ENIACが,PONGが,デジモンがゲーマーを待つ:「テレビゲームとデジタル科学展」の見どころをチェック
2004/07/17 15:38
真空管式コンピュータENIACの計算回路。陰になっている男性までの距離は1mほど。かなり大きいのが分かる
 先日「こちら」で紹介した「テレビゲームとデジタル科学展」だが,本日(2004年7月17日)のオープンに先駆けて,7月16日に内覧会が行われた。そこで確認できた,展示の印象と見どころを解説しよう。

 入場口を過ぎてまず目に入るのは,展示内容をゲーム仕立てで楽しむ「ユビキタス・ゲーミング・プロジェクト」の案内……だが,これはひとまず置いておく。真っ赤なコンセプトカラーの「zone1」ブースは「電脳誕生」と題して,機械式計算機からPCにいたるコンピュータの発達史を扱う。
 ここの目玉はミシガン大学所蔵で日本初上陸の真空管式コンピュータ「ENIAC」だ。展示されているのは真空管を28本搭載した計算回路1ユニット分だけなのだが,子供の背丈くらいある。使われた真空管は全体で17万本。139平方メートルの部屋に収められていたという話も納得がいく。
 そのほか,アラン・ケイが構想したパーソナル
コンピュータの理想,「ダイナブック」を具現化すべく作られたが,製品化されなかった「Alto」や,スティーブ・ウォズニアックのサインが入った「Apple I」,懐かしのNEC製ワンボードマイコンキット「TK-80」など,コンピュータマニアにとって一見の価値ある品々が並ぶ。

上段左:ENIACの作者の1人であるバークス教授のサイン入り真空管。ENIACの保存のために,ミシガン大学に寄付をした人に贈られる
上段中:アラン・ケイのダイナブック構想を形にしたAlto。後にアップルコンピュータが作る「Lisa」や「Macintosh」に大きな影響を与えた
上段右:アップルコンピュータの創設者であるスティーブ・ウォズニアックの,「Woz」サインが入ったApple I本体。コンピュータフリークには垂涎の品だ
下段左:NECが1976年に発売したワンボードマイコンキット「TK-80」。年季の入ったPC通であれば,今でも持ってる人がいるかも
下段中:シャープが1978年に発売したマイコンキット「MZ-80K」。CPUはZ80/2MHz,標準メモリは20KBというのが,時代を感じさせる
下段右:最初期のHDD。1975年の製品で容量は10MB。右上にちらっと見えているCD/DVDとサイズを比べて,その巨大さを想像してみてほしい


テレビゲームの元祖,オシロスコープ上で動作するTennis for Twoの再現展示。ボールが尾を引いて飛ぶ
Tennis for Two,PONG:テレビゲームの発祥
 続く「zone2」「テレビゲームはじめて物語」。米ブルックヘイブン国立研究所のウィリー・ヒギンボーサムが1958年に,見学者を楽しませるために作ったテニスゲーム「Tennis for Two」から話は始まる。電圧変化を映像表示するオシロスコープを,遊びに使う柔軟な発想がテレビゲームを生み出したというわけだ。会場にはレプリカと再現映像が展示される。映像に関しては,「こちら」の記事で取り上げたムービーで確認してほしい。
 同様に,マサチューセッツ工科大学のステファン・ラッセルらが,DECのミニコンピュータ「PDP-1」で1962年に作った「Spacewar!」も,映像とともにレプリカが展示される。映像は同じく「こちら」で確認してほしいが,展示では2機の宇宙船に方向転換や加速,撃ち合いのためのキー入力がまったく行われていないため,初めて見る人にはどんなゲームか分からないのが残念だ。
 以降は,家庭用ゲームとアーケードゲームの元祖が取り上げられる。テレビに接続してシューティングゲームができる装置として1968年に考案された「BROWN BOX」や,画面に取り付ける「オーバーレイシート」を併用することでスポーツゲームがプレイできた「ODYSSEY」,Spacewar!をベースに作られた,史上初のアーケードゲームの「Computer Space」,そして,ATARI最初の製品となった,バーを左右に動かしてボールを打ち返し合う「PONG」などである。会場にはPONGのプロトタイプ機と量産機,回路図などが広く展示されているが,PONGやODYSSEYの再現映像は用意されていない。

上段左:DECのミニコンPDP-1上で作られたSpacewar!の再現展示。本来は2機の宇宙船が,重力で中央に引き寄せられつつも撃ち合うゲームである
上段中:家庭用テレビに接続する最初のゲーム機BROWN BOXの試作機で,光線銃の付属する「TV Game #3」(手前)と,BROWN BOX用の光線銃(奥)
上段右:ODEYSSEYの本体(中央下)と,テレビの表面につけるオーバーレイシート。各種スポーツゲームをはじめとして,これ1台で多くのゲームがプレイできた
下段左:Spacewar!をベースに作られた,世界初のアーケードゲーム機「Computer Space」。約1500台生産されたが,商業的には不振だったという
下段中:ATARI初のアーケードゲーム,PONGの量産機。この機種の大ヒットが,ある意味ゲーム業界を作ったともいえる。類似作品をプレイした人も多いだろう
下段右:PONG家庭用ゲーム機バージョンのプロトタイプ基板。使っている部品はともかくとして,ワイヤーラッピングがすごいことになっている


タイトーの「スペースドッキング」や「アストロ ゾーン」をはじめ,アップライト筐体のゲーム機も多数展示されている
スペースインベーダーと日本のテレビゲーム 
 さて,「こちら」に動画を用意したとおり,閑話休題的に最近のコンシューマゲームの開発技術が語られる「zone3」を抜けると,青と黒をコンセプトカラーにした「zone4」「zone5」「日本のテレビゲーム勃興期」「日本のテレビゲーム・ハード&ソフト」だ。前者にはかつてゲームセンターで見かけたアップライト筐体のガンシューティングゲームなどがまとめて置かれ,「スペースインベーダー」は実機デモや開発資料などが展示される。キャラクターのラフスケッチや「UFO」の挙動を決めるフローチャートなどを見られる機会は貴重である。

 そして展示は,1970年代半ば過ぎに国内で続々と発売された家庭用ゲーム機に。エポック「テレビテニス」「ATARI 2600」を筆頭に,空前絶後のベクタースキャンディスプレイ搭載ゲーム機「光速船」などの珍品を交えつつ,長い展示棚に往年のゲーム機達がずらりと並ぶ。画面一体型のハンディ機はほとんどカバーされていなかったが,それでもかなりの数である。なおベクタースキャンとは,普通のテレビやPCディスプレイが行う,横方向に一定間隔で電子銃を走査させるラスタースキャンの対立概念で,描く図形の輪郭線に沿って電子銃を走査させる複雑な表示方式のこと。……そんなゲーム機もあったのである。
 zone5の最後には,任天堂「ゲーム&ウォッチ」を皮切りにした携帯型ゲームの流れも,実機で展示されている。
 「zone6」「テレビゲームの社会への影響」は,パネル展示のみ。テレビゲームと攻撃性の関連を調べる実験の手順解説や,「12才以上対象」などといったレーティング制度の日本,米国,欧州での比較など,微妙な説明が続く。

上段左:スペースインベーダーのキャラクターイメージとドット絵。どうやら20点インベーダーの正体は,カニ型宇宙人だったらしい。納得
上段中:UFOの処理ルーチンのフローチャート。分岐をきちんとひし形で表記するなど,かなり行儀のよい書き方であり,どことなく微笑ましい
上段右:写真がやや見づらいが,これがナムコ「パックマン」のアップライト型筐体である。ガラスケースに収められ,触れられないのが少々残念だ
中段左:エポックが1975年に発売したテレビテニス。テレビ画面を左右に分けてコートとし,ラケットの役を果たすバーは上下/左右に動かせる
中段中:本体の右横に再現映像が添えられた,ATARIのカセット式家庭用ゲーム機,ATARI 2600の展示
中段右:ベクタースキャン表示方式の家庭用ゲーム機,バンダイの「光速船」。米GCEの「VECTREX」の国内版であり,今やマニア市場で高値を呼ぶレアアイテムだ
下段左:3段に分かれた展示スペースには,下段に汎用のPCをかなり含みつつも,多数の家庭用ゲーム機が並べられている
下段中:ゲーム&ウォッチを嚆矢として,「ゲームボーイ」や「たまごっち」を含む携帯型ゲームの実機も,発展の歴史に沿って並べられている
下段右:ゲームが社会に与える影響については,パネル展示のみだった。攻撃性に与える影響や,対人コミュニケーションとの関係が最近の論点だ



会場でプレイ可能なゲームは?
 うって変わって「zone7:エンタテイメントラボ」では,入場者もプレイ可能なゲームが用意される。注目すべきは,CINEMATRIX社社長のレイチェル・カーペンターの手に成る「Cinematrix Interactive Entertainment System」(シネマトリックス)だろう。プロジェクターと大型スクリーンで展開するゲームに,「リフレクター」と呼ばれる赤と緑の反射板を手にした観客が参加できる。実はリフレクターからの反射光をカメラが捉え,その量を展開に反映させているだけなのだが,このゲームの進行を通じて,多くの人が参加するゲームで必要になるノウハウを洗い出せる,たいへん示唆に富んだ試みであるらしい。
 隣接する「zone8」「パートナーズフィールド」では,協賛/後援企業のゲームがプレイ可能な状態で用意される。バンダイの「デジモンバトルクロニクル」,NTT東日本の「トゥーンタウン・オンライン」,ソニー・コンピュータエンタテイメントの「EyeToy:Play」などだ。

 さて,冒頭で説明を保留した「ユビキタス・ゲーミング・プロジェクト」について。これは,子供達に楽しみながら展示を見てもらう工夫であり,またゲームとインタフェースの未来を考える試みでもある。
 希望者は入場口で「ウォールストーン」と呼ばれる,イヤホンとモニター,アンテナと発光部を備えたアイテムを受け取る。実はこの中にバンダイの「デジタルモンスター」のキャラクターが閉じ込められており,各展示物は記憶を失った「TVゲームワールド」の住人という設定だ。デジモンから伝えられるクイズに答えていくことで,展示物の記憶を取り戻し,得点を貯めてデジモンを育てる。
 どこが"ユビキタス"かといえば,会場の天井には約400基の赤外線発信機が備えられ,ウォールストーンはこれを受信して位置情報を得ているのだ。また,クイズの出題位置にあるディスプレイ(およびPC)と,ウォールストーンの間はBlustoothで通信して,出題と回答を処理している。「こちら」の説明動画で分かるように,○×式や三択になったクイズの回答は,ウォールストーンを傾けたり振ったりすることで行う。これは,内蔵された加速度センサー方位角センサーで実現している。
 クイズの回答はボタンで済むし,位置情報にしても,もっとシンプルな専用システムが組めるだろう。だが,あえて高度な技術を使って,より汎用的で自然なインタフェースを実現するのが,このプロジェクトの意義なのだろう。

 開催期間の前半が夏休み期間中であってみれば,むしろ子供達のためにこそ古いゲーム機をプレイ可能な状態,再現映像を添えた状態で展示してほしかった。しかし,往年のゲーム機に思い入れを持つ世代にとってネタは存分に揃っているし,展示の最後では新しいゲームに触れられる。2004年10月11日(月)までと期間は長いので,足を運んでみてはいかがだろうか。(Guevarista)


上段左:シネマトリックスのプレイ風景。内覧会の参加者達は,初めてのはずなのになぜか異様にうまかった
上段中:これも会場で楽しめる「ピンポンプラス」。普通の卓球だが,台を水中のように見せ,魚やボールが弾んだときに立つ波紋が美しい
上段右:バンダイの協賛によるブースでは,7月29日に発売予定の「デジモンバトルクロニクル」がいち早く遊べる
下段左:NTT東日本は,ディズニーの「トゥーンタウン・オンライン」に触れられる,「Disney BB on フレッツ」のPRブースを開いている
下段中:ソニー・コンピュータエンタテイメントのブースには,プレイヤーの動作をカメラでゲームに取り込み,体を動かして遊べる「EyeToy:Play」の端末が並ぶ
下段右:ユビキタス・ゲーミング・プロジェクトで使われる「ウォールストーン」。機能,形状とも,なんとなく携帯電話に似ているのが意味深なところ



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http://www.4gamer.net/news/history/2004.07/20040717153840detail.html