[E3 2002#3]Deus Ex2:Invisible War - 05/22 17:44


 遥か昔の"Ultima Underworld"を筆頭に,未来を舞台にテロリストとの戦いが繰り広げられる「Deus EX」や,陰影や音がゲームプレイに多大な影響を与える「Thief」などの魅力的かつ独創的な作品を送り出しているウォーレン・スペクター(Warren Spector)氏。長い間待たれている彼の最新作が,Deus EXの続編ともなる「Deus Ex2:Invisible War」(以下,DX2)だ。
 4Gamer magazine#1を読んだ人にはおなじみのスペクター氏。彼のゲームに対する情熱や感性,思想は特別で,今までに誰も考えなかった数々のシステムを作り出してきた。DX2でもそれは例外でない。単に前作の流れを組んでいるだけではなく,彼が追い求める"ゲームの未来像"というものが十分に感じ取れるようなタイトルとなっているのだ。

 その最も大きな点は,アクションアドベンチャーというジャンルに属していながらも,ゲーム中のキャラクターの行動すべてが綿密なシミュレートによって相互に関係していることだ。前作では,爆発が起こると爆風によって周囲のオブジェクトが移動したが,それはあくまでもリアルに見せかけるための"フェイク"だったのだ(ほとんどのゲームタイトルで同様のことがいえる)。
 しかしDX2では,爆発や光源の移動,音などに関して厳密にシミュレートされており,それがしっかりとゲーム中に反映されている。飛び散る破片にはリアルタイムに影が付き,爆発音の位置も綿密に計算されている。つまり言いかたを換えると,実際のプレイヤーの体験した感覚そのものがゲーム中でも起こるのである。インタビュー中のスペクター氏のたとえを借りれば,キャラクターが移動したときの小さな足音は,周囲が静かな状況でほかの人に聞かれてしまいやすい。だが,これ以上の物音(エンジン音など)が周囲にある場合では,足音が聞かれる心配はまずないだろう。非常に細かい部分だが,ゲームをプレイしていて"このようにすればよいだろう"と実際の体験に基づく発想がゲームに反映されるのは驚愕に値する。スペクター氏曰く
「足音ってあるだろ? あれ静かなところだと響いてNPCに悟られちゃうんだけど,そういうときはそこらにある機械でも作動させて,別な騒音(ノイズ)を出せばいいんだよ。あとドアを閉めるとかもいいね。これでNPCに聞かれることはなくなる」
とのこと。名作「Thief」での驚きのゲームシステムが,また一歩昇華したわけだ。
 前作のファンが驚くであろうことは,いわゆる"スキルポイント"の概念がなくなったこと。"スキル"という考えは依然として残っているが,それは数値としては表されることはなく,水泳が「下手」「非常に上手い」などの,曖昧な言葉でのみの表現となるようだ。「結局同じなんじゃん!」と思うと思うが(筆者も思った),スペクター氏曰く
「オレは●●のスキルがXXあるぜ! とかああいうのが嫌いなんだよ。単なる数字遊びしてるみたいで。どうしてもそういうのをなくしたいんだよね」
とのこと。
なるほど,本サイトのインタビューで「いっそ銃がないSF RPGがいいよね。みんなすぐ武器持ってドンパチしちゃって,同じ展開でつまらない」と言ったわけだ。

 基本的にはUnrealエンジンを改良して作ったというエンジンによるグラフィックスも非常に細密に描かれており,とくに光の陰影処理は必見に値する。光を放つポールが回転しながら床を転がると,それに映し出される影が違和感なく微妙に移動していくのだ。ダイナミックライティングをキッチリとゲームに採用していあるあたり,彼のゲームに対する思い入れが十分伝わってくるのではないだろうか。
 "オブジェクト"に関する考え方もさらにアップグレードしている。ゲーム内オブジェクトに関しても元々自由度の高いゲームだったが,今作では概念がさらに改善され,ゲーム内のすべてのオブジェクトを触ったり,破壊したり,動かしたりすることができる。火のついたドラム缶などを蹴飛ばして,光源の移動に伴って影がリアルタイムに生成される様は,見ているだけでも十分に楽しそうだ(彼はそれを「ダイナミック・シャドウ・テクノロジーと呼んでいた)。
 また一つの事象の流れも,今までのように「Aを行うとBになる」というスクリプト的な考え方ではなく,状況によって逐次変化するようになった。さらに,キャラクターがいる場所の明るさによって,敵に発見されやすくなるのも(Thiefでも採用されていたシステム),"シミュレート"に重点を置いた結果といえよう。

 前作の15〜20年後の世界を舞台としている本作は,前作の主人公"J.C. Denton"が再度登場する。DX2では前作よりもステルス行動が基本となり,派手な爆破シーンや銃撃戦は減るようだ。ミッション数は現在のところ七つを予定しているとたのことだが,一つのミッションを取り上げてみてもその解法は無数に存在する。前作ではマルチエンディングを採用して,熱狂的なファンを生み出し,全米で大ヒットを記録したが,残念なことに,なぜか国内ではいま一つとなってしまった。DX2は,スリル溢れるゲーム展開とプレイのたびに新しい発見の可能性があるという二つの軸によって,前作同様期待できる1本になりそうだ。発売は2002年の11月を予定しているとのこと。期待して待とう。(Seal)

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