[WinHEC 2006#01]ビル・ゲイツ基調講演でWindows Vista β2のリリースがアナウンスされる
Windowsのハードウェア・エンジニアのためのカンファレンス,WinHEC 2006が今年も,Microsoftのお膝元,アメリカはワシントン州シアトル市で開幕した。
米国時間2006年5月23日から,米国シアトル市,ワシントン州コンベンション&トレードセンターで開かれているWinHEC 2006
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初日の基調講演は,Microsoftのチェアマン&チーフ・ソフトウェア・アーキテクトを務めるBill Gates(ビル・ゲイツ)氏の挨拶から始まった。
「WinHECは我々にとって最も重要なイベントの一つです。USBやPlug and Playといった,今では当たり前となった機能の数々は,すべてWinHECで初公開してきました。今回のWinHECでも,皆さんはさまざまな新しいテクノロジーと接することになることでしょう」
Gates氏いわく,2007年のコンシューマ向けWindows Vistaの発売を控える2006年だが,年内に全世界で2億5000万台のPCが出荷される予定とのこと。これは前年比で10%の増加率であり,PCというプラットフォームの成長が順調である見通しなのだそうだ。コンシューマ向けWindows Vistaの発売が事実上延期されたことが,市場へ与える影響は少ないのだ,といったところだろうか。
続いてGates氏は,32bitから64bitプラットフォームへの移行が,これまでのPCアーキテクチャにおけるメモリアドレッシング拡張の歴史の中では最もスムースに行われていることを指摘。この流れの後押しを受けて,2007年以降,サーバー関連製品群を中心に「64bitオンリー」の製品展開が行われるロードマップを示した。64bit化はメインフレームクラスの巨大データの取り扱いを身近にするもので,より高度なデータマイニング(データ解析)を可能にし,地味ながらコンピューティングを1段階上のものに昇華するパワーを持っていると説明する。
「64bit最適化」から「64bitだけ」へと進むMicrosoftのサーバー関連製品群
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2009年にはすべてのPCが64bit対応&マルチコアCPU搭載になる!?
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そして現在,CPUのトレンドがマルチコアに向かっていることも指摘した。コンピュータの性能評価において,クロック当たりのパフォーマンスという性能指標だと,現在のCPUアーキテクチャでは向こう4〜5年は性能向上を見込めない。そのため,CPU内のコア数を増やして,1クロック当たりのスレッド処理数で評価するというのが,新しい性能基準になりつつある。 Gates氏は,「現在のマルチスレッドOSを使うだけでも“それなり”に恩恵が得られますが,今後4→8→16→32とコア数が増えていくに連れて,マルチコアを積極的に活用するためのソフトウェアパラダイムの変革も求められてきます」と指摘。また,2009年までにはサーバーだけでなく,ノートPCも含めたすべてのPCでマルチコアが当たり前になるだろう,という見通しも述べた。
■Windows Vistaの発売に向けて
Windows Vista,Longhorn Server,Microsoft Office 2007のβ2リリースを発表
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このあと,Gates氏はWindows Vistaや,Microsoft Office 2007,Windows Vista世代のサーバーOS「Lonhorn Server」(※開発コードネーム)の3製品について,β2のリリースをアナウンス。WinHEC 2006来場者に提供し,続いて一般公開も行うとした。β2は各国語版が用意される予定で,そのなかにはもちろん日本語版も含まれる。
また,2006年5月18日からは,手持ちのPCがWindows Vista環境へアップグレード可能かどうかを診断してくれる「Windows Vista Upgrade Advisor Beta」の提供がスタート。さらに,現在使用しているアプリケーションソフトウェアがWindows Vista環境で使えるかどうかの診断を行う「Application Compatibility Toolkit v5.0 Beta」も,近々提供が始まるという。
Windows Vista発売までのロードマップ。コンシューマ向けは2007年1月発売予定だが,ビジネス向けは11月に発売予定
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年末商戦には「Work with Windows Vista」(Windows Vistaで動作)「CERTFIED FOR Windows Vista」(Windows Vista認証済み)といったロゴの貼付されたハードウェアが市場に出回る予定となっており,2007年1月のWindows Vistaの発売がいよいよリアリティを持ってきた印象だ。
■“プリペイドPC”はユニークな試みだが ■学生向けソリューションは今のところなし
さて,Windows Vistaの話に続けて,Gates氏は「すべての人の机の上に,PC環境を提供したい」という想いでMicrosoftを起業し,ここまで発展させてきたと語る。 「しかし,世界にはPCを所有することが難しい国々の人々がいます」と続けた同氏は,彼らの境遇を何とかしたいし,それはビジネスチャンスでもあるはずと考え,途上国地域の人々向けにPC環境を提供する「Microsoft FlexGo」(以下FlexGo)と呼ばれるソリューションを開発したと発表した。
PCを世界の全域に。そしてそれが新しいビジネスにつながる……というのがMicrosoftの描くシナリオ。そして,その答えを導くための存在がFlexGoだ
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例えば,600ドルのスペックのPCを250ドルで自宅に持ち帰れるが,使うには別途プリペイドカードが必要。そして,購入したポイント分だけPCが使えるようになるという仕組み
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FlexGoは,ズバリ言ってしまえば,プリペイド式携帯電話のビジネスモデルを模倣したものである。高価なPCを購入できない途上国などにおいて,非常に安価なコストでPCを提供。以降ユーザーはプリペイドカードを購入し,これに記載されているコードを利用して,PCの使用を継続させるというものだ。すでにブラジルで試験導入がされており,その結果いかんでは,世界展開を考えていくという。
CPUやグラフィックスチップなど,進化の激しいハードウェアを組み合わせたハイエンドスペックなPCでも,このような導入スタイルが実現できれば,懐具合の豊かでない学生ゲーマーにもかなりうれしいソリューションとなりそう。だがしかし,現時点ではあくまで,途上国を中心とした新規市場(Emerging Markets)向け専用のソリューションとのことであった。
FlexGoソリューションに参加表明している企業群(左)。PCが途上国にも普及することを狙う(右)
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まことしやかにささやかれていた“Xboxポータブルの発表”アナウンスは,結局なし。フタを開けてみれば,「Windows Vista発売直前のWinHEC」というイメージどおりの基調講演が行われたに過ぎなかった
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最後にGates氏は「WinHECに参加している技術者の皆さん,ともに,Windowsプラットフォームを次のレベルへ昇華させていきましょう」と述べ,基調講演を締めくくった。 WinHECはハードウェア開発者向けのカンファレンスであるため,基調講演はこんな感じだったが,米国時間5月25日以降は,DirectX 10など,ゲーマーにも関係深い話題が出てくる予定だ。また,ゲーマーにとって注目すべきWidows Vistaの機能に関してのセッションもフォローしていくので,期待していただきたい。
■WinHEC EXPOも開幕
WinHEC 2006では非常に規模が小さいながら展示会も開かれている。 エンタープライズ系やサーバー関連などの展示が多いのだが,いくつかホビーユースに近い展示もあったので,抜粋してお届けしたい。
左:WinHEC 2006の小規模な展示会場。おもに食事の場として利用されているため,展示規模は小さく,しかも入場できるのは食事時のみだ
右:ギターメーカーのGibsonも出展し,ミニライブを開催していた(右)
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Samsung Electronicsブースでは,新開発で未発売の27V型WUXGA液晶パネルが展示されていた。解像度は1920×1200ドットで,アスペクト比は16:10。 画素密度は83.9dpi,最大輝度は500cd/m2と明るく,その甲斐あって最大コントラストも1000:1を誇る。液晶方式は垂直配向型液晶を同社が独自に拡張したS-PVA方式で,ディザリングなしの,リアルRGB各8ビットで駆動され,NTSC色域カバー率は92%とのこと。応答速度は公称6msとかなり高速で,ゲームユースにも対応できそうだ。
Samsung Electronicsによれば,23〜24V型のワイド液晶ディスプレイはこれまでにも製品化されてきたが,画素密度が高すぎるため「1920×1200ドット表示させた場合にメニューや文字が小さくて扱いにくい」という指摘があったそうで,これに応える,1920×1200ドットをより現実的な大きさで使える27V型の投入と相成ったそうだ。
左:27V型の1920×1200ドット液晶パネル。年内にPC向け液晶ディスプレイ製品としてSamsung Electronicsほか,各社より発売される予定だ。価格は未定とのこと
右:ブースにはほかにGDDR3 SDRAMの展示も。その採用製品としてGeForce 7900 GTXやRadeon X1900 XTXのリファレンスカードが展示されていた
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1チップでデュアルPCI Express x16ソリューションを提供するCrossFire Xpress 3200
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ATI Technologiesのブースでは,発表されたばかりのSocket AM2用チップセット「CrossFire Xpress 3200」の実動デモが披露されていた。詳細は2006年5月24日の記事を参照してもらうとして,ATI Technologiesは,PCI Express x16を2ポートサポートするチップセットとしては世界初の1チップソリューションであることを訴求していた。
FlexGoプラットフォームをMicrosoftと共同開発したTransmetaは,ブースでそのデモ機を展示していた。
搭載するCPUはEfficeon SF23J/1.1GHz。これは富士通の90nmプロセスルールによる製造で,ダイサイズは21×21mmとなっている。命令L1キャッシュ128KB,データL1キャッシュ64KB。L2キャッシュ1MB。MMXとSSE 1/2/3がサポートされる。 パッケージは592ピンOBGA(0.8mmピッチ)だが,マザーボードには直づけで装着される。これはFlexGoプラットフォームの運用形態から想定される,CPUの盗難を避けるためだという。ちなみに,グラフィックスチップとしてはRadeon 9200を搭載していた。 接続端子群はアナログRGB(D-Sub),サウンド入出力,LAN,USB 2.0×4というシンプルな仕様である。(トライゼット 西川善司)
左:FlexGoソリューション用マザーボード。マザーボード上の写真右端には512MB分のDDR SDRAMチップが直付けされているが,これも盗難対策のため
右:電源はATX仕様などではなく,DC12Vなので,カーバッテリーでも動作することをアピール。この大きさのバッテリーだと,3時間の動作が可能とTransmetaは説明していた
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