業界動向
Access Accepted第411回:開発者自ら販売を中止したモバイルゲーム「Flappy Bird」
今や総数30万本以上ともいわれる,モバイル向けのゲームアプリ。「Angry Bird」や「Clash of Clans」「Candy Crash」といったメガヒットタイトルに追いつけとばかりに,激しい競争が繰り広げられている。そんな中,彗星のように現れて爆発的な人気を獲得したのがベトナム生まれの「Flappy Bird」だ。ところがその「Flappy Bird」が突然,開発者の意思によってストアから削除されてしまった。果たして何が起きたのだろうか。
「ポストAngry Bird」と呼ばれたモバイルゲームが
突然の販売中止
2014年2月8日,モバイル向けのゲームアプリ市場で高い人気を獲得していた「Flappy Bird」の販売を開発者自らが中止し,App StoreやGoogle Playから同作が削除された。この影響は大きく,「Flappy Bird」をインストールしたスマートフォンがオークションサイトに次々と出品され,100ドル以上の値で取引されているという驚くべき状況になっている。出品者の中には(取り下げにはなったものの)1万ドルという強気の値付けをする人もおり,人気の高さが伝わってくる。
「Flappy Bird」が発売されたのは2013年5月で,開発したのはベトナムのハノイに住む開発のドン・グウェン(Dong Nguyen)氏,パブリッシャのDotGEARS Studiosが英語版と中国語版をリリースしている。Metacriticによると,発売直後にこのゲームを評価したのはわずか6メディアで,メタスコアは100点中54点という,普通ならほとんどのゲーマーがスルーしてしまうようなものだった。
「Flappy Bird」は,タラコ唇の黄色い鳥っぽい生物を操作して,画面に置かれた緑の土管をタッチ操作でくぐり抜けていくというシンプルなゲームだが,当たり判定が厳しく,理不尽なほど難しいレベルも存在する,いわゆる「マゾゲー」だ。初期のレビューが低評価だったのも,そうしたイライラさせられるゲーム内容に由来しているようで,アメリカの大手ゲームメディアIGNは「ダラダラと続くだけで,創造性に欠ける。良いゲームとは言えないし,面白いと感じるゲームでもない」という酷評を下した。
このように,ゲームアプリ界の寵児として注目を浴びた開発者のグウェン氏だったが,2月8日になって突然,「これから22時間ですべのプラットフォーム向けの販売を中止する。もうたくさんだ」という内容のコメントを自身のTwitterにツイートし,2月10日にアプリの販売を中止してしまったのだ。
BOTを使った不正操作疑惑
グウェン氏はなぜ,「もうたくさんだ」などと言って人気作の販売を中止してしまったのだろうか。
上記のように,「Flappy Bird」は2013年5月の発売以来,約半年間も注目されることなく推移し,突然売り上げが上昇した。そのため,App StoreやGooglePlayで禁止されているBOTを使用して不正にチャートを引き上げたのではないかという疑問がメディアやファンから挙がっていた。つまり,AppleやGoogleからの追及を避けるために販売を取りやめたというわけだ。
事実については調べようもないが,レビュー数の推移を追跡したファンもおり,結果としてそのような証拠は見つからなかったという。だがそれ以外にも,グラフィックスの類似性についての批判などもあり,グウェン氏にとって,そうしたことをファンやメディアに対して説明するのがプレッシャーになっていたのかもしれない。
「ボクにとってFlappy Birdは成功作だけど,多くの不幸ももたらした。だから,ボクはこのゲームが嫌いになった」というメッセージとともに,グウェン氏の更新がしばらく途絶えたことから,さまざまな憶測が飛び交ったが,数日後にはTwitterを再開している。
ともあれ,「Flappy Bird」を購入して遊び,面白いと感じた人が多数いることは間違いない事実だ。何十万本もの作品が存在するゲームアプリ市場では,激しい競争が繰り広げられており,評価されるべきタイトルがあったとしても,埋もれてしまうこともある。筆者自身は,多くのユーザーやメディアがハマった「Flappy Bird」の販売が中止され,世の中から消えてしまうとことは不幸なことだと感じている。
グウェン氏自身は,これからもゲームを作っていきたいとツイートしており,大手経済誌Forbesのインタビューでは,自分のゲームを遊んでくれたゲーマーに感謝していると述べている。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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