NVIDIA,ForceWare 83.70を近日公開 高解像度時代の新しいビデオ再生支援機能を実装へ
NVIDIAのマルチメディア部門プロダクトマーケティングマネージャ Patrick Beaulieu氏
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NVIDIAは,GeForceシリーズ用グラフィックスドライバ「ForceWare」の最新版である,「ForceWare 83.70」を発表した。近日中にダウンロード可能となる予定のForceWareでは,これまでずっと先送りになっていた新機能,PureVideoの「MPEG-4アクセラレーション」(=ハードウェアレベルのMPEG-4デコード支援)が有効になる。
NVIDIAはこれに先だって,報道関係者向けに技術セミナーを開き,同社のマルチメディア部門プロダクトマーケティングマネージャであるPatrick Beaulieu(パトリック・ボーリュー)氏がこの新機能について解説した。今回は,その内容を中心に,新ForceWareについて説明していきたい。
■H.264映像の再生をアクセラレートする新PureVideo いきなりゲームとはほとんど関係ない話で恐縮だが,GeForce 6/7シリーズには,「プログラマブルビデオプロセッサ(PVP)」が搭載されている。そして,PVPが提供するビデオ再生時の高画質化技術や,ハードウェアベースのビデオ再生支援技術(将来的にはビデオ録画技術も)を,NVIDIAは「PureVideo」と呼んでいる。
PVPがプログラマブルである優位性を活かし,その時代が要求するさまざまなビデオ関連の最新技術を実装して提供していく……というのが,PureVideoの謳い文句だった。だが,現実にはこれまで,NVIDIAがオンライン販売している「NVIDIA DVDデコーダ」を用いてMPEG-2ビデオファイルを再生したときにしか,その恩恵は受けられなかったのだ。
これに対してForceWare 83.70では,近日中に各社から発売される予定のビデオプレイヤーソフトと組み合わせることで,次世代DVD用の圧縮コーデックとして採用されているH.264とVC-1のうち,H.264のデコードをハードウェアで再生支援できるようになる(VC-1の再生支援が可能になるのは2006年第2四半期になるとのこと)。もっと簡単にいえば,「HD」「ハイビジョン」などともいわれる高解像度ビデオファイルの再生を,ハードウェア(PVP)で支援できるようになるのである。
2006年3月2日時点で,PVPに対応しているプレイヤーソフトは以下の3製品だ。
PowerDVD with AVC Plug-in(CyberLink) WinDVD 7.5(InterVideo) Nero ShowTime 2(Nero) (※Nero ShowTime 2は,統合パッケージ製品「Nero 7 Premium」に含まれる)
ビデオプレイヤーソフト3製品の対応フィーチャーに差はなく,どれでもPureVideoの機能を利用可能とするスライド。PVPを一般的な市販ソフトで利用できるようになった意義は大きい
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NVIDIA DVDデコーダを使ったことがある人は,その導入の面倒くささを味わったと思うが,最新のPureVideoはこの点で大きな改善を見せている。ForceWare 83.70(以上)をインストールし,対応するプレイヤーソフトを用意して,同ソフト側にある設定オプションから,「ハードウェアアクセラレーションを行う」などといったボックスをチェックするだけで,PVPが活用されるようになるのだ。
技術セミナーでBeaulieu氏は,Athlon 64 3500+/2.2GHzにGeForce 6600 GTを組み合わせたシステムで,実機デモを公開した。 H.264やVC-1のデコード処理は,とにかく複雑で高負荷だ。動き補償が複数フレームに対して行われる(MPEG-2は1フレーム)うえ,それが1ピクセルの四分の一単位だったり,逆離散コサイン変換(iDCT)が最小で4×4ブロック単位の可変システム(MPEG-2は8×8ブロック固定)だったり,さらには予測フレーム生成にブロックノイズ低減のフィルタ処理を盛り込んでいたりする。筆者の感覚的には,同解像度,同ビットレートのMPEG-2よりも10倍以上高負荷だ。
実際,NVIDIAによる実機デモでは,映画のトレイラームービーを利用していたが,CPUのみを使用したH.264ムービーのデコードでは,CPU負荷率が90〜100%に達してしまっていた。そこで,GeForce 6600 GTのPureVideoを有効にすると,CPU負荷率は一気に半分以下の40〜50%で推移するようになり,かなりの余裕が生まれる。
CPU負荷が100%でも,再生できればいいじゃないかという声もあるだろう。だが,とBuauliew氏は指摘する。「実際に市販される次世代DVDソフトは,トレイラームービーよりもさらに高負荷になる可能性がある。トレイラーで負荷が100%になっていたら,実際の次世代DVDソフトでフレーム落ちは避けられない」。 例えば,今回のセミナーで使用したテスト動画ファイルは,H.264形式といっても,インターネット配信を前提としたトレイラームービーなので,ビットレートはたかだか8Mbps程度。しかし,実際の次世代DVDでは,(規格上は)最大ビットレートがBlu-Rayで40Mbps,HD DVDでも30Mbpsに達する。「最大ビットレートに到達するソフトはあまりないと思うが,それでも実際に市販される次世代DVDソフトは18〜25Mbps程度になるだろう」(Beauliew氏)。ということは,単純計算でも単位時間あたりの演算密度は今回のデモの2倍以上になるわけで,CPUのみで再生というのは,かなり非現実的な選択肢になってきそうである。 CPUがよほど高性能になるまでは,グラフィックスチップによるビデオ再生支援が不可欠。そこで,NVIDIAとしてはGeForce 6/7でサポートするPureVideo(=PVP)を強く訴求したいというわけだ。
上段左:映画「Into the Blue」のH.264ベースの高解像度予告編を再生したときのCPU負荷率推移。GeForce 6600 GTを利用すると,ほぼ50%以下に抑えられていると,NVIDIAは主張する
上段右:PureVideoのアクセラレーションは,オンボードグラフィックスであるGeForce 6150でも利用可能とのことで,これは映画「CLICK」のH.264 720p版トレイラームービー予告編を再生したときのCPU負荷率の推移を示したスライドだ。グラフにRadeon Xpressがないのは,H.264アクセラレーションに対応したRadeon Xpressが存在しないため
下段:PowerDVD with AVC Plug-inを利用した実演デモ。左はCPUのみで「CLICK」の予告編を再生したところで,ほぼ100%付近で推移。再生を一時停止し,ハードウェアアクセラレーションを有効にして再び再生を開始したのが右だが,CPU負荷率はがくんと下がっている
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■高解像度ビデオへ高画質化処理を適用可能に
また新PureVideoでは,ただ再生できるだけでなく,「ハイビジョン」あるいは「HD」などと呼ばれる高解像度ビデオ向けの,新たな高画質化機能も追加されている。その一つが,高解像度対応の逆テレシネ変換(HD Inveerse Telecine)だ。 映画などの一部のコンテンツは次世代DVDでも,毎秒24コマ(24fps)記録されることになり,これを一般的な30fpsの基準のディスプレイ機器で表示するためには,フレームレートの変換が必要になる。毎秒24フレームのビデオ(24fps)に,足りない6フレームを自然な形で挿入し,毎秒30フレームのビデオ(30fps)にする処理を行わねばならないのだ。 ForceWare 83.70で採用される新PureVideoでは,この処理を最大1920×1080ドット(1080p)で行えるようになっている。
もう一つは,デインタレース処理(De-Interlacing。「プログレッシブ化」ともいう)の高解像度対応だ。次世代DVDでも,1080iという1920×1080ドットのインタレース高解像度フォーマットがサポートされるので,新しいPureVideoでもこのプログレッシブ化に対応するというわけである。 インタレースとは,1枚のプログレッシブフレームを,走査線を1本飛ばしにした2枚のサブフレーム映像に分割して記録したり放送したりするもの。実際の映像を表示するときには2枚のサブフレームから1枚のフレームを再構成しなければならないが,その処理をPureVideoが受け持つというのだ。
左:高解像度対応逆テレシネ変換のイメージを説明したスライド
右:こちらは高解像度対応のデインタレース処理を説明したスライド。いずれもATI TechnologiesのAvivo Technologyと比較して,優位性をアピールしている
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逆テレシネ変換やプログレッシブ化処理は従来のMPEG-2映像に対しても普通に行われていたもので,処理自体に新しさはまったくない。 NVIDIAが強調しているのは,その処理の先進性よりも,1フレームあたり約200万画素という膨大な画素数の高解像度な動画フレームに対しても,リアルタイムにそうした映像処理を適用できるという,グラフィックスチップの性能の高さだと思われる。
こうした処理系は,単位時間あたりの演算性能とグラフィックスメモリ帯域を消費することになるので,さすがにこれら2機能を,“すべての”GeForce 6/7シリーズで行えるとはされていない。 まず,高解像度対応の逆テレシネ変換はGeForce 7800シリーズとGeForce 6800 Ultra。高解像度対応のプログレッシブ化処理はGeForce 7800シリーズと,GeForce 6シリーズではGeForce 6600以上が要求されている。いずれも,ノートPC用グラフィックスチップを含むとのことだ。逆テレシネ変換のほうが上位クラスのグラフィックスチップを要求する点に注意したい。
■早くも次世代PureVideoを予告 家電の映像エンジンを超えるか? また,今回のセミナーでは2006年第2四半期で実装される予定の,次世代PureVideoの機能についても公開された。ずいぶんとアグレッシブなロードマップだが,NVIDIAはこの次世代PureVideoで,より踏み込んだ形での高画質化を実現するという。
一つは適応型(Adaptive)ノイズリダクション処理だ。高周波でランダムにピクセル色が変化する部分に対してのみ,選択的に平滑化フィルタ処理を適用し,画素単位の色の暴れを低減する。感覚的にいうと「ざらざらしたちらつくようなノイズがなくなり,色に落ち着きが出るようになる」といったところだろうか。 これはアナログ放送やアナログフィルムコンテンツに乗ったノイズを低減するのに向いているが,いわゆる「フィルムグレイン」の味わいが減ってしまう可能性もある。映像ソースによっては有用でないこともある。
二つめは適応型の映像先鋭化処理(エッジエンハンスメント)だ。こうした「人為的なシャープネス調整機能」には,「色ディテールを強調する」タイプの処理系と,「算術的に画素を生成することで解像度を倍密化する」処理系などのバリエーションがあるが,次世代PureVideoがどれを採用するかは明らかになっていない。デモを見た筆者は,前者と推測するが……。
最後に三つめは,より多彩なフォーマットに対応した逆テレシネ変換だ。かなり技術的な話になってしまうので,ここは軽く流すことにするが,DVの逆テレシネ変換を2:2:2:4にするか2:3:3:2にするか選択できたり,8fpsのアニメ逆テレシネ変換を5:5,6:4,8:7のどれにするかを選択できるようになる。 ノイズ低減と先鋭化の処理に「適応型」と銘打たれているのは,ビデオの中の静止部分に対してだけ選択式に処理が行われるため。映像中の動きベクトルを関知し,“動いていない”部分に対して集中的にそうした特殊映像処理を適用していく。Beaulieu氏は,このようなリアルタイムのインタラクティブ処理により,ビデオの動く部分に不用意なブレが生じたり,ゴミが発生したりすることはないと語る。
左:次世代PureVideoで提供されるノイズリダクション機能のイメージを説明したスライド
中央:こちらは先鋭化処理(エッジエンハンスメント)のイメージを説明したスライド
右:最後に,より進化した逆テレシネ変換を説明したスライド。注意したいのは,これらは今回のForceWare 83.70で有効にはなっていないという点だ。どれも2006年第2四半期(つまり4月以降)にアップデートされる予定なので気をつけておきたい
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これらはいずれも,今まで映像機器(≒デジタル家電)が内蔵する,「映像エンジン」などと呼ばれる専用チップで行われてきた処理系。つまり,次世代PureVideoでは,PVPの高い並列演算性能と大容量かつ高速なグラフィックスメモリにより,単体の映像機器が持つような機能を実装してしまおうという試みが始まるのである。 映像エンジンチップでは,処理能力にスケーラビリティがないため,次世代PureVideoによって提供されるようなリアルタイムな適応処理はあまり得意ではない。グラフィックスチップが行うリアルタイム画像処理的なアプローチの高画質化処理は,やりようによってはデジタル家電の映像エンジンを凌駕する可能性を秘めており,非常に興味深い。
■ゲーマーとしても無視できなくなってきた「3D性能以外」
NVIDIAが示した,1080p/720p/480ppの各解像度における高解像度ビデオ再生支援対応状況。「Enthusiast」「High-End」「Mainstream」「Integrated」は順に「ハイエンド」「ミドルレンジ」「ローエンド(バリュー)」「オンボードグラフィックス」と読み替えてほしい
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Beaulieu氏は,GeForce 6/7シリーズで導入される新しいPureVideoが,ATI Technologies(以下ATI)のAvivo Technology(以下Avivo)よりも優れているとアピールする。
Radeon X1000シリーズのAvivoだと,ハイエンドのRadeon X1900はともかく,Radeon X1800以下ではH.264アクセラレーション効果が十分でないため,1080pの映像再生に支障が出るとBeaulieu氏。これに対して,GeForceは,オンボードグラフィックスであるGeForce 6100シリーズであってもH.264アクセラレーションが可能と,同氏は指摘する。
スライドではATIに「No!」が目立つが,NVIDIAのYesにはこっそり「Q2’06」と付記されていたりする。こういった,ちょっとずるいスライドが用意されたことで,高解像度映像の再生支援機能がついに赤と緑の“戦場”になったと見ることもできるだろう
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さらにBeaulieu氏は,対応するフィーチャーの多さについても比較表を提示して,PureVideoの先進性を強調した。ただ,VC-1のアクセラレーション,ノイズリダクション,映像の先鋭化といった,次世代PureVideoの対応予定項目についてNVIDIAには「Yes」が付いているのに,ATIだと「No!」というのは,ちょっと意地悪だ。ATI関係者がこの場にいたら「うちだけじゃなく,そっちだってまだ対応してないじゃないか」と猛烈に抗議しそうな表である。
というわけで,この表を過信するのはお勧めしないが,グラフィックスカード選びに当たって,3D性能だけでなく,高解像度映像ファイルのデコード再生支援(=アクセラレーション)機能について,そろそろ考慮し始めるのは悪くないと思う。なにしろ,2006年は次世代DVD立ち上げの年になることは確実で,高解像度コンテンツに触れる機会が格段に増えることは間違いないのだから。(トライゼット 西川善司)
※初出時に「2006年3月2日深夜(≒3月3日)」からダウンロード可能になるとしていた件ですが,「なにかがあった」ようです。よって,記事タイトルおよび本文を一部変更しました。最新の情報が入り次第,またお知らせする予定です。
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