[GDC06#10]ニール・ヤング氏講演 〜 「Medal of Honor」新作で見せるEAの底力
Electronic Artsのロサンゼルス開発部隊を率いるゼネラルマネージャー,Neil Young(ニール・ヤング)氏がGDCにおいて「Creating: Inventing Feature IP and Understanding Its Benefit」(制作: フィーチャーIPの開発と,その利益の理解)という講演を行った。“フィーチャーIP”(知的財産)というのは聞き慣れない言葉だが,「これまでのゲームにはなかった独創的な仕様」のことだ。
ヤング氏は,フィーチャーIPの好例として,The Simsシリーズでプレイヤーの想像力をかき立てる“向上心”を。また,「Half-Life 2」のグラビティ・ガンに見られる“物理効果”の利用を。そして「Grand Theft Auto 3」以降のシリーズで見られる「何でもできる」と錯覚させる“オープンな世界”を挙げていた。ほかのゲームで採用されていないシステムや技術を利用した目新しさが,作品の評価に強くインパクトを与えるという。 EAのロサンゼルス支部は,ヤング氏が舵取りを始めて以来,個々のプロジェクトに,このようなフィーチャーIPの開発を課すようになったという。確かに,ここ数年の同社は,代わり映えのしない続編に甘んじたり,獲得した映画や小説のライセンスだけに頼ったりしない作品が増えていると感じる。ただ売るのではなく,消費者から正統な評価を受けてこそ本当の成功につながる,という判断だろう。
さらに,そのようなフィーチャーIP開発の成果の一つとして,今回の講演で紹介されたのが「Medal of Honor: Airborne」(以下,Airborne)である。Airborneは,PCやXbox 360,プレイステーション 3用に開発されてきた,あのMedal of Honorシリーズ最新作で,制作が公表されたのも今年になってからだ。ゲームの詳細については今後の発表を待つしかないが,本作では,タイトルにある空挺部隊らしく,まず広大な戦場に落下傘で下りていくところから毎回のミッションが始まる,とのことだ。 今回のデモでは,「Medal of Honor: Allied Assault」のグラフィックスエンジンの上に新しいAI(思考ルーチン)を搭載させたものと,さらに“新世代の”と言える表情アニメーション技術「Ucap」が公開された。
まず,AirborneのAI機能で特徴的なのは,個々のNPC兵士が常に周囲のオブジェクトを意識しているということだ。100体ほどのAIキャラクターがマップ上に置かれるやいなや,中央にあるビルに向かって走り出す。守備する側として,身を隠すのに適した場所を目指しているのだ。面白いのはビルに入れなかった兵士達で,ほかにカバーできるような場所にすぐさま散らばっていく。ビルが爆破されて防御の役に立たなくなると,またほかの場所を見つけるといった具合だ。プレイヤーを含めた攻撃側も,同じくらいの数が配置されたが,ただ一目散に走っていくのではなく,被弾しにくい場所を選んで進んでいったり,ビルの角に身を寄せたりするのが印象的で,NPCばかりなのに実際のプレイヤー達による陣取り合戦が展開されているようだった。
より人間らしい表情を実現するUcapというアニメーションのプロセスは,これまでのプラスチックを曲げて作るような擬似的な表情アニメーションから一段階進んだものである。正式名称をUniversal Capturing Systemといい,基本的にモーションキャプチャ技術の一種だが,五つのカメラを同時利用することでさらに細かい動作データを取り込める。これは,「マトリックス」など最近のハリウッド映画で利用され始めている技法でもある。 このUcapは,従来のキャプチャ技術とは異なるレベルのアニメーションを実現でき,今回のデモでは,首を撃ち抜かれて窒息死する兵士の目を見ひらく様子や,頬の引きつり方など,まるで本物の俳優が演技しているような精度で表現されていた。 このところ,Half-Life 2などの登場によってキャラクターへの感情移入に関する論議が再燃しているようだが,このElectronic Artsのアプローチは,Valveのそれとは方向性を異にしながらも,プレイヤーへのアピールに一役も二役も買うことになりそうだ。「Call of Duty 2」というライバルに出し抜かれたMedal of Honorシリーズが,このAirborneでどのような評価を受けるのか,今から楽しみだ。(奥谷海人)
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