Microsoft社ホーム&エンターテイメント部門の
ピーター・ムーア(Peter Moore)副社長といえば,セガ オブ アメリカ時代から歯に絹を着せぬ物言いの闘士として鳴らしてきた人物だ。Microsoftに移籍した現在では,ゲーム開発からマーケティングまで担う中心人物として精力的な活動を続けている。
そのムーア氏との(まれな)インタビューの機会を得た本誌も,日本市場の重要性や最近の彼のコメントに関する見解,そして日本市場を含めたPCゲームの今後など,彼のスタイルにならってストレートに聞き出してみた。
4G: ムーア氏はよく日本のゲーム市場は重要だという話をしますが,今回の発表で日本市場にアピールできていたとは思えません。2003年の日本でのXboxの発売台数が5万5000台しかなかったという数字を考慮して,今後どのような対策を考えていますか?
ムーア: アメリカでの展開に目を向けると,Xboxでは日本のサードパーティでも「Dead or Alive 3」や「Ninja Gaiden」などが大成功を収めています。ですから,ナムコ,コナミ,カプコン,セガのようなサードパーティとは,今後も長期的なパートナーシップを築いていきたいと考えています。
重要なこととして認識してほしいのは,当社ではXboxの市場をグローバルなものだと考えていることで,アメリカや日本などの個々の市場の成績を局地的に限定して考えようとは思っていません。我々もサードパーティも,広い視野で世界的な市場を見ているのです。その実りとして,日本からの次世代ゲームもさらに素晴らしいものが登場するでしょう。
4G: 長期的な戦略としては?
ムーア: アメリカで作られたソフトがそのまま日本で売れないように,日本の市場にも受け入れられる作品を作ろうと,アメリカのサードパーティに委託するのも無理があります。ソルトレークシティにある開発会社に,日本向けのRPGの制作を要請するのが,どれだけ無謀なのかが分かるでしょう?
長期的な戦略としては,先に挙げた日本のサードパーティとのパートナーシップを育成していくこと以外にも,Microsoftが自らゲーム会社を日本に作ることも始めています。すでにMicorosoft Game Studios社から「勾玉」などの作品を送り出していますしね。良い才能が集まって喜んでいまますし,今後も投資を続けていく予定です。日本はアジア市場への窓口であり,日本を開拓することがグローバルな戦略の一貫であるのは間違いありません。
4G: GDCでXNAを発表した直後,イギリスのメディアを通じて日本にムーア氏のコメントが広まりました。それは,「日本は麻雀ゲームでは生きていけない (Japan can't survive on mahjong games)」というものでしたが,一部曲解されたことを例外にしても,日本では開発者達の間でも話題になっていたよう思います。これに対して何かありますか?
ムーア: それについては,私も理解しております。あの発言は,販売元と開発会社の関係について話しているときの一部のもので,私の本意が伝わったとは思っていませんし,また麻雀ゲームという風刺的表現が,そもまま受け取られたのは無念です。
しかしながら,日本の販売会社自身も,新しいジャンルが生まれていない沈滞期にあることを認識しているのは事実で,5年,6年のスパンで見た場合に,少し前まではすべての源泉だった日本のクリエイティビティが,ここ数年は欧米に移ってきているのではないでしょうか。
それでTGSのコメント(2003年の東京ゲームショーで,剣を降りまわすばかりのRPGばかりが並べられたという発言)へと続くのですが,この沈滞期に入った影響で,日本のゲーマー達も少なからず海外のゲームへと目を向けるようになっています。「Gataway」や「Grand Theft Auto III」など,数年前なら日本で人気が出るとも思えなかった作品が脚光を浴びていましたよね。我々も,「World Collection」シリーズと題して欧米のソフトをローカライズもほとんどせずに日本で発売するなど,実験的なことをしているのもそのためなんです。
そういう文化的な差異や統合自体が悪いことだとは思いませんが,(XNAによる開発の効率化を含めた)諸問題を緩和することで,日本が本来持っていたクリエイティビティを引き出せたらと願っています。クリエイティビティというのは,世界に通用して初めて真価が認められる,そういう意味なのです。
4G: 「EverQuest」の元開発者達が開発している「Vanguard:Saga of Heroes」は,XNAの開発環境を生かした作品として,PCとXboxでリリースされることが発表されました。日本は今,世界でもトップレベルのインフラを保有するブロードバンド大国ですが,日本でGaming Zoneを展開してPCゲーマーにアピールする可能性はありませんか?
ムーア: 多いにあり得ます。……え,「Asheron's Call」は日本でのサービスがなかったの? じゃあ,Vanguardについては心に留めておきますよ。
4G: 最後に,今回のE3では「Dungeon Siege II」と「Zoo Tycoon 2」の2作しか一般公開されていない寂しい現状についてお教え下さい。待機中になるわけない開発チームも多々ありますが。
ムーア: 見せられるべきレベルにないソフトを出展して,どこまで効果があるかということですよね。今回発表することはありませんでしたが,まだMicrosoft内外で開発中のPCゲームは数作分秘密にしています。次期Windowsのロングホーンのリリースに近いこともあり,いずれ華々しく発表するつもりです。
インタビューのあと,同じ街に住んでいたことのあるよしみで,筆者に気さくに話しかけてきたムーア氏に,コワモテでメリハリのある言動で知られる氏とは異なる印象を受けた。コンシューマ市場では,今後ソニー・コンピュータ・エンターテイメントとの熾烈な競争が予想され,Microsoft抜きには語れないPCゲーム市場の起爆剤も求められている。ムーア氏が,ゲーム業界を活性化してくれることに期待したい。(奥谷海人)