[TGS2005#57]SOEコミュニティディレクターに聞く「EQ2から見るMMORPG市場とコミュニティ」
Chris Kramer氏:SOEのCorporate Communicationsディレクター。昔中国人と付き合っていたと語る氏は,箸の使い方もバッチリ。かつてEQ1をプレイしていたころは編集者で,原稿が3週間遅れて会社をクビになりかけたらしい
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東京ゲームショウ2005の初日である9月16日,Sony Online Entertainment(以下,SOE)のコミュニケーションディレクターChris Kramer氏とスクウェア・エニックスの「エバークエストII」プロデューサー,Sage Sundi氏に話を聞く機会があった。 いままで再三にわたってさまざまな人物にインタビューを行ってきたエバークエストII(EQ2)で,これ以上聞くことがあるんだろうかと一瞬悩んだが,実は今は同作品にとって重要な時期。英語版は,拡張パック第一弾「Desert of Flames」がリリースされたばかりだし,日本は日本でサービスインされてから約3か月が経過し,最初のアドベンチャーパックが近づきつつある。コミュニティも,ある程度成熟してきたころだといえるだろう。 SOEが,コミュニティについて慎重かつ積極的なアプローチを行っているのは,コアプレイヤーなら周知の事実。また,日本サーバーを運営するスクウェア・エニックスにしても,国内メーカーには珍しく,ユーザーサポートとコミュニティ育成のための専門部署を設けている。細かい部分は違うのかもしれないが,実は"コミュニティ"に対するベクトルが同じ方向を向いているように思える両社に,ワールドワイドのコミュニティについて,それに伴う世界の状況について,話を聞いてみることにした。
Michael Lustenberger氏(画像左):SOE マーケティングVice President。EQ2の細かい話に終始してしまったせいか,今回のインタビューでは何もしゃべっていないが,我々の一挙手一投足をジーッと観察していた。怖い
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■コミュニティディレクターに聞く,MMORPG市場とコミュニティ
4Gamer: 本日はよろしくお願いします。EQ2初の拡張パック「Desert of Flames」がつい先頃スタートしたところでお忙しいでしょうに,東京まで来て大変ですね(笑)。
Kramer氏: ええ,DoFもやっと始めることができました。幸先も良さそうで,とりあえず一安心といったところです。
4Gamer: 9月14日にスタートしたばかりで聞かれても困るかもしれませんが,手応えとしてはどんな感じですか?
Kramer氏: 今回の拡張パックでは,ご存じのようにレベルキャップが引き上げられて,レベル60まで成長できるようになりました。早速多くのプレイヤーがレベルアップに励んでいて,手応えは結構感じていますよ。
4Gamer: なるほど。ところで現在のアクティブプレイヤー数はどのくらいなんですか? そういえば一度もキチンと聞いたことないような気がします。
Kramer氏: えーと,今ここでは正確な数字は分かりませんが,ワールドワイドで30万は超えていると思いますよ。
4Gamer: その数字は,日本サーバーも含めてですか?
Kramer氏: ええ,本当にワールドワイド,つまり日本サーバーも含めてです。
4Gamer: では,前作「EverQuest」(以下,EQ1)と比べてプレイヤーの増加率というのはどうでしょうか。
Kramer氏: プレイヤー増加ペースに関するEQ1との最も大きな違いは,発売時の数と,その直後の伸びですね。EQ1では,20万を超えるのに約9か月かかりましたが,EQ2ではローンチ時点で20万アカウントを超えてました。
4Gamer: 確かにEQ2は"人気作の続編"ですから,まったくの新作だったEQ1より出足は速いですよね。
Kramer氏: ええ,そうですね。EQ1のファンがいたことが最大の理由でしょう。また,ライトゲーマー層を取り込むようなゲームシステムになっていることも,理由の一つだと思います。
4Gamer: 初速が十分ということは,今後の"増加率"が問題になってきますよね。EQ1のように,右肩上がりを長期間維持できるかどうかを決めるファクターとして,"コミュニティ"があると思います。SOEは,コミュニティについて積極的に取り組んでいるイメージがありますが,これは社としての方針ですか?
Kramer氏: ええ,コミュニティに関する改善/強化/サポートは,当社が最も慎重に行っている部分です。ユーザーサポートだけでなく,ファンサイトの応援や「EverQuest II Players」などのWeb上でのサービスも,コミュニティを育てていく施策ですね。
4Gamer: そういったゲーム内と外をつなぐ部分というのは,市場全体で見ても実際に行っているデベロッパはまだ少ないと思いますよ。大事な部分なんですけどね。ではこのコミュニティに関して,次の施策は考えていますか?
Kramer氏: 実はPlayersの次のバージョンを開発中なのですが,今まで以上に,ゲーム内と外をつないでコミュニティを活発化させるような機能を実装する予定です。さすがに今の段階では,具体的なことはいえませんけどね。
4Gamer: おおっ,それは興味深いですね。発表できる段階になるのを楽しみにしています。 ところで少し話が戻りますが,そういったコミュニティを大事に育ててきて,今の30万という数字があるわけですよね。しかし,2004年11月のローンチで20万だったことを考えると,決して多い数字とは思えません。Kramerさんは,この30万という数字には満足してますか?
Kramer氏: 「World of Warcraft」のプレイヤー数の伸びを見ていると,MMORPG市場には,まだまだ成長の余地があることが分かります。なのでEQ2も,まだまだ数字を伸ばせるでしょう。我々は長いタームで,いろいろな施策を考えていますよ。 また,近々3回目のコミュニティサミットを開催するのですが,そこでは,ギルドリーダーや大きなファンサイトを作っている人などを呼び,開発者達と意見を交換してもらいます。こういったことも,今後のEQ2にとって重要となるでしょう。
4Gamer: EQ2のコミュニティを取り巻く環境は,先進的というか,現状でもかなり理想的なものになっていると思います。この先,どのような展開をしていく予定ですか?
Kramer氏: 日本でも同じですが,ファンサイトキットの配布や,プレイヤーからの声を聞くことを重点的に行っています。コミュニティは管理するものではなく,手助けしていくもの。プレイヤーが望むことを,デベロッパができる範囲で提供し続けていくつもりです。
DoFのプロモーションムービーからのカット。EQ1のDesert of ROが舞台で,アラビアンナイト風の雰囲気満点
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Sage Sundi氏:ご存じ,スクウェア・エニックスの「エバークエストII」プロデューサー。FFXIでも重要なキーパーソンであり,ゲーム関係のショウや隠密のミッションを含め,一年の半分くらいを日本以外の場所で過ごす多忙な人
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■SOEの今後の展開と,日本市場
4Gamer: ところで先日,「The Matrix Online」の運営権を取得しましたよね(関連記事は「こちら」)。新しいジャンルへの進出を考えているのですか?
Kramer氏: あれには,二つの理由があります。一つめは,Warner Bros. Interactive Entertainmentが行っていた展開が面白かったこと。The Matrix Onlineは,キャラクターデザインや世界観,ゲームシステムのどれもが優れていますからね。あの独特の戦闘は面白いですね。二つめは,(この契約時に同時に取得した)DC Comicsのキャラクターを使用したゲームを開発する権利が,今後オンラインゲームを作っていくうえで必要と判断したことです。
4Gamer: とすると,今後そのあたりのタイトルがリリースされてくるということですね。それが日本でサービスされる可能性は?
Sundi氏: 我々とSOEは,「ファイナルファンタジー XI」(以下,FF XI)のときからコネクションがありますし,我々の「PlayOnline」も,複数タイトルがあって始めて意味があるシステム。そのため,今後は自社タイトルだけではなく,いろいろな展開をしてく可能性はありますよ。
4Gamer: その場合,PlayOnlineとStation Accessという二つのサービスが関わってきそうですが。
Sundi氏: その仕組みにはあまりこだわっていません。どちらも,IDシステムと課金システムを持っているじゃないですか。要は,スクウェア・エニックスのブランドで,我々がサービスしているタイトルだということが分かればいいだけなんです。逆にこの部分にこだわりすぎると,何も展開できなくなってしまいますよ。
4Gamer: なるほど。PlayOnlineとStation Accessだけを見ても,両社の目指しているところは似ていると思うのですが,今後両社でぶつかってしまうようなことはありませんか?
Sundi氏: これに関しては,"融合"と"衝突"の2通りのパターンがあります。本当に二つが融合して,どちらで課金してもゲームをプレイできるようになるかもしれませんし,SOEだと欧米,当社(スクウェア・エニックス)ではアジアというようにお互い得意とする地域に差があるので,それを補うように協力していく可能性もあります。だから,今はまだ衝突については考える必要ないでしょう。
4Gamer: なるほど,分かりました。今アジア地域の話が出てきたので少しお聞きしたいのですが,SOEは,アジア地域をどう思っていますか? 例えばワールドワイドで見てみても,韓国産のMMORPG勢力が拡大してきていますよね。韓国産と欧米産では操作スタイルも表現の仕方も異なりますが,その韓国産のシェアが拡大していることについて,なにか思うところはありますか?
Kramer氏: そうですね……まだまだ市場にはチャンスがあるのだな,と素直に感じています。我々も中国,台湾,韓国市場に合わせた,「EverQuest II East version」(以下,EQ2 East)をリリースする予定ですからね。今後も,ソーラーモデルという形で,それぞれのマーケットに合わせて操作体系を変えたりして出していく予定です。
4Gamer: 日本に関しては,スクウェア・エニックス任せということですかね(笑)。ただ日本も,ここに来て色々と状況が変わってきています。国産タイトルも増えてきましたし。日本についてはどう思っていますか?
Kramer氏: オンラインゲーム市場としては,日本ではFF XIしか知らない人も多いと思いますので,その人達に対して,いろいろなオンラインゲームがあるということを,知らしめていくことが重要だと思っています。最近はいくつか人気タイトルが出てきていますので,それでさらに市場が大きくなっていくのではないでしょうか。
4Gamer: 日本市場は,やはりまだ小さいと思いますか? 日本サーバーがオープンして3か月が経ちましたが,予想と比べてどうだったでしょう。
Kramer氏: 数字から考えても,まさに発展途上という感じがしています。日本市場は,FF XIがプレイステーション2(以下,PS2)で先にリリースされたことが大きく影響しているのは間違いないでしょう。なのでこのFF XIのプレイヤーから,PCでオンラインゲームをプレイする人がじわじわと広がっていくのではないでしょうか。
Sundi氏: FF XIは,一つのIDで,PS2版もPC版もプレイできます。プレイヤーの使用するプラットフォームも,PS2でプレイしてからPCに,またその逆といったシフトも生まれています。ここでXbox 360版が出てくると,この流れが変わる可能性もあります。これは,PCとコンシューマゲーム機が競っているという意味で,非常にいい状態と思います。いい市場というのは,ドイツのように,両方が生き残っている状態から生まれると思いますので,日本も同じようになっていくのを期待しています。
4Gamer: なるほど。ではそれに関連する質問ですが,EQ2がコンシューマゲーム機へ移植される可能性はありますか? 次世代機ならば,条件さえ整えば,十分クオリティを落とすことなく移植できるのではないかと思うのですが。
Kramer氏: 我々にはSONYという社名がついているので(笑),プレイステーション3への移植はあってもおかしくないですね。一応開発のほうでは,PS3のキットをおいて調査はしてますよ。 ただ,コンシューマ機からPCへ流れる人もいますし,逆にPCからコンシューマ機へ行く人もいるでしょう。マーケットが広がることは,すなわち我々のチャンスも増えるということですので,考えようによっては,環境がやっと整ってきたということかもしれません。外出先では携帯ゲーム機で遊び,家に戻ったらPCやコンシューマ機で遊ぶといった状況も,そう遠くはないでしょうね。
4Gamer: そうですね。オンラインゲーム市場のプレイ環境は,ようやく最近になって整ってきたといえそうです。 では,この環境が整った状態でリリースする,次のタイトルのコンセプトというか,目標みたいなものはありますか?
Kramer氏: 今までにリリースしてきたタイトルでは獲得しづらかった層を狙うタイトル,例えばアクションゲームなどを作っていこうと思ってます。あと,開発段階で,日本ならこういうタイプ,ヨーロッパならこういうタイプというのを調べておき,各国の文化をその段階で取り入れて進めていこうと思っています。おそらくは,"ライトゲーマーより"のタイトルが多くなっていくのではないでしょうか。 また,ビジネスモデルも常に新しいものを考えています。韓国では一般的となった,フリーダウンロードでクライアントを配布し,アップグレードで課金を行って利益を出すモデルとかも考えていますよ。
■サービスインから3か月が経過した日本サーバーの動向
4Gamer: 時間もなくなってきましたので,日本サーバーについての質問に移ります。日本サーバーがオープンしてから約3か月が経ちました。平均レベルは結構上がってきているのではないですか?
Sundi氏: EQ2のレベル曲線は,レベル10から15付近は一気に成長し,レベル20を超えたあたりから少しずつきつくなっていきます。どのMMOでも似たところがあると思うのですが,プレイヤーには,突き詰めるタイプとそうでないタイプに分かれます。 EQ2では,突き詰めるタイプの人はどんどんレベルを上げていくわけですが,そうでない人は,レベル20あたりで,次のキャラクターを育て始めるんですよ。なので,レベル20付近のキャラクターが多いですね。グラフ曲線でいえば,レベル1から30あたりまでが右肩上がりで,それから徐々に減っていくという感じです。
4Gamer: ふむふむ。そういえば,日本サーバーにもそろそろアドベンチャーパック「スプリットポゥ サガ」が実装されると思いますが,それで追加されるエリアには,パーティに合わせて難度が変化する,インスタンスダンジョンがありますよね。あれは,非常にキャラクターを育てやすいシステムだと思うのですが,それによって平均レベルがグッと上がると予想していますか?
Sundi氏: うーん。いや,おそらくはあまり変わらないと思いますよ。どの方法を採ったとしても,レベルアップは時間のかかるものですし。プレイヤーのレベル分布は,少しずつは変わるものですが,スプリットポゥのシステムでドラスティックに変わるということはないと思います。 ただ,そうはいっても時間が経てばハイレベルキャラクターが増えていきますので,彼ら向けの拡張要素は必須です。もちろんハイレベルではないキャラクター向けの要素も入れていかなければならないので,実際の拡張は,交互のような感じとなります。そういうこともあって,最初の拡張パックはハイレベルキャラクター向けとなり,レベルキャップも60に引き上げられたということです。
4Gamer: 日本サーバーでも,レベル50を達成してEpicモンスターをバリバリ倒している人もいますが,ギルドレベルのマックスである30を達成したギルドはもうありますか?
Sundi氏: いえ,ギルドレベル30を達成しているギルドはまだみたいですね。
4Gamer: なるほど,確かにこっちのほうが難しいかもしれませんね。 ところで,FF XIのコミュニティと,EQ2のコミュニティで何か違いを感じることはありますか?
Sundi氏: 運営サイドとしては,正直ほとんど変わりませんね。FF XIとEQ2ではサポートの方向性が違うので,そこでの違いはあるかもしれませんが,差というのはそれほどないですね。 EQ2はギルドという強いつながりがあって,FF XIはリンクシェルという軽いつながりがあるという,設計の思想の違いがあります。そのため,ゲーム外でのコミュニティに差は出てきますが,ゲーム内ではあまりないと思います。
4Gamer: 確かリリース前にお話を伺ったとき,"ある程度コアのユーザーも取り込んでいきたい"と話していましたが,それは達成できたと感じていますか?
Sundi氏: EQ2は高いPCスペックを要求するタイトルなので,ある程度はゲーム好きのコアなプレイヤーが来ると思っていました。実際,そこの層は取り込めたと思います。しかし,考えていた以上にコア層以外へのアピールがしにくく感じていて,今後はそれが課題となっていくと思います。
4Gamer: そういえば,日本サーバーで遊んでいると,FF XIでよく使われる用語が飛び交っているのをしばしば見るんですよ。プレイヤーが流れて来ているのではないでしょうか。
Sundi氏: ええ,少しは流れてきていると思います。PS2版でまずFF XIに触れ,そこからPC版へ移ってきて,PCにはほかにもMMORPGがあるということを知る。その中で自分に合った好きなタイトルを探していくというのは,当然の流れです。逆に,その環境を提供できてのPlayOnlineだと思います。
4Gamer: なるほど,よく分かりました。最後に,スプリットポゥの実装時期について聞きたいのですが,そろそろ決定しましたか?
Sundi氏: いえ,すみません。まだ具体的なことは話せません。
4Gamer: ううむ,残念。ローカライズの進捗はどんな感じなのですか?
Sundi氏: ほぼすべて終わってます。拡張パックの「デザート オブ フレイム」もほぼ終わってるので,リリースまでに大きなアップデートが続かなければ,大丈夫でしょう。我々はほかのタイトルもサービスしていますので,最大効果を上げるタイミングを図っているところです。
4Gamer: 分かりました。本日はどうもありがとうございました。
今回のインタビューは,コミュニティに対する考え方,コネクションの強さなど,両社の強固な結びつきを再認識させられるものになった。Playersの次期バージョンの存在,The Matrix Onlineからの新たな展望などSOE側の動きも聞くことができたのも,収穫の一つだ。 その両社は,どちらもオンラインゲーム市場のまだまだ掘り起こせる潜在力を認めており,積極的に開拓に取り組んでいる姿勢を見せている。SOEが,MMORPG市場で賛否両論のあるRMT問題に関し,自社のポータルサイトStation上で「Station Exchange」サービスを行って同社の見解を示し,業界に大きな波紋を起こしたのは記憶に新しい。一方のスクウェア・エニックスも,"まさかのXbox展開"などマルチプラットフォーム戦略を拡大する傾向にあり,オンラインゲームの総合的な展開と,プレイヤーの相互移動をサポートしているのが興味深い。 両社はどちらも,オンラインゲーム業界の中で,非常に大きな影響力を持っている。今後のオンラインゲーム市場の動向を探るうえで,引き続き彼らに注意を向けておく必要があるだろう。(Seal)
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EverQuest II |
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ファイナルファンタジーXI |
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