[台北ゲームショウ番外編]落ち穂拾い的あれこれ。極めて多数の人々が,ゲームに自然体で接する台湾?
当サイトでは初めてとなる台北ゲームショウの取材を終えてみて,個別の記事に必ずしも盛り込めなかった,このショウとそこに集まっている人々の印象などを書き留めてみたい。とはいえ,“台湾市場”ましてや“台湾人”について,ちょっと出かけて見てみたくらいで,とてもとても正しく理解できているとは思えない。そこで大仰に振りかぶって「そもそも台湾は……」などと論じてみても,感傷的なエセ“オリエンタリズム”(ここでこの言葉を使うことの不適切さも含めて,文意を受け取ってほしい)に陥るのがオチだ。 定量的な市場分析は一昨日の記事に任せて,ここでは会場の点景描写をベースにしつつ,感じたところを添える形で書き進めたいと思う。
■よく集まり,よく遊ぶ人々
まずはショウの大まかな性格について。今回各ブースを回ってみて,いわゆる「プレスキット」を用意している在来企業はほとんどなかった。クローズドブースも,ほぼなきに等しい。重要な商談は会場側のVIPルームを使って行われており,ブースの人を捉まえて話を聞くとしても,通路か,段ボールの積まれたブース内のスタッフスペースである。合同商談会としての性格はかなり薄く,ゲームファン向けイベントとしての色彩が強い。そのぶん各ブースとも,来場客に向けて新作/旧作問わず試遊台をふんだんに用意している点は印象に残った。 公式サイトの中文ページにある会場図を見てもらうとイメージしやすいと思うのだが,主立ったブースは全部で20数個,それが手狭な会場にぎゅっと詰まった感じ。東京ゲームショウやG★とは比較にならない狭さである。さらに図で見ると,通路がかなり狭く描かれていると思うが,これは本当にそのとおりなのだ。 会場規模といい,余裕のない通路といい,思ったより小さなイベントで,さほどの来客を見込んでいない会場設営なのだな,と思ったが,それは大きな誤りだった。初日(金曜日),おお,なかなか盛況じゃないですか,と思ったときの総来場者数が4万人弱。これが週末の2日目,3日目に入るや,1日あたりの来場者は11万人を突破する。 会場が小さいからといって,集客力まで小さいと思ってはいけない。2日目,3日目は,どこかのブースでステージイベントが始まると,そこに面した通路はほぼ通行不能。もちろんステージイベントは各所で行われているので,これはもう,そこに壁が出来たようなものだ。いったん壁際の通路に出て,途中のブースをすべて迂回しつつ目的のブースを目指すこと幾たびぞ,である。
写真左:複数メーカー合同の試遊スペースは,説明員も付いて大にぎわい。並んでいる人の間から撮ってみたカット
写真中:NC TAIWANブースの上から見た会場。来場者の密度に注目してほしい
写真右:こちらはNC TAIWANブースとIGSブースの間にある通路。イベント中はほぼ通れない
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■よく売り,よく買う人々
パッケージソフトの販売ブースは大繁盛の様子。宙に吊してあるサンプルは,洋ゲーのビッグタイトル
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会場が狭いせいもあるかと思うが,今回の台湾ゲームショウでは物販ブースの集合スペースなどは設けられていない。オンラインゲームのクライアントパッケージ(複数をセットにしたスペシャルパッケージなんてのもある)やノベルティグッズについては,出展メーカーのブースの片隅に販売コーナーが置かれている。 その代わりというわけではないが,普通の小振りなブースとして,PCゲームショップのブースがいくつか出ていた。いちおう会場の端寄りに配置されていたようだが,普通にパッケージソフトを売っている,ゲームショップの出張版である。
で,これがまた繁盛しているのだ。飛ぶように売れているというわけではないが,ひっきりなしに人が来ては立ち並び,棚や平台のソフトをひっくり返しては,あれこれ品定めしている。売られているのは,洋ゲーや日本製PCゲームのローカライズ版,そして,これこそ台湾市場の特徴ともいうべき,台湾製のあまり有名でないタイトル多数である。 業界総売上の数字やショウでの出展にはなかなか反映されない,雑多でありながら最も伝統的な台湾のPCゲームシーンが,おそらくここにある。どこかで見たような作品が多いのも事実だが,雑多な作品に多かれ少なかれ買い手がつき,作っている人々が生活できていることこそ,台湾の,それなりに歴史が長く広汎なPCゲーム文化の姿だろう。会場の隅で書き込み型DVDのメディアがばんばん売られ,よく見て回れば海賊版や,明らかなパクリ作品も並んでいる。かつての秋葉原にそれなりにつきあってきた(つまり,現在は次第に疎遠になりつつある)筆者にとってどこか懐かしい雰囲気が,ゲームショウの会場においてすら漂っているのである。
写真上段左:「FreeStyle」の中文繁体字版クライアントパッケージ。アバターの服装がただ者ではない
写真上段中:製品名で「之」の代わりにひらがな「の」を使うのは,大陸でも見かけるオシャレ表記
写真上段左:だが,オシャレ表記の神髄はこちら。原題「シンフォニック=レイン」が「交響楽の雨」。日本語タイトルにはむしろ入っていない,日本語「の」なのである
写真下段左:何の達人かは,ツッコミ禁止の方向で
写真下段中:PCで使えるマラカスコントローラに注目
写真下段右:大にぎわいのDVDメディア屋さん
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■よく投げ,よく受け取る人々
投げるコンパニオン,飛んでくるノベルティグッズ。この直後に記者は……
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開催時間中どこかしらのステージで必ず展開していた光景だが,台北ゲームショウでは,コンパニオンのお姉さんが来場者に向けて,お菓子やちょっとしたノベルティをひっきりなしに投げていた。だいたい,カワイイ系とテキパキ系がコンビになって,テキパキ系のMCで呼びかけが始まると,来場者はこぞって片手を挙げ「こっちに投げてくれ」と意思表示する。そしてコンパニオンが実際に投げるや,軽く「ワッ」といった歓声が上がるのである。 ノベルティはともかくとして,いい大人がそんなにお菓子が欲しいわけでもないと思うのだが,投げるほうも手を挙げるほうも,実にノリが良く,明るい。 各ステージではコンパニオンや着ぐるみを動員したゲームの内容紹介イベントは随時行われていたのだが,全体に目立った新作が少なかったせいか,あまり強く印象に残るものはなかった。また,逆にChinaJoyのように,歌手やカンフースターがいきなりオンステージという,物見遊山的な材料もそれほど多くなかった。
ではなぜこんなにも人が集まるのか? というと,これはもう,ゲームの社会への浸透度と見るしかなさそうだ。来場者の年齢層は,おおよそ40代前半を上限として,大学生,小中学生あたりの数が目立つ。大学生くらいの年代では女性の来場者もそれなりにいて,親子連れの姿もちらほら見かける。明らかな年配層はほとんど見かけず(ChinaJoyには結構いたのだ),親子連れを除いて主婦(くらいの年齢の女性)層も,ほとんどいない。つまり,おおむね来場者=ゲーム愛好家(とその連れ)と見てよさそうである。 ゲームキャラクターの扮装をしている人もいなければ,妙に小ぎれいな格好,極端にむさくるしい服装の人もいない。おそらく彼ら/彼女らの多くは,ブースでの購入目的も含め,純粋に自分でプレイするゲームを探すべく,ごくごく気軽なノリで来ているのだろう。そうした人々に対して,度肝を抜くようなイベントや,妙に豪華な来場特典は要らないということか。
台北ゲームショウの来訪者が持つ雰囲気は,一言で表せば「自然体」だ。無理して盛り上がることもないし,したり顔で冷めているわけでもない。プレイステーション3のブースの前に,とぐろを巻いた長蛇の列を作るかと思えば,なんということもない麻雀ゲームにも,それぞれ触ってみている人がいる。イベントが終わって空いているステージには,会場でもらった/買った大きな荷物を抱えた人が大勢腰掛けているし,それを見咎める雰囲気でもない。
写真上段左:実につきあいのいい,来場者達
写真上段中:お父さんが娘さんを肩車して,スクリーンを見せている微笑ましいシーン
写真上段右:ステージ上で踊り方を習う来場者達
写真下段左:Softstar(大宇)のブースに置かれていた,カプセル販売機
写真下段中・右:ソニーブースは,ほぼ常時この人だかり
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この,ある種まったりした,あまり遊びにも商売にも必死でないおおらかな雰囲気が,広い意味で台湾ゲーム業界の姿を象徴しているとすれば,少々心配になる半面,うらやましくもある。 韓国を発信源として,日本でも急速に成長しつつあるオンラインゲームビジネスの波を,台湾とてかぶっているのだが,そうしたマスビジネスに塗り込められていない分野が,お客および作り手の心象として,まだそれなりに残っている気がするのだ。もちろん今後,ブロードバンドインフラの浸透に伴って,そうした領域は縮小に向かうにしても,である。 マスビジネスは気宇壮大だが,実のところ文化として見ると,多様性を欠いた危うい側面を持つ。その意味で,雑多な作品を許容し,受容し,愛好する台湾の市場は,本来マスビジネスがカバーしきれないくらい多様なはずの感性(とそれに答える製品)を温存し,どこかでスターダムに載せる役割を果たしてくれるのではないか?
まあ,そこまで言ってしまうと美化しすぎな気もするし,世界レベルで独創性を誇れる作品が,台湾からポンと出てくる気は正直あまりしない。なにしろ「どこかで見たような作品」の本場みたいな土地柄でもあるし。だが例えば,今日こまごまとしたパッケージゲームを作っているメーカーが,明日ポータルサイト向けのイカしたカジュアルゲームを作り始めても,何の不思議もないわけだし,台湾の人々はそれを,相も変わらず屈託なく楽しそうにプレイしていそうな気がするのだ。 オンラインゲームビジネスでつながる東アジアゲーム市場の未来像を頭に描くとともに,現在は斜陽気味のパッケージソフト業界を身近に抱える日本人の一人として,その視野の外側にも目を向けさせられる。そんな取材だった。(Guevarista)
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