[AOGC 2006]日本のオンラインゲーム市場におけるRMTの現状
オンラインゲーム市場の拡大に伴って,何かと話題にのぼるリアルマネートレード(以下,RMT)。オンラインゲーム関連の勉強会ではもはや定番の話題ともいえる本件だが,AOGC 2006では,自らもヘビーゲーマーだと言う中央政策研究所の水谷亮太氏が,自身の行った調査について報告した。また同時に,エヌ・シー・ジャパン(以下,NCJ)の天野浩明氏も登壇し,昨年起きた“事件”の顛末を解説。その経験から得た課題や教訓を披露した。 ちなみに講演が行われた会場は満員御礼。立ち見が出るほどの盛況ぶりで,RMTに関する関心度の高さがうかがえたのが印象的であった。
水谷氏は,まず自身の体験談(「リネージュ」を相当やり込んだようだ)をベースにした,RMTにまつわる話を披露。集団的なPK団との戦いや,またそれに対抗するためにRMTを利用した経験があることなどを語り,RMTというものの使われ方(?)を大まかに説明した。 続いて氏は,昨年立ち上げたRMT調査委員会についての概略を説明。今はまだ大きな事件は起きていないが,今後,市場が拡大するにあたって,問題が浮上してくるだろうことを指摘。RMTに関する調査や整備が必要だとし,メーカー各社や関連機関と共にRMT調査委員会を発足させた経緯を語った。2005年6月から1か月毎に会議を行い,いろいろな調査や議論を進めてきたという。
水谷氏は,今回の講演が,RMT調査委員会の中間報告をまとめた内容になっていると説明したうえで,話を具体的な部分へと進めた。氏はまずRMTというものは,電子データの売買行為であり,それが「ゲーム内通貨」か「アイテム」かは関係ないと定義。ゲーム内の通貨というのは,あくまでゲームとしての“演出”に過ぎないことを強調した。 また水谷氏は,国内のRMTの市場規模が約150億円,利用者は7万人前後と発表。ただ市場規模に関しては,一次マーケット(卸し)と二次マーケット(顧客)を合わせた総額であると水谷氏は付け加えており,例えば仲介業者が1000円で買ったアイテムを,販売サイトなどを通じて末端ユーザーに1500円で売った場合,総額2500円と計算されるという具合である。同氏は「これはちょっと数字マジック的なところもあるが,一般的に使われる算出方法なので,それに合わせた」として,まず情報自体の正確な定義を行っていた。このあたりは,数字だけが一人歩きしがちなことに対する配慮だと思われるが,中立的にRMTを評価/判断しようという意志が感じられる部分だといえるだろう。
続いて水谷氏は,RMT業者のビジネスモデルをざっくりと解説。RMTの実態を調査するにあたって水谷氏は,実際にビジネスを行っているRMT業者に問い合わせ,直接話を聞いて回ったと語りながら,RMT業者の形態を,
・仲介業者モデル ・掲示板モデル ・製販一体モデル
という三つに分類。現段階では,仲介業者モデルのサイトが約100,掲示板サイトが四つ,そして製販一体モデルのサイトが10ほどあるといい,昨年から比べても着実に増えつつある(昨年から比べると約3割増)と説明した。 ちなみに仲介業者モデルというのは,プレイヤー(実態としては,中国など賃金の安い地域のプレイヤーが多い)からアイテムやゲーム内通貨を一括購入し,それを売りさばくというもので,もっとも典型的なスタイル。掲示板モデルが個人的なものや仲介業者の売り子が活動している形となり,製販一体モデルというのは,商品の生産(24時間体制でゲームをプレイするなど)を組織的に行いながら,そこで獲得したアイテムを売るというやり方になる。 水谷氏は,基本的には労働力あるいは時間(実際に必要なプレイ時間を短縮させるという意味で)を金で買うのがRMTの実態であるとしたうえで,RMTが存在することによってゲーム自体の面白さが損なわれてしまう可能性があることや,自動ツール(Bot)やチート行為が助長されてしまうなど,現在認識されている問題を改めて確認。RMT自体の是非は置くとしても,これら現実的に起こっている問題への対応は必要だとして,講演を締めくくった。 基本的には,現在認識されているRMTの実態の把握や,問題/課題の整理といった内容となった水沼氏の講演。筆者としては,RMT業者から直接聞いたやや裏話的な話を期待していただけに,正直やや残念といったところ。とはいえ,次の研究発表を待ちたいところだろう。
水谷氏の講演の後,続いて登壇したのはNCJの天野浩明氏である。氏は,「裁判の判決も出て,やっと話せるようになりました」と,昨年,「リネージュII」絡みで起きた事件(ゲームサーバーに大量アクセスし,電子計算機損壊等業務妨害で逮捕者が出た件)の経緯,そしてそこから得た教訓や課題についての見解を語った。 問題発覚からNCJとしての対応,そして被害届けを出すに至った経緯などといった細かい話はここでは省くが,ポイントとしては,中国から不正アクセスなどRMT絡みの問題があったものの,結局は間接的な「国内へのアクセスするプロキシサーバー管理者の逮捕」という形でしか,法的に対処できかなったという部分だといえる。実際にアクセスした中国国内のブローカーやプレイヤーに対しては,インターポールを通じて捜査を要請したものの,まったく進展していないという。 天野氏は,この一件を通して認識した課題として,調査開始から判決までに時間がかかること(この事件に関しては,調査開始から判決までに約1年を要している)や,調査自体に大きなリソースが必要になってしまうこと,また現行の法律では,処罰が与える損害より軽いことなどを挙げ,「新たなる不正行為に対して,抑止にはなるが抜本的な解決にはならない」と,現在の状態の改善の必要性を語った。 NCJはこの事件を機に,不正行為への対策強化を実施しているというが,何らかのガイドラインを作るなど,立法,司法,行政,業界が連携して対応していくことが必要ではないかと,今後の方向性についても意見を述べた。
ちなみに,先に講演した水谷氏も,RMTを撲滅させるのは実質的には不可能だ(少なくとも現状では)としており,企業単独による活動の限界を示唆していたわけだが,RMT活動(お金でアイテムを買う)自体を否定していないのは大きなポイント。これは,同じくAOGCで講演を行っている韓国央大学助教授ウィ・ジョヒン氏も同じ見解であり,同講演での質疑応答では「不正アクセスは明確な犯罪行為であり,RMTといっしょくたにしてはいけない。RMTの可能性(ニーズ)を認めた上で,それをどう健全な形で取り込んでいくかが課題なのではないか」と,RMTをただネガティブな方向だけで捉えることがないように釘を刺した。
RMTの是非をここで結論付けることはできないだろうが,RMTの問題が,確かにユーザーのニーズの上に成り立っている(買う人がいる)のも歴然たる事実。実際,RMTに取り組もうという動きも実例として出てきているだけに,ウィ氏の言う話は正論だといえるだろう。ただその一方で,RMTの延長として不正アクセスやハラスメント行為という問題が起きているのも間違いない。 ちょうどつい先日,スクウェア・エニックスが「ファイナルファンタジーXI」で「700アカウント以上を強制退会処分」を行ったというニュースが出たばかりだ。今後,RMTという問題に関して,業界がどう対応をしていくのか。オンラインゲームのビジネスモデル/ゲームデザインの変化も含めて,これからの議論にも注目したい(TAITAI)
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