[E3 2004#042]3年めに姿を見せた「Tabula Rasa」に込められた想いとは? - 2004/05/15 03:28

 今年のE3で注目を浴びているタイトルの一つとして挙げられるのは,間違いなくNC Softのブースに出展されていた「Tabula Rasa」だ。本作は,「ウルティマ」シリーズなど,数々のRPGを手がけてきたリチャード・ギャリオット氏が沈黙を守り続けて制作してきたタイトルで,MMORPGという情報以外,ほとんど情報が出てこなかった(当サイトの過去記事「こちら」を見ても,ほとんどその情報は存在しない)。そのために「どのようなゲームになるのか」「いる出るのか」「そもそも本当に制作されているのか」などと期待と疑惑が交錯してきたが,2004年のE3で突然完成度の高い状態で出展され,一気に注目を浴びる存在となった。
 E3開催2日めの5月13日,リチャード・ギャリオット氏と,ロード・ブラックソーンことスター・ロン氏の両氏のミニインタビューが行われた。そこでは,同作にいままでのMMORPGのイメージを払拭するさまざまな試みがなされているのが判明。ウルティマシリーズのファンだけでなくMMORPGファンをもうならせる新しい試みとはいったいどのようなものなのだろうか。

 インタビューは,まずスター・ロン氏による同作の特徴解説があり,その後場所を移してギャリオット氏へのインタビューとなった。両氏の解説には一部重なる部分があるので,同作の"ゲームシステム面の情報"ということを本稿の主旨として,まとめて紹介していこう。

 「Tabula Rasa」は3年前から開発が行われており,ソロプレイ,マルチプレイの両方で最高に楽しめるということを目標にされている。これまでのMMORPGのいくつかは,これを目指したようなものはあったが,お世辞にも達成しているとはいえないものばかりだったため,同作がこれを高いレベルで達成できるとなると,MMORPGというジャンルに大きな改革をもたらすと思われる。
 また同作では,スタート後30分でその面白さのエッセンスを体験できるようになっているという。具体的には,いままでのMMORPGのシステムとは180度ベクトルが異なり,移動に要する時間を極力省けるようなゲームシステムが実装されていることだ。Waypointと呼ばれるテレポート地点が多数用意され,その地点間の瞬時移動がサポートされるだけでなく,登録された友人がいる地点へのテレポート,友人を自分がいる地点へテレポートさせるなども用意される。これによって,マルチプレイ時で大きな問題の一つとなっていた,"ログイン時間の差によるすれ違い"を極力防ぐことができるのだ。ほとんどのMMORPGでは長時間プレイさせるようなシステムが実装され,その中の顕著な要素として広大なエリアによる移動時間というものがあった。しかし本作はそこを完全に否定し,それぞれのプレイヤーがそれぞれの方法で楽しめるというシステムといえるだろう。
 さらに,キャラクターメイキングも非常にシンプルで,名前と性別の入力だけですぐにゲームを開始できるようになっている。ギャリオット氏は,ゲームを始めて間もない時期,つまりゲームの知識がない状態で職業やステータス配分などのいろいろな選択をプレイヤーにさせるのは酷で,この部分を徹底的に簡素化したと語った。ゲームを進めて,プレイヤーが知識を得ていくごとにスキル修得などを行えばよいという考えからだそうだ。このあたりは,現在MMORPGで期待作とされている,World of WarcraftやEverQuest IIなどにも機能は異なるが同じコンセプトといえるだろう。






 またマルチプレイを楽しいものにする機能としては,ボイスチャットへの対応というのがある。ボイスチャットはパーティを組んでいるときに自動的に利用できる機能で,Spaceバーを押して会話(マイク付きのヘッドセットは必要だ)すればよいという非常に分かりやすく,かつ使いやすいものになっているのが特徴。ギャリオット氏によると,オートアタックで自動的に戦闘が行われ,コミュニケーションの手段としてキーボードでのチャットを行うというのは,必ずしも楽しいものではないという部分に着目してこの機能を実装したという。同作ではオートアタックは用意されておらず(注:現在のバージョンをプレイしてみた限りでは見つからず,またインタビューでオートアタックを否定するコメントがあったため),攻撃はプレイヤーが明示的に行うものだけとなる。操作体系は,W,A,S,Dでの移動とマウスでの始点変更/ターゲット決定というオーソドックスなものなので,基本的には戦闘中は両手がふさがることになる。この状態でキーボードでのコミュニケーションをとるのは操作的に煩雑で,さらにMMORPGのウリともいえる戦闘シーンが単調になりがちだったのは否めない部分だ。そこをボイスチャットという機能を採用することで,戦闘の操作に集中しながらも一緒にプレイしている仲間とのコミュニケーションを同時に図れるというわけだ。
 一方,シングルプレイ時の楽しさという部分では,"家"の機能がある。家にはウルティマオンラインと同様にベンダーを設置することができ,アイテムの売買によるコミュニティ形成をサポートする。また家は自由度の高いカスタマイズが可能で,デモプレイではカーテンの開け閉め,ベッドなどのインテリア設置などが見て取れた。

 ギャリオット氏は,これらのマルチプレイ,シングルプレイの楽しさを融合したのが同作のコンセプトで,さらに楽しさを促進させる要素として,ゲーム内に独自の文化,哲学,言語を取り入れていると語った。

 また,同作ではプライベートダンジョンが用意されるが,これもユニークなものとなっている。ミッション自体はウルティマシリーズでの"クエスト"に近いものが多く,モンスター討伐などが多く用意されるとのこと。仲間が集まると瞬時に開始できたり,複数人が協力しないとクリアできないパズルライクな仕掛けがあったりと,MMORPGとしての楽しさと無駄な時間をプレイヤーに費やせないという部分はここでも十分に考慮されている。クリアに要する時間は,30分程度の簡単なものから3時間以上のボリュームがあるものまでバラエティ豊かに用意される。デモで行われたものは,ちょうど20分くらいで終了していた。短時間で何回もの達成感を味わえるのも,同作の魅力の一つとなりそうだ。
 同作の現在の開発状況は,ほぼ100%近く。機能的にはほとんどすべてのものが実装されており,ミッション部分のブラッシュアップ,種類増加などの作業が行われている状況。開発段階でローカライズを視野に入れているので,ローカライズに要する時間はそれほどかからないという。リリースまでは後6か月〜9か月ほどらしいので,今後の同作の動向に注目せざるを得ないだろう。ちなみに,インタビューの最後にはロード・ブリティッシュがゲームに登場するかどうかという質問が飛んだが,これに対してはゲームにどのように絡んでいけるがを思案中なので,結論は出ていないというコメントだった。ウルティマシリーズのファンとしてはぜひとも登場してほしいが,コンセプトが大きく異なるだけに,いろいろな部分で難しいのかもしれない。(Seal)

→「Tabula Rasa」の記事一覧は「こちら」




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