グラフィックスメモリ512MBの真実1:Radeon X800 XLに見る512MBの効果
■グラフィックスメモリは512MBの時代へ
ほんの5年前,グラフィックスカードに搭載されるメモリ容量は最大で32MBほどだった。しかし,最近はグラフィックスチップの性能向上に呼応して,グラフィックスメモリの容量が512MBの製品が登場してきている。読者の中には,PCのメインメモリ容量が512MBだよ,という人も少なくないと思うが,今やその容量がグラフィックスメモリにも採用される時代になってきたのである。 そこで今回は前後編に分けて,“グラフィックスメモリ512MBがもたらすもの”について考えてみたい。
まず本稿では,4Gamerでも「こちら」で紹介した,ATI Technologies(以下ATI)のグラフィックスメモリ512MB版Radeon X800 XL(以下X800 XL 512MB)について見ていこう。 今回入手したのは,最新世代のリファレンスデザインを採用したX800 XL 512MBリファレンスカードだ。搭載するグラフィックスメモリはSamsung製のGDDR3 SDRAM(型番:K4J55323QF-GC20)。メモリクロックは980MHz相当(実クロック490MHz)なので,従来の256MB版Radeon X800 XLが採用しているものと同じデータレート。単純にメモリ容量を倍にしたものといえる。新カードデザインでは,より大容量のグラフィックスメモリをローカルフレームバッファとして利用することで,性能向上を図っているとのことだ。 そこで,アスクの協力を得てTul製のグラフィックスメモリ256MB版Radeon X800 XLグラフィックスカード「PowerColor X800 XL VIVO」(型番:X8XL-DVIVO-P256D3/R43C-TVD3D,以下X800 XL 256MB)を用意し,比較してみることにした。 下の写真を見てほしいが,X800 XL 256MBも最新世代のカードデザインを採用しているため,デザインはほぼ同じと言っていい。いずれもRage Theaterを搭載するほか,DVI-I×2,ビデオ入出力と,コネクタ類も同じ。動作クロックももちろん同じだ。異なる点は,PCI Express用6ピン電源コネクタの位置,そしてメモリチップの個数が従来の8個から倍増したことも含めたメモリチップ周りの配線ぐらいだろう。また,メモリチップの発熱も懸念してか,512MBのリファレンスカードではカード裏面に簡易的なメモリヒートシンクを搭載している。
左:ATIリファレンスのグラフィックスメモリ512MB版Radeon X800 XLカード。コアクロック400MHz,メモリクロック980MHzで動作するのはグラフィックスメモリ256MB版と同じ。ピクセルシェーダユニット16基という構成も同じだ
中央:リファレンスカードの背面。簡易的なメモリヒートシンクを搭載している
右:比較用に用意したPowerColor X800 XL VIVO。Radeon X800シリーズ搭載グラフィックスカードとしては定番の1枚だ。実勢価格は4万5000円前後 問アスク(info@ask-corp.co.jp)
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■グラフィックスメモリ512MBがもたらすメリットは一部で確認できる
UltraSharp 2405FPW HAS。今回はデジタルRGB(コネクタはDVI-I)接続で利用したが,D-Sub,コンポーネント入力も用意。コントラスト比1000:1,輝度500cd/平方m,応答速度16msという高いスペックを持ちつつも,通販価格は15万7500円(通常時)と,他社製品と比べてきわめて安価なのが魅力である
問デル(0120-912-039)
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今回用意したテスト環境は表のとおり。グラフィックスメモリが増えることで期待できるのは,主に以下の場面におけるパフォーマンスの向上である。
(1)高解像度 (2)画面全体へのリアルタイムエフェクト実施
そこで,デルの協力により,1920×1200ドットの表示が可能な24インチワイド液晶ディスプレイ「UltraSharp 2405FPW HAS」を利用して,解像度を切り替えながら,フルスクリーンアンチエイリアシング(Full Screen Anti-Aliasing,以下FSAA),異方性フィルタリング(Anisotropic Filtering,以下Anisotropic)をさまざまに設定して,表のテスト環境でベンチマークスコアの変化を見ていくことにする。
さて,グラフ1は,「3DMark05 Build120」における結果だ。 全体として,X800 XL 512MBがX800 XL 256MBよりもわずかながら性能が高い。1920×1200ドットでは40前後,1024×768ドットでは70前後の差と,若干違いはあるものの,いずれもパーセンテージ換算で1.5%程度。つまり,解像度やエフェクトにかかわらず,X800 XL 512MBがX800 XL 256MBよりも1.5%ほどスコアがいいわけだ。これは「グラフィックスメモリ容量が増えたから」というよりはむしろ,新しいカードデザインでグラフィックスメモリ周りの配線がグラフィックスメモリ512MBに最適化された結果と見るのが妥当だろう。
次に「Unreal Tournament 2004 Demo Benchmark v099.7」で,さまざまなシーンにおけるスコアを計測した。同ベンチマークでは「Flyby」と「Botmatch」のスコアを得られるが,BotmatchのスコアはCPUのFPU(浮動小数点演算)性能に依存するため,今回はグラフィックスカードの性能が色濃く反映されるFlybyのスコアのみを掲載している。 結果はグラフ2にまとめた。全体的にはほとんど差がないなかで,Colossusのスコアのみが異彩を放っている点に注目してほしい。1024×768ドットでは他のマップと同様の傾向だが,1600×1200ドットで有意な差が見られるようになり,さらにAnisotropicをかけることで若干ながらさらに差が開いている。 Unreal Tournament 2004のColossusは横に開けたマップで,全体を見渡しやすく,かつオブジェクトが多い。高解像度(または高解像度+Anisotropic)環境では,遠くのほうまでさまざまなオブジェクトが描かれるような局面,つまり,テクスチャ用に大量のメモリが要求される局面で,グラフィックスメモリ512MBの恩恵が受けられそうだ。
次に「DOOM 3」を見ていこう。ここでは,FSAAをかけていない標準状態で比較して,1024×768ドットでは2.4fps,1600×1200ドットでは4.0fpsの差がついている(グラフ3)。パーセンテージ換算では順に約3%,約8%で,DOOM 3においては高解像度においてグラフィックスメモリ512MBの恩恵が明確といっていい。 一方,「FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3」では,解像度に関係なく相対的に512MB版のほうが高い数値を示している(グラフ4)。これは3DMark05のところで述べたように,X800 XL 512MBというリファレンスカードそのものの性能によるところだろう。 OpenGL環境における指標として,実際のゲームではないが,「CINEBENCH 2003」を利用してスコアを計測してみた。結果はグラフ5のとおり。OpenGL Hardware Lighting Testでは有意差が見て取れた。特定の条件下では,OpenGLアプリケーションでもグラフィックスメモリ512MBの効果がありそうだ。 最後に,メモリチップが増えたことによる消費電力の違いを検証した。Windows XP起動後のアイドル時と,FSAA+Anisotropicを有効にして,1920×1200ドットで3DMark05実行したときにシステムが消費する電力をワットチェッカーで測定した結果がグラフ6だ。数値の差がそのままX800 XL 512MBとX800 XL 256MBの消費電力差となるが,ほとんど誤差といえるほどわずかであり,メモリチップが増えたことによる消費電力の著しい上昇はないと見ていい。
X800 XL 512MBは,X800 XL 256MBと比べた場合に,一部の環境で有意なパフォーマンスの向上を確認できた。また,従来製品と比べてわずかながら全体的な性能向上も確認できている。しかし,惜しむらくは,5万円以上が予想されるカードの価格だ。X800 XL 256MBを搭載するPCI Express x16仕様のグラフィックスカードが4万〜4万5000円程度で販売されているのを考えると,プラス1万円で512MB版が手に入る計算だが,一方でグラフィックスメモリ256MB搭載の上位チップ,Radeon X850 XT搭載グラフィックスカードは5万円台後半で購入できる。その意味で,X800 XL 512MBはパフォーマンスと価格とのバランスがよくない状態にあるといえるだろう。 Radeonシリーズに関して言うならば,より上位チップでのグラフィックスメモリ512MB搭載グラフィックスカードの登場を望みたい。(宮崎真一)
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