Kimの韓国最新PCゲーム事情・特別編 - 12/27 23:59


Kimの韓国最新PCゲーム事情・特別編

"正念場"韓国PCパッケージゲーム市場の2002年を振り返る(2002/12/27)

Text by Kim Dong Wook特派員

 2002年12月21日,韓国で,Blizzard社製ゲームの600万本めの購入者が誕生した。
 これはつまり,一つの国で一つの会社の製品が600万本も売れたということであり,非常に大きな意味のあることだ。しかしその半面,ほかの会社の製品群はほとんど売れなかったということでもある。
 世界でもアメリカ,ドイツに次ぐ市場として知られる韓国のPCゲーム業界は,さまざまな原因で,大きな危機に陥っている。本稿では,"正念場"といえる韓国PCパッケージゲーム市場の2002年を振り返り,何が問題なのかを検証してみる。

■PCパッケージゲーム市場が消えている

 韓国のPCパッケージゲーム市場は,政府の積極的なサポートもあって毎年10%以上成長しており,2002年には2698億ウォン(約269億円)の市場規模に到達した(韓国ゲーム産業開発院調べ)。
 しかし実際に2002年内に発売されたパッケージゲームはわずか60前後で,メーカーをみてもHanbit Soft,EA Koreaなどの一部の大手メーカーばかりで,中小メーカーはほとんどタイトルを発売していない状況だ。
 また,韓国最大の電気街である竜山電子商街(日本の秋葉原のような街)でも多くのパッケージゲーム販売店が2002年に閉店している。なんと2001年には100店余り存在した販売店が,現在ではわずか40店ほどなのである。

 ここまでPCパッケージゲーム市場が縮小してしまった理由は,いくつも挙げられる。例えば,これまでも慢性的な問題だった不正コピーの蔓延だ。
 一時期,パッケージゲーム市場を破壊しながら果てしない付録競争(ゲーム1本丸々収録されて当然だったのだ!)を繰り広げたPCゲーム雑誌達も,付録CDの不正コピーの影響で最近また2誌が廃刊となり,残る雑誌もやっとのことで存命している感じだ。パッケージソフトの不正コピー品は40%に達するという状況で,PCパッケージゲーム市場は多大な被害をこうむっている。

 そして2002年2月に韓国でも発売されたプレイステーション2も,PCパッケージゲームの市場を侵食し始めている。2002年はコンシューマ機の売上高が2001年に比べて50%以上も上がっており,さらにこの12月に発売されたばかりのXbox,NINTENDO GAMECUBEなどによって,この傾向は加速していくことだろう。

■パッケージよりオンラインゲームの開発へ方向転換

 PCパッケージゲーム市場の縮小は,韓国独特のゲーム文化を作ったPC BANG(PCゲームに特化したインターネットカフェ)にも多大な影響を及ぼした。
 1999年の初頭から「スタークラフト」「ディアブロ」「エイジ オブ エンパイア」などの大作タイトルで韓国PCゲーム市場を牽引してきたPC BANGは,一時期2万8000店を数えたが,2002年には2万2000店まで減少している。
 これは,上記3タイトルに値する大作PCゲームがなかったことも理由だが,「ポトリス」「リネージュ」などのオンラインゲーム市場の急激な成長で,PC BANGの利用者達がそちらに流れてしまったことも大きいだろう。

 また,韓国のPCパッケージゲームメーカーが抱える問題も,市場の縮小に拍車をかけることになった。
 韓国を代表するメーカーであるSOFTMAX社は,2002年1月に人気の"創世期伝シリーズ"の最新作「MAGNA CARTA」を販売したが,その後致命的なバグが発見されてリコールされている。
 韓国のゲーマー達は,それまで最も信頼していたSOFTMAX社のソフトにまで裏切られた形になり,その後は滅多なことでは韓国産PCパッケージゲームを信頼しなくなってしまったのだ。

 一時期は300を超えた韓国PCゲームメーカーも,今ではどこもオンラインゲームの開発に方向転換しており,純粋な(つまりパッケージで発売される)PCゲームのみ開発している会社は,先日「ACE SAGA」を開発したMAIET Entertainmentなど10社ほどしか残っていない。

■子供向けPCパッケージゲーム市場の可能性

 これまで韓国のPCパッケージゲーム市場では,"三國志シリーズ" "コマンド&コンカーシリーズ"など,いわゆるヒットゲームは軒並み10万本以上のセールスを記録していた。しかし2002年は,Blizzard製のPCゲームを除けば,1万本セールスすれば「成功」といわれるほど
 さらにはBlizzard社の最新作「ウォークラフトIII」でさえ,当初予想されていた100万本という数字に遠く及ばず,現在までの販売数は約30万本とのこと。スタークラフトやディアブロIIのような爆発的な人気は得られなかったようである。

 そんな"お寒い"状態のパッケージゲーム市場で,唯一成功の兆しを見せたのが,子供向けのPCパッケージゲームだ。
 玩具メーカーのSONOKONG社が発売した「TOP BLADE」は,同名のオモチャ(日本では「ベイブレード」として有名)とアニメーションのヒットに後押しされ30万本のセールスを記録したし,NEXON社とSOFTMAX社が共同して開発してSONOKONG社が流通を担当した「BnB ADVENTURE」は,オンラインゲーム「CRAZY ARCADE-BnB」(ボンバーマンタイプのゲーム)の人気と相まって10万本以上も販売された。
 またサッカーワールドカップの人気でEA Koreaの「FIFA 2003」も話題となり,現在までに20万本以上販売されている。
 ここに挙げた以外の「ヒット」といえるタイトルでは,Infogrames Korea社の「ネヴァーウィンター・ナイツ」が3万本,「FALCON 4.0」が1万本,新興メーカーのNAVIYA Intertainment社が開発したブティック経営シミュレーション「KOKO LOOK」が1万本,そしてEA Korea社の「ハリー・ポッターと秘密の部屋」が1万本を記録している。

■PCパッケージゲームの価格が高い!

 先日あるポータルサイトが行ったアンケート調査で,「韓国PCパッケージゲーム市場の不況の原因は?」という質問に対する回答で一番多かったのは,回答者の41%が挙げた「価格が高い」(韓国の一般的なPCゲームは,2万〜5万ウォン。つまり日本円にして2000〜5000円)だったそうである。
 続いて「不正コピーの問題」が29%,「ゲーム自体のつまらなさ」が20%,そして「流通会社のサービス不足」が5%となっている。
 この調査結果を見る限り,PCパッケージゲーム市場の縮小の理由が,必ずしも"オンラインゲームの急成長"によるものとは判断しにくい。パッケージゲームが適切な価格になり,また内容がさらに向上すれば,十分に韓国のPCパッケージゲーム市場が再生する可能性があるのだ。

 ある大手広告会社が行った調査の結果は,この可能性を裏付けている。
 韓国内の小学生を対象にトレンドを分析した「子供市場報告書」によれば,回答者(当然小学生)の83%がPCゲームを楽しんでおり,男の子の場合は42%が毎日PCゲームで遊んでいるというのだ。

■ネットワークのインフラを活用した,新しいゲームへの挑戦

 オンラインゲームに限っては,世界有数の国といえる韓国。しかしオンラインゲームの基盤となるPCパッケージゲーム市場は,現在非常にきびしい状況だ。
 消費者達の不満の最大の原因である「価格」については,最近NEXON社などいくつかの会社が準備中である"ONLINE PUBLISHING"方式で解決可能だと,業界の関係者達は語る。
 また韓国のメーカー達は,パッケージ販売より,世界有数である韓国のネットワークインフラを活用できるオンライン販売を主力にしようとしている。今も多くのネットゲームがパッケージ販売されているが,Blizzard社の高いクオリティに慣れたゲーマー達を満足させることは難しいからだ。むしろこの状況が続いてしまうのなら,Blizzard製ゲームの水準に至らなければ,韓国内でのパッケージ販売は諦めたほうがいいとさえいえるかもしれない。発売したところで"傷口"を広げるだけなのだから。

 一方,先述したように子供向けのPCパッケージゲーム市場はまだまだ高い可能性を秘めている。子供向けのパッケージゲームは,不況にあえぐ韓国のメーカー達が積極的に挑戦するに値する分野だろう。「子供向けのゲームは,非常に成功する可能性が高い」というゲーム開発者もいるくらいだ。
 業界関係者達は,「今後コンシューマ機が人気となり,PCパッケージゲームは一部のマニア達だけが楽しむ,日本のゲーム市場のような形態になる可能性が高いだろう」と,少し控えめな予測を立てている。
 とにかく,いろいろな問題に悩まされている韓国のPCパッケージゲーム市場だが,再び活性化させるために真っ先に行わなければならないのは,ゲーマー達への不正コピーに対する認識の改善だろう。このような,ゲーマー達の"マインド"が成熟すれば,韓国PCパッケージゲーム市場は再生できるはずである。

 日本国内から上っ面だけで見ると「PCゲームが異様に流行ってて売れる国,韓国」と思われがちだが,現実はそう甘くはない。PCパッケージゲーム業界の壊滅的打撃,数が増える一方で競争が加速するオンラインゲーム,ついに正式に流通し出したコンシューマゲーム機など,来年もまだまだ"荒れた"一年になりそうである。


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