ゲームメーカー3社の中間決算報告に見る業界の景気あれこれ
株式を公開している企業では,半年(または3か月)ごとに損益を算出し,中間決算として投資家向けに公開している。どのくらいの売上で,どのくらいの利益を出しているか,その会社が儲かっているかどうか,中間決算を見れば一目瞭然というわけである。 株式を公開している企業であれば,当然ゲームメーカーもこの中間決算を発表しているわけで,本稿執筆時点でも,いくつかのゲーム会社が中間決算短信/中間財務諸表の概要を公開している。 ここでは,ガンホー・オンライン・エンターテイメント,ゲームポット,スクウェア・エニックスという,日本のオンラインゲーム業界では大手といえるゲームメーカー3社の中間決算をちょっと見てみよう。
さて,株式をやっている人ならともかく,読者の多くは中間決算短信のたぐいを見る機会はそうそうないだろう。そこで,最初に用語の解説を簡単にしておこう。 基本的には,中間決算短信にある「経営成績」の売上高と営業利益または経常利益を見ればいい。売上高はその名のとおり企業の総売上であり,営業利益は売上から売上原価や販売管理費などのコストを差し引いたもの。つまり,その企業の“本業”でどれだけ儲かったかを示す金額だ。営業利益を売上高で割ると,売上のうち何%が利益で,どれだけ効率良く稼いでいるかの指標になる。 経常利益は,財務活動などの金融収支など,本業以外の通常業務(いわゆる財テクとか)から上がる損益を加減して求めたものである。要するに,その企業が持っている,会社としてのトータルパワーというわけだ。 その会社の業績は,営業利益か経常利益を見ればある程度分かるのだが,ここでは本業の利益である営業利益を見ることにしよう。
以下,ゲームメーカー各社が公表している決算短信を抜粋してみる。
■ガンホー・オンライン・エンターテイメント IR情報:http://ir.gungho.jp/html/ir_index.html 個別中間財務諸表の概要より(2006年8月11日公開)
平成18年6月中間期(2006年1月1日〜6月30日) ・売上高:30億7322万円 ・営業利益:4億5987万1000円 ・売上高営業利益率:15%
平成17年6月中間期(2005年1月1日〜6月30日) ・売上高:23億1192万1000円 ・営業利益:2億2053万6000円 ・売上高営業利益率:9.5%
※千円未満は切り捨て表示
ガンホー・オンライン・エンターテイメントの中間決算では,通期の業績見通しが開示されていないため,簡単に考察するにとどめる。2005年の同時期と比べると,売上高で約6億6000万円,営業利益で約2億4000万円と,順調に業績が伸びている。売上高営業利益率も,9.5%→15%と上昇している。数字を見る限りは,順調に伸びている企業の見本のような数字だ。
※2006年8月16日追記:2006年8月15日付で,「平成18年12月期中間決算短信(連結)及び平成18年12月期個別中間財務諸表の概要の一部訂正に関するお知らせ」(※リンク先はPDFファイル)がリリースされている。
■ゲームポット IR情報/IR資料:http://www.gamepot.co.jp/ir_top.aspx 平成18年12月期中間決算短信(非連結)より
平成18年6月中間期(2006年1月1日〜6月30日) ・売上高:8億1200万円 ・営業利益:2億4000万円 →売上高営業利益率:29.6%
平成17年6月中間期(2005年1月1日〜6月30日) ・売上高:4億9300万円 ・営業利益:1億8000万円 →売上高営業利益率:36.5%
※百万円未満は切り捨て表示
ゲームポットは,総株式の72.8%を持つアエリアの連結子会社である。ただ,この中間決算は非連結のものなので,ゲームポット単体の損益を示しているといっていい。 売上高はガンホーと比べるとひと桁少ないが,営業利益は2006年の中間決算では2億4000万円とガンホーの約半分,売上高営業利益率は29.6%と,ガンホーの倍近い数字だ。2005年の同時期に比べると売上高営業利益率は落ちているが,これは,販売費および一般管理費の金額が2005年6月期の8763万8000円に対し,2006年では2億425万6000円と,倍以上の数字になっているのが主な要因だろう。
■スクウェア・エニックス 決算短信:http://www.square-enix.com/jp/ir/j/data/financial/ 平成19年3月期 第1四半期財務・業績の概況(連結)より(2006年7月27日発表)
平成19年3月期 第1四半期(2006年) ・売上高:371億9600万円 ・営業利益:27億1700万円 →売上高営業利益率:7.3%
平成18年3月期 第1四半期(2005年) ・売上高:112億7800万円 ・営業利益:3億7200万円 →売上高営業利益率:3.3%
※百万円未満は切り捨て表示
スクウェア・エニックスの場合,先の2社と異なり,3月期決算および四半期ごとの短信となっているので,4月1日から6月30日までの業績が公表されている。また,決算概要は連結グループの業績となる。 営業利益が2005年の同一時期に比べ,約23億円のプラスと大きく上昇している。しかし,総売上高が約372億円と大きいため,売上高営業利益率は7.3%と,先の2社と比べると非常に低い。これは同社の業務がコンシューマ向けのパッケージソフトが中心であるところにもよるだろう。 また,スクウェア・エニックスでは,事業の種類別/所在地別のセグメント情報も出しているのだが,このデータが興味深い。 所在地別セグメント情報は以下のようになっている。
■所在地別セグメント情報 平成19年3月期 第1四半期(2006年4月1日〜6月30日) ・日本 売上高:310億500万円 営業利益:25億5500万円
・北米 売上高:41億9300万円 営業利益:1億7000万円
・欧州 売上高:17億9200万円 営業利益:1億9000万円
・アジア 売上高:2億500万円 営業利益:−1億9800万円
平成18年3月期 第1四半期(2005年4月1日〜6月30日) ・日本 売上高:95億7200万円 営業利益:5億3700万円
・北米 売上高:13億6700万円 営業利益:−1億9000万円
・欧州 売上高:1億2500万円 営業利益:2400万円
・アジア 売上高:2億1400万円 営業利益:0百万円(※利益が100万円未満)
※百万円未満は切り捨て表示 ※売上高はセグメント間の内部売上高および振替高を除く
2006年のグループ全体の売上高371億9600万円/営業利益27億1700万円のうち,日本が売上高310億500万円/営業利益25億5500万円と,それぞれ83%/94%を占める。 また2005年の中間決算では,連結時の営業利益3億7200万円に対し,日本の営業利益は5億3700万円であり,北米が苦戦し赤字となったのが影響しているようだ。2006年では,アジアが営業利益1億9800万円の赤字だが,日本の営業利益が25億5500万円と大きいため,グループ全体としてはそれほど目立たなくなっている。 次に,事業の種類別セグメント情報を見てみよう。
■事業の種類別セグメント情報(一部のみ抜粋) 平成19年3月期 第1四半期(2006年4月1日〜6月30日) ・ゲーム事業 売上高:85億4700万円 営業利益:3億6300万円
・オンラインゲーム事業: 売上高:47億5100万円 営業利益:20億300万円
平成18年3月期 第1四半期(2005年4月1日〜6月30日) ・ゲーム事業 売上高:44億3700万円 営業利益:−10億7400万円
・オンラインゲーム事業: 売上高:29億6200万円 営業利益:11億4900万円
※百万円未満は切り捨て表示
ここでは,ゲーム事業とオンラインゲーム事業の実績のみ抜粋したが,非常に興味深いデータである。2006年では,ゲーム事業の売上高はオンラインゲーム事業の倍近い85億4700万円だが,営業利益は売上高の4%となる3億6300万円にすぎない。 また,2005年ではゲーム事業は10億7400万円もの赤字となっているが,オンラインゲーム事業の営業利益がそれをカバーし,事業全体では3億7200万円の黒字となっている点もポイントだろう。オンラインゲーム事業の利益率の高さといったらない。
以上,簡単ではあるが,ゲームメーカー3社の中間決算データを見てきた。ただ,気をつけてほしいのは,この3社はゲーム事業を主として株式市場の上場企業として成り立っている,いわゆる景気のいい会社であり,業界すべてを物語っているわけではないという点だ。この3社の数字を見ると,オンラインゲーム事業は非常に“おいしい”事業に映るが,ほかの多くのゲームメーカーはこの図式には当てはまらない可能性もある。 今後も勝ち馬に乗るべく,さまざまなゲームメーカーの参入が予想されるが,すべからくゲームというものは,プレイヤーがお金を出してこそ成り立つものである。ゲームメーカー各社には,ゲームタイトルの単なる乱発ではなく,優良ソフトのリリースと,プレイヤーにとって快適な運営をしてくれることを願いたい。(oNo)
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