ついに動き出した「エバークエストII」。その過去と現在,そして未来
2004年のE3でその電撃的な発表がなされ,なんだかんだと表舞台に出てくるまでに1年近くの時間を要した作品「エバークエストII」日本語版。英語版は2004年11月にサービスインがなされているわけだが,日本のオンラインゲームの雄"スクウェア・エニックス"がその業務を執り行う日本語版は,遅れること半年,ここへきてついに動き始めた。 なぜそこまでの遅れがあったのか,ここまで何が行われていたのか。すでに安定して稼働して,各種巨大パッチはおろか追加パックまで登場している英語版に対して,どのような対処がなされるのか。そのプロデュースを担うSage Sundi氏が,我々メディア陣に対して口を開いてくれるとの連絡があり,早速アポイントを取り付けた次第だ。 遅れたとはいえ,大作は大作。クローズドβテスト開始を目前に控えた今,待ちわびているプレイヤー諸氏の参考になることが,必ずや書いてあることだろう。
■なぜこれほどプレイヤーを待たせることになったのか?
4Gamer.net: 結果的にかなりプレイヤーを待たせる結果になってしまいましたね。
Sundi氏: βテストをお待ちの皆さんには,本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。私も製品版を待ちわびているプレイヤーの一人として,ジレンマの日々が続いています。ようやくβテストを開始できる段階まで来ましたが,ここからがまた真剣勝負なのだと思います。
4Gamer.net: 単刀直入に聞きますが,遅れた理由はなんですか? やはりローカライズの作業量が原因?
Sundi氏: 膨大な量はともかくとして,翻訳以前の"作業にまつわる手間"が予想をはるかに越えていました。 通常のローカライズに比べて,カルチャライズのシステムが非常に複雑だったというところでしょうか。ローカライズを行うために,さまざまなツールの開発し,さらに一人一人のEQの知識を高める必要があった部分が大きいです。もちろんこれはソースコードに翻訳対象の文字列がハードコーディング(編注:ソースコードに,直接文字列が埋め込まれている)されているわけではないですが,例えばボタンの文字一つ変えるにも,その変更がほかの部分に及ぼす影響をとことん考えなければならないのです。
4Gamer.net: 具体的な作業の進度はどれぐらいなんですか?
Sundi氏: 本体部分に関しては,英語製品版でいえば7割ぐらいでしょうか。"まだまだだな"と感じられると思いますが,4月6日から実施するβテストはレベル1〜30あたりを想定していて,その部分のローカライズはほぼ終わっています。まだもちろん英語混ざりの部分はあります。 現在優先しているのはクエスト周りです。ここがキチンと理解できる日本語になっていないと,ゲームを進められないわけですから。
4Gamer.net: それはよく分かります。たた技術的な労力が必要というのは,ある程度想像できたはずですよね?
Sundi氏: ええ。でも実は今回のローカライズで一番難しかったのは,EQのコアプレイヤーとライトプレイヤーという二つの層を,広範囲にカバーするという部分でした。 これは以前「ファイナルファンタジーXI」(以下,FFXI)をPCでサービスする時にも似たような問題があって,例えばFFXIのなにかしらの実装を考えたときに,必ずプレイステーション2とPCという二つの異なるプレイヤー層を想定する必要あったんです。コンシューマ/非コンシューマですね。さらに端的にいうと,常に"PS2しかもっていない人"を想定して実装を考えなければならないということです。
4Gamer.net: しかし過去のSundiさんの言動からは,"EQIIはコアプレイヤーへ向けて"という意思が前面に出ていたような気がしますよ。
Sundi氏: 私も最初は,割とコア層に比重を置いていたと自分自身で思うのですが,ローカライズしつつプレイを重ねているうちに,EQIIのシステムは,実は"広範囲な層を受け入るものなのでは?"と思ったわけです。考えが変わったというとちょっと言葉が悪いというか大げさですが,その可能性は潰したくない。そもそもコア層だけを考えるなら,極端な話,英語版でいいじゃないですか。 結局,日本語版を頼りにしているプレイヤーが,ゲーム画面を見たときにプレイに支障か出るかどうかを最低のラインにしたんです。その最低ラインの引き下げが,これだけ時間がかかってしまった原因ともいえますね。
4Gamer.net: コア層がまず中核にいて,ライト層を引っ張るという構造は変わらないでしょうしね。
Sundi氏: それはありますね。ただコミュニティの構造だとすると,今のライト層とコア層は距離が離れ過ぎていて,コア層が引っ張り切れなくなると思います。それぐらいコンシューマとの差は大きい。しかも実際,その距離を縮める作業は,難しいというかほぼ無理なんですよ。コアな人に"ライトになってください"と言えないように。 とはいえ,ライト層とコア層の"中間"をターゲットにするなんてことはできないですし,結局広範囲にカバーしなきゃいけない,と。例えばアイテム名なんかも「英語がいい!」って言う人がいるのも分かるし,「日本語じゃないとダメ」というのも分かるじゃないですか。
4Gamer.net: では,先ほどおっしゃっていた"最低ライン"をクリアするために実装された機能は,見える形であるんでしょうか? もしかしてT4エンジン周りとか?
Sundi氏: そうですね。βテスト開始時点では使えませんが,βテスト中に実装します。ちょうど今,T4エンジンを使って日本語と英語を,こう(キーボードをつつきながら)瞬時に切り替えられるようにするため,開発を進めています。
4Gamer.net: 今(目の前にある)このデモPCで見られますか?
Sundi氏: それはまだですね。ただオプション画面でなら,どういった項目を英語と日本語に切り替えられるかは見られますよ。 おそらく最終的にはオプション画面で使うことになると思います。ゲーム中,そんなに頻繁に切り替えることはないでしょうしね。 ちょっと話は逸れますが,T4エンジンは本当にいわゆる"エンジン"で,つまりEQIIのコアプログラムの一つなんです。でもこの機能は実は全然生かされてなくて,このような言語の切り替えもヨーロッパではできないと思います。
4Gamer.net: それってもしかして,日本だけが使っている機能ってことですか?
Sundi氏: 現時点ではそうですね。
4Gamer.net: あと,パッチの適用によって,英語版と日本語版の実装にズレが生じると思うのですが,どうでしょう? 以前聞いたときは「英語版にパッチがあたったあと,すぐに対応できる」だったと思うのですが。
Sundi氏: もちろんそうしたいのですが,少し難しいかもしれません。正直にいうと,本国でパッチの内容がFIXするのは,"数時間前"とかそういうレベルなんですよ。そういう事情もあり,日本では,事前に情報を得て作業に入るということが難しい。結局アチラでのパッチ適用が終わってからローカライズを始めることになり,やっぱり数日は遅れてしまうでしょう。 ただ,遅延の度合いはパッチの内容によります。EQIIは(今のところ)結構小さいパッチの頻度が多い傾向にあるので,そういったものには随時対応します。バランス調整とかも含めて。あとはSOEとの協力体制を今後どう詰めていけるかです。
4Gamer.net: それはよく分かりますけど,少し不安が残りますね。
Sundi氏: ただし,コチラの判断によっては"英語版のまま"パッチを当てる可能性もあります。「この機能はすぐに日本でも実装すべき」と思えるものは,プレイに支障のない範囲であれば,パッチをあてるべきでしょう。このあたりはフレキシブルに対応したいと思っています。
4Gamer.net: う〜ん,そう聞くとやはりβテスト時の状態が気になりますね。プレイヤーに"これだけ待たせただけ"のローカライズクオリティを提供できると思いますか?
Sundi氏: 実は今回のβテストは,ライトゲーマーにとってはショックな内容かもしれません。英語の残っている部分はやはりあります。 本来なら,"製品版クオリティに近い状態でのβテスト"が会社的に重要なことだとは思います。だから今回は,これまでの弊社(スクウェア・エニックス)の品質管理ではありえない,異例の状態でのテストといえるでしょう。 ただ,だからこそテストの価値があると思うのですよ。例えばアイテムは,英語と日本語のどちらをデフォルトにするか,などですね。日本語版ならではフィードバックがほしい。繰り返しますが,本当の意味でのテストをしたいのです。
というか,ちょっと触ってみませんか?
■βテスト直前のEQII日本語版に(アレコレ聞きながら)触れてみた
4Gamer.net: なるほどなるほど。あ,キチンと2バイト文字が入力できるようになってますね。ではいろいろパネルを見ていこうかな……って,ボタン類はまだ英語のままのものがありますね。例えば"Buy"とか"Sell"とか。"Hide"(閉じる)もだ。
Sundi氏: こういった部分はβテスト中にFIXしていきます。βテストのプレイには支障はないと判断しています。 しかし随分とよくなったでしょう? 先ほども言いましたが,ゲームを進める上で最も重要といっていいクエスト周りを進めているところですよ。
4Gamer.net: 先ほどレベル30までを想定していると聞きましたが,じゃあサンダリングステップ(編注:アントニカの南東部にあるエリア。レベル20台キャラクターの舞台となる)ぐらいまでの実装ってことですか?
Sundi氏: だいたいそうですね。レベル制限があるわけじゃなくて,あくまでも入れるゾーンが制限されているだけなので,上げようと思えば(ゾーンやモンスター合わせて)レベルはいくらでも上がります。
4Gamer.net: なるほど。お,やっぱりMob(モンスター)の名前は英語表記で固定なんですね。
Sundi氏: そうです。これは英語のフォントを生かしたかったという理由もあります。正直,これがMS Pゴシックだったりしたら興ざめすると思いませんか?
4Gamer.net: 個人的にはそう思いますね。 (しばらくプレイして)なるほど,これだけローカライズされていれば問題なさそうです。そうそう,ちなみにβテストのサーバーは何台ぐらいになる予定ですか?
Sundi氏: 二つありますが,最初は一つだけオープンし,あとは状況を見て二台めを使うかどうかを判断しようと思っています。サーバー名は「Japan Beta 1,Beta 2」です。
4Gamer.net: そ,素っ気無いですね!
Sundi氏: まぁβテスト時はベタな名前でいいかと思っています。ただ製品版のサーバー名は,プレイヤーから公募しようかと考えてますよ。公募といっても,ある程度こちらが候補を出して,そこから選んでもらう形です。北米版と同じくゾーンの名前から取ったサーバー名になると思います。
4Gamer.net: ホッとしました……。
■βテスト,製品版,プレイオンラインについて
4Gamer.net: とりあえずβテストの応募者が気にしている,当選者発表の時期について聞かせてください。
Sundi氏: 当選発表はよくある方式で,4月6日の当日か前日に,当選通知とレジストレーションコードを送付するという感じです。ちなみに,クライアントはダウンロードのみで入手可能で,"100%パッチ"のタイプです。
4Gamer.net: ああ,始めに小さいプログラムをダウンロードして,そのダウンローダーでちょびちょびプログラム本体を落としていくという方式ですか。
Sundi氏: そうです。だいたいクライアントは4GBぐらいでしょうか。本来なら今日からでもダウンロードし始めてほしいのですが,ランチャー部分にまだ少し不安があるので。 あと,もちろん当日に一気にダウンロードはできません。一応当日の昼に公開して,それから次の日,また次の日という具合に当選発表通知を送っていく予定です。週末(4月9,10日)までに,15000ぐらい配布したいですね。いずれにしても,多少の混雑が予想されます。
4Gamer.net: そういえば,PlayOnlineにおけるEQIIの立ち位置はどうなるんでしょう? 現在のPOL上で広告が出たりするんですか?
Sundi氏: そういった広告は出ていくと思います。ただこれまで言っていた通り,POLに入る(POLからゲームを起動する)というのはありません。課金システムがStation.comなだけに,日本でもEQIIの基本はやはりStation.comなのです。 弊社にとってPOLは課金システムではなく,"オンラインタイトルのブランド名"なのです。うちが出す以上はPOLのタイトルです,と。 ただEQIIに関していえば,"ブランド名"だけではないですよ。詳しくは言えませんが。
4Gamer.net: 分かりました。では時間も時間ですし,最後に製品版の仕様について教えてください。 パッケージは英語版とほぼ同様のラインアップと考えていいですか? つまりスタンダードとコレクターズエディションみたいな。
Sundi氏: そうです。すべてDVD版のみですが,ラインアップはその通りです。さすがにCDの10枚組みだと,どれか一枚が不具合……なんてこともあるでしょう。 あと,コレクターズエディションには日本独自のアイテムを入れようかと思っています。インゲームアイテムかどうかは分かりませんが,なにかしら用意する予定です。
4Gamer.net: お,いいですね。期待しています。課金体系は? 3000円とかじゃないですよね?
Sundi氏: "日本でのスタンダードな値段"にする予定です。課金システムはStation.com持ちですが,ウェブマネーにも対応します。 プレイヤーの皆さんが気になさっているAdventure Packについては,日本語製品版の発売と同時には実装しない予定です。やはりオリジナル部分の世界を十分に遊び込んでから,APへといってほしいですから,時期を見てのリリースになると思います。
4Gamer.net: とりあえずは目の前のβテストですね。ラストスパートを頑張ってください。 本日は,長い時間ありがとうございました。
Sundi氏: またE3で会いましょう(笑)
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Sundi氏のナビゲートで"ほぼβテスト版"のEQIIをザックリ見てきたわけだが,少なくともこの日見た部分に関しては,4月6日にリリースしてもほぼ問題ないレベルと言っていいだろう。氏のいう通り,インタフェース部分は初心者でも分かりそうな部分を除いて,そしてクエスト部分は重点的に日本語化が行われているようだ。
氏はβテストの後れの原因として,"ローカライズの作業量/作業難度" "ローカライズコンセプトの変更"の2点を挙げているが,前者については,我々でさえある程度想像がつく部分と言える。それはローカライズ途中の画面を見るとより具体的に分かるし,書けない部分も含めて見ていくと,Sundi氏が「すべてをローカライズするには,EQIIをとことんプレイするしかない」というのもうなずける。 察するに,EQIIのコアプログラムの"ローカライズを前提としない作り"や"機能実装を要求する権利"の部分にも問題があるのだろう。会話の中でSundi氏は,何度も「この機能はアチラと交渉中」といったニュアンスの発言を繰り返していた。さしものスクウェア・エニックスも,SOEという世界のオンラインゲームの"重鎮"と対等に接するために,さまざまな苦労をしているということだろうか。
インタビューが終わったあとSundi氏に,これだけ待たせたプレイヤーに対して,βテストでなにか仕掛けはないのかと聞いたところ,
「現在のところは考えていません。ゲームとしての完成度が高いEQIIをじっくりと楽しみ,そしてβテストとしてご意見をいただければと考えています。そのためにも,EQIIの中でプレイヤーと話せるのが楽しみですよ」
と語っていた。「結果はクオリティで見せる」というわけだ。
4月6日のβテスト開始まであとわずか。氏がいう今回のテストのキモは,「コア層とライト層を想定したローカライズのバランスどり」である。非常に難しい課題だが,実はこの部分は,長らくEQに関わってきたであろうコアプレイヤーの得意とするところでもあるのではないだろうか。クローズドβテスターに当選した人は,その課題を心の隅に起きつつ,やっぱりゲームを楽しみながら,どんどんフィードバックをしていってほしい。
「エバークエスト II」 →公式サイトは「こちら」 →紹介ページは「こちら」
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