[韓国ゲーム事情#448]ロード・ブリティッシュ,「Tabula Rasa」の進捗状況を語る!
Kimの韓国最新ゲーム事情#448
ロード・ブリティッシュ,「Tabula Rasa」の進捗状況を語る!(2005/12/13)
Text by Kim Dong Wook特派員
12月7日,韓国にあるNCsoft本社の大会議室で,「Tabula Rasa」を開発中の伝説的なゲームクリエイターRichard Garriott(リチャード・ギャリオット)氏によるRound Table(円卓会議になぞらえたプレゼンテーション)が開かれた。
Tabula Rasaの開発には,オースティンスタジオの55人,ロサンゼルススタジオの20人,北京スタジオの20人(さらに10人の追加人員を投入するらしい)が関わっており,韓国に設置予定の事業チームを合わせると,世界各地で100人あまりのスタッフが参加しているという。 また2001年に発表された同作には,非常に多くの開発時間が費やされている。にもかかわらず,一向にリリース時期が聞こえてこなかった。しかし今回ギャリオット氏は,「初期企画の練り直しや,開発コンセプトの変更などが,リリース延期の最大の理由です。しかし開発コンセプトが固まってからは,ハイスピードで開発が進んでいるので,安心してください」と語り,開発が順調に進んでいることをアピールした。 また同氏からは,「現時点から遅くても12か月以内にサービスを開始する」「NCsoft社内ではプレイアブルバージョンを公開した」「2006年2月には,開発スタッフの知人達による,特殊なクローズドβテストを行う」「2006年夏頃には,一般プレイヤー向けのオープンβテストができるように準備中」などの具体的な情報も聞くことができた。
プレゼンテーションでは,Tabula Rasaに関する概要が紹介された。その内容を要約すると,以下のようになる。
■Tabula Rasaは,MMORPGの未来像を提示するコンセプトのゲームになる。従来のMMORPGと比べるとアクション(FPS)性が高いが,アイテム合成やスキルツリーも存在する,正真正銘のRPGである。 ■従来のMMORPGで見られるようなルーチンワーク(装備調達,クエスト,戦闘による経験値/お金稼ぎなど)とは,ひと味違ったプレイパターンを提示する。 ■「Ultima Online」(ウルティマ オンライン)には,「架空世界での生活」を体験するシミュレーション的な要素があった。Tabula Rasaでは,「戦闘」と「ストーリーライン」に注目してほしい。 ■ハウジングの概念は,企画初期には存在したが,現在の開発コンセプトからは削除した。常に新しい地域に移動しながらプレイすることになる本作の特性上,家の必要性はかなり低いからである。 ■本作に登場するNPCは,自律的/持続的に戦闘を行うことがある。 ■ゲーム性に関しては,非常に深みのあるストーリーラインを内包する「ロード・ブリティッシュ」スタイルの作品だといえる。
開発コンセプトの大幅な変更により,ファンタジーがSFに,RPGがアクションRPGに変化したTabula Rasaだが,「ロード・ブリティッシュ」スタイルは確かに継承されているとのこと。氏のファンにとっては,実に嬉しい言葉である。
さて,プレゼンテーションの終了後,氏にインタビューをする機会が得られた。短時間のインタビューではあったが,公開されている情報の少ないTabula Rasaだけに,ささいな情報にも大きな価値が秘められているはずだ。本作に興味のある人は,ぜひチェックしてほしい。
4Gamer: 本日はよろしくお願いします。
リチャード・ギャリオット氏(以下,ギャリオット氏): こちらこそ,よろしくお願いします。
4Gamer: あまり時間がないようなので,早速質問を。まず,Tabula Rasaというタイトルに込められた意味を教えてください。
ギャリオット氏: 当初,Tabula Rasaとはプロジェクト名でした。これは「何もない」という意味のラテン語です。私達は今までファンタジー系のゲームばかりを作ってきたので,SF設定のゲームを初めて作るという意味も含めています。 また,プレイヤーが,何もないところから帝国を作っていくという,ゲーム全般のストーリーとも符合するタイトルです。ゲーム内に登場する,象形文字を翻訳するタブレットも,Tabula Rasaといいます。
4Gamer: なるほど,Tabula Rasaというタイトルには,実に多くの意味が込められているんですね。 ちなみに,ギャリオットさんは,Tabula Rasaではどのような作業を担当しているのですか?
ギャリオット氏: 私の書架には,世界中の言語に関する書物が多く収められています。私はTabula Rasaの企画で難しい問題にぶつかると,それらの書物を熟読し,調査して,解答を導き出してきました。 Ultimaシリーズが好きな人なら分かっていることでしょうが,昔の私はプログラム,アート,企画などを,すべて一人でこなしていました。現在,私のチームには,昔の私よりはるかに優れた能力を持つプログラマやアートディレクターがいます。しかし,現在の私は一番優れた「ゲーム企画者」なのです。まぁ,彼らは非常に忙しいので,ゲームに関する深い研究は,私以外にはできないってだけですけどね(笑)。 私はプログラムやアートの作業も理解しているから,新しいアイデアを直ちにゲームに取り入れることもできます。良いアイデアは,頭の中に溜めておいてはいけない。それを具現化して初めて,良いアイデアになるのです。
4Gamer: なるほど,非常に興味深いお話でした。 ところで,Tabula Rasaのコンセプトが突然変更されたのも,今の話にあった「良いアイデア」に関わるところなんでしょうか?
ギャリオット氏: ええ,まさにそのとおりです。Tabula Rasaは,NCsoftのグローバル戦略を基盤に,アジアと北米のゲーマーをすべて満足させることをコンセプトとしています。しかし途中から,企画が中途半端な方向に流れてしまって,開発の継続がとても難しい状況が続きました。 その打開策として,オースティンのメイン開発者達の企画を優先的に採用し,そこへほかの開発チームからの意見を組み入れることで,ゲームの幅を広げていったのです。現時点でのスムースな開発状況を見れば,私達の判断は正しかったといえるでしょう。
4Gamer: アジアと北米のゲーマーを両方満足させることは,非常に難しいことだと思います。地域によるプレイヤーの好みの差を埋めるためには,どのような要素が必要でしょうか。
ギャリオット氏: NCsoftの「Lineage」は,アジア的な要素を把握するための最良のテキストです。2Dグラフィックス,クォータビュー,マウスを用いたシンプルな移動システムは,アジアのゲーマーに対して相性のいい要素といえるでしょう。一方北米では,一人称視点と,W/A/S/Dキーを用いた移動システムが人気です。 また,アジアではPvPが重要な要素ですが,北米のゲーマー達は,PvPによってゲームの進行を邪魔されることを好みません。 キャラクターに対するイメージも,地域によって大きく異なります。北米市場での「戦士」といえば,筋肉質のタフなキャラクターが連想されますが,単なるマッチョは,アジア圏ではあまり人気がありません。アジア圏では,一般的な体型に強靱な精神力を備えた戦士像が好まれるようです。
4Gamer: 操作系統に関する好みや,キャラクターに対するイメージの差は,世界展開をする上で決して無視できない問題ですね。
ギャリオット氏: ええ,オンラインゲームを成功させるためにまず考えなければならないポイントです。 Lineageは,グラフィックスやインタフェースなどがやや古く,新しいもの好きのゲーマー達に長期間プレイさせるのは難しいかもしれません。しかし,攻城戦などの魅力的な要素のおかげで,今日の成功があるわけです。 さて,Tabula Rasaにおける,プレイヤーの好みの差を埋める方策ですが,ストーリー,キャラクター,対人要素など,あらゆる要素に最適なチューニングを施すことで,各国でのローカライズを展開していきます。
4Gamer: アジア圏のゲーマーは,「キャラクター育成」を軸とするMMORPGに慣れ親しんでいます。Tabula Rasaでも,キャラクターのレベルアップ作業は重要なのでしょうか?
ギャリオット氏: 最近のMMORPGは,キャラクターのレベルが非常に重要で,レベルが低いと行動範囲が限定されたものになってしまいがちです。 しかしTabula Rasaでは,キャラクターのレベルやモンスターの強さに重点を置いていません。キャラクターのレベルに関係なく,ゲーム世界のどの地域へも,自由に行き来することが可能です。 RPGというジャンルにおいて,キャラクターのレベルは重要な要素ですが,そこにこだわり過ぎて,プレイヤーの自由度を制限することには賛同できません。私達はプレイヤーから自由を奪いたくないのです。
4Gamer: 確かに,従来のMMORPGの多くは,キャラクター育成の部分に重点が置かれているため,ゲームにより多くの時間を割ける一部のプレイヤーのみが,広大な世界をすべて体験できるというのが実情ですね。ロード・ブリティッシュスタイルとTabula Rasaの自由度には,大いに期待しています。
ギャリオット氏: その期待に応えられるよう,がんばります。 私達は,Tabula Rasaを企画するにあたって,世界の言語や神話,種族などを深く掘り下げました。Ultimaシリーズをプレイした人ならご存じでしょうが,ゲーム内に導入した独自言語は,当時アメリカ市場のみを考慮して,英語の使用者にとってやさしい言語として作りました。しかし韓国をはじめとするアジア圏では,逆に難しい言語になってしまいました。 Tabula Rasaでは,エジプトの象形文字や中国の漢字なども,研究価値の高いリソースとして参考にしています。また最近では,障害者用の絵表示板についても研究中です。オースティンとNCsoft本社でのこの文字をテストしましたが,アメリカ人,韓国人ともに,比較的簡単に学んでいました。 それらの言語は,Tabula Rasaをプレイするために必ず学ばなければならないわけではありませんが,ストーリーの展開上,多くの部分で使う予定です。ゲームの世界観をより深く理解したいなら,これらの言語を学んでおくことも重要でしょう。 また本作はファンタジーではなく,SFベースの作品なので,科学的に証明が可能な世界観を採用しています。ファンタジーの場合,魔法などは科学で証明できませんが,SFには物理法則が根底にあるので,すべての部分で「根拠がある」世界を構築中です。 そうやって構築される「新しい世界」こそが,ロード・ブリティッシュスタイルなのだといえるでしょう。
4Gamer: 話を聞けば聞くほど,早くTabula Rasaをプレイしてみたいという欲求が湧いてきますね。 本作のサービススケジュールについて,もう少し詳しく教えてもらえないでしょうか。
ギャリオット氏: 先ほどのプレゼンテーションでもお話ししましたが,2006年2月に友達や家族といった知人達によるクローズドβテストを行う予定です。 2006年夏頃には,予定されている大部分のコンテンツ開発が完了しているはずなので,一般を対象としたオープンβテストも実施可能だと思います。 本作のローカライズに関しては,開発初期から考慮してきたので,基本的なテキスト翻訳作業は非常にスムースに行われるでしょう。全世界同時のサービス開始を目標に,日々がんばっています。
4Gamer: 2006年が実に楽しみになってきました。今後の情報公開にも注目していますので,よろしくお願いします。 そろそろ時間がなくなってきたようなので,最後に一つ質問を。ギャリオットさんが今までプレイしたゲームの中で,どんなタイトルが記憶に残っていますか?
ギャリオット氏: Ultimaシリーズ以外にエンディングまでプレイしたゲームは,「MYST」と「American McGee's Alice」です。American McGee's Aliceは恋人と一緒にプレイしていたので,とくに記憶に残っていますね(笑)。 最近では,「World of Warcraft」を楽しんでいます。ちなみに,私にとって魅力的なゲームとは,プレイヤーに未知の世界を体験させてくれるものですね。
4Gamer: 本日はありがとうございました。
インタビュー時間は短かったものの,Tabula Rasaの開発遅延の理由や,ロード・ブリティッシュのゲーム観,ゲーム開発思想など,貴重な話を聞くことができた。 NCsoftは,2001年5月に同氏を起用する際,Destination Games社の株式28万株(約27億円相当)と,約16億円のキャッシュを動かした。それに対し,韓国業界内では「無駄遣いだった」と指摘する声があるなど,ギャリオット氏とTabula Rasaに対する不信感も存在する。 しかし,今回のインタビューの自信に満ちた発言どおり,2006年夏に同作が正式公開され,世界中のゲーマーから好評を得られたならば,ロード・ブリティッシュの地位と名声はより一層高まることになるだろう。
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Richard Garriott's Tabula Rasa |
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