レクチャー5:止まることを知らないイギリスの奇才,ピーター・モリニューの新作集
Space for Innovation GDCも,ピーター・モリニュー(Peter Molyneux)氏のレクチャーがないと満足できなくなった。いつもなぜ最終日にレクチャーを受け持っているのか分からなかったが,どうやらGDCが終わってからLionhead社の仲間と共にラスベガスに行くのだそうだ。ちなみに,去年もメキシコのカンクーンに遊びに行くと話していた。出張を利用してバケーションを楽しむのは,長く鬱陶しい冬から開放されたときの,イギリス人たちの本能のようなものなのだろうか。
とにかく,モリニュー氏はイギリスではIDGAの重要なメンバーであり,衰退期にあがく英国の開発者たちの代弁者である。我々プレスにとっては,モリニュー氏の講演は新作発表の場に過ぎないが,アメリカでも彼を支持する人が多いことは,毎回人で埋まる講義から十分に理解できる。
今回のレクチャーは,
「Space for Innovation」(発明の余地)という単刀直入なもので,「昔は発明こそがゲームプレイだった」という命題から始まり,新しい要素のあるゲームを開発する上での長所と短所を,自分の経験や作品から語っていた。まず,今後進化していくだろうゲームの要素について,
「オンラインゲームは時間を浪費しなくてもプレイヤーが満足できるような方法や,異文化への理解とアピールでグローバルな成功度合いが決まること」「物理エンジンやAIは,さらに改良されて画期的なゲームも生まれるだろうが,ゲームプレイは簡単ながらも深い意義のあるものが追求されるだろう」と語った。
ストーリーに関しては,「Black&Whiteが,僕のゲームストーリーに対する解釈だけど,この分野に優れていないのは,それ以前の作品を見てもわかるでしょう」と,ジョン・カーマック氏の基調講演とよく似た自虐的コメントだった。この2人,開発するゲームジャンルは全く異なるのだが,得意でない要素はとことん手を抜くという部分で似ている。ただしモリニュー氏の場合は前作を反省材料として,今後はほかのデザイナーやプロの脚本家による手助けを乞うことになるだろう。
現在,モリニュー氏の率いるLionhead Studios社と,その傘下の独立系開発集団が手掛けている作品は,下記の六つがある。
それぞれが,企画書を何度も見直すことで非常に簡潔なゲームのコンセプトになっていて,非常に期待できそうだ。また,ゲームデザインの観点からいってもユニークなものが多いようで,彼の新作群がゲームプレイの発明に余地があることを知らしめているといえるのではないだろうか。(奥谷海人)
■Black&White 2Black & White 2は,前作よりもさらにRTSらしくなった。町に建築物を建てたり城壁で囲ったりしてプレイヤーの安心感や所有心を生み出し,さらにクリーチャーに何百人もの軍隊を率いさせて敵の町を破壊させるようなこともできる。
■The Moviesプレイヤーはハリウッドの映画会社の経営者として,制作費,人件費,映画のセールスに気を遣う。役者キャラクターを使って実際にプレイヤーの思い通りのマシネマ(ゲームエンジンを使った映画)を撮影してしまうこともできるらしい。アクティビジョンからリリースされる予定。
■Fableプレイヤーキャラクターが年を取って老いていくアクションRPGで,メインとなるミッションこそ12時間ほどで攻略可能なのだが,村娘と結婚して子供を得られるなど,どこか「Grand Theft Auto」に似た自由度があるのが特徴だ。現在はXbox専用とされているが,ひょっとすればPC用にも移植されるかもというウワサもある。
■BC「BC」はタイトルからイメージできるように,人類の先史時代,しかも恐竜と原人が同居しているという架空の世界での生活をシミュレートしながら,アクションを豊富に満載している作品らしい。このレクチャーの前に少しだけ見せてもらった映像では,さまざまな恐竜が生活する土地で,建築など人類の進化が与える環境への影響や,一頭の恐竜を殺すことで変化する生態系など,エコロジカルな意欲的作品。これも2年ほど前にXbox専用と発表されたままで,PC版の話は聞こえてこない。
■Dmitri「Dmitri」は,非常に自由度の高いゲームであるというほかは,モリニュー氏のパーソナルプロジェクトとしてしか知られていない,現在構想中の秘密作品。
■UnityLionhead Studios社内で作られているのではなく,ジェフ・ミンター(Jeff Minter)が手掛けているタイトルだという。ミンター氏は,Commodore時代からLlamasoft社の代表としてゲーム制作に従事しており,モリニュー氏さえも「奇人だ」というほどの開発者。どうやら音楽ゲームで,「Rez」のようなシューティングの要素があるようだが,ゲームキューブで発売されるという以外は,正式な発表を待たなければならない。