[E3 2003#053]E3最大の目玉!? 「Half-Life2」の衝撃ムービーを見た! - 05/17 18:19

 「今年のE3は,秀作は揃っているものの,とびっきりの超大作が存在しないのではないか」という不安は,いつもつきまとう。技術の過剰な成長は,我々を確実にマヒさせてしまっている。どれほど大掛かりに作りこまれていようが,美しく描き込まれていようが,感動することがなくなってしまった。
 そんな中,何気ない気持ちで見た「Half-Life 2」のムービー。そこから推し量れるそのゲームの実体は,とびっきりの超大作であった。恐ろしく限定的な人数にしか公開されなかったことが口惜しいほど,本年のE3を代表する超大作だ。まさか,ここまで飛び抜けているとはほとんど予想していなかった。「Half-Life 2」で受けた衝撃の大きさを推し量ると,2003年がPCゲーム界にとって幸福な1年になるであろうことを期待せずにはいられない。

 「Half-Life 2」は,実にシンプルなコンセプトに基づいて開発されたようだ。つまり「Half-Lifeの続編とは何か?」ではなく,「あらゆるFPSの次世代とは何か?」を目指したということだ。これはある意味,「Half-Lifeじゃなくてもいいじゃん」という類の進化であるといえるかもしれない。
 「Half-Life 2」は,FPSが「ポリゴンの世界」であることと「スクリプトの世界」であること,この二つのFPSの萎え要素を,この世から消し去ることを優先的な目的としているように思えた。そして,それは相当なレベルで達成されている。

 つまり「Half-Life 2」の3D空間は,実に美しい。一枚絵の美しさは,もはやどうでもいいことに思える。あらかじめ断っておくが,ゲーム中のグラフィックスの絵的な美しさは,あえて言及するまでもなく全編を通して当たり前だと思っていただきたい。
 ゲームのプロモーションムービーというと,かっこいいシーンを切り貼りして爽快な音楽と怒涛のスピードでまくし立てるという,映画の予告編のようなモノが多い。これを狭い部屋で大音量で一気に流されると,いやが上にも気分は盛り上がってしまうのだ。だが「Half-Life 2」のプロモムービーは,実際のプレイ風景を元に構成されていた。
 かつて音の使い方が一流であった地位も譲る気はないらしく,設置されたスピーカーから鳴り渡るSEの心地良いことといったら! BGMではなくゲーム中の環境音で気が昂ぶるのは,理想的なプロモムービーではないか。

 キャラクターの顔グラフィックは,何十個もの筋肉パーツを組み合わせて作られている。これを効果的に動かすと,気持ちが悪いほど,生きているように動く。「FPSでキャラクターに表情が」という程度のウリ文句とはわけが違う。人間以上に肉感豊かな表情が,すでに実現可能だ。
 木材を銃で撃ち抜くと,ギシギシと折れてバタリと倒れていく。ドラム缶はプールにどっぷり着水したあと,やがて静かに沈んでいく。その波に煽られて,木材は水面に浮かんだまま揺らめく。これら一連の挙動が,すべて現実的である。唯一,撃ち抜かれたスイカの出来があまりよくなかったことが,図らずもほかのオブジェクトの完成度を再確認させてくれた。
 こういった地道な物理演算の積み重ねは,ゲーム本編で贅沢に使い込まれている。この先に待ち受けている超現実的な戦いが現実的に見えるのは,まさに地盤となっている物理エンジンの完成度の高さゆえ。

 映画ではもう10年以上も前からCGを実写に織り交ぜて実用化しているが,「Half-Life 2」は全体的に実用レベルだ。その完成度が完璧と言い切るつもりはない。なぜなら,やはり時折「あ,ポリゴンだ」と現実に引き戻される瞬間もあるからだ。それだけに,普段はまったくポリゴンを感じさせない隙のなさが恐ろしい。
 NPCであるヒロインと会話しているシーンでも,リアルタイムレンダリングでここまで動かすのか!? と心配になるほど動く。それはダイナミックな動きというわけではなく,全身に散りばめられた微細な動きの連続だ。その挙動は,もはやCG映画と何も変わらない。銃を渡されるシーンだけ「ポリゴンキャラが手に物を持つ描写の違和感」が少し残っていることで,今までのシーンがリアルタイムレンダリングであることを思い出させてくれる。

 AIについても少し触れると,味方のNPCを引き連れて敵の部隊と銃撃戦を展開するシーンがある。ここでプレイヤーは,街路から外れて建物の中を通って敵の裏側に回り,背後から強襲するという戦術を取る。このとき一緒についてきた味方のNPCが見せた動きは,建物内は忍び歩き,外に出て敵の裏側に回りこむと背を壁に貼り付けて身構えた。これはまさに,コッソリ裏に回りこんで敵の背後を突くときの動きそのものだ。ちなみに,外から廃ビル内に入ると,銃声がコンクリート内に響き渡るときの,独特の音に自然に変わったのもなかなか驚きだった。

 ラストは街の中(これがまた本当に街の中を歩いてるとしか思えない描きこみようなのだ)で,巨大な敵クリーチャーが登場する。長〜い足を持ったクモのようなクリーチャーが,ビルをまたいで近づいてくる。鳥肌の立つ光景だ。このような巨大なモンスターが,街も含めて自然に存在しているように見える。いいことなのか悪いことなのか判断つきかねるほど,このシーンにはゲームっぽさがまるでない。

 クリーチャー集団を誘導して敵の兵士を襲わせるという戦術や,敵飛行ユニットの嵐のような銃撃からバギーで逃走する場面など,実に面白そうだが泣く泣く紹介を省略するシーンも多い。
 FPSというシステムを逆手に取るでもなく,あくまで正攻法でありながら,まったく新しいFPSのあり方を次々と見せてくれた「Half-Life 2」。ここまでやられては,ほかのFPSが気の毒すぎるのではなかろうか。


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