,見ている側にとっても意味のあるものをやるべきじゃない。時間稼ぎのためのグラウンドなんてね,どうかと思うわ。

4Gamer:
 時間切れ引き分けを狙っているとしか思えないようなグラウンドなんかも,たまに見かけますもんね。

ディーノ選手:
 そうなのよね。勝敗をつけず,引き分けるための試合もあるわけ。

4Gamer:
 引き分ければ王座防衛! みたいなのもありますし。

ディーノ選手:
 でもそういうのって,お客さんにとっては,私にとってのロード時間みたいなものだと思うわよ。

4Gamer:
 感情移入していたのが,ぶつっと切れちゃったり。何でこんなの見てるんだろう? って我に返っちゃったり……。

ディーノ選手:
 プロレスってね,相手を倒すということ以外の部分に価値があるのよ。そもそも私なんか,相手の肩をマットに付けて3秒経ったら勝ちっていうルールからして,いまいち納得できていないもの。でも,そういうルール以外のもの,勝敗を度外視したところにある何かにこそ,価値があると思っているの。

4Gamer:
 それは,相手を倒すということだけを考えたら,無駄にしか思えない動きや展開のことですか?

ディーノ選手:
 ゲームでも同じじゃない。本筋以外のやり込み要素みたいなもの,ゲームを作っている人が一番伝えたいこととは違う,脇道の部分にも楽しさってあるでしょう?

4Gamer:
 「ちいさなメダル」を集めたり,NPCがやけに生活感にあふれたことを話したり……とかですね。

ディーノ選手:
 あとは,RPGの釣り要素とかね。もちろん,遊び手にとって好き嫌いはあると思うの。それをきっちりこなしたところで,そんなに見返りもないし。

4Gamer:
 脇道のやり込み要素って,ゲームの不毛感を象徴しているものでもありますよね。なくてもいいもの,でもあると楽しいし,ゲームの世界全体が豊かになる。

ディーノ選手:
 でしょう? ゲームを遊ぶんだったら,そこまで無駄なことをしないとダメだと思うの。作るんだったら,徹底的に無駄なものを用意するべきだと思うの。本来,ゲームなんて,いくらやったところで形に残るものは何もないじゃない。

4Gamer:
 無駄だからこそ,楽しいんですよね。

ディーノ選手:
 プロレスだって同じなのよ。相手を殴り倒すだけだったら,「PRIDE」とかボクシングでいいじゃない。でもそれ以外の部分があるからこそ,プロレスはプロレスとして楽しめるものなの。

4Gamer:
 相手を倒す以外のやり込み要素があるのが,プロレスということですか?

ディーノ選手:
 そう。だから私はプロレスをやるうえで,とことん無駄なことをしないといけないんじゃないかなと思ってるの。そこがたぶん,ゲームの不毛さとも似ているんじゃないかしらね。だって,ストーリーを追うだけだったら,ゲームなんかやってないで,映画や本で楽しめばいいじゃない。でも,もっと時間のかかるゲームをやるのってね,凄く楽しいでしょう?



■ゲームもプロレスも“サービス業”である

4Gamer:
 よくよく考えると,面白いことはたいがい無駄なことですし,無駄なことに限って面白いものですよね。

ディーノ選手:
 趣味って基本的には無駄なことだしね。

4Gamer:
 まあ,趣味が高じてお金が儲かるみたいなケースもありますが。

ディーノ選手:
 趣味のまま仕事になってる人は,ある種の天才よね。

4Gamer:
 ディーノさんにとって,プロレスはそうじゃないんですか?

ディーノ選手:
 私の場合,プロレスという範囲の中で,自分のやりたいことだけをやれているわけじゃないから。

4Gamer:
 というと……?

ディーノ選手:
 プロレスでどんな試合をするかって,独りよがりじゃできないの。そこには観客と,試合を提供する側の関係があるじゃない。この関係っていうのを度外視したら,ダメなんだろうなって思うのよ。こうやって小難しく考えちゃってる時点で,趣味じゃないよね。

4Gamer:
 では,職業ということですか?

ディーノ選手:
 職業ね。それで儲かっているかどうかはさておき,職業の感覚で取り組んでいるわ。

4Gamer:
 ディーノ選手って,学生プロレス出身ですよね。学生プロレス出身の方って,どちらかというと趣味の延長みたいな感じなのかなと思っていたんですよ。

ディーノ選手:
 その感覚は,学生プロレスを辞めて,名実共にプロレスラーとして仕切り直す段階で捨てたの。プロの世界は,自分の好きなことだけをやる場所ではないんだなって思ってね。

4Gamer:
 学生プロレスと職業としてのプロレスの違いは,どこにあるんですか?

ディーノ選手:
 学生プロレスはね,美大生が作品を作って見てもらうっていう感覚と同じ。もちろんその場合でも,自分の作りたいものじゃなくて,見た人がどう感じるだろうという計算もあるわけよね。学生プロレスと職業としてのプロレスの違いは,その二つの比重をどちらに置くかが一番大きいんじゃないかしら。

4Gamer:
 あ,そうか。プロレスは作品作りと同じなんですね。

ディーノ選手:
 実はプロレスって,けっこう文化系なの。

4Gamer:
 例えば美大生なんかが,表現しようという欲求だけで突き進めるのに対して,職業としてプロレスをやっていると,作品作りを日常的にやらなければならないと思うんです。となると,表現をしようという欲求,衝動だけでは無理ですよね。

ディーノ選手:
 それは,無理ね。もちろん,欲求や衝動も大事なんだけど,そこにいろんな要素が加わってくるの。

4Gamer:
 一番大きな要素は何ですか?

ディーノ選手:
 プロレスって,見てもらっても形に残らないのよ。言うなればサービス業でね。お客さんからいただいたお金に見合うだけのサービスができているかを考えなければならないのが,学生プロレスとプロレスの違いじゃないかしら。

4Gamer:
 なるほど! 職業としてのプロレスは,サービス業なんですね。
 それはゲーム作りも,もしかしたら同じかもしれません。

ディーノ選手:
 たぶん,同じよね。きっとゲーム作りもね,面白さだけをつきつめるわけにはいかないと思うの。そこには何かしらビジネス的な事情もあって,開発者達はプレイヤーには見えない部分で苦悩しているはずよね。でもね,その中で妥協をしながらも,高いレベルの落としどころを見極められる人が,名プロデューサーと呼ばれるんじゃないかしら。同じような場合,プロレスだと……名プロレスラー……?

4Gamer:
 裏方の力も大きいですから,難しいところでしょうけど(笑)。

ディーノ選手:
 プロレスに関してはそういうところもあるわね。

4Gamer:
 ではディーノ選手にとって,ゲームの名プロデューサーといえば,真っ先に思いつくのは?

ディーノ選手:
 やっぱり任天堂の宮本 茂さんじゃないかしらね。宮本さんのゲームって,好き嫌いはもちろんあるけど,誰がやっても面白いじゃない。もの凄く高いレベルに,妥協点を設定して,見事に形にしているわよね。私も,プロレスという作品作りをしていくうえで,高いレベルでの妥協点を見つけながら,より良い作品を作っていきたいわ。

4Gamer:
 期待しています。
 今日はありがとうございました。



 プロレスとゲームを関連づけて,ここまで語れるプロレスラーとして,ディーノ選手は希有な存在である。「男色ディーノはゲーム好きらしい」。ただそれだけで会いに行ってみたのだが,こちらの予想を上回るゲーム好きっぷりは,嬉しい誤算だった。
 独自の“ゲイレスリング”を標榜しているわ,口調はオネエ言葉だわで,色物と見られがちなディーノ選手だが,実はかなりのプロレス巧者としても有名。その裏側にある知性の一端が,このインタビューでも伝われば幸いだ。

 そんなディーノ選手は,12月29日(金)に東京・後楽園ホールでDDT「NEVER MIND 2006」に,12月31日(日)にも同じく後楽園ホールで「インディーサミット2006 カウントダウン・プロレス」に出場予定。さらに2007年1月3日(水)に,やっぱり後楽園ホールで行われる「マッスルハウス3(仮)」にも,何らかの形での登場が期待できそう。ほんの少しでも興味を持った人は,ぜひ会場に足を運んでみてはいかがだろうか。ただし男性の場合は,ディーノ選手の入場時に襲われないように注意してほしい。(TeT)


(2006年12月15日収録)


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