日韓共同で,オンラインコミュニティの教育目的利用の研究開始
東京大学情報学環助教授の馬場章(ばばあきら)氏。コンテンツ創造科学産学提携教育プログラムで「ゲームプロデューサー論」などを担当していた
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2月24日,東京大学の安田講堂(大講堂)で,「オンラインコミュニティの教育目的利用」をテーマとする日韓共同研究の研究計画発表会が開催された。 このプロジェクトは,東京大学情報学環助教授の馬場章(ばばあきら)氏が中心となって,オンラインゲームを情報工学や心理学,社会学の見地から研究/分析するというもの。「ゲーム脳」「ネット中毒」というゲームの"負"の部分だけが取り沙汰される昨今,まだ明らかになっていないゲームの"正"の部分を体系化して探ると共に,オンラインゲーム産業において新たなビジネスモデルを創出することを目的として行われる。 またこのプロジェクトには,韓国中央大学経営学科助教授で,韓国オンラインゲームの動向やゲームの教育目的利用を研究している魏昌玄(ウィ・ジョンヒョン)氏が参加,さらにオンラインゲームタイトルの提供元としてコーエーも名を連ねている。初の"日韓共同"かつ"産学提携"のオンラインゲーム研究プロジェクトというわけだ。
発表会のパネリストは,馬場氏,魏氏,コーエーでネットワークゲーム担当執行役員を務める松原健二氏,そしてアドバイザーとして参加する,はこだて未来大学の松原仁氏。オンラインゲームがテーマたが,発表会自体にエンターテイメント性は皆無のため,"メディア関係者"というよりは"研究関係者"が多く来場していたのが印象的だった。
左から,韓国中央大学経営学科助教授の魏昌玄(ウィ・ジョンヒョン)氏,コーエーネットワークゲーム担当執行役員の松原健二氏,はこだて未来大学の松原仁氏
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さて本研究の目的は,大きく分けると以下の四つだ。 ・オンラインゲームの教育的利用の可能性を探る ・ゲームに対する負の言説を克服する ・ゲームのメディアリテラシーを確立する ・新たなビジネスの可能性を提示する
この目的を達成するため,同プロジェクトではコーエーのMMORPG「信長の野望 Online」を題材として,仮説を立てて実験/検証していく。仮説は以下の三つ。 ・オンラインコミュニティにおけるコミュニケーション力の涵養(かんよう)が見られるか ・歴史学習への意欲の向上が見られるか ・歴史知識の蓄積,歴史認識の深化が見られるか
共同プロジェクトが発足したのは,2004年9月のCEDEC(CESAゲームデベロッパーズカンファレンス)ラウンドテーブルセッションで,魏教授が共同研究を提案したのがキッカケである。その後,2005年1月に日本側の研究者が訪韓し,共同研究の合意に至ったという。
現時点で決定している実験の具体的な内容は, ・市販のオンラインゲームを使用する ・高等学校の生徒を検証実験の対象にする という2点のみ("市販のオンラインゲーム"というのが「信長の野望 Online」である)。高校生を実験の対象に選んだ理由は,社会学,心理学的に分析しやすい年代とのことだ。
研究スケジュール上,現在は完全な計画段階とのことで,今回の発表会では具体的な実験方法については言及されなかった。ただ質疑応答セッションでは「これまでのエデュケーションソフトの研究となにが違うのか」「オンラインゲームである必要があるのか」など,コンセプトに対する根本的な疑問が多く投げかけられていた。 それに対して,魏教授が経済学の教育現場でゲームを実験的に利用し,その学習効果が立証されているなどの内容をコメントしていたが,来場者が本当に聞きたかったのはやはり"なぜオンラインゲームなのか"という部分のため,いまいちピンとこない。三つの仮説をしげしげ見ても,情操教育/学校教育のどちらの効果を実証していくのか,曖昧なままだ。 単純に"学習効果"を見た場合でも,学校の授業にゲームを使用し,それで学習効果が上がったからといって"ゲームは学力向上に役立つ"という単純な結論にはならない。それを"ゲームの正の部分"として大々的に喧伝すれば,"トンデモ"な言説ともとられかねないだろう。2005年10月頃には,協力校,検証項目,検証方法が確定するとのことなので,内容に大きく注目しておこう。
ちなみに2月28日と3月1日に開催されるAOGC(アジアオンラインゲームカンファレンス)では,今回と同様,馬場氏が「オンラインゲーム研究の新地平を切り拓く」というセッションを行う予定だ。(Gueed)
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