●Preview#29:Might and Magic IX

Text by 奥谷海人

伝統のRPGシリーズが最新のゲームエンジンを装備

 「Might&Magic」シリーズといえば,ジョン・バン=カニガム(John Van Canegham)氏率いるNew World Computingにより,過去15年以上に渡ってあらゆるPC/コンシューマ機に移植されてきた,コンピュータRPGの代名詞的存在だ。「Ultima」や「Wizardry」と共に,一時はCRPG三羽ガラスとも形容されたほどであるが,日本のゲームシーンにも大きく影響を与えた他の2作に比べ,Might&Magicは少し地味な印象があるかもしれない。それは,優れたストーリーやゲームシステムを持っている半面,いつも一世代遅れたようなグラフィックスエンジンが使用されていたことによるものではないだろうか。ともあれ,UltimaもWizardryも新作開発の予定がなく,ゲーム史の中に過去の遺物として埋もれてしまいつつある中,Might&Magic最新作の開発が着々と行なわれているというのは,古参のCRPGファンにとっては非常に喜ばしいことである。

 今春には発売が予定されている「Might&MagicIX」(MMIX)の最大のポイントは,ゲームエンジンを現時点で最高技術を誇るLithTech開発システム(LDS)を使用して制作されているという点だ。もっとも,RPG特有のデータベースの豊富さを生かすべくLithTechエンジンに独自の改良を加えており,このシリーズにはいつも付き回っていた古臭さは微塵も感じられなくなっている。このあたりは「Legend of Might&Magic」でLDSと関わった経験のある開発チームに,3Dゲーム制作の余裕が出てきた証しであろう。
 とくに,NPCやモンスター周りの思考ルーチンなどは見ものになるといわれているが,これはプレイヤー以外のキャラクターも天候や昼夜に合わせた生活習慣で行動しているからとの話だ。またLDSの恩恵により,細かいオブジェクトとのインタラクションや,イベントを「Half-Life」や「No One Lives Forever」並みにスクリプト化できるようになっており,よりゲーム世界に没入できやすくなっているはずだ。

全く新しい世界観で体験する壮大なストーリー

 MMIXの物語は,惑星Axeoth(アキシオス)にあるRysh大陸(ライシュ)の北方地域であるChedian(チェディアン)を舞台にするということが分かっている。これは,Might&Magicの6作め以降続いてきたエラシアとは舞台が異なっており,全く新しい展開になっていくということだろう。ライシュは,「Heroes of Might&MagicIV」で使用される予定の大陸から,海を渡ったところにあるという。
 背景となる歴史は500年前にまで遡り,ソーサラーが使用した強大な魔力によって滅んだUrsanian帝国(ウルサニアン)から始まる。偉大な国家の崩壊で引き起こされた文化や経済の崩壊の傷跡が癒えず,帝国の末裔たちは細々と生活を営んでいる。しかし,魔力による破壊が及ばなかった西部地方のBeldonia(ベルドニア)は別で,巨大な軍勢を率い,大陸の制覇を目指して動き始めていたのだ。プレイヤーの役目は,このベルドニア王国から突如侵攻を開始した敵の攻撃を跳ね返すため,手始めにチェディアン地方にある六つのクランを統一させていくというものとなる。
 "マイト"(武力)もしくは"マジック"(魔力)の2種のクラスからキャラクターを育てていくというシステムは毎度のことだが,プレイヤーキャラクターとして選択できる種族は人間族,ドワーフ,エルフ,そしてハーフオークの4種となっている。もちろんエルフはマジックに向いた能力を持っているし,戦士系ならハーフオークにかなう者はない。もっとも,エルフ戦士やハーフオーク術師を育てることもできるといい,最終的にはマイトとマジックからさらに7分割されたクラスへと成長していくことになる。
 例えば,マイトを目指すプレイヤーであれば,まずファイターとして経験を積んだ後,マーセナリー(傭兵)になるかクルセイダーになるか,という選択をすることになる。興味深いことに,これらのクラスの違いで同じスキルでも違った効果がでてくるらしく,キャラクターがグランドマスターのレベルに達した場合に明確になってくる。つまり同じ剣技スキルであっても,パラディンがヒットポイントにボーナスが付くのに対し,アサシンはエクストラアタックのボーナスが加算されることになるのだ。

スペルや会話のシステムにも大きな変更

 MMIXではマジックシステムにも大きな変更が加えられたようだ。前作では8種の宗派にそれぞれ12スペルという大きなものだったが,同じような効果では意味のないという判断から,4種の宗派(ライト,ダーク,エレメンタル,スピリット)へと省略されている。レベルアップ時に,これらの宗派にポイントを振り分けていくという趣向になっているようで,プレイヤーの好みで魔法の威力にも変化が出てくるらしい。一例を挙げておくと,プレイヤーが"エレメンタル"により多くのポイントを振り分けると,スペルの効果が持続したり,より大きな範囲に影響を与えることになる。敵へのダメージを多くしたいなら,"ダーク"へポイントを振り分ければ良いというわけだ。
 アイテム周りのシステムに変更はない模様で,膨大な数の武器,防具,マジックアイテムなどが登場するというのは,このシリーズの楽しみの一つでもある。ただ,アイテムには"品質"というステータスが加わっており,これによって壊れやすさなどが変化することになる。さらに,NPCの中にはティンカー(細工師)というキャラクターが登場し,アイテムの改造も行えるようになったのは期待させてくれる追加点だ
 複雑な3Dエンジンであるため,以前のようにいきなり50匹のモンスターに囲まれるというようなことはなくなり,モンスターの出現数はカットされている。その分だけ,モンスターやNPCの思考ルーチンが向上しており,日々の生活を営む人々や,スケルトン兵士を製造中のリーチに出くわすなど,生き生きとした世界観に仕上がっている。さらに,物陰に隠れたり迂回をしてプレイヤーを攻撃したりと,アクションゲームの敵並みの行動力を持っているのも,チャレンジとして楽しみな要素である。
 なお会話システムにも大きな改良が見られ,「Baldur's Gate」シリーズのような枝分かれ式のものになる予定だ。この会話次第で,友好的になったり突然攻撃してきたりするNPCやモンスターもいるとの話だ。

 ストレートなプレイなら総プレイ時間は60時間程度となり,さらに60種類に及ぶクエストが用意されている。シングルプレイヤー専用ゲームであり,マルチプレイヤーモードやほかのプラットフォームへの移植は一切考慮されておらず,コアなPCゲームとして存続していくことになるようだ。アメリカでは,3月に3DO Companyから発売される予定となっており,日本でもシリーズの販売でお馴染みのあの会社からの登場が期待できるのではないだろうか。

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