[TGS2005#59]ガンホー森下氏にインタビュー。2005年10月末に明かされるポータル&コミュニティ事業
「グランディアオンライン」発表(記事は「こちら」)の翌日,東京ゲームショウ2005(以下,TGS2005)二日目(9月17日)に,ガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下,ガンホー) 代表取締役社長 森下一喜氏にインタビューする機会を得た。 TGS2005での具体的な発表内容もさることながら,取り扱いタイトルを増やし続けるガンホーの,今後の戦略そのものが気になるところ。このあたりについて,森下氏に話を聞いてみよう。また,少々先回りして述べるならば,それを通して自身のステージに宮路兄弟,とくにジーモード 代表取締役社長 宮路 武氏を呼んだ真意も,明らかにされることだろう。
■この秋にアナウンスされる,ガンホーのポータルサービス
4Gamer: 本日はよろしくお願いします。まずは,TGS2005でも公式に発表があった「エミル・クロニクル・オンライン」(以下,ECO)と「ヨーグルティング」への,プレイヤーの集まり具合について,どう評価しているかを教えてください。それぞれ,21万ID強と10万ID強とのことですが。
森下氏: 大枠では予想の範囲ですね。といっても控えめに見積もった場合の数字をかなり超えていますので,基本的な目標は十分に達成している,というところです。
4Gamer: その2タイトルも好調といってよさそうですが,グランディアオンラインの発表で,ガンホーの目に見える部分のラインナップはさらに広がっています。そろそろ各タイトル間をつなぐマーケティングの部分が気になってきているのですが。
森下氏: 今年(2005年)の10月末くらいに新会社を設立して,カジュアルゲームを含めたポータルサイトで全体的なマーケティング,ポータルとしてのブランドの部分のマーケティングを進めていきます。もちろん,当社のグループ制に沿ったタイトル個別のマーケティングも続きますが,タイトル間の交流や,それぞれのプレイヤー同士のコミュニケーションを含めつつ,カジュアルゲーマーの取り込みを兼ねた新しいポータルサイトを構築します。
4Gamer: そこで展開されるポータルというのは,「ガンホー」の名を冠したものになるのでしょうか。
森下氏: ブランドネームについては,お互いに現在検討している最中です。いずれにせよ今までのプレイヤーさん,Gung Ho-IDを取得している人はそのまま利用できるようにしますが。
4Gamer: 「お互いに」といいますと,やはり……。
森下氏: ジーモードです。新会社はジーモードとガンホーのジョイントベンチャーになります。
4Gamer: 今回のステージ発表(記事は「こちら」)には,そうした背景があったわけですね。
森下氏: そう。もともとポータルという構想とコミュニティという概念はあったんですが,携帯電話でナンバーワンのジーモードの"カジュアル"――麻雀やポーカーといった短時間で終わるゲーム――に出会って,一緒にやることでシナジー(相乗効果)を出しやすいと考えました。また,ここからいろいろなプラットフォームへ展開していくことによって,(ジーモードとガンホー)お互いの領域が広がっていくということです。
4Gamer: なるほど。少々個別の問題になりますが,ECOやヨーグルティングで試された,携帯電話からのクローズドβID取得については,ジーモードさんとの提携の産物だったのでしょうか。
森下氏: いえ,それはジーモードとの提携が決定する前から進んでいた話です。ただ,ガンホーの今後のモバイル展開に関しては,ガンホーはジーモードの筆頭株主でもありますし,具体的にいろいろ話していますよ。
4Gamer: そのポータルが立ち上がった場合,ガンホーで展開する作品はすべてそのポータルに乗る形になるのですか? 乗る作品と乗らない作品があるわけでなく。
森下氏: 全作品をポータルに乗せますが,運営やサポート,開発は今までどおりガンホー側でやるのであって,ポータルはあくまでポータルです。ただし,カジュアルゲームに関しては,完全に新会社のほうが制作を担当します。 新会社になるからといって,従来作品の(ゲーム自体に関する)サポートの体制が変わるわけではなく,課金とID管理の扱いが変わるだけですね。そこはシームレスに行こうと。
先ごろ登録ID数21万人を超えた「エミル・クロニクル・オンライン」(画面左)と,10万人を突破した「ヨーグルティング」(画面右)
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■「ポータル」でなく居心地の良い場所
4Gamer: ここまでの話について,ぜひとも聞いておきたいことがあります。常々森下さんは,「オンラインのテーマパークを作りたい」と述べてきましたよね。ところが,今うかがった話だと,ポータルサイトとして非常にオーソドックスなものに思えます。だとすると,森下さんおよびガンホーのカラー,つまり"テーマパーク"とは何なのでしょうか。
森下氏: それについては,ビジュアル的な具体性を持たせたうえで,もう少し後に別途発表しようと考えています。そのため,今それについて説明するのは難しいです。
4Gamer: お考え,形はかなり固まっていると。では,発表の時期はいつごろになりますか。
森下氏: ジョイントベンチャーを設立して,2006年の春ごろにはサービス展開を予定しています。
4Gamer: ではぜひ,さわりだけでも教えていただけないでしょうか。単純に「あーガンホーもやっぱりポータルなんだー」と思われるのも,もったいないですし。
森下氏: うーん,言ってしまうと,それが核心的なところになるので,難しいですね。基本的に「ポータル」という言葉があまり良くない。それは玄関口であって,やがて外に出て行ってしまいますよね,と。 以前共同事業の戦略発表(記事は「こちら」)を行ったときにも説明したのですが,まずは国内ナンバーワンのオンラインゲームポータルを作り,質と量とサービスにより,会員数において圧倒的なポジションを確保する。
4Gamer: はい,そこが出発であるわけですね。
森下氏: ゲーム内を含めコミュニティを構築していくのはもちろんですが,我々が目指しているのは「総合エンターテイメントのテーマパーク」ですから,映像や音楽やeコマースのサービスをどんどん入れていく。お客さんがコミュニティの中で,(自分の消費を)完結できる仕組みを作っていきます。そこで得たいものや,居心地のよい場所を我々は作っていくと。 普通の意味での「ポータル」に,居心地のいい"場所"は必要ないですよね。我々のところは「デスティネーションサイト」という言い方で,到達点になるということ,(テレビ業界や映画業界と同じような意味での)メディアを目指すということです。
4Gamer: ただの入り口ではない,と。
森下氏: (戦略発表会で用いられた包含図を示しつつ)「コンテンツ」としてゲームや音楽,映像,アニメーションがあり,それから「コミュニティ」があって,最終的には「クリエイション」という形で,いろいろな同人活動とかイベント的なものも活性化する。それがまたコンテンツとなり,コミュニティが生まれて,クリエイションにつながっていくという風に,ずうっと循環が続いていく。 その舞台として「プラットフォーム」,PCやテレビコンソール(セットトップボックスやコンシューマゲーム機),モバイルがありますが,プラットフォームはあくまで概念であって,どこであっても構わない。 お客さんがどこから入ってきてどこに進むにしても,この循環の中に定着してくれればよい,ということです。
4Gamer: なるほど,同人活動も含めてですか。
森下氏: インターネットの特徴は,ユーザー自身が参加できるということです。オンラインゲームにしても,最初にメーカーが設定を作り,世界観を作って提供するけれども,実際に動き出してからは我々が面白さを付加するのではなくて,プレイヤー自身が"面白く"なっている,つまり"コンテンツ"になっているんです。 だからこそファンはイベントに参加してくれるし,「RAGNAROK ONLINE Japan Championship」(RJC 2005。記事は「こちら」)のときのように,一緒にイベントを作り上げていくことも可能になるわけです。
4Gamer: そういった意味で,単なる案内所でなく,居着ける場所を作りたいわけですね。
森下氏: そうです。ただこうしたことはなかなかイメージしてもらいにくい。そこで映像として見せる準備を進めています。
4Gamer: そこで見られるものは,Webのインタフェースの形になっているのでしょうか。
森下氏: Webのインタフェースもあるでしょうし,実際にコンテンツの中に入ったときの様子も含めて,ビジュアルで見せていきます。
「RAGNAROK ONLINE Japan Championship」(RJC 2005)に併設されたファンイベント「RAGFES 10」の販売ブース(左)と,コスプレステージ(右)
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■"総合エンターテイメント"への脱皮
4Gamer: こうした,ポータルに始まる総合的な"場"を構築した場合,その性格がキーになると思います。現在ガンホーで展開しているコンテンツはかなり色の強いものではないかと思うのですが,それが場の性格を決めてしまう部分はないでしょうか。「総合エンターテイメント」という目標と関連して,ですが。
森下氏: 確かに今あるものの色は強いかもしれませんが,一人用,対戦,カジュアル,カジュアルなRPG,本格的なRPGなど,カテゴリを広げてそれぞれを充実させていくことで,マーケット的に広げていこうと思っていますし,最終的に本格的な作品をプレイしてくれる人を増やしていければと考えています。
4Gamer: ゲームとしての濃さでいえば,まさしくそうした構図で,現在展開されている作品は全体から見ればコアな作品に位置付けられると思います。ただし別の側面から見た場合,現在のコンテンツはまた別の性格付けがなされていると思います。つまり,"場"の核はキャラクタービジネス的なものになる可能性もあるのでしょうか。
森下氏: キャラクタービジネス! いいえ,そういうことではないですよ(笑)。ビジネスとしてはもっと大きな枠で考えています。現在ある作品に関連したところでも,インターネット放送で「ECO放送局」を企画していますし,以前はドラマを制作したこともありますし。ドラマについてはプロモーションの一環ではありますが,将来に向けたテスト的な要素も実はあって。
4Gamer: ガンホー自身の扱う分野が広がり,ビジネスとして脱皮していくということですね。
森下氏: ええ。総合エンターテイメント,です。ただし,ゲームというのが一つ,ルール,レギュレーションとして機能する。その中でいろいろなエンターテイメントを提供していくことも可能だと思います。 即物的に言えば,プレイしている対戦型ゲームのBGMを換えたいときに,その場で購入できるとか。そして一緒に対戦している相手と,ゲームでなく音楽の話が始まるとか。そういったことを考えているわけです。
4Gamer: うーん,どこまで広く深く提供できるかで,評価が変わってきそうですね。ほかの会社が考えているポータル事業も,中核的なタイトルがあって,そこにプレイヤーを引き付け続ける点では同じですし。
森下氏: なかなか全体像が見えにくいと思うのですが,今後オンラインゲーム自体が(放送コンテンツなどと同じ)メディアになっていくと思うんですよ。そこで展開され得るビジネスを考えれば,広告ビジネスもあるだろうし,アイテム販売などは今でもありますが,それ以外のeコマースも十分に成立してしまう。
4Gamer: なるほど,それは確かにそうですね。
森下氏: ビジネスとして見た場合は,単純に1本のゲームがサービスされるのではなく,さまざまなサービスを包含して進んでいく。例えば韓国ではすでにそのあたりに気づいて動き始めています。検索ポータルでもアクセスを集められるかもしれないけど,その人の目的意識,到達点をカバーし,滞在してもらう時間こそが広告とコンテンツ提供の機会になる。これが「Stay Time」の考え方です。 もちろん,そうしたプレイヤーの滞在時間を作り出すには,より良いコンテンツ,楽しんでもらえるコンテンツを作り上げることが大前提になります。
4Gamer: ECOの中で提供される「シアター」(記事は「こちら」)は,例えばそういった実験の一環でしょうか。
森下氏: サイト内のコンテンツと,そのゲームの世界観に入っているものでは,位置付けが違うとは思います。ただ,一つのコンテンツが,あるゲーム内から見られるだけでなく,ほかのゲームや,サイト内のコーナーからも見られるような仕組みは考えています。実はそこからさらに続きがあるのですが。
「エミル・クロニクル・オンライン」内に用意された「シアター」。ガンホーおよびブロッコリー提供のムービーが上映される予定だ
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■ポータルの,その先を見据えたネットワークスキーム?
4Gamer: ポータルが出来上がった,そのまた後の展開ということですか。 森下氏: そのとおりです。そうしたことを実現していくには,コンテンツだけではなくて,今度はネットワークアーキテクチャやサーバーの技術開発などが必要になる。我々はそうしたこともやっています。 4Gamer: プレイヤーの目的を満たすとしても,ポータルという場である以上,そこを訪れてもらわなければ始まらない。その先を考えている,ということですか。
森下氏: そうです。実際に開発を進めています。ただし,将来的には「こう行きたい」というものはあるにしても,コンセプト自体が少しずつ変わってくることはあるでしょう。まずは分かりやすいところで,オンラインゲーム内のミニゲームとか,先ほど説明したような展開をしっかり――ゲームというくくりで――やっていこうというのが,我々のファーストステージです。
4Gamer: うーん……もはや"ゲーム"とはまた違う部分でどんどん何かが作られているわけですね。もう少し詳しくお聞きできませんか?
森下氏: ごめんなさい,さすがにまだ無理です(笑)。準備が万全に整ったら公開できると思うので,それまでお待ちください。
■グランディアオンラインとPC/コンシューマゲーム市場
4Gamer: 残念。では,話をガラっと変えて,森下さんがエグゼクティブプロデューサーを務めるという「グランディアオンライン」について聞いていきます。提供ラインナップにグランディアオンラインを加えることで,ガンホーが狙っていくのはどのあたりなのでしょうか。
森下氏: よりコンシューマゲーム機のマーケット寄りということで,まず「グランディア」ファンというのがターゲットの一つ。そして"国産RPG"のファンと,オンラインゲームファン。こうした三つのターゲットを想定しています。まずはコンシューマゲームのファンが課題ですね。 今回の作品は「くさかんむり」のほうでない,"燃える"冒険活劇なので,本当の冒険というものにフォーカスを合わせています。
4Gamer: TGS2005では,コンシューマゲーム機の次世代機が一つのトピックだと思いますが,そうした次世代機のタイトルとグランディアオンラインは,同じ層を取り合う形になりますよね。
森下氏: グランディアオンラインが次世代機に行ってもいいじゃないですか。いや,あり得ると思いますよ。現在はダウンロードおよび課金というビジネススタイルと,後はどのプラットフォームがどれだけ普及するかという問題があるだけです。それらがクリアされれば,明日からコンシューマゲーム機に行こう,PCはやめだ,ということもあり得ますし,両方で提供していくということも考えられます。 よく聞かれるんですが,実を言うとどうでもいい問題なんですね。プラットフォームやスペックという箱庭の中でものを作っているわけではなく,オンラインゲームの設計はそもそも,その箱庭自体を作っていくことですから。
4Gamer: 実際にいつでもコンシューマゲーム機で展開できる体制をとっている,ということですか。
森下氏: ゲームアーツ自体,次世代機でのゲーム開発を準備していますから,"やろうと思えば"いつでも,ですかね。焦る必要はないと考えています。
4Gamer: なんだか,いろいろな意味で普通に話を締めくくるのが難しくなってきましたが,最後に今後のオンラインゲーム市場に関して,思うところをぜひ聞かせてください。
森下氏: 非常にポジティブな意見としては,今後マーケット自体はさらに拡大していくだろう,というのがあります。ただし,そのためにはいろいろな課題が残っていて,取り組んでいくべきことがまだまだたくさんあります。 マーケットを広げていくと同時に,そうした課題をクリアしていかなければならない。とくに自社タイトルを海外に展開していこうと考えたとき,またさまざまな課題に突き当たる。そうした課題を一つ一つ乗り越えるべくがんばっていきますので,ぜひ応援していただければと思います。
4Gamer: 本日はありがとうございました。
携帯電話コンテンツ最大手のジーモードと組み,準備を進めることで,ガンホーがポータルビジネスを展開するための機はいよいよ熟しつつあるようだ。オフラインも含めたプレイヤーコミュニティと連携しつつ,独自の循環を作り出すという大掛かりな構想が,実際にカジュアルコンテンツ+ガンホータイトルを出発点として,どう実現していくのか。システムの全容と共に気になる部分だ。
そして"場"の構築を終えた後,ガンホーはその先に何を見ているのか。それは例えば,都市部から地方の生活へ斬り込み,またゲームとは直接関係ないところにプロモーションの網を広げつつあることとどう関わるのか。こちらについても興味は尽きない。
別途発表を予定している事柄とあって,なかなか明確な回答を得られなかった今回のインタビューだが,少なくともガンホーが,すでにポータルのそのまた先を見ていることが明らかになったのは収穫だった。 オンラインゲーム市場に対する森下氏の構想が,順を追って明かされていくのを,楽しみに待ちたいと思う。(Guevarista)
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グランディアオンライン |
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