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TGS2005に来場した韓国ゲーム業界著名人に聞く「オンラインゲーム市場の未来」(後編)
2005/10/03 16:35
 9月29日に掲載した「オンラインゲーム市場の未来」(前編)に引き続き,後編をお届けしよう。後編では,「リネージュII」開発で中心的な人物のNC Soft 開発室長Park,Yong Hyun氏,日韓両国を股にかけ,ゲームビジネスを行っているAK Communication社長のLee,Dong Seob氏ら,5人の話を聞いてみた。

■Dragonfly 副社長 Park,Cheol Seung氏


 オンラインFPSとしては非常に珍しく,韓国で同時接続者10万人を突破し,月の売り上げも1億円以上になっている「Special Force」。世界的なヒット作である「Counter-Strike」も,韓国では同ゲームの人気を超えることができなかった。
 MMOジャンルに続く形で,オンラインゲームの新しいジャンルとしてFPSの普及をリードしているのが,Special Forceを開発した,DRAGONFLY社だ。同社の副社長兼開発総責任者であるPark,Cheol Seung氏に,会場で会うことができた。


4Gamer:
 こんにちは。Special Forceは,韓国では「StarCraft」さえ超えたと言われるほどの人気となっていますよね。そろそろ日本市場への展開も考えたりする時期ですか?

Park,Cheol Seung 副社長(以下,Park氏):
 現在は台湾と中国市場に力を注いでいますが,日本からも何件かのオファーを受けています。そういえば,日本のプレイヤー達は一人称よりも三人称の視点を好むという興味深い話を聞きました。将来的なことではありますが,日本展開においては,ゲームシステムはそのままに三人称モードの搭載も念頭においてますよ。

4Gamer:
 では,日本のオンラインゲーム市場に関しての見解を教えてください。

Park氏:
 オンラインゲーム全般についていえば,非常に可能性が高い市場だと思います。でもFPSに限っては,日本人の国民性なのか,相手に迷惑をかけることを嫌がる人が多いですよね。だから,一部のミリタリーマニアを除いては,FPSジャンルが一般に定着するのはとても難しいと思います。別に迷惑じゃないんですけどね,FPSはそういうゲームだし(笑)。

4Gamer:
 なるほど。では中国のオンラインゲーム市場に対しては……?

Park氏:
 中国や台湾のゲーマーはFPSジャンルを非常に好んでいるので,我々にとってとても魅力的な市場だと思います。ただ本作の場合,通信部分のシステムが複雑で,ときにはルームを生成できないなどの問題も起こり得ます。これが韓国ならばすぐに対処/解決できるのですが,自国以外には常に予想外の事態が転がっていますからね……。
 まぁこれは,中国がどうこうではなく,私達自身で対応していくしかないですから,努力を続けていきます。すみません,少し話がそれましたが,とにかく中国は非常に魅力的な市場だと思っていますよ。

4Gamer:
 韓国のゲーム市場はどうですか? なにか問題点があれば,指摘してください。

Park氏:
 個人的には,PCパッケージゲームを開発したいんですよ。プロジェクトとして「最初」と「最後」が曖昧なオンラインゲームは,あまり趣味ではないんです(笑)。しかし韓国は,不正コピーなどのさまざまな問題でPCパッケージゲーム市場が崩壊してしまって,オンラインゲーム市場だけが成長するという,世界的に見ても特殊な市場が持続しています。
 個人的には,「Diablo」や「Hellgate:London」みたいな,「パッケージゲームを基盤にオンラインが加味されたゲーム」がたくさん発売されればいいな,と望んでいます。それでこそ,パッケージゲームとオンラインゲーム市場が一緒に発展できると思いますからね。

4Gamer:
 パッケージ市場は日本も厳しい状況になっているので,4Gamerとしても他人事とは思えませんね……。
 それでは最後の質問ですが,今後のオンラインゲームのトレンドはどんな方向に流れると思いますか?

Park氏:
 とても難しい質問ですね……。急に考えが浮ばないのですが,モバイルやPC,Xbox 360,プレイステーション3などネットワークが利用可能なすべての機器が接続できて一緒に楽しむような,そんなオンラインゲームの時代が来ると想像しています。

4Gamer:
 インタビューにお答えいただき,ありがとうございました。

Park氏:
 いえいえ,ありがとうございました。



■Allm 社長 Lee,Jong Myong氏

 当サイトでも紹介したことのある,ゲームセンター風オンラインRPG「ルニア戦記」。そのスタッフ達を,コスプレイヤーが集まる場所で偶然見つけた。4Gamerに記事が掲載されて以来,6社もの日本のパブリッシャからオファーを受けているという同ゲーム。これを開発したのがAllm社だ。その社長であるLee,Jong Myong氏に,同様の質問を投げかけてみた。


4Gamer:
 こんにちは。お互いに忙しくてなかなか会えませんでしたが,東京で会えましたね(笑)。オンラインゲーム市場についていくつかお聞きしたいのですが。

Lee,Jong Myong社長 (以下 Lee氏):
 日本で会うのは,またそれはそれで嬉しいですね。

4Gamer:
 なんだか不思議な気分ですよ。
 それでは早速,日本のオンラインゲーム市場に関するLee氏の見解を教えてください。

Lee氏:
 まず,東京ゲームショウ2005で感じたのは,Xbox 360などの次世代機に注目が集まっていたからか,まだオンラインゲームというのは日本市場では注目度が低いように感じました。機種を問わず,日本のゲーマー達はストーリー性を重視したタイトルを好んでいるようですね。また,過去のヒット作が,さまざまな形でリメイクされて再登場しているのが非常に印象的でした。
 質問の答えに戻りますが,日本のオンラインゲーム市場は,まだ黎明期だと思います。その分,チャンスの多い市場でもありますね。私達にもチャンスがあれば,日本のコンシューマゲーム機向けのソフトメーカーと手を組んで,日本市場に進出したいと思います。

4Gamer:
 東京ゲームショウでは,日本の市場について,さまざまな点でリサーチできたんですね。
 では,中国のゲーム市場については,どう考えていますか?

Lee氏:
 中国のゲーム市場は,まだ整備されていないため,多少心細い状態ですね。現在は韓国産ゲームのシェアが非常に高いですが,私達としてはもうしばらく見守りたいところです。慌てて進出するよりも,中国市場がもっと成熟し,信頼できるビジネスの場として成立するまで,ちょっと待ったほうが良いと考えています。

4Gamer:
 著作権関係など,色々と問題も多そうですしね。
 それでは次に,韓国のオンラインゲーム市場が抱える問題点を指摘してください。

Lee氏:
 私はそんなに偉くはないので,指摘だなんておこがましいのですが……。
 あくまで個人的な意見として言わせてもらうと,ゲーム産業の大きな流れを把握せず,短期的なトレンドばかりを追い求めてしまうのが問題だと思います。目の前の利益だけを目標に,似通ったオンラインゲームが量産されて,サービスされている現状は,非常に危険ですね。企画,開発力を世界水準まで引き上げて,世界市場への進出に向けた準備をしておく必要があるのではないでしょうか。
 そうしておかないと,2〜3年のうちに日本のメーカーもオンラインゲーム開発に慣れてくるでしょうから,オンラインゲーム先進国としての韓国の地位は危うくなってしまうでしょう。

4Gamer:
 なかなか鋭い指摘ですね。
 では最後に,今後のオンラインゲームのトレンドの変化について,どう考えているか教えてください。

Lee氏:
 難しい質問ばかりですね(笑)。
 2005年と2006年末までは,アクション系のオンラインゲームがトレンドの主流になると思います。実際,年間でリリースされるオンラインゲームが世界で最も多い韓国では,ここ最近,アクション系のものが増えていますからね。
 将来的には……,そうですね,言葉で表現するのは難しいのですが,簡単にまとめてしまうと,映画の世界を体験できるようなオンラインゲームが多数登場すると思います。もう少し具体的に言うと,オンラインゲームの演出クオリティが,映画の水準にまで高まれば,プレイヤーはゲームをプレイしながら,映画の主人公になったような感覚を味わえるという感じです。
 現状では,夢物語みたいに聞こえてしまうかもしれませんが,ゲームテクノロジーがこのまま発展していけば,数年のうちに実現すると思いますよ。

4Gamer:
 想像するだけでも楽しそうですね。
 本日はインタビューに応じていただき,ありがとうございました。



■Studio Sylph 開発室長 Shin,Hyun Woo氏

 以前お伝えしたことのある,美少女3Dコミュニケーションゲーム「CUVIT」を開発したStudio Sylph。そこで開発室長を務めるShin,Hyun Woo氏が,カプコンブースで「モンスターハンター2」に夢中になっているのを見つけた。彼はGravityの元スタッフで,「ラグナロクオンライン」開発初期の企画を担当した,ベテランクリエイターだ。「ラグナロクオンライン2」のディレクターを務めるPark,Young Woo氏の先輩にあたる人物でもある。

4Gamer:
 こんにちは。モンスターハンター2は,どうですか?

Shin,Hyun Woo氏(以下,Shin氏):
 はい,何時間もずっとプレイしています。とても面白いゲームなんですよ!(笑)

4Gamer:
 お楽しみのところすみませんが,いくつか質問させてください。
 まず,今年の東京ゲームショウは,どうでしたか?

Shin氏:
 個人的な印象ですが,ライト層をターゲットにしたモバイルゲームブースよりも,ちょっとマニアックなゲームを出展したブースに多くの人が集まっていたようです。やはり東京ゲームショウは,コアゲーマー向けのイベントなのでしょうね。今後,日本市場への展開を考えているんですが,非常に参考になりました。

4Gamer:
 日本のオンラインゲーム市場に対しては,何か感じましたか?

Shin氏:
 日本のゲーム市場は,ライト層とマニア層が完全に分離していると思います。その中で,オンラインゲームはよりマニア向けのコンテンツという位置づけになっていますよね。ですから,ライト層とマニアを同時に取り込もうとしてしまうと,中途半端な結果が出そうな気がしました。
 1990年代中盤は,韓国ではコンシューマゲーム機が正式に販売されていなかったんですが,どうにかして遊んでいたプレイヤー達がいたんですよ。そういう具合に,一部のマニアが率先して楽しんでいるのが,今の日本のオンラインゲームだと感じています。
 韓国のゲーム市場は,もともとPCゲームが主流だったので,これが自然にオンラインゲームにシフトしたんです。だからこそ,ライト層をターゲットにしたゲームも成功しているのですが,現在の日本ではライト層をターゲットにしたオンラインゲームは,まだ難しそうですね。

4Gamer:
 Studio SylphのCUVITは,韓国市場の中でもかなりマニア向けのイメージがあるのですが……。

Shin氏:
 ええ,そのとおりです。
 当初の企画では,コミュニケーションツールとして広く受け入れられるよう,ライト層を狙おうかとも思っていたのですが,日本市場を重視した結果,マニア向けにするのが正解だと結論づけたのです。

4Gamer:
 韓国でライト層向けに開発したものは,日本では受け入れられにくいという判断ですね。
 それでは,今度は大陸に目を移して,中国市場についての見解を聞かせてください。

Shin氏:
 中国のオンラインゲーム市場は,日本とは正反対ですね。どちらかというと韓国に似ているのですが,さらにライト層が多くを占める市場だという気がします。何しろ大きな国なので,中国全土がそうだと言い切ることはできませんが,大都市に居住する人々にとっては,オンラインゲームが生活の奥深くにまで浸透しているようです。
 韓国の場合,パソコン通信→インターネット→インターネットチャット→アバター→オンラインゲームという風に,段階を踏んで発展してきました。一方,中国ではインターネット人口の急速な拡大とともにネットワークインフラの整備が進んだため,チャットやアバターといったコミュニティを経ず,一気にオンラインゲームの段階になったみたいですね。
 韓国だと,チャットとオンラインゲームは別々のコンテンツとして成立していますが,中国の人達はオンラインゲームの中でチャットをすれば事足りるような感じです。

4Gamer:
 それで,韓国以上に大衆化された市場というわけですね。

Shin氏:
 ええ,そういうことです。ですから,やさしいカジュアルゲームが,受け入れられやすい環境だと言えますね。

4Gamer:
 それでは,韓国のゲーム市場の問題点は,どこにあると思いますか?

Shin氏:
 韓国では,オンラインゲーム産業が完全に成長する前に,インターネットコミュニティビジネスと結びついたため,何となくゲームそのものの意義が薄くなっているような感じがあります。ゲーム自体だけでも面白いもののはずなのに,韓国ではオンラインゲームを企画するとき,ゲーム内のコミュニティツールがうまく作られているか,プレイヤー達がコミュニティ内で不便を感じないか,といったことを先に検討するというんですよね。
 また,本来オープンβテストというのは,まだ多くを修正しなければならない段階で,それを洗い出すためのもののはずですよね。しかし多くのプレイヤーや業界人達が,完成段階だと思ってしまうのは,大きな問題点です。

4Gamer:
 オープンβテストに関しては,日本でもそういう傾向がありますね。急いで答えを求めたがる姿勢は,良いことなのかどうか……。

Shin氏:
 また,オンラインゲームの企画を立ち上げるとき,韓国ではターゲットユーザー層,需要予測,商用化の方向性などをあらかじめしっかり決めます。これは重要なポイントではあるのですが,それ以前に,自社のスタッフがどんなゲームを開発できるのか,それをきちんと把握できている会社が,どれぐらいあるのかは疑問です。
 そういう意味でも,流行だけを追い求める姿勢は,大きな問題だと思います。例えば,「ウルティマ オンライン」を開発したスタッフに,可愛いカジュアルオンラインゲームを作らせようとしても,おそらく難しいですよね? 一言で言ってしまうと,韓国のゲーム業界には,プロデュース力というものが不足しているのだと思います。プロデューサーが,単純に開発日程や進捗状況をチェックする役目ぐらいにしか思われていないケースもあるようですからね。

4Gamer:
 プロデューサーにとっても,手腕を発揮できる環境がないということですよね。

Shin氏:
 ええ,もう少し話してもいいですか?
 韓国では,もう10数年ゲーム開発という業種が続いていますが,開発に関する詳細な過程や情報が,外部にはまったく公開されないんです。もちろん,各メーカーのノウハウはむやみに公開できるものではありませんが,日本では大手のメーカーがゲームの専門学校を運営して,次の世代のクリエイターを育成していますよね。韓国でも,NCsoftやNEXONといった大手が,専門学校を設立するなどして,次代の人材を育成していけば,自社の資源としても活用できるじゃないですか。ほかの会社の有能な人材をお金で引き抜くような動きが目立つのは,とても悲しいことですよ。
 過去,私がGravityでKim,Hakkyu氏と共に開発をしていた頃は,スタッフを探すのがとても困難でした。能力を持った人をスカウトするような予算もありませんでしたからね。そこで私達は,たとえ時間がかかってもスタッフを育てていこうと考え,新人達を教育しながら開発に参加させました。ラグナロクオンライン2のPark,Young Wooさんも,当時に育成した人物の中の一人なんですよ。もちろんParkさんには,当時からかなりの才能があったんですがね。

4Gamer:
 ゲーム開発に携わる人材が不足しているのが,韓国のゲーム業界の問題点なんですね。
 さて,それではがらりとお話を変えましょう。今後のオンラインゲームのトレンドは,どうなっていくと思いますか?

Shin氏:
 継続的に収益を上げられるジャンルは,やはりMMORPGだと思うのですが,大衆的な人気は,簡単なアクションゲームなどに集まるのではないかと思います。
 個人的な考えですが,MMORPGというジャンルは,オンラインゲームの究極系として,もう少し後に出てくるべきだったと思うんです。ところが,これがオンラインゲームの歴史の中で,わりと初期の頃に登場し,以来ずっと人気を集めている。もしもオンラインゲームが,アクションゲームなどから発展していったならば,MMORPGのゲーム性はさらに高いものになっていたのではないでしょうか。そうならなかったために,現在のMMORPGには足りない何かが多いような気がします。
 例えば,MMORPGの中で生活することが重視されるようになると,ゲームをしている間,退屈な時間が生まれませんか? 私は,ゲームというのはプレイヤーに,いつも緊張感を感じさせるものであってほしいと思っているんですよ。
 とはいえ,歴史をさかのぼることはできませんから,完璧なゲーム性を持ったMMORPGが,今後たくさん登場することを期待したいですね。

4Gamer:
 そうですね,今後,もっといいゲームが登場することを期待しましょう。
 本日はありがとうございました。

Shin氏:
 ついつい,話が長くなってしまいました(笑)。
 こちらこそ,ありがとうございました。



■NCsoft 開発室長 Park,Yong Hyun氏

 一年ほど前にもインタビューをしたPark,Yong Hyun氏は,当時「リネージュII」のプログラムチーム長。現在は,NCsoftのStudio E&G室長として,同作の開発の中心人物となっている。2005年の東京ゲームショウには,NCsoftの出展はなかったが,彼は最新ゲームの動向を把握すべく,毎年この時期に来日しているそうだ。東京ゲームショウ2日目の夕方,ホテルに帰ろうとする彼を見つけたので,話を聞いてみた。

4Gamer:
 こんにちは。お忙しいところ恐縮ですが,いくつか質問をさせてください。
 まずは,日本のオンラインゲーム市場について,どのような見解を持っているか,聞かせてもらえますか?

Park,Yong Hyun氏(以下,Park氏):
 日本のオンラインゲーム市場は,韓国のような爆発的な成長は見込めないと思います。が,ビジョンがない市場ということでもありません。韓国の成長速度とは,そのスピードが違うだけであって,徐々にかつ持続的な成長をしていくでしょう。
 当社が開発/サービスを行っているリネージュIIに関しても,韓国のように大量のプレイヤーが殺到するようなことはありませんでしたが,愛情を持ってゲームに触れてくれるプレイヤーが,少しずつ着実に増えている状況です。
 日本のオンラインゲーム市場は,熱意を持って挑戦し続ければ,いつか大きく花開く日がくると思いますよ。

4Gamer:
 国民性や気質の違いもあるんでしょうね。
 では,中国市場についてはいかがでしょうか。

Park氏:
 少し極端な意見かもしれませんが,中国の国内法がきちんと整備されるまでは,難しい市場でしょうね。例えば,ゲームの世界を混乱させるようなハッキングプログラムを使用したプレイヤーのキャラクターデータを,サービス運営側が削除するとします。この場合,中国国内法によって処罰されるのは,プレイヤーではなくサービス運営側なんですよ。
 消費者にとっては良い法制度ですが,サービスを運営する側としては,非常にきついですよね。

4Gamer:
 それは非常に深刻ですよね。安定したゲームをサービスするのが難しくなってしまいそう……。
 では時間もあまりないので,次の質問をさせてください。韓国ゲーム市場の問題点は,どこにあると思いますか?

Park氏:
 今からわずか5年前でさえ,韓国には"ゲーム産業"と呼べる規模のものはありませんでした。しかしその期間に,100倍以上の急成長をしてしまったんです。そのため,ゲーム開発に最も重要なはずの人材が,慢性的に不足しています。限られた人材による開発会社は,次から次へと設立されていますが,才能を持ったスタッフを集めることに,どこも苦心しているようですね。

4Gamer:
 そういった人材不足は,長期的な発展を阻害する深刻な問題ですね。これを解決する方法として,何か思いつくものはありますか?

Park氏:
 当社では,多くのゲームを開発することで,現在のスタッフ達に,多くのオンラインゲーム開発経験を蓄積させています。MMORPGの平均開発期間を約3年,カジュアルゲームの平均開発期間を約1年〜1年半ぐらいと仮定すると,MMORPGを1本開発する期間に,カジュアルゲームなら3本開発できますよね。
 当社では,この開発期間の差を利用して,MMORPGの開発スタッフとカジュアルゲームの開発スタッフの人材配置を,効率的に循環させています。

4Gamer:
 開発を実践させることで,経験値を効率よく高めていくわけですね。
 では,今後のオンラインゲームのトレンドをどう予測していますか?

Park氏:
 個人的には,MMORPGというジャンルはまだ成長すると思いますよ。韓国産MMORPGの多くはアクション性に比重を置いていますが,「World of Warcraft」のような米国産MMORPGはクエストに比重を置いていますよね。このように,多様な種類のMMORPGが次々登場するだろうと予測しています。
 世界のMMORPG市場は,毎年10%以上成長しているんです。最近,MMORPGというジャンルは,新しいものが生まれにくくなり,停滞しているというような意見も聞こえてきますが,リネージュIIのサービスを始めたからといって「リネージュ」のプレイヤーは減少しませんでしたし,World of Warcraftのサービスが始まったからといって,リネージュIIのプレイヤーは減少しませんでした。
 新しい手触りのMMORPGが登場すれば,その都度新規のプレイヤーが増えるんです。今後は,ヨーロッパ型のMMORPGが,どんな形で登場するかが気になりますね。

4Gamer:
 MMORPGというジャンルの,幅の広さが市場拡大のカギになるかもしれませんね。
 本日はありがとうございました。

Park氏:
 こちらこそ。



■AK Communication 社長 Lee,Dong Seob氏

 Lee氏は,これまで10年以上,日本と韓国のゲーム業界を行き来しながら,さまざまなビジネスを作りあげてきた人物。ゲームアナリスト平林久和氏の著書「ゲームの大学」の韓国語版を出版したり,日本のコンシューマゲーム機向けタイトルを韓国でPCパッケージゲームに移植したり,韓国のモバイルゲームを日本に持ち込んだりと,両国のさまざまなゲームビジネスを根付かせるための活動を行ってきた。韓国のゲーム業界で,最も日本のゲーム業界に顔が利き,両国のトレンドに詳しい人物といってもいいだろう。彼がXbox 360ブースの前で打ち合わせをしている姿を見つけたので,そこで話を聞いてみた。

4Gamer:
 お忙しいところ失礼します。
 いきなりですが,いくつか質問をさせてください。

Lee,Dong Seob氏(Lee氏):
 はい,どうぞ。

4Gamer:
 日本のゲーム市場に詳しいLee氏が,日本のオンラインゲーム市場をどう思っているのかを知りたいのですが。

Lee氏:
 日本のオンラインゲーム市場は,まだ少し見守っていく必要があると思います。韓国では現在,PC Bangでたくさんのオンラインゲームがプレイされていますが,日本ではまだ,ゲームセンターでオンラインゲームを少しずつ遊んでいるような状況です。
 日本のコンシューマゲーム市場が少し活気を失っているのに加え,次世代ゲーム機のスペックの高さから,開発コストの高騰も予想されており,オンラインゲームへの関心が高まっているのは明らかです。
 ただ韓国人と違って,日本人はビジネス的に勝ち目が見えてから,行動をし始める特性があると思うんです。韓国経済が,1997年からのIMF(国際通貨基金)危機に見舞われていた頃,オンラインゲームにその突破口を見いだしていました。日本では,少しずつ萎縮傾向にあるとはいえ,コンシューマゲーム機を中心とした大きな市場が存在しているため,あえて冒険をする必要がないのでしょうね。

4Gamer:
 では,中国のオンラインゲーム市場については,どんな見解をお持ちですか?

Lee氏:
 正直に言ってしまうと,中国市場について深く考えたことがありません。今言えるのは,大きな市場であるのは確かですが,まだビジネス的な側面から見ると不足する点が多いのではないか? というくらいでしょうか。

4Gamer:
 分かりました。
 それでは,韓国のゲーム市場には,現在どのような問題点があると思いますか?

Lee氏:
 "問題点"というほど大げさなことではありませんが,最近,ちょっとした成功を勝ち取った韓国メーカーが,傲慢になっているような印象があります。成功までの道はとても厳しく長いものですが,失敗は一瞬にして訪れるというのがビジネスの世界ですから,いつも危機意識を持ってほしいものです。傲慢になることなく,危機感を持っていれば,可能性はいつでも開かれています。
 開発的な側面については,市場の急成長による弊害として,プロデュース能力が非常に弱いと感じますね。この部分は,韓国メーカーと日本メーカーの共同開発などを通じて,たくさん学ばなければならないでしょう。例えば,日本のスタッフがプロデューサーを担当し,韓国のスタッフがプログラムなどの開発業務を担当するといった形態が,非常に理想的だと思います。

4Gamer:
 いくつかそういった例も出てきてますよね。これが近い将来,両国のゲーム業界にいい影響を与えるといいですね。
 ところで,今年の東京ゲームショウはいかがでしたか?

Lee氏:
 韓国のデベロッパが,ついに海外市場のメインステージに躍り出たような印象を受けました。かつての韓国は,国内市場だけでは開発コストを回収するのが難しいような規模でした。ですが規模が拡大し,韓国内市場を基盤に,海外市場に進出できるような環境ができたわけです。非常に感慨深いことですね。

4Gamer:
 本日は,ありがとうございました。



 今回行った10人の韓国ゲーム業界"要人"へのインタビューでほぼ共通していたのは,現在の日本のオンラインゲーム市場規模の小ささを認めつつも,近い将来の成長を見込んで多角的な分析をしている姿だった。
 だが一方で,中国市場については一様に慎重な姿勢を見せていた。やはり,マーケットの規模自体がいくら大きくても,さまざまな環境が整備されていないことが,ビジネスの困難さを危惧する要因となっているのだろう。
 韓国市場が抱える問題点としては,オンラインゲームの開発に必要な人材が慢性的に不足していることと,流行に左右されやすい姿勢を指摘する声が多かった。だがこれは,韓国だけの話ではなく,日本にも当てはまる問題点と言えるかもしれない。
 オンラインゲームの今後のトレンド予測は,それぞれが異なる見解を語ってくれたが,どれが正解かは,今のところ分からない。あくまでも参考意見として受け止めておいて,数年後に読み返してみると面白いかもしれない。
 ともあれ,彼らにとって東京ゲームショウは,日本のオンラインゲーム市場の今後について考えるきっかけになったのは,確かなようだ。

 最後に,筆者個人の東京ゲームショウ2005の感想を述べておこう。今年は,日本ゲーム市場の主流であるコンシューマゲーム機市場の中で,オンラインゲームを一つの軸として成長させるための,さまざまな試みが目立っていたように思う。そんな時期だからこそ,今から日本と韓国の両国が,競争ではなく,互いに足りないものを補い合うパートナーとして協力しつつ,両国のゲーム産業が共に成長していくことを期待したい。(Text&Photo by Kim Dong Wook)


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